<憑依>憑依ディストピア①~激変した世界~

2060年ー。

とある企業が憑依薬の開発に成功ー

そこから、世界は激変したー…。

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2098年ー。

「---来週の土曜日、10時集合でいいか?」

高校生の澤城 豪人(さわじょう ごうと)が
隣にいる彼女に語りかける。

「うん!大丈夫だよ!」
綺麗な黒髪がよく似合う可愛らしい少女、
矢吹 麻奈(やぶき まな)が笑顔で答えるー。

ビルの壁面では”憑依薬”の宣伝が
行われているー。

「---憑依薬か~」
豪人は呟く。

隣にいた麻奈がどうしたの?と不思議そうな
表情を浮かべる。

「いやぁ、俺はさ、別に他の人の身体に
 憑依なんてしたくないなぁ~って
 思っただけだよ。

 だってさ、自分の身体が一番
 慣れてるし」

豪人は、そう言いながら憑依薬の宣伝を見つめる。

今やー
憑依薬は、コンビニでも買うことができる。
栄養ドリンク売り場の横に、普通に憑依薬が
売られているのだー

もちろんー
誰にでも憑依できるわけではない。

2060年当初ー
憑依薬による憑依被害が多発した。

突然女性が暴れだしたり、
大企業の社長が突然自殺したりー
女性の身体でエッチを繰り返したりー

そういう”悪用”される事態になったからだー

だが、一度出回ってしまった
憑依薬を完全に規制することは
難しかった。

だから政府はー
”守り”の方面で対策を行った。

今では、生まれた時に
憑依薬の予防接種を行うことが
義務づけられている。

そのため、
コンビニで売られている憑依薬を買っても、
誰にでも憑依できるわけではないー。

しかしー
それでも憑依薬の需要はあるー。

それは、何故か。

”他人に身体を使われてもいい”という人間、
”自殺志願者”
”犯罪者”

そういった人間の身体を”再利用”する
プロジェクトが2070年に発足したのだった。

自ら希望した人間は”予防接種の効果を解除する薬”で
憑依に対する耐性を消された状態で、
憑依素体センターに送られる。
また、犯罪者も、同じく、憑依素体センターに送られる。

そして、憑依したい人間は、憑依薬を購入し、
全国各地にある”憑依素体センター”で
憑依したい身体を選び、その身体に憑依し、
新しい身体での人生をスタートすることができるー。

憑依素体センターにある身体は、
犯罪者や自殺志願者、
自分から希望した人間に限られるものの、
探せば可愛い身体もかっこいい身体もたくさんある。

そこで、憑依し、
”人体票”を移し替えて、
新たな身体での生活をスタートさせることが、できるー。

人体票とは、住民票の身体版のようなものだ。

2098年とはー
そういう世界だった。

”管理された憑依世界”

そんな、時代が到来していた。

「う~ん、確かに、わたしもこの身体がお気に入り!」
麻奈が言う。

そして、続けた。

「でもさ、病気になって、死にたくない人が
 他の人の身体に憑依して、そのまま生きていけるっていうのは
 幸せなことだと思わない?」

麻奈の言葉に、
豪人は確かにな、と思う。

今ー
この時代では
“癌”は、もう怖い病気ではない。

2098年においても
完全な治療は難しかったが、
憑依薬があるー。

スペアの身体は、いくらでもあるのだ。

「昔は、癌で死ぬ人も多かったらしいし」
麻奈の言葉に、
豪人は、”俺も、いつか使うかもな”と
苦笑いしたー

「---あはははははははははは!」

突然、笑い声が聞こえる。

豪人と麻奈は振り返った。

繁華街で服を脱ぎ捨てて
自分の身体を見せつけて大笑いしている
女子高生がいたー

「--な、なんだなんだ」
豪人がその子の方を見る。

麻奈も、その子の方を見ている。

周囲にギャラリーが出来る中、
その女子高生は持っていたハサミで
自分の身体にハートマークを
刻み始めた。

異様な光景ー

やがて、パトカーがやってきて、
その女子高生は連行された。

「---”違法憑依薬”かー」
豪人は呟いた。

「えぇ…そうね」
麻奈も言う。

この世界では
”憑依薬”は政府によって管理されており、
生まれた時点で予防接種を受けるために、
”憑依されたいと希望している人間”
”自殺したいと思っている人間”
”犯罪者”
以外に、憑依することはできない。

