憑依が日常生活に浸透している2098年ー。
そんな世界での日常ー。
ある日ー。
とある男子高校生の彼女に
ある疑惑が持ち上がる…。
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「---麻奈ちゃん…
たぶん、”中身はおっさん”だぜ?」
友人の晶の言葉に、豪人は凍りついた。
「--ど、、どうして?」
豪人はそう言うのがやっとだった。
彼女の麻奈が、誰かに憑依されている?
そんな馬鹿な。
晶は、髪をかきあげるような仕草をしたが
自分の髪が短いことに気付いて
すぐに手を下げたー
やはり、晶の中身は、元・女子に違いない。
真偽は分からないが、豪人はそう思っている。
「--麻奈ちゃんがこの前の
文化祭の後に校舎裏で電話してるのみちゃってさ
”俺はもう、おっさんじゃないんだ”
って、そう言ってた
相手が誰だか分からないけどな」
晶は、そう告げると、
豪人の方を見つめた。
「--そ、、それだけじゃ、
麻奈が憑依されている証拠には…」
豪人がそこまで言うと、
晶は続けた。
「分かるんだー。
俺には…
俺も、この身体に憑依した人間だからさー。
なんとなく見てるだけで
”オリジナル”か”ポゼッション”か、
分かっちまうんだよー。
なんていうかさ、
”元々自分の身体じゃない身体”で生活
している人間特有の癖というか、
言葉では言い表せないけど
そういうのがあるんだよ」
晶の言葉に、豪人は
もう言い返すことができなかった。
”ポゼッション”の晶に、
そう言われてしまうと、
”オリジナル”である豪人に反論することはできないー
「わ、わかった。ありがとうー」
晶は「いや、いいさ」と言いながら
立ち去って行く。
「あ、晶くん~!」
クラスのイケメン好きの女子生徒・亜寿沙(あずさ)に
話しかけられる晶。
イケメンな晶は女子生徒に大人気だ。
特に、イケメン大好きな亜寿沙に最近は
よく、くっつかれているー。
そんな光景を見ながら、
豪人は思う。
もちろん、2098年の現在では
身体と中身が別人であることは珍しくない。
クラスの人間も半分は”ポゼッション”だ。
先生もそうー。
例えば保健体育の了恵先生は、
保険のお姉さん、という感じの美人だが
その中身はアニメオタクのおじさんだという話は
学校内でも有名な話だー。
だがー
それが自分の彼女となるとー…
”憑依”にそこまで積極的に
良いイメージを持っていない豪人は、
困惑していたー。
放課後ー
「なぁ…麻奈」
麻奈と一緒に下校しながら
豪人は呟く。
今、いっしょに歩いている麻奈は、
本当に麻奈なのかー。
晶の言葉が頭の中で
繰り返し再生されるー。
麻奈は”ポゼッション”なのかー。
だがー、
もしも憑依されていたとしても、
少なくとも、高校入学時に豪人が出会ったときには
既に憑依されていたことになる。
知り合ってから麻奈が豹変した感じはないし、
憑依素体センターに入れられた様子もない
ずっと学校に登校しているからだー。
だったらー。
仮に中身が誰であろうともー
「--麻奈って、”オリジナル”だよな?」
豪人は、ついに口にしてしまった。
一部では
差別用語とまで言われている言葉を
豪人は彼女の麻奈に行ってしまった。
”ポゼッション”になる理由はさまざま。
基本的に、この世界では、
相手に”オリジナル”かどうか
聞くことは、あまり良いこととは言えなかった。
「----え?」
麻奈は一瞬きょとんとした表情を浮かべた。
「---…あ、、い、いや」
豪人は麻奈の悲しそうな表情を見て
口ごもってしまう。
本当にポゼッションだったのかー?
