<憑依>極妹②~兄と妹~(完)

極道の妻に憑依された妹は、
夫に会うために家を飛び出してしまう。

兄は、後を追って
月憑会の本部に辿り着くも…?

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電車の音が響き渡る。

近くの線路を電車が通過した音だ。

けれどー
そんな音は、今、伊佐夫の耳には
全く入っていない。

心臓が、爆発しそうだったからだ。

心臓が爆発しそうな理由はただ一つー。
”月憑会”の本部の前に
やってきていたからだー。

「---」
ゴクリと唾をのみ込み、伊佐夫は
本部に足を踏み入れる。

”自分は、生きて帰れるだろうか”
そんな風にも思うー

けれどー
自分が妹の莉桜を救い出すしかない。

意を決して、伊佐夫は
月憑会の本部に足を踏み入れた。

「おい」
背後から声がかかる。

「--はひっ!?」
伊佐夫はビクッとして身体ごと
震え上がらせると、
しばらくしてようやく振り返った。

「--あ、、」
そこには、ゴツイ男と
サングラスをかけた男が立っていた。

「ど…どうも……
 あは、、あはははははは」
伊佐夫は、恐怖でおかしくなりそうに
なりながら、そう呟いた…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「---会長、妙な小娘が会長に会いたいと言ってますが?」

会長の龍山のもとに部下が駆け寄ってくる。

「妙な小娘?」
龍山会長が聞き返す。

”また、罠かもしれない”

龍山会長はそう思う。
この前、敵対組織の刺亜組に狙われたばかり。
妙な小娘も刺亜組からの刺客である可能性は
充分にある。

「----まぁ、いい、通せ」
龍山会長は少し考えたあとに
”妙な小娘”を通すように言った。

「はっ」
部下が、入り口の方に向かう。

そしてー
入ってきたのは
制服姿の女子高生だった。
ツインテールの可愛らしい少女。

「---ここに、何の用だ?」
龍山会長は
威厳に満ちた声でそう問いかけた。

入ってきた少女・莉桜の中に
妻である恵が憑依しているなんて
夢にも思わない龍山は莉桜の方を見つめる。

莉桜は、龍山の方に向かって歩き始めた。

「おい!」
周りにいた構成員が、莉桜を止めようとする。

「どきな!」
莉桜が大声で叫ぶ。

構成員は萎縮してしまった。

そして、龍山の目の前に
辿り着いた莉桜は、竜山の方を見つめた。

「---ま、まさか」
龍山の口から笑みがこぼれる。

「--恵、なのか?」
龍山会長の表情が一気に
子供のようにゆるんだ。

莉桜は微笑む。

「そう。恵よー」

とー。

「---…どうしてあたしが
 こんな小娘の身体になったのか、
 教えてもらえる?」

莉桜が腕を組みながら言うと
龍山は莉桜の太ももを眺めながら
ニヤニヤして呟いた。

「--憑依薬のおかげだ」
龍山会長は、莉桜に、隣の部屋に来るように促すと、
莉桜もそれに続く。

そこにはー
寝たきりの恵の姿があった。

「--あたし…」
莉桜が呟く。

「--お前は、あの時、俺をかばって撃たれて
 寝たきりの状態になってしまったんだ。

 俺は必死にお前を回復させようとした。
 けど、できなかったー

 そんな時に見つけたんだ
 ”憑依薬”をー」

龍山会長の言葉に
莉桜は表情を歪める。

「憑依薬?なんだいそれ?」

龍山会長は笑みを浮かべたー

「飲むと、他人の身体に憑依できる薬だよー
 これを、お前に飲ませた。
 恵、お前の身体はダメでも、
 他人の身体にお前が移れば
 生きて行けるんじゃないかってな」

