<憑依>地獄へのフライト①~ハイジャック~

その飛行機は、穏やかなフライトを続けていた…

しかし、
突如として乗客がハイジャックを引き起こすー

憑依された乗客たちによって、占領された
飛行機の運命はー

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機長の蛯名(えびな)は、
いつものように順調なフライトに
一息ついていた。

ベテランパイロットである
蛯名にとっては
空の旅も、もう、何度目だろうか。

これまでもー
そしてこれからも
何度も繰り返されるであろうこの光景ー。

蛯名にとっては昼下がりのコーヒーブレイクと同じだった。

「・・・・・・」

副操縦士の羽蛾(はが)が
蛯名の方を見つめる

「・・・・・・」
羽蛾は、これから起きることを
想像しながらニヤリと笑みを浮かべていたー

羽蛾はー
今日、機長の蛯名を殺すつもりだった。

いつもいつも偉そうにしやがって…。

と、羽蛾は思うー
もう、自分の人生がどうなってもいい。

いつもいつも、上司にこき使われる日々。
そこから脱出する方法をついに羽蛾は
見つけたのだった。

”こうすればよかったんだ”と叫びながら
機長をフライト中の飛行機から
突き落としてやるー

羽蛾は、もうすぐみられるであろう
その光景を浮かべて、笑みを浮かべるのだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「--はぁ…飛行機って落ち着かないなぁ…」

彼女の玲奈(れな)が横で呟く。

玲奈は眼鏡をかけた大人しそうな雰囲気の
美人だー。

「ははは…大丈夫だよ」

男子大学生の正樹(まさき)が呟く。

大学卒業を目前に控えて、
卒業前に2人でお金を出し合って、
ちょっとした旅行に行こうと、
今日は飛行機に乗っていたのだった。

「--ーー飛行機が落ちたりすることなんて
 交通事故に巻き込まれるより
 確率低いんだぜ?
 大丈夫大丈夫。
 宝くじが当たらないのと同じさ」

正樹が言うと、
玲奈は「うん…そうだね」と微笑んだ。

穏やかな空の旅ー
離陸してから30分ー
今日もフライトは順調だった。

機内のCAも、いつも通り、
普通の対応をしているー

眠っている乗客もいればー
談笑している乗客もいるー

仕事ー
旅行ー

色々な都合で、
飛行機に乗っている乗客たちー

これから起きることを、
まだ、乗客たちは知らなかったー。

離陸から40分ー

それは、起きたー

「--星子!どうしたの!?」

乗客の一人、
家族連れの母親が叫ぶー

星子と呼ばれた
まだ10歳にも満ちていないであろう
可愛らしい少女が、突然母親を
振り払って、機内を歩き始めた。

そして、乗客たちの注目を
集めようと手を叩いて叫び始めた。

「はい、注目~!」

星子が叫ぶ。
恥ずかしがり屋の少女が、
まるでこの飛行機の支配者かのように、
叫んだのだった。

「--!?」
乗客たちは、星子の方を見る。

「---これから、この飛行機は
 ”俺”が貰い受けるー」

星子が大声で
乗客たちに向かって叫ぶ。

どよめく乗客たちー

「?お嬢ちゃん…
 危ないから座ってなさい」

近くにいた初老の男性が声をかける。

しかしー

「--黙ってろ」
星子は冷たい声で言い放った。

「--この飛行機の目的地を
 変更させてもらう」

星子はそう言うと、
ニヤリと笑みを浮かべて、
大声で叫んだ。

「--この飛行機の目的地はーー
 ”地獄”だーーー!」

とー。

その直後、星子は倒れる。

「-だ、大丈夫ですか!?」
CAが駆け寄る。

母親も「星子!」と叫びながら
倒れた娘に駆け寄る。

「--この中に、お医者様は 
 いらっしゃいませんか?」
そう叫ぶCAに
3人の乗客が手を上げた。

「お…おい、なんだよこれ」
男子大学生の正樹が言う。

彼女の玲奈も怯えた表情で
それを見る。

手を上げた3人の医師ー
ひとりは、先ほどの初老の男性ー
もう一人は、研修医だろうか、若そうな男ー
そして、最後の一人は、美人女医だったー。

3人が、星子のまわりに集まるー

しかしー
その時、前方の客室から悲鳴があがった。

「--おらぁ!動くんじゃねぇ!」
前方の客室から、そう叫ぶ女の声が聞こえてくるー

CAは混乱した様子でそちらを見るー。

前方の客室では、
女子高生が、どこから持ってきたのか
爆弾のようなものを持ちながら
周囲の乗客を脅していたー

「--死にたくなけりゃ、大人しくしてろ!」
叫ぶ女子高生。

「--なんだなんだ?」
混乱する乗客たちー

「-ねぇ、なんなの…?」
玲奈が不安そうに呟く。

「だ、、大丈夫だよ」
正樹は自分がおびえていることを
悟られないように、そう呟いた。

機内放送が入る。

”この飛行機の、目的地変更を
 お知らせいたします…”

