極道の妻に憑依された妹は、
夫に会うために家を飛び出してしまう。
兄は、後を追って
月憑会の本部に辿り着くも…?
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電車の音が響き渡る。
近くの線路を電車が通過した音だ。
けれどー
そんな音は、今、伊佐夫の耳には
全く入っていない。
心臓が、爆発しそうだったからだ。
心臓が爆発しそうな理由はただ一つー。
”月憑会”の本部の前に
やってきていたからだー。
「---」
ゴクリと唾をのみ込み、伊佐夫は
本部に足を踏み入れる。
”自分は、生きて帰れるだろうか”
そんな風にも思うー
けれどー
自分が妹の莉桜を救い出すしかない。
意を決して、伊佐夫は
月憑会の本部に足を踏み入れた。
「おい」
背後から声がかかる。
「--はひっ!?」
伊佐夫はビクッとして身体ごと
震え上がらせると、
しばらくしてようやく振り返った。
「--あ、、」
そこには、ゴツイ男と
サングラスをかけた男が立っていた。
「ど…どうも……
あは、、あはははははは」
伊佐夫は、恐怖でおかしくなりそうに
なりながら、そう呟いた…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「---会長、妙な小娘が会長に会いたいと言ってますが?」
会長の龍山のもとに部下が駆け寄ってくる。
「妙な小娘?」
龍山会長が聞き返す。
”また、罠かもしれない”
龍山会長はそう思う。
この前、敵対組織の刺亜組に狙われたばかり。
妙な小娘も刺亜組からの刺客である可能性は
充分にある。
「----まぁ、いい、通せ」
龍山会長は少し考えたあとに
”妙な小娘”を通すように言った。
「はっ」
部下が、入り口の方に向かう。
そしてー
入ってきたのは
制服姿の女子高生だった。
ツインテールの可愛らしい少女。
「---ここに、何の用だ?」
龍山会長は
威厳に満ちた声でそう問いかけた。
入ってきた少女・莉桜の中に
妻である恵が憑依しているなんて
夢にも思わない龍山は莉桜の方を見つめる。
莉桜は、龍山の方に向かって歩き始めた。
「おい!」
周りにいた構成員が、莉桜を止めようとする。
「どきな!」
莉桜が大声で叫ぶ。
構成員は萎縮してしまった。
そして、龍山の目の前に
辿り着いた莉桜は、竜山の方を見つめた。
「---ま、まさか」
龍山の口から笑みがこぼれる。
「--恵、なのか?」
龍山会長の表情が一気に
子供のようにゆるんだ。
莉桜は微笑む。
「そう。恵よー」
とー。
「---…どうしてあたしが
こんな小娘の身体になったのか、
教えてもらえる?」
莉桜が腕を組みながら言うと
龍山は莉桜の太ももを眺めながら
ニヤニヤして呟いた。
「--憑依薬のおかげだ」
龍山会長は、莉桜に、隣の部屋に来るように促すと、
莉桜もそれに続く。
そこにはー
寝たきりの恵の姿があった。
「--あたし…」
莉桜が呟く。
「--お前は、あの時、俺をかばって撃たれて
寝たきりの状態になってしまったんだ。
俺は必死にお前を回復させようとした。
けど、できなかったー
そんな時に見つけたんだ
”憑依薬”をー」
龍山会長の言葉に
莉桜は表情を歪める。
「憑依薬?なんだいそれ?」
龍山会長は笑みを浮かべたー
「飲むと、他人の身体に憑依できる薬だよー
これを、お前に飲ませた。
恵、お前の身体はダメでも、
他人の身体にお前が移れば
生きて行けるんじゃないかってな」
龍山会長の言葉に
莉桜は険しい表情をしている。
「--なぜ、その娘に憑依したのか分からないがー
可愛いじゃないか」
龍山会長はニヤニヤしながら
莉桜の身体を見つめる。
これはいいー
今日からJKが妻なのだー
「--」
莉桜は寝たきりの自分ー
恵の身体を見つめるー
そしてー
「あたしはもっとあんたと愛し合いたい」
莉桜が女の顔になって
龍山を見つめるー
愛している男を見つめる目だー。
「---恵」
龍山会長は莉桜を見つめる。
見つめ合う極道の頭と
女子高生ー
莉桜の意思とは関係なく、
莉桜は極道の妻にされようとしていたー
「--会長!」
そこにー
先ほどの部下が飛び込んできた。
「--怪しいガキを捕まえました」
入り口で捕まった伊佐夫が連行
されてきたのだ。
「---なんだと?」
龍山会長が、先ほどいた部屋に戻る。
そこには、伊佐夫の姿があった。
伊佐夫は手を縛られている。
「---あんた…」
莉桜が表情を歪める。
「---知り合いか?」
龍山会長の言葉に、莉桜は頷いた。
「-この小娘の、兄よ」
莉桜の言葉に、伊佐夫は
他人のように言われたことがショックで
悔しそうな表情を浮かべた。
「--り、、莉桜を、、莉桜を返してくれ!」
伊佐夫が叫ぶ。
龍山会長は笑う。
「ふはは…!