とー。
麻奈は、少し低い声で呟いた。
「もしもー
もしも、わたしが”ポゼッション”だったら?」
豪人には、麻奈が睨むような目で
自分を見ているような気がした。
「え、、、い、、いや、、、その…」
豪人は、困って返事ができなくなってしまうー
このまま
彼女彼氏の関係が終わってしまうかもしれないー
しかしー
「---なーんちゃって」
麻奈は笑いながら、自分の”人体票”を見せた。
この世界の身分証明書だー。
そこには”矢吹 麻奈 オリジナル”と
確かにそう書かれていた。
「ふふっ、わたしはわたしでした~♪」
笑ながら言う麻奈。
「だ、だよな!」
豪人は感じていた不安を取り払い、
笑顔を浮かべた。
「♪~」
ご機嫌そうに前を歩きはじめる麻奈。
麻奈の後姿を見ながら
豪人は”俺は何を心配しているんだ”と
思いながら麻奈の後を追い始めたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夜ー
晶からメッセージが入る。
この時代では、
もう”LINE”を知る人間はほとんどいないー
せいぜい、おじいちゃんやおばあちゃんが
知っているぐらいだー。
LINEは、とうの昔に、そのサービスを終えているー。
晶から届いたメッセージを
表示する豪人ー。
”うちの学校の女子生徒が、
最近、夜の街でおやじ狩りを
してるみたいだぜ
ニュースになってる”
晶からのメッセージにはそう書かれていた。
”麻奈ちゃんとは限らないけど、
気をつけろよ”
そのメッセージを見て、
豪人は慌てて
目の前にホログラム映像を出して、
ニュース画面を表示したー。
そこにはー
”おやじ狩り女子高生”と題された
ニュースが表示されていたー
写真も載っているー。
豪人が通う高校の
女子生徒の制服だー。
後姿の写真はー
麻奈によく似ていたー。
記事には、
”元おやじの俺が、おやじを狩るなんて
興奮しちゃう!”と
その女子高生が笑っていたー
と書かれていた。
「麻奈ー…」
豪人は不安になった。
さっき下校中に見せてもらった人体票には
確かに”オリジナル”と書かれていたー。
だがー。
もしもー
”違法憑依薬”で憑依されていたらー?
憑依素体センターを通して
憑依した場合
”ポゼッション”表記になる。
だからー
”オリジナル”と書かれていた麻奈は
少なくとも、憑依素体センターに送られて
憑依された身体ではないし、
他人の身体ではないことになるー。
しかしー
それはあくまでも”公式的”に、の話ー。
裏世界で出回っている
”違法憑依薬”で麻奈が憑依されている場合、
国の登録上は”オリジナル”のままだー。
「--麻奈…
違うよな…」
豪人は、不安に思いながら
ニュース記事に映っている
”後姿の女子高生”を見て呟いたー
「---豪人!」
部屋に可愛らしい少女ー
じゃなくて、父親が入ってきた。
見た目は少女だがー。
「おばあちゃんが急変した!」
そう告げる父ー。
豪人は慌てて立ち上がったー。
病院に到着した豪人ー。
そこには、危篤状態の祖母がいたー。
祖母の美佐江(みさえ)は
70歳にして、病魔に襲われていたー
”憑依薬”を使えば
また若くなって生きることができるー。
現に、2098年では
精神年齢が既に100を超えている人間が大勢いた。
老いたら新しい身体に移動するー。
それが、できるからだー。
急な事故で死んだりすることもあるから
完全とは言えないがー
人間が”不老不死”を手にしようとしていたー。
「--まだ間に合う!