憑依されることを望んでいない人間が
憑依されることはないー

がー

それは表向きのこと。

何かができればー
必ずそれを”利用”する
犯罪者が現れるー

それが、世の常。

2080年ごろからだっただろうかー。
”予防接種”をしている人間にも憑依できる
”違法憑依薬”と呼ばれる憑依薬が
裏社会を中心に出回りはじめたー。

それほど数は多くないが
警察や政府の対応は後手に回り、
今のような”憑依事件”が
多発しているー。

「--怖いよね…」
麻奈が呟く。

「---大丈夫大丈夫。
 憑依される確率は交通事故に遭うより低い、 
 って”ビジョン”で言ってたし」

「そうねー」

”ビジョン”とは、
次世代型のテレビー。
2050年代に開発され、急速に普及し、
今、2098年には、もうテレビは売られていない。

ビジョンは、小さな投影機一つで、
その場に映像を映し出す、未来のテレビー。

場所を取らず、
立体的な映像を表示することができるー。

「あ、じゃあ、今日はこれで」
豪人が言う。

二人がいつも別れる場所にやってきた。
家の方角が別々だからだ。

「うん。また明日」
麻奈が笑顔で手を振る。

別れる豪人と麻奈。

豪人の後ろ姿を見ながら、麻奈は意味深な
笑みを浮かべたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ただいま~!」

帰宅した豪人。

「おかえり」
新聞を読みながら煙草を吸っている
可愛らしい少女が返事をする。

明らかに豪人より年下だ。

「おいおい父さん、
 その身体で煙草はダメだぜ」

豪人が言うと、
少女は微笑んだ。

「やべっ、つい癖でな」
慌てて煙草の火を消すと、
ラフなシャツ姿の可愛らしい少女が微笑んだー。

この子はー
”育児放棄”で捨てられていた子供だ。

育児放棄されたコは、
憑依素体センターに送られる。

誰かに、憑依されるためにー。

そして、
豪人の父親は、交通事故で下半身が
動かなくなってしまったー。

その時に、憑依薬で他人に憑依することを
決意し、今に至るー。

「でもさ~
 父さんが俺より小さい女のコの姿なんて、
 慣れないなぁ~」

豪人が笑うと、
「いいだろ別に」と可愛らしく少女は微笑んだ。

「仕事とか、問題ないの?」
豪人が言うと、
父は”事務職だからな”と答えるー。

現在、父は、元々の身体のときに
勤務していた会社で、そのまま仕事をしている。
小さな女の子の姿で、だ。

今の世の中では、そういう光景は当たり前。
”人体票”を移しているから、問題ないのだ。

「--どうせ、下心でその子の身体を選んだんでしょ」
母が言う。

母は、まだ”オリジナル”だー。

オリジナルとは、
”生まれた時の身体のまま”の人間のことを言う。
身分証明書にも
”オリジナル”か”ポゼッション”かの表記がある。

「--まぁ、ほら、せっかくなら女の身体も
 死ぬ前に経験してみたいだろ!」

可愛らしい少女がそう言う。

「はは…」
豪人は笑いながら自分の部屋へと
戻って行ったー。

豪人が生まれた時には、
既に憑依薬が世の中に存在していたー

「--憑依薬がない世界って、
 どんなだったんだろうな」

豪人は、手をかざし、小さなモニターを
表示させるー。

麻奈からのメッセージが表示されているー。

この時代のスマホは、
端末など存在しないー。
空中に、いつでも映像を表示させることができるー。

”あ、来週の土曜日の話だけど~”

麻奈がデートの話を持ちかけてきた。

豪人は、憑依薬のことを考えるのをやめて、
麻奈との会話を楽しむのだったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