ザンネンだったな。
お前の妹は、俺の妻のものになった。
莉桜…とか言ったな。
もうこの女は莉桜じゃない」
莉桜の顎を触りながら
龍山会長は笑う。
「こいつは、恵だ」
「--俺の妹に触れるんじゃねぇ!」
伊佐夫は大声で叫んだ。
莉桜が色っぽく微笑む。
「----おい!そいつは処分しろ」
龍山会長が命令を下す。
命令を受けた部下二人が伊佐夫の両でを掴んだ。
「---やめろ!やめろ!」
伊佐夫は叫びながらじたばたしている。
「--ーーー」
莉桜はその様子を見つめながら言った。
「あんた、妹を助けるために
こんなところまでわざわざ来たのかい?
何されるかも分からないのに?」
笑いをこらえながら言う莉桜。
普段の莉桜の面影はまるでない。
「--そ、、そうだ!!
い、、妹を放っておけるわけないだろ!」
伊佐夫が叫ぶ。
「莉桜!目を覚ましてくれ!莉桜!!」
伊佐夫は泣きながら叫んだ。
龍山会長は
「うるさいガキだ」
と呟いて立ち上がると、
莉桜の方を見た。
「さ、向こうの部屋でまずは
新しい身体を確かめさせてもらおうか」
龍山会長が笑う。
莉桜はそんな会長の方を見て呟いた。
「--あんたを他の女には渡さない」
龍山には、その意味が分からなかった。
莉桜は、そう言い終えると、
部下二人に言い放つ。
「そのガキを離してやりな!」
とー。
部下二人が戸惑っている。
「--な!何を…?」
龍山会長も戸惑っている。
だが、莉桜はさらに続けた。
「--あたしが離せと言ってるんだよ!
離しておやり!」
気迫に満ちた声でそう言い放つと
部下二人は
「め、恵姐さん…」と呟いて、
伊佐夫から手を離した。
「--ど、、どういうことだ!」
龍山が叫ぶ。
莉桜は伊佐夫の手を取りながら
龍山の方を見て言い放った。
「--あんたを他の女には渡さないー
言った通りよ。
中身はあたしでも、この身体はあたしじゃないー
他の女とやるなんて、あたしには許せないー」
莉桜が言う。
龍山会長は困り果てた表情を浮かべたー
「そ、そんなこと気にしなくていい!
その小娘の身体は恵、もうお前のものなんだ!」
龍山会長が必死に叫ぶ。
しかしー
莉桜は反論した。
「他人の身体を奪うなんてー
仁義に反するよ!
