とある平和な家庭。
仲良しの兄と妹。
しかし、ある日ー
とんでもないことが起きるのだったー
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裏社会ー。
そこで、一つの抗争が行われていた。
裏組織と裏組織の激突ー。
表にならないだけで、
こういったことは
この街では日常的に行われていた。
月憑会と呼ばれる組織の
会長が、命を狙われているー
月憑会の幹部と、会長の妻を連れて
会長は用意していた脱出用の車で
脱出を試みていたー。
彼らは、はめられた。
とある取引を行っている際に、
対立している組織の襲撃を受けたのだった。
「くそっ!」
月憑会の会長である、龍山(たつやま)は、
舌打ちする。
次々と構成員たちが倒れて行くなか、
なんとか脱出用の車の前に辿り着いた龍山。
幹部と、妻も一緒だ。
妻の恵(めぐみ)は、
まだ30代。
極道の妻らしい装いで、
美人ながら気が強く、
構成員からは姉さんと呼ばれていた。
しかしー
「--ここまでです。会長」
一緒に逃げていた幹部が、会長の龍山に向かって銃を構えた。
「---な、、お、、お前…!」
会長の龍山は驚いて顔を上げる。
信頼していた幹部がー、裏切ったのだ。
この幹部は、敵対組織に買収されていた。
「---あ、あんた…!裏切るのかい?」
妻の恵が言う。
幹部は頭を下げた。
「すみません姉さん。
ですが、これは俺なりの選んだ道なんです」
そう言うと、龍山会長の方に銃を向けて
躊躇することなく、銃を放ったー
銃声が、夜の道に響き渡るー
「---」
龍山会長は目をつぶっていたー
しかしー
「---あ…」
龍山会長の前に、妻の恵が
立っていたー
恵が、会長をかばって、撃たれたのだ。
「恵!」
龍山会長が叫ぶ。
「--!!」
撃った幹部も動揺しているー
「---ぬおおおおおおお!」
激怒した龍山会長は、動揺する幹部を殴りつけて
銃を奪いー
そのまま銃弾を幹部に撃ち込んだ。
「恵!恵!」
龍山会長は倒れた妻を必死に呼びかけたー
すぐに、本部に戻った龍山会長は
本部の妻を治療させたー。
しかし、妻は、寝たきりの状態になってしまった。
「くそっ…恵…」
それから1か月ー
龍山会長の妻・恵は寝たきりの状態が続いていた。
もう、目を覚まさないかもしれないと言われた。
絶望する龍山会長。
しかし、彼はあるものを手に入れたー
”憑依薬”
これを、寝たきりの妻に飲ませたら
どうなるだろうかー。
「---恵…」
龍山会長は、寝たきりの恵の口に
手に入れた憑依薬を流し込んだー
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裏社会の抗争などと全く無縁の人生を送っている
高校3年生の千賀 伊佐夫(せんが いさお)は、
今日も普通に下校した。
「ただいま~」
伊佐夫が2階に上がると、
高校1年生で妹の莉桜(りお)が、先に帰宅していた。
「あ、お帰りお兄ちゃん!」
ツインテールがよく似合う莉桜が微笑む。
高校から帰宅したばかりなのかまだ制服姿だ。
難しい年頃ではあるものの、
莉桜と伊佐夫は昔から仲良しで、
高校生になった今も仲良しだった。
とても真面目で心優しい性格の莉桜。
「---あ、そうだ、お兄ちゃん」
莉桜が思い出したかのように言う。
「ん?どうした?」
部屋に入ろうとしていた伊佐夫が立ち止まって莉桜の方を見る。
「--あのさ、わたしね…」
そこまで言いかけた莉桜が、突然言葉を止めるー
「うっ…」
笑顔だった表情が突然苦しそうな表情に変わる。
「莉桜?」
伊佐夫は、莉桜の様子を伺いながら
声をかけた。
「--あ……あ、、、あ…」
莉桜が苦しそうに胸のあたりを
抑えながら、その場に蹲る。
「お、おい!莉桜?大丈夫か!?」
伊佐夫は驚いて妹の莉桜に駆け寄る。
どこか、調子でも悪いのだろうか。
「莉桜!?おい!莉桜!」
伊佐夫の呼びかけに、莉桜は応じない。
苦しそうに「はぁ、はぁ」と荒い息を
している。
「や、やばくね…これ…?」
伊佐夫は莉桜が何か病気なのではないかと
考えて、鞄の中に入れていたスマホを取り出す。
そして、慌てて救急車を呼ぼうとしたー
しかしー
