ありきたりな日常ー。
しかし、それが、壊される日が近づいていた。
”ラグナロク”
世界の終末ー。
世界は、少しずつ、壊れ始めていたー。
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今日も世界は平和だった。
不穏なニュースはいくつもあったけれど、
それでも、自分の生活には関係なかったし、
世界はこれからも平和だ。
そう、信じて疑わなかった。
「--美術部ってのも大変だなぁ~」
男子高校生の西上 智也(にしがみ ともや)が呟く。
智也が美術部ではないが、
美術部副部長である彼女の星井 有菜(ほしい ありな)を
待つために、美術室にやってきていた。
彼女は、優しく、ちょっとお茶目な女子高生。
「---ほら、今日もこんな絵を描いたんだよ~!」
有菜が笑いながら絵を見せてくる。
美術が苦手な智也からすれば、
もはや異次元のような存在だった。
「--うわぁ…俺なんか棒人間書くのがやっとだよ」
智也が呟く。
「--そんなに~?」
有菜が笑いながら答える。
今日も、平和だった。
いつも、通りー。
明日も、平和だー。
そう思っていた。
しかし、世界は着々と
終末に向かっていたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「--準備完了です」
真江戸幕府(しん・えんどばくふ)。
今、世界が抱える問題の一つだ。
50年前ー。
日本の沖ノ鳥島を占領した
一部の日本人が、沖ノ鳥島周辺に
軍事要塞を作り上げた。
政府は、不法占領した団体を阻止しようとしたが、
不思議な力により、食い止めることができず、
沖ノ鳥島周辺には、
小国ほどの大きさの軍事要塞が作られてしまった。
そして、その団体は独立国家を作ることを宣言ー
新江戸幕府を名乗り、独立したのだった。
鎖国状態の新江戸幕府は、
日本とも、他の国とも交渉しなかった。
しかしー
それは、世界征服を成し遂げるため。
”現代の鎧”を身に着けた髭の男が立ち上がる。
新江戸幕府2代目将軍・都戸川 外康(ととがわ そとやす)だった。
「---いよいよだ。
我々が世界を支配するときが来た。」
外康は笑みを浮かべる。
新江戸幕府が秘密裡に開発していた
新兵器”洗脳音波”がついに完成したのだった。
「これを使い、全世界の人間を洗脳する。
我々武士の時代の再臨だ」
外康の父は、
会社をリストラされた男だった。
しかしー
あまりにも強い世間への怒りが、
彼に力を与えた。
彼は、人に憑依する力を使い、
沖ノ鳥島を占領、
新江戸幕府を立ち上げたのだ。
外康の父は10年前に病死した。
だが、父の想いは、外康が継いでいる。
「--世界をわが手にする日は近い。
宣戦布告の準備を」
外康が言うと、側近は”はっ”と呟いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日。
智也は学校に行く準備をしながら、
家のリビングで流れているテレビに目をやった。
”新江戸幕府 世界に宣戦布告”
「---おかしな国だな」
父親が呟く。
新江戸幕府はこれまでにもおかしな行動を
繰り返しては国際社会を騒がせていた。
しかし、実害のある行動は少なく、
今のところは口先だけであると国際社会は
油断していた。
手を出そうとすれば、不思議な力で、
人間が廃人にされてしまうー
だから、どこの国も新江戸幕府に手を出すことはなかった。
「---1週間以内に、全ての国家はわが国に降伏しろ!
さもなければ、世界は滅びる」
新江戸幕府総合ニュースが、将軍・外康の言葉を告げる。
「-ーー”ラグナロク”の到来である」
外康が不気味に笑みを浮かべた。
「きもちわる~」
智也の妹が呟く。
「--はは、どうせいつものお騒がせだろ」
智也はそんな風に呟いて、家を出た。
そう、新江戸幕府はいつもお騒がせなだけだ。
智也が生まれた時から存在する国家だが、
平和を脅かすような存在ではない。
智也の生活には、ニュース上だけの存在で
何一つ、関係のないことなのだ。
「おはよ!」
彼女の有菜と合流する。
智也も「おはよ!」と返事を返して、
2人仲良く高校への道を歩きはじめる。
いつもの日常ー
智也は、有菜と雑談しながら、
今日も、そうなると信じて疑わなかった。
しかしー
「---あっ!?」
有菜が突然動きを止めた。
「--!?どうした?」
智也が振り返る。
有菜が身体を震わせながら
青ざめた表情で智也の方を見た。
「と…智也…?な、、なんか…寒い…!」
尋常じゃない様子の有菜を見て、
智也は有菜を道端のベンチに座らせて休ませる。
「あ…あぁあああ…ああああ」
しかし、有菜の震えは止まらず、
智也は困惑した。
何かの病気か?