機長の声ー

”本機は…予定を変更し…
 じ、、、地獄へと……
 向かいます”

機長が振り絞るように、そう呟いた。

機長の背後には、
邪悪な笑みを浮かべた
OL風の女性が立っていたー

機内がどよめく

「おい!どういうことだ!」
「何が起きているんだー!」

「---ハイジャック」

混乱する中、
一人の乗客が呟いた。

彼は、現役の警察官。
どうにかしようと状況を伺うー

事態は、さらに悪化していたー

「---くくくくく…」

「--!?」

大学生カップルの玲奈が
不気味な笑い声をあげはじめた。

「あははははははははははは!」

玲奈の笑いに、
正樹が驚いて玲奈の方を見る。

「玲奈…!?」

「いい身体げっとぉ~」
玲奈が胸を触りながら
ニヤニヤしている。

いつもの大人しい表情からは
想像できないほど、イヤらしい笑みを
浮かべている玲奈。

「---ど、どうしたんだ、玲奈!」
正樹が玲奈に触れると、
玲奈は「どけ!」と大声で叫んだ。」

そして、正樹をどかすと、
堂々とした表情で客室を歩いた。

「---あははははははは!
 あはははははははは!」

玲奈の周りに女性が何人か集まるー

玲奈ー
先ほどの母親ー
女医ー
CA-
女子高生ー
OL風の女性ー
おばさんー
ツインテールの少女ー

8人の女性が集まると、
8人は大声で笑ったー

そしてー
8人一斉に宣言する。

「この飛行機は、俺たちがハイジャックした!」

とー

「1時間後、この飛行機を
 墜落させる!
 お前たちは最後の時間を楽しむんだな!
 うははははは!」

8人が一斉に同じセリフを口走ったー

唖然とする乗客ー

8人の女性は、
それぞれの客室へと分散し、
乗客を人質にしたー。

8人とも、”凶器”を手にしており、
うかつに手出しはできないー

そんな状況ー。

「いったい…何が、起こってるんだ?」
正樹は呟く。

腰に手を当てながら
乗客たちを見つめる玲奈。

玲奈の様子が
明らかに急におかしくなったー

とても、自分の意思とは思えないー
まるで、何かに操られたかのようなー。

飛行機が揺れるー。
正樹はバランスを取りながら
鬼のような形相で、乗客たちを睨む
玲奈を見つめたー

「---君は…」

ふいに、近くにいた男が声をかけてくる。

「---!?」
正樹がその男の方を振り向くと
警察手帳をかざしてきた。

「---君は、あの子の彼氏かー?」
警察官は、巡回している玲奈のほうを
指さした。

「はい…そうです…
 同じ大学に通っていて、
 今日は卒業を記念した旅行に行くつもり
 だったのですが…」

正樹が小声で言うと、
警察官は呟いた。

「--……犯罪歴とかは、ないよな?」

とー。

「あるわけないですよ!
 ごく普通の子で、こんなことするなんて」
と正樹が言うと、
警察官は頷いた。

「----…憑依」

真剣な表情で言う警察官。

「--豹変した8人は、憑依されているー」

その言葉に、正樹は耳を疑った。

「--憑依…?それは一体?」
そんなこと、現実にあるはずがない。
正樹はそう思いつつも
豹変した玲奈を見て
全否定することはできなかった。

「--公にはなっていないが、
 この世には、他人に憑依して
 身体を支配することができる薬がある」

警察官が言うー

正樹は驚いて返事をすることもできず
ただただ、唖然としていた。

「--とにかく、ここは俺に任せておけ
 君は大人しくしているんだ」

警察官の男はそう言うと、
玲奈に見つからないように
隠れながら、前の客室に向かい始めた。

まずは、操縦席を取り戻さなくてはならないー

警察官の姿が見えなくなるー
前の客席に警察官は無事に移動したようだー。

「---…玲奈」
正樹は心配そうに玲奈の方を見つめる。

「--くくくくくく…」
玲奈は邪悪な笑みを浮かべながら
客席をウロウロしている。

その手には、爆弾のようなものが
持たれており、
うかつに手出しをすることは、できない

「--とにかく、ここは俺に任せておけ
 君は大人しくしているんだ」

警察官の言葉を思い出す正樹。

しかしー

正樹にはそれはできなかった。

(自分の彼女が
 身体を乗っ取られて
 犯罪行為に加担させられているんだぞ…?
 じっとしていられるものか!)

