<憑依>美しき標本③~芸術の宇宙~(完)

芸術の宇宙ー。
そう豪語する昆虫収集家の直樹。

なんとか彼女を取り戻そうとする、
男子高校生の幸保ー

待ち受ける運命は…

------------------------------

「や…やめろ…聖香!やめろ!」

ニヤニヤしながら近寄ってくる聖香に対して
幸保は叫んだ。

だがー
聖香は完全に正気を失っている。

昆虫収集家の直樹に憑依されて、
笑みを浮かべているー。

「---幸保君~!ふふふ」
聖香が笑う。

幸保は、展示室を逃げ回りながら叫ぶ。

「な、何故お前がそれを!」

この昆虫収集家の男には何も名乗っていないはずだ。
なのに、なぜ?

「--ふふふふ、この標本が持ってた
 スマホを見たからな~んでも知ってるよ~!えへへ」

聖香が笑う。

聖香が失踪した後も、家族や幸保に
LINEの返信をしていたのは、
憑依している直樹自身だろう。

「--くそっ!聖香を、、聖香を返せ!」

幸保は逃げ回りながら叫ぶ。

チラッと、友人の弥太郎の方を見たが
弥太郎は、彼女の比佐子の身体を舐めるのに夢中で、
何の反応も示していない。

完全に欲望に溺れている。

「---くそっ!」
弥太郎が協力してくれれば、この男をなんとかできるかも知れない。

だが、
弥太郎は、使いものになりそうにない。

「-わたしは標本~!わたしは標本~!」
嬉しそうに叫びながら聖香は、部屋中を逃げ回る幸保を追う。

幸保は逃げ回りながら、なんとかしないと、と考える。

聖香の記憶が本当に消されているなら、何ができる?
聖香の身体を攻撃するわけにはいかないー。
あのいかれた昆虫収集家の身体を狙うか?

幸保は、現在、聖香に憑依している直樹の身体を
見つめる。

そうだー
あの男を…

幸保は深呼吸をするー。

この場合は正当防衛になるのか?
いや、仮にならなくてもー。

幸保は走った。

「うあああああああああ!」
直樹の身体をめがけて。

こうなったら直樹の息の根を止めてやる。

そしてー
なんとか聖香をー

「やめろ!」
聖香が大声で怒鳴り声をあげた。

幸保が振り返ると、聖香は首筋に
ナイフを当てて微笑んでいた。

「--わたし、首切って死んじゃうよ?ふふ…
 それ以上、私の身体に近寄るな!」

聖香が首筋にナイフを突き立てながら微笑む。

「くそっ…」
幸保は、倒れたままの直樹の身体から離れた。

「--こんな女、どうなったって構わないんだよ私は。
 おもちゃが壊れたら、新しいおもちゃを買う。
 それだけのことだ…!

 あ?
 私の身体に少しでも触れてみろ?
 笑いながらこの標本、壊してやるぞ!」

聖香とは思えないような脅す口調で聖香は言う。

そして、
聖香はチラッと、
横を見た。

横には、比佐子の太ももを舐めている
弥太郎の姿があった。

「----!?」

幸保は目を疑った。

”ぐえ~っ!”という悲鳴が響き渡る。

「---お、、、おい!」
幸保は恐怖に身体を震わせながら叫んだ。

何度も何度も、鈍い音がしている。

「わたしの、芸術品でいつまで遊んでるんだぁ?
 このクソガキがぁ!」

聖香は持っていたナイフで
弥太郎を刺した。

悲鳴を上げる間もなく、弥太郎はボロボロにされてしまうー

「---汚い手でいつまでも
 芸術品を触ってるんじゃねぇぞ!」

聖香が怒鳴り声をあげて、
既に動かなくなった弥太郎を
蹴り飛ばした。

スカートがふわりとめくれあがるー

幸保は、蹴り飛ばされて転がってきた
弥太郎に近づく。

「や、、弥太郎!おい!しっかりしろ!」

しかしー
弥太郎は既に事切れていた。

「---お、、、お前…なんてことを!」
幸保がパニックになって叫ぶ。

ペロリー。
聖香が弥太郎の血のついたナイフを
嬉しそうに舐めてみせた。

そして、聖香はそのままその場に倒れたー

「--!?」

幸保は倒れた聖香と直樹を見つめながら思う。

「ーーくそっ!?
 どこにいる?」

この部屋には、昆虫収集家の直樹がいるはずー。
自分の身体には戻っていないー
聖香の身体からも出て行ったー

ではー
どこに?
比佐子か?それとも別の女か?

幸保は冷や汗をかきながら
1つの決断を下した。

これは、やばいー、と。

これは、頭のおかしな昆虫収集家による
殺人事件だと。

幸保はとっさに走り出した。

この豪邸から脱出して、
警察に助けを求めるー

そうして、昆虫収集家の直樹を逮捕してー
聖香たちを助け出す。

弥太郎はもう手遅れだがー

それでもー

幸保は玄関に向かって走り出した。

展示室以外に身体はないー
逃げ切れる!

幸保は全速力でダッシュしたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・

しかしー

10分経過してもー
20分経過してもー

直樹の家から
幸保が出てくることはなかった。

幸保はーー
展示室に居た。

ズボンを膨らませながら、
聖香を再び立たせると笑みを浮かべる。

「--馬鹿なガキだ」
幸保は呟く。

「お前に憑依することだって、できるんだぞ?」
自分の身体をつつきながら幸保が微笑む。

逃げようとした幸保は、直樹に憑依されてしまった。

そしてー

「--面白いことをするかー」
幸保は呟くと、不気味な笑みを浮かべるのだったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「うん…?」

幸保は、目を覚ました。

この豪邸から逃げて、
警察を呼んで…というつもりだったが、
玄関の近くに行ったところで、
ゾクゾクっと寒気がして…

それから…?