「……ふ~………」
苦しそうにしていた莉桜が落ち着いた。
さっきまで苦しんでいたのが、嘘かのようにー。
「---り、莉桜…?」
救急車を呼ぼうとしていた手を止めて
不安そうに莉桜の方を見る伊佐夫。
莉桜は、キョロキョロと周囲を見渡している。
「--……な……だ、、大丈夫か?」
伊佐夫が言うと、
莉桜は答えた。
「---…ここは、、どこだい?」
とー。
普段の莉桜とは違う口調。
伊佐夫は「へ…?」と困り果てた表情で
莉桜の方を見つめるのだった。
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月憑会本部ー
「くそっ…」
会長の龍山は、妻の恵の方を見ていた。
恵は相変わらず意識を取り戻していない。
憑依薬を飲ませたのだが、
目立つ変化はなかった。
「--恵…」
龍山会長は、その場にしゃがみ込んだ。
意識不明の状態でも憑依薬を飲ませれば
恵は憑依薬の説明書にもある通り、霊体になって
誰かに憑依して、意識を取り戻してくれると思っていた。
だがー
憑依薬を飲ませても、恵に変化はなかった。
変わらず、寝たきりの状態のままだ。
「--くそっ…くそっ…くそっ!」
龍山会長は、頭をかきむしりながら
くそっ!と呟き続けたー…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「--座りな」
莉桜は自分の部屋に兄を招き入れると、
足を組んで自分の部屋のベットに座り込んだ。
表情に笑顔はない。
「あ、、あの…?莉桜?大丈夫か?」
伊佐夫が心配そうに聞くと、
莉桜は言った。
「--あたしは莉桜じゃない」
莉桜の言葉に伊佐夫は「は?」と思わず返事をしてしまう。
「--な、何言ってんだ莉桜?
急に苦しみ始めたと思ったら今度は…」
伊佐夫がそう言いかけると、
莉桜はイライラした様子で言った。
「うるさいね。
あたしは莉桜じゃない。
何度も言わせるんじゃないよ」
莉桜の鋭い目つきと口調に、
伊佐夫は萎縮してしまう。
「--そ、そんなこと言われても…
じ、じゃあ、だ、、誰だっていうんだよ?」
伊佐夫が言うと、
莉桜は言った。
「あたし?あたしは恵。
見りゃわかるだろ?
で、ここはどこなんだい?」
莉桜が言う。
莉桜に憑依している恵は、
”人違いされている”と思っているー。
自分が莉桜の身体になっていることに気付いていない。
「--め、恵…?
それに、どこって…?」
伊佐夫は困り果てた様子で
「ここは俺たちの家だろ。
自分の家も忘れたのか?」と答えたー。
「はっ…
笑わせるんじゃないよ」
莉桜はうんざりした様子で言った。
そして立ち上がると、
伊佐夫の方に近づいてきて
伊佐夫を睨みつけた。
”妹に睨まれている”
伊佐夫はなんとなくご褒美な気がして
一瞬変な笑みを浮かべてしまったが
すぐに真剣な表情に戻すと、
莉桜の言葉を待った。
「あたしを誘拐して、ただで済むと思わないことね。
あたしは月憑会会長の妻よ」
莉桜が言う。
「--は???はぁ?」
突拍子もない話に伊佐夫は笑いそうになった。
「--クソガキに誘拐されるなんて
あたしも落ちたもんだわ。
でもね、あたしも闇に生きる女よ。
好きにされると思うな!」
そう言うと、莉桜は突然、伊佐夫の腕を掴んで
伊佐夫を投げ飛ばした。
あっという間の出来事に驚く伊佐夫。
気付けば伊佐夫は、
莉桜にのしかかられていた。
「--どこの組織に頼まれたの?
吐きなさい」
莉桜が、伊佐夫を押さえつけながら言う。
伊佐夫は「わ、訳が分からないよ!」と叫んだー
そしてー
莉桜が、ふと部屋にあった姿見を見て
悲鳴を上げた。
鏡に映った姿を見てー
莉桜に憑依している恵は、
ようやく自分が他人の身体になっていることに
気付いたのだった…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5分後ー
「---え、、えっと…
事情聞かせてもらえるかな?」
伊佐夫が言う。
莉桜は恥ずかしそうな表情を浮かべながら呟いた。
「気付いたら…あんたの妹の身体になってた…」
莉桜の言葉を聞いて伊佐夫は
苦笑いする。
「そんなことあるわけないだろ…?