龍山会長の言葉に
莉桜は険しい表情をしている。

「--なぜ、その娘に憑依したのか分からないがー
 可愛いじゃないか」

龍山会長はニヤニヤしながら
莉桜の身体を見つめる。

これはいいー

今日からJKが妻なのだー

「--」
莉桜は寝たきりの自分ー
恵の身体を見つめるー

そしてー

「あたしはもっとあんたと愛し合いたい」
莉桜が女の顔になって
龍山を見つめるー

愛している男を見つめる目だー。

「---恵」
龍山会長は莉桜を見つめる。

見つめ合う極道の頭と
女子高生ー

莉桜の意思とは関係なく、
莉桜は極道の妻にされようとしていたー

「--会長!」

そこにー
先ほどの部下が飛び込んできた。

「--怪しいガキを捕まえました」

入り口で捕まった伊佐夫が連行
されてきたのだ。

「---なんだと?」
龍山会長が、先ほどいた部屋に戻る。

そこには、伊佐夫の姿があった。

伊佐夫は手を縛られている。

「---あんた…」
莉桜が表情を歪める。

「---知り合いか?」
龍山会長の言葉に、莉桜は頷いた。

「-この小娘の、兄よ」
莉桜の言葉に、伊佐夫は
他人のように言われたことがショックで
悔しそうな表情を浮かべた。

「--り、、莉桜を、、莉桜を返してくれ!」
伊佐夫が叫ぶ。

龍山会長は笑う。

「ふはは…!
 ザンネンだったな。
 お前の妹は、俺の妻のものになった。
 
 莉桜…とか言ったな。
 もうこの女は莉桜じゃない」

莉桜の顎を触りながら
龍山会長は笑う。

「こいつは、恵だ」

「--俺の妹に触れるんじゃねぇ!」
伊佐夫は大声で叫んだ。

莉桜が色っぽく微笑む。

「----おい!そいつは処分しろ」
龍山会長が命令を下す。

命令を受けた部下二人が伊佐夫の両でを掴んだ。

「---やめろ!やめろ!」
伊佐夫は叫びながらじたばたしている。

「--ーーー」
莉桜はその様子を見つめながら言った。

「あんた、妹を助けるために
 こんなところまでわざわざ来たのかい?
 何されるかも分からないのに?」

笑いをこらえながら言う莉桜。
普段の莉桜の面影はまるでない。

「--そ、、そうだ!!
 い、、妹を放っておけるわけないだろ!」
伊佐夫が叫ぶ。

「莉桜!目を覚ましてくれ!莉桜!!」
伊佐夫は泣きながら叫んだ。

龍山会長は
「うるさいガキだ」
と呟いて立ち上がると、
莉桜の方を見た。

「さ、向こうの部屋でまずは
 新しい身体を確かめさせてもらおうか」

龍山会長が笑う。

莉桜はそんな会長の方を見て呟いた。

「--あんたを他の女には渡さない」

龍山には、その意味が分からなかった。

莉桜は、そう言い終えると、
部下二人に言い放つ。

「そのガキを離してやりな!」
とー。

部下二人が戸惑っている。

「--な!何を…?」
龍山会長も戸惑っている。

だが、莉桜はさらに続けた。

「--あたしが離せと言ってるんだよ!
 離しておやり!」

気迫に満ちた声でそう言い放つと
部下二人は
「め、恵姐さん…」と呟いて、
伊佐夫から手を離した。

「--ど、、どういうことだ!」
龍山が叫ぶ。

莉桜は伊佐夫の手を取りながら
龍山の方を見て言い放った。

「--あんたを他の女には渡さないー
 言った通りよ。

 中身はあたしでも、この身体はあたしじゃないー
 他の女とやるなんて、あたしには許せないー」

莉桜が言う。

龍山会長は困り果てた表情を浮かべたー

「そ、そんなこと気にしなくていい!
 その小娘の身体は恵、もうお前のものなんだ!」

龍山会長が必死に叫ぶ。

しかしー
莉桜は反論した。

「他人の身体を奪うなんてー
 仁義に反するよ!

 あんたは、そんな男だったのかい?」

莉桜の言葉に
龍山会長は黙り込んでしまう。

「-----…あ、、ありがとう」
伊佐夫は助けてくれたことに
感謝してそう呟いた。

「あんたの妹への愛、
 ちゃんとあたしには伝わったよ。

 …来な」

莉桜はそう言うと、伊佐夫の腕を引っ張って
隣の部屋へと向かったー

いつもは優しい感じの莉桜に
グイグイ引っ張られて
伊佐夫は少しドキドキしてしまった。

そしてー
隣の部屋へとたどり着くと、
莉桜は顎で何かを示した。

「--この人は?」
伊佐夫が莉桜に問いかける。

医療機器に繋がれて
ベットに寝たままの女性がいる。

目を閉じているから分かりにくいけれど、
とても気が強そうに見えた。

「---それは、あたし」
莉桜が呟く。

「え?」
伊佐夫はもう一度寝たきりの女性を見た。

この人が、莉桜に憑依している人なのか、
と思いながら伊佐夫は、今度は莉桜の方を見る。

「--短い時間だけどさ、
 あんたが妹を大事にしてるのが伝わって来たよ」

莉桜はそう言うと、
寝たままの恵…
自分の身体の方に近づいて行く。

寝たままの恵は
医療機器によって生かされているー
呼吸も自分ではままならない。
医療機器を外せば、恵は死ぬー。

莉桜に憑依している恵には、
憑依から抜け出す方法は分からないー

いやー
”ひとつだけ”