「----お目覚めかな?」

幸保が、聞き覚えのある声のする方向に
目を向ける。

意識が、もうろうとしている。

「---お、、お前は…」
幸保の視線の先には、
昆虫収集家の直樹が居た。

直樹は笑みを浮かべている。

幸保は、周囲を見渡す。

ここはー
さっきまでいた展示室…

人間標本にされた女性たちが並べられている。

「---お…お前…!くそっ…!彼女たちを解放しろ!」

幸保は怒りの形相で叫んだ。
後ろから殴られて、また連れ戻されたのだろう。

弥太郎も殺されてしまった。

なんとかしなくてはならない。

直樹は笑いながら、
幸保の彼女、聖香に抱き着いた。

「--うへへへ!可愛い彼女だよな…!
 芸術の宇宙を独り占めするなんてよくない!
 宇宙はみんなのものだ!」

直樹が聖香の胸を何度もつつきながら笑う。

「ひぁっ♡ あっ♡ あぁん♡」
聖香が嬉しそうな声を出している。

「おい!やめろ!その芸術の宇宙とやらを
 独り占めしようとしているのは、お前じゃないか!」
幸保が叫ぶと、
直樹は微笑んだ。

「そうだ。君に美の面白いところをもう一つ、教えてあげよう」
直樹が微笑む。

「芸術は爆発だ」
そう言うと、突然、聖香を力強く蹴り飛ばした。

「--ーーーうっ!」
聖香がうめき声をあげてそのまま吹き飛ばされる。

床に倒れた聖香は、
そのまま無言で立ち上がった。

「聖香!」
幸保が叫ぶ。

「---美しいものが壊れる瞬間ー、
 散る瞬間って興奮しないか?

 私は昆虫を美しい姿のまま保管するために
 標本を始めた。
 死ねば、昆虫はその美しさを失い、腐ってしまう。
 人間も、同じだ」

直樹が、聖香に近づき、聖香を殴りつける。

聖香は、うめき声をあげるだけで
何の反攻も示さない。

「---だがな、
 私はあるとき気づいたんだ。」

聖香を殴るのをやめると、
直樹は、蝶々の標本を手にして
にやっと笑うと、それを握りつぶした。

「--んはぁぁあ~」
直樹が笑う。

「---…な…何をしてるんだ!」
幸保が唖然として叫ぶと、
直樹は、ズボンを破裂しそうなほどに膨らませながら微笑む。

「---美が散る瞬間ー
 最高に興奮しないか?」

そう言った直樹の表情はもはや
イカれていたー

こいつはサイコパス野郎だー

幸保はそう思った。

どうにかするしかないー

幸保が直樹に殴りかかろうとしたその瞬間ー
彼は異変に気付く。

「--か、、身体が動かない…?!」
驚く幸保。

気付けば直樹は倒れていてー
彼女の聖香が目の前に立っていた。

「--貴様!また俺の彼女の身体に!」
幸保が叫ぶと、
聖香は顔に痣を作った状態で微笑んだ。

「さっきまで君に憑依していたんだ…
 君の脳からの命令伝達が身体に行かないように、
 うまく調整した。

 もう君は、顔しか動かすことができない。
 顔だけ動く、生きる人間標本だ」

聖香が、直樹の口調で語ると笑いながら
幸保の方を見た。

「ひひひひひ…
 泣け!喚け!」

優しかった聖香の口から出るとは思えない言葉ー

そんな罵声を浴びせられながら幸保は涙を流すー

「ひははははははは!
 毎日衰弱していくお前を見るのが楽しみだなぁ!」

聖香は大笑いすると、
突然、壁に頭を打ち付けはじめた。

「な…何をして…!」
幸保が叫ぶと、
聖香は顔を壁に打ち付けながら微笑んだ。

「--うふふふふふふ!
 自分で自分を壊してるの!
 幸保に見せてあげる!
 目の前で彼女が壊れていく様をーー!

 えへへへへ!あひひひひひひひひひっ♡」

展示室には、狂った聖香の笑い声と、
幸保の悲痛な叫び声が響き渡っていたー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

救いようのないダークエンドになってしまいました。

いつの日か、
昆虫収集家の直樹には罰が下るかもしれませんネ
(続編フラグ??)

お読み下さりありがとうございました~!

PR
憑依<美しき標本>

コメント

  1. 飛龍 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    おぉ、これほど救いのないバッドエンドも珍しいですね……
    無名さんの作品は男も憑依される事があるのが特徴的、かな?
    その分、幸保にはより残酷なエンドとなりましたね
    弥太郎は何かあるのかと思ってたら、何もいいとこなく無駄死にしてて苦笑

  2. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    > おぉ、これほど救いのないバッドエンドも珍しいですね……
    > 無名さんの作品は男も憑依される事があるのが特徴的、かな?
    > その分、幸保にはより残酷なエンドとなりましたね
    > 弥太郎は何かあるのかと思ってたら、何もいいとこなく無駄死にしてて苦笑

    ありがとうございます~☆
    何かありそうで何もないキャラを入れるのも、
    物語を盛り上げる演出かな~、なんて…笑

    なんだかまったく救いのないお話でした!