学校に登校する豪人。

麻奈と学校で楽しく談笑をしている。

クラスには
”オリジナル”の子もいれば
”ポゼッション”の子もいるー

だからこそ、この時代の高校では、
見た目がおじさんの女子もいるし、
見た目が熟女の男子もいる。

みんな、それぞれの理由で
別の身体に憑依した人たちだ。

故に、この時代では
”精神年齢”が重視される。
肉体の年齢は、あくまでも
副次的な数字に過ぎない。

「--……」

豪人は、教室の隅で
怯えた表情を浮かべている
おじさんを見つめる。

”彼女”はクラスメイトだー

京子(きょうこ)はー
小さい頃から身体が弱く、
治療費を払うのも経済的に
苦しかったために、
両親の判断で、憑依薬を使うことにしたのだ。

ただー
”憑依素体センター”にもお金を払わないと
憑依をすることはできない。

京子の貧しい家庭では
”一番安い部類”の身体に憑依することしかできず、
結果、女子高生ながらおっさんの身体ー
と、いう状態になってしまっていた。

それが原因で、クラスでいじめが起きていることを
豪人は知っていた。

「…どうしたの?」
麻奈が言う。

「いや、ほら、京子ちゃん、
 なんだか可愛そうだなって。
 俺、別に見た目がどうこうとか気にしないからさ」

豪人はそう言いながら
クラスメイトたちを見渡す。

クラスには
”ポゼッション”の人間も何人かいる。

つまりは、
自分の身体ではないクラスメイトたちだー。

だが、やはり、
自分と同じぐらいの年齢だったり
年が行っててもそれなりの身体だったり
自分より若い年齢だったりするー

親が見栄を張るのもあるし、
本人もそうしたいと言う。

京子のように、
ハゲ・太っている・体臭などなど…
敬遠される身体に憑依している
高校生は珍しかった。

「---うん。わたしも可哀想だと思うけど…
 でも、どうにもできないし」
麻奈が言う。

確かにそうだ。

この時代でも、イジメは同じ。
昔から変わらない。

中途半端な正義感で
いじめられているコを助けようとすれば
今度は自分がターゲットになる。

いじめは、何も、変わらないー。

ただ、この時代では
学校側と相談して一度”転校”したことにし、
別の身体に憑依して、
”転入”して、別人に成りすます方法で
いじめから逃れる手段もあった。
もちろん、性格で気づかれたり
先生がバラすこともあるのだがー

「---憑依かぁ」

昼休みー

豪人は、窓の外を見つめながら
憑依薬について考えてみたー。

憑依薬は、人々の生活を豊かにしている。

一方でー
それが原因で不幸せになっている人もいるー。

豪人自身は、父のように
事故でも起こさない限り
憑依薬を使うつもりはない。

憑依薬自体は、1本1000円程度だが、
憑依薬税が入るほか、
素体センターでは高い身体だと
相当な値段がする。

そこまでして、
憑依したいとは思わなかったー。

「--なぁ、豪人」
背後から友人の晶(あきら)が姿を現した。

イケメンの男子だ。

彼は”オリジナル”ではない。
誰かが憑依しているー。

だがー。
彼に憑依している人間が”誰”なのか、
彼は語らなかったー。

豪人は別にそれでも良いと思って
晶と仲良くしている。

中身が誰であろうと、晶は晶なのだから。

「---お前の彼女の麻奈ちゃんなんだけどさ?」
晶が言う。

高校入学の頃から晶とは仲が良い。
豪人は、晶と1年以上友達でいて、
あることに気付いている。

”きっと、中身は女子だろう”

とー。

時々、女子っぽい仕草…
と、いうか、
時々、ボロを出すのだ。

言葉では上手く言い表せないけれど、
中身は女子に違いない。

豪人はそんなことを考えながら
「麻奈がどうしたって?」と答えた。

すると、晶の口から信じられない言葉が
聞えてきたー

「---麻奈ちゃん…
 たぶん、”中身はおっさん”だぜ?」

とー。

②へ続く

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コメント

憑依薬が出回って一変した世界を
描く近未来憑依小説デス(笑

前に書いた「あるかも知れない未来」と同じように
憑依薬が出回ったらどうなるかを、
前の作品とは別の視点で考えてみました☆

続きは明日デス~

 

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