抜け出せるかもしれない、方法があるー。

「---…あたしにも、妹がいた」
莉桜は呟く。

「妹は優秀で、親は不良だった
 あたしに見切りをつけて
 妹を可愛がった。

 そんな両親にあたしは反発して
 家を飛び出して、
 それで夫と出会って、
 極道の妻になったのさ」

莉桜は自虐的に笑う。

「あたしは妹を大切にしてやれなかった…
 けど、あんたは」

そこまで言うと、莉桜は伊佐夫の方を見て
”つまんない話をしちまったね”と呟いた。

そしてー

「--あんたの大事な妹、返してやるよ」
莉桜はそう言うと、
医療機器に手をかけた。

「-え…ちょ、何を?」
伊佐夫が慌てる。

莉桜が手にかけている医療機器を外せば
恵の命が尽きることは、なんとなく理解できた。

「---他人の身体を奪ってまで生きるなんて
 あたしたちの仁義に反するよ。

 だから、この身体は返す」

莉桜の言葉に
伊佐夫は反論した。

「ちょ、ちょっと待てって!
 他に何か方法が…!」

このまま放っておけば莉桜は
解放されるかもしれないー
けれど、お人よしな伊佐夫には
それはできなかった。

例え、極道の妻であろうと、
目の前で人が死ぬ瞬間を見るのはー

パン!

パン!

パン!パン!

「--!?」
伊佐夫は驚いて、さっきまでいた部屋の方を見る。

銃声だー

「な、、なんだ!?」
伊佐夫は叫ぶ。

「---…刺亜組ね」
莉桜が呟いた。

対立が激化している刺亜組が
月憑会の本部にまで乗り込んできたのだろう。

莉桜は悲しそうな表情を浮かべる。

もう、自分たちは終わりだ、と。

「--この部屋の奥に裏口がある。
 そこからなら逃げられる。
 行きな!」

そう言うと、莉桜は、躊躇なく
恵のー
自分の身体の人工呼吸器を含む
全ての医療機器を乱暴に取り外した。

「--あ!おい!」
伊佐夫が叫ぶ。

莉桜は少しだけ笑って呟いた

「妹を、大事にしなよーー」

そう言うと、莉桜は気を失って
その場に倒れたー

恵の身体が冷たくなっていくー

恵の狙いどおりだったー。
”自分の本体”が死ねばー
憑依している自分も消えるー

それは、
莉桜に身体を返すことになるー

「---あ、、、れ?お兄ちゃん…?」
意識を取り戻した莉桜が呟く。

さらに激しくなる銃声ー

「話はあとだ!」
伊佐夫は叫んで、
莉桜の手を引っ張り、
部屋にあるという裏口から、
外へと飛び出したー

伊佐夫たちは生き延びたー

後日、ニュースで
月憑会は、刺亜組の襲撃を受けて
壊滅したことが報じられた。
会長である龍山も、襲撃で命を落したのだと言うー

・・・・・・・・・・・・・・・・・

1週間後―

「--あ、お兄ちゃん!おかえり~!」

いつものように微笑む莉桜。

いつも通りの日常が戻ってきた。

伊佐夫は、”ただいま~”と
言いながら自分の部屋に向かうー。

あれから1週間。

元通りの日常が戻ってきた。

いやー
”ひとつ”変わったことがあるー

それはー

”妹を見ると興奮する”ようになってしまったー。

あの日、極道の妻に憑依された妹の
いつもと違う姿ー
あまりのギャップに、兄の伊佐夫は
思い出すだけで興奮するようになってしまった。

「はぁ…」
伊佐夫は呟く。

「今日も莉桜をオカズにするか」

そう呟いて、伊佐夫はトイレに向かうのだったー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

元々、3話ぐらいかな~?と思っていたお話なのですが
2話にしたので、コンパクトになりました☆!

いつもどのお話も1話、2話、3話?と、結構迷うこともあります~!

お読み下さりありがとうございました!!

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憑依<極妹>

コメント

  1. ハルトン より:

    はじめまして!
    今更なのですが続きが見てみたくてコメントいたしました。

    • 無名 より:

      はじめまして!ありがとうございます~!☆

      極妹の続編!
      機会があれば考えてみます~!☆!

      少し先かもですが、前向きに考えますネ!