あんたは、そんな男だったのかい?」
莉桜の言葉に
龍山会長は黙り込んでしまう。
「-----…あ、、ありがとう」
伊佐夫は助けてくれたことに
感謝してそう呟いた。
「あんたの妹への愛、
ちゃんとあたしには伝わったよ。
…来な」
莉桜はそう言うと、伊佐夫の腕を引っ張って
隣の部屋へと向かったー
いつもは優しい感じの莉桜に
グイグイ引っ張られて
伊佐夫は少しドキドキしてしまった。
そしてー
隣の部屋へとたどり着くと、
莉桜は顎で何かを示した。
「--この人は?」
伊佐夫が莉桜に問いかける。
医療機器に繋がれて
ベットに寝たままの女性がいる。
目を閉じているから分かりにくいけれど、
とても気が強そうに見えた。
「---それは、あたし」
莉桜が呟く。
「え?」
伊佐夫はもう一度寝たきりの女性を見た。
この人が、莉桜に憑依している人なのか、
と思いながら伊佐夫は、今度は莉桜の方を見る。
「--短い時間だけどさ、
あんたが妹を大事にしてるのが伝わって来たよ」
莉桜はそう言うと、
寝たままの恵…
自分の身体の方に近づいて行く。
寝たままの恵は
医療機器によって生かされているー
呼吸も自分ではままならない。
医療機器を外せば、恵は死ぬー。
莉桜に憑依している恵には、
憑依から抜け出す方法は分からないー
いやー
”ひとつだけ”
抜け出せるかもしれない、方法があるー。
「---…あたしにも、妹がいた」
莉桜は呟く。
「妹は優秀で、親は不良だった
あたしに見切りをつけて
妹を可愛がった。
そんな両親にあたしは反発して
家を飛び出して、
それで夫と出会って、
極道の妻になったのさ」
莉桜は自虐的に笑う。
「あたしは妹を大切にしてやれなかった…
けど、あんたは」
そこまで言うと、莉桜は伊佐夫の方を見て
”つまんない話をしちまったね”と呟いた。
そしてー
「--あんたの大事な妹、返してやるよ」
莉桜はそう言うと、
医療機器に手をかけた。
「-え…ちょ、何を?」
伊佐夫が慌てる。
莉桜が手にかけている医療機器を外せば
恵の命が尽きることは、なんとなく理解できた。
「---他人の身体を奪ってまで生きるなんて
あたしたちの仁義に反するよ。
だから、この身体は返す」
莉桜の言葉に
伊佐夫は反論した。
「ちょ、ちょっと待てって!
他に何か方法が…!」
このまま放っておけば莉桜は
解放されるかもしれないー
けれど、お人よしな伊佐夫には
それはできなかった。
例え、極道の妻であろうと、
目の前で人が死ぬ瞬間を見るのはー
パン!
パン!
パン!パン!
「--!?」
伊佐夫は驚いて、さっきまでいた部屋の方を見る。
銃声だー
「な、、なんだ!?」
伊佐夫は叫ぶ。
「---…刺亜組ね」
莉桜が呟いた。
対立が激化している刺亜組が
月憑会の本部にまで乗り込んできたのだろう。
莉桜は悲しそうな表情を浮かべる。
もう、自分たちは終わりだ、と。
「--この部屋の奥に裏口がある。
そこからなら逃げられる。
行きな!」
そう言うと、莉桜は、躊躇なく
恵のー
自分の身体の人工呼吸器を含む
全ての医療機器を乱暴に取り外した。
「--あ!おい!」
伊佐夫が叫ぶ。
莉桜は少しだけ笑って呟いた
「妹を、大事にしなよーー」
そう言うと、莉桜は気を失って
その場に倒れたー
恵の身体が冷たくなっていくー
恵の狙いどおりだったー。
”自分の本体”が死ねばー
憑依している自分も消えるー
それは、
莉桜に身体を返すことになるー
「---あ、、、れ?お兄ちゃん…?」
意識を取り戻した莉桜が呟く。
さらに激しくなる銃声ー
「話はあとだ!」
伊佐夫は叫んで、
莉桜の手を引っ張り、
部屋にあるという裏口から、
外へと飛び出したー
伊佐夫たちは生き延びたー
後日、ニュースで
月憑会は、刺亜組の襲撃を受けて
壊滅したことが報じられた。
会長である龍山も、襲撃で命を落したのだと言うー
・・・・・・・・・・・・・・・・・
1週間後―
「--あ、お兄ちゃん!おかえり~!」
いつものように微笑む莉桜。
いつも通りの日常が戻ってきた。
伊佐夫は、”ただいま~”と
言いながら自分の部屋に向かうー。
あれから1週間。
元通りの日常が戻ってきた。
いやー
”ひとつ”変わったことがあるー
それはー
”妹を見ると興奮する”ようになってしまったー。
あの日、極道の妻に憑依された妹の
いつもと違う姿ー
あまりのギャップに、兄の伊佐夫は
思い出すだけで興奮するようになってしまった。
「はぁ…」
伊佐夫は呟く。
「今日も莉桜をオカズにするか」
そう呟いて、伊佐夫はトイレに向かうのだったー
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
元々、3話ぐらいかな~?と思っていたお話なのですが
2話にしたので、コンパクトになりました☆!
いつもどのお話も1話、2話、3話?と、結構迷うこともあります~!
お読み下さりありがとうございました!!
コメント
はじめまして!
今更なのですが続きが見てみたくてコメントいたしました。
はじめまして!ありがとうございます~!☆
極妹の続編!
機会があれば考えてみます~!☆!
少し先かもですが、前向きに考えますネ!