正樹はそう心の中で呟くと
立ち上がった。

「あ…?」
玲奈が立ち上がった正樹に気付く。

「--おい!大人しく座ってろ!」
優しい雰囲気の声で
無理やり凶暴な言葉を吐き捨てる玲奈。

玲奈の声が、
脅すような言葉を喋っても
迫力がない。

「---玲奈!目を覚ませ」
正樹は両手を上げながら
玲奈の方に近づいて行くー

”手をあげろ”とは言われていないが
こういうシーンでは両手を
上げた方がいいような気がした。

「--れな?」
玲奈が不思議そうな顔をしたあとに
笑みを浮かべた。

「あぁ、この女の名前か」
玲奈がニヤリと笑みを浮かべる。

正樹は、玲奈の方に近づいて行き、
玲奈の方をまっすぐと見た。

「--お前…誰だ!」
正樹が叫ぶ

「俺の彼女に手を出して
 ただで済むと思うなよ!」

正樹が玲奈を睨みつけると
玲奈はニヤニヤと笑う。

この状況をとても楽しんでいるかの表情ー

「--お前、この女とエッチしたことはあるのか?」

他の乗客たちが緊迫した状況を
見つめる中、玲奈はとんでもないことを聞く。

正樹は思うー

玲奈も正樹もそういうことには奥手で
まだ、エッチをしたことがない。
もしかしたら初旅行の今夜ー

などと、思っていたところだった。

「ま…まだだ…」
正樹は呟く。

”何、素直に答えてるんだ俺は”などと
思いながらも
正樹は玲奈の方を見つめた。

「---ザンネンだったなぁ!
 この飛行機は地獄行きに変わった!
 お前はこの女とエッチはできない!

 あははははははっ!」

笑う玲奈。

正樹は「ふざけるな!」と叫ぶー

玲奈を返してほしいー
そもそも何でこんな目に遭わなきゃいけないんだー

正樹は理不尽さに怒りを感じながら
玲奈の方を見つめたー

すると、
玲奈がクスっと笑った。

「-そんなにエッチしたいなら…
 死ぬ前にさせてやるよ」

玲奈が挑発的に言うと、
さらに言葉をつづけた

「ほら…今ならなんでもし放題だぜ」
玲奈が自分の胸を触る。

「--な…お…お前!」
正樹が怒りの形相を浮かべるー

身体は玲奈であっても
中身は違う。

「--身体が玲奈でも、 
 中身が玲奈じゃなきゃ、
 意味がない!

 そんな色仕掛けに騙されるか!」

正樹は叫ぶ

しかしー
玲奈は
「正樹…本当に、我慢できるの?」

と甘い声で囁き、
身体をこすりつけてきた。

「れ…玲奈…!」
正樹は玲奈じゃないと
分かっていながら
ドキっとしてしまう。

「ふふふ…わたしと…上空エッチしよ…?」

甘い声で囁く玲奈。

「そ、、そ、、、そんなこと…」
正樹は震えていたー

まさかー
こんなに簡単に誘惑されそうになってしまうなんてー

と、正樹は自分が情けないと
悔しい気持ちでいっぱいになるー

「--からだは正直…うふふ♡」
玲奈が正樹の大きくなったアレを手で撫でると
震える正樹の方を見て微笑んだー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

操縦席ー

機長の蛯名は、OL風の女に脅されて
されるがままだったー

しかしー

「--おい!」
副操縦士の羽蛾が叫んだ。

羽蛾は怒っていたー

今日、機長の蛯名を突き落として
消してやろうと思っていたのに、
こんな邪魔が入るなんてー。

羽蛾は、OL風の女性に
殴りかかるー。

そうだー!
怯える必要なんてない!
最初から力づくでー
最初からこうすればよかったんだ!

羽蛾は、憑依されているOL風の女性を
押し倒して、さらに殴りつけると、
機長に向かって叫んだ。

「-早く、管制塔に連絡を入れて下さい!」

とー。

その叫び声に、機長の蛯名は
慌てて頷き、助けを求めようとしたー

②へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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突然憑依されてしまった乗客たち…
果たして無事に着陸できるのでしょうか。

続きは明日デスー

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