憑依薬を飲むんだ!」
豪人の父親が、美佐江に言う。
だが、美佐江は弱りゆく意識の中、
首を横に振った。
「--わたしは、この身体で死にたいの…」
とー
細々とした声で呟く。
豪人は悲しそうな目で
死にゆく”おばあちゃん”の目を見つめるー。
今の世の中ー
”別れ”は少ないー。
何故なら病気や寿命で死んでしまう人間の数は
激減していたからだー。
死ぬ前に、他の身体に憑依して、
また生きながらえるー。
けれどー
豪人の祖母は、それを拒んだ。
「---この身体を捨てて
わたしだけ生きるなんて…
わたしには…できない」
祖母の美佐江は呟いたー
そして、苦しみだす。
身体を大事にしているー。
それともー
ただの時代遅れの考えなのかー
豪人には分からなかった。
少女の姿をしている父は、
必死に憑依薬を飲めと叫んでいる。
だがー
豪人は、父を止めた。
「父さんー
おばあちゃんの言うとおりにしよう」
豪人がそう言うと、
祖母の美佐江は”ありがとう…”と
最後にそう呟いた。
間もなくして意識が無くなり、
祖母はそのまま旅立った。
父親は病院に残ることになった。
帰路ー
豪人は思うー。
憑依薬で自分の身体を捨ててまで
生きることー。
それは本当に幸せなのだろうかー。
そんなことを考えてしまうー。
もちろん、
憑依薬のおかげで幸せになっている
人間はたくさんいるー。
死にたくない人が生きることのできる時代ー。
死にたい人が、他人に身体を提供できる時代ー。
犯罪者の有効的な活用ー。
犯罪者の素体扱いについては、
当初、人権団体が猛反発したが、
最終的には、そうなった。
犯罪率は減った。
今では軽犯罪以外は、取り調べが終われば
”憑依素体センター”に送られて
あとは誰かに憑依されるのを待つだけとなる。
政府が”違法憑依薬”を裏社会から
一部入手して、
政府に都合の悪い人間を”処分”している、
などという黒いうわさもあるものの、
政府は否定しているし、
本当かどうかは分からない。
色々、黒い部分はあるー
けれどー、
”憑依薬”は確実に
人類を新たなるステージに
進めた、画期的な薬だと、
豪人もそう思っていた。
狂ったように、笑いだす女子大生の姿が目に入るー
彼氏が慌てふためいている。
また”違法憑依薬”の被害者だろうかー。
豪人は、家に帰りながら
彼女の麻奈の姿を思い浮かべる。
可愛らしい笑顔ー
けれどー。
「--麻奈ちゃんがこの前の
文化祭の後に校舎裏で電話してるのみちゃってさ
”俺はもう、おっさんじゃないんだ”
って、そう言ってた
相手が誰だか分からないけどな」
友人の晶の言葉を思い出す。
「ふふっ、わたしはわたしでした~♪」
”オリジナル”と書かれた証明書を見せる
彼女の麻奈を思い出す。
”うちの学校の女子生徒が、
最近、夜の街でおやじ狩りを
してるみたいだぜ
ニュースになってる”
晶からの連絡を思い出すー。
「--やっぱり…
逃げてはいられないよなー」
豪人は、決意したー。
麻奈に、ちゃんと聞くー。
豪人は、
麻奈が違法憑依薬で憑依されていて、
晶の教えてくれた”おやじ狩り”にも
加担しているー
そう思っていた。
いつまでも曇ったままでいるわけにはいかないー
豪人は意を決して、麻奈に確認することにしたー
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夜ー
麻奈は自宅の部屋で
胸を揉みながら笑みを浮かべていたー
「んふふふふふふ…♡
この身体…♡
さいこう…♡」
甘い声を出しながら
乱れた格好で微笑む麻奈
麻奈の机の上には
彼氏の豪人との写真ー
そしてー
”冴えないおじさん”の
写真が飾られていたー
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翌日
「おっはよ~!」
教室に入ると、女子生徒の亜寿沙に声をかけられた。
イケメン大好きの亜寿沙は
麻奈ともそこそこ仲が良い。
麻奈の親友の亜寿沙も”オリジナル”の一人だ。
「---あ、あぁ、おはよう」
豪人がそう返事をすると、
”なんか暗いねー”と笑いながら
亜寿沙は自分の座席に向かって行く。
豪人は苦笑いしながら
麻奈の方に向かうー。
「--麻奈、放課後、話、いいかな?」
豪人がそう言うと、
麻奈は少し複雑な表情を浮かべたあとに、
静かにうなずいたー
③へ続く
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コメント
過去に書いた近未来憑依モノは、
物語中で、大勢の人間を巻き込むような描写が
多かったですが、
今回は、一人の男子高校生中心で
お話を作ってみました~!
憑依が当たり前の世界での
一般人視点での物語…という感じですネ!
続きは明日デス~
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