だ、大体、君は、ここに来るまで
何をしてたんだよ?」
伊佐夫が言うと
莉桜は伊佐夫を睨んだ。
「あんたみたいなガキに、
君と呼ばれる筋合いはないわ」
莉桜の可愛い顔で睨まれても、
その迫力が伝わってくるー
これが本職の妻かー、
などと伊佐夫は思いながら言う。
「わ、、分かった分かった
君とは呼ばないから…!」
伊佐夫はそう言うと、
先を促した。
莉桜が思い出しながら言うー
「あたしはね…
夫と逃げていたの…
対立組織の襲撃を受けてね…
けど、途中で部下が裏切った。
そしてー
撃たれそうな夫をあたしは守った」
莉桜が言うー。
いつもの莉桜の声だが
トーンが違うために
別人に聞こえる。
「---…そのあとは?」
伊佐夫が言うと、
莉桜は首を振った。
「気付いたら、ここに」
莉桜はそこまで言うと
口を閉ざしてしまった。
伊佐夫は思う。
”そんなことあるわけが…”と。
莉桜がドッキリを仕掛けているのかもしれないー
伊佐夫はそんな風にも思いながら続ける。
「じゃあ、撃たれたあと
目を覚ましたら莉桜の身体にいたってことか?」
伊佐夫が言うと、
莉桜は頷いた。
莉桜に憑依している恵は、自分の状況を知らない。
寝たきりになってしまった自分に
夫が憑依薬を飲ませて、
浮遊霊のような状態になり、無意識のうちに
偶然、莉桜に憑依したことをー。
憑依薬を飲まされたことすら知らない恵にとって
今の状況は謎だった。
「--莉桜を返してもらうことはできるのか?」
伊佐夫が言うと、
莉桜は首を振った。
「悪いけど…
それは無理ね」
莉桜は鼻で笑った。
「どうして!?」
伊佐夫が言うと、
莉桜は言う。
「--抜け出し方が分からないからよ」
とー。
しばらくの沈黙ー
しばらくして、莉桜は立ち上がった。
「--まぁ、いいわ、これから本部に行って
夫と会ってくる」
その言葉に、伊佐夫は敏感に反応したー。
莉桜の身体で極道組織の
本部に行くー?
「--だ、ダメだダメだダメだ!」
伊佐夫は必死に叫んだ。
「--そ、その身体は莉桜の身体だぞ!」
伊佐夫の言葉に、莉桜は
うんざりした様子で言い返した。
「今は、あたしの身体よ」
莉桜の言葉に、
伊佐夫は「ふざけるな!」と叫び返す。
「どきなさいー」
「いやだー」
伊佐夫が部屋の出口に立ちはだかる。
もしも、莉桜が乱暴でもされたらどうする?
いや、この莉桜に憑依している極道の妻が
莉桜の身体を持ち逃げする可能性だってある。
それに、高校生が裏組織の本部に
出入りするなんて、絶対にまずい。
「--どきな!」
莉桜が脅すような口調で叫ぶ。
「だめだ!」
伊佐夫が必死に叫ぶ。
「どけ!」
莉桜が大声で怒鳴り声をあげて
乱暴に伊佐夫をどかそうとし始めた。
「だめだぁぁぁぁ!」
伊佐夫も必死に莉桜に掴みかかる。
まるで兄と妹の喧嘩のように
激しい争いを繰り広げる2人ー
しかしー
身体は莉桜のものー。
やがて、兄である伊佐夫が莉桜を抑え込んだ。
「---…はぁ…はぁ…
くそっ、体力のない小娘ね」
莉桜が悔しそうに呟く。
「大人しくするんだ!」
伊佐夫が叫ぶ。
このあとどうすればいいかは分からない。
けれどー
「きゃああああああああああああああ!」
莉桜が急に大声で叫んだ。
「---!?」
伊佐夫が驚いていると、
悲鳴を聞きつけた母親が
2階に駆け付けた。
「どうしたの!?」
母は慌てている。
莉桜が、わざとらしい声で言う
「お、、お兄ちゃんがわたしを、、わたしをいじめるの!」
莉桜はそう言いながら伊佐夫の方を見てニヤリと
笑みを浮かべる。
「ち、、ちが!」
伊佐夫は反論しようとした。
しかしー
母は莉桜の言葉を信じた。
「こら!伊佐夫!」
伊佐夫は慌てて
事情を説明しようとした。
しかしー
「お母さん、ちょっと出かけてくるね♪」
莉桜はニヤニヤしながら
そのまま部屋の外に飛び出したー
「あ、おい!待て!」
伊佐夫は叫ぶ。
けれどー
「待つのは伊佐夫よ」
母は、許してはくれなかったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
30分後ー
みっちり叱られた伊佐夫は、
ネットで
月憑会の場所を調べていた。
”ここから30分ぐらいか”
伊佐夫の手は震えていたー。
裏社会との関わりなんて
伊佐夫にはないー。
だがー
妹の莉桜を見捨てることはできないー
「--莉桜…今、行くからな」
極道の妻に憑依された莉桜を助け出すため、
伊佐夫は意を決して
月憑組の本部に向かうのだったー
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
前からネタだけは考えていたお話だったのですが、
今回、せっかくなので書くことにしました~!
続きは明日デスー!
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