「---あ…な…なに…や・・めて・・・!」
有菜が苦痛の表情を浮かべて叫ぶ。
そして
目から涙を流すと、そのまま動かなくなってしまった。
「お…おい!有菜!」
智也が呼びかけても返事がない。
智也は慌ててスマホで救急車を呼ぼうとしたー
しかしー
有菜は目を覚ました。
「--あ、有菜…?」
智也が呼びかけると、
有菜は無表情のまま、智也の方を見つめた。
そして、呟いた…。
「--世界が終わる」
有菜は真剣な表情で言う。
「--は?」
智也が聞き返すと、有菜は叫んだ。
「ラグナロクだ!」
ーーと。
「---はぁ?」
智也が思わず声をあげる。
苦しみだしたと思ったら、
今度は世界の終末だ。
ちょっとお茶目な有菜のことだ。
また、ドッキリでも仕掛けているのだろう。
「---な~んて、驚くとでも思ったか?」
智也が笑う。
「--有菜~!お前のドッキリには
これまでにも何度も驚かされてきた!
だが、今回という今回は…」
智也が”見破ってやったぞ”と言わんばかりの
ドヤ顔で笑いながら言うと、
有菜は冷たい目で智也の方を見た。
「お前が、わたしのしもべか?」
「はー?」
智也は目を点にした。
「なんだって?」
智也は思わず聞き返す。
すると、有菜は叫んだ。
「行くぞしもべ!世界を救うためには
エネルギーを蓄えないといけない」
有菜は学校とは反対側の方向に歩き出した。
「---あ?おい、ちょっと!そっち学校じゃないけど!」
智也が叫ぶと、有菜は立ち止まって振り返った。
「--いいからわたしの言うとおりにしろ!」
大声で怒鳴る有菜。
ドッキリにしちゃやりすぎじゃないか?
と思いながらも智也は、しぶしぶと有菜についていった。
有菜は、とあるラーメン屋の前で立ち止まると、
「ここで、パワーの補給だ」と呟いた。
「あ?」
智也が返事をする間もなく、
有菜はラーメン屋に入って行ってしまった。
「いらっしゃい!」
ラーメン屋の店主が、高校生2人が
午前中からラーメン店に入ってきたのを見て、
顔をしかめたが、
興味がないのか、事務的に対応し始めた。
「一番エネルギーの補給できるものを」
有菜が店主に言う。
目を点にする店主。
「あ~いえ、あ、あの、しょうゆラーメンで!」
智也が慌ててフォローをすると、
店主は面倒臭そうに「あいよ~」と答えた。
ラーメンが調理されている中、
有菜の方を見つめる智也。
有菜は無表情で、真剣な表情をしている。
「お…おい、有菜…遅刻…するぞ?」
智也がそう言うと、
有菜は呟いた。
「--わたしは、この星を守る為、
遠い星からやってきた守護者だ」
有菜が真剣な表情で言う。
「--は…はぁ?」
智也は状況が飲み込めずに首をかしげた。
「我々は、滅亡の危機にさらされている星を守るために
宇宙を見張っている存在。
私はお前たち地球の担当だ。
だが、我々には実体がない。
だからこの女の身体を借りて、
こうして、お前と話している」
有菜がいつもの軟らかい感じではなく、
きりっとした感じで話をしている。
智也は「お…おう…」と言うしかなかった。
「---信じていない顔だな?
この星には”終末”が迫っている
お前たちの世界で言うラグナロクだ。
1週間後。
放っておけばこの世界は滅びる」
有菜がそう言うと、
ラーメン屋の店主が、ラーメンを作りながら
プッ、と噴きだした。
智也は”帰りてぇ”と思いながらも、
有菜の話を聞く。
そもそも”ラグナロク”なんて
言葉、使わないよなぁ、と思いながらー
「--この星をラグナロクから救うためには、
力が必要だ。
この女の身体では力が足りない
だから、エネルギーを補充しなくてはいけない」
有菜がそう言うと、
届いたラーメンを手でつかもうとした。
「あぎっ!?」
有菜が火傷した手を抱えながら
苦痛の表情を浮かべている。
「ちょ…!?箸を使えよ!」
智也が言うと、
有菜が「は?」と言いながら、箸をじろじろと見つめたー。
彼女はー
本当に”宇宙の守護者”と言われる種族に憑依されていた。
”地球が滅亡する兆候”を感じ取った守護者は、
偶然見つけた有菜に憑依し、
こうして、今、智也と話している。
地球を担当しているこの守護者は、
地球のこともある程度調べていたが
細かいことまでは知らなかったー
つまりー
今の有菜は、世間知らずだった。
「--・・・・・・・」
有菜は箸でラーメンを掴もうとしながら
困ったような表情をしている。
「------」
智也も、なんとも言えない表情でそれを見つめた。
「おいー」
有菜が呟いた。
「---へ?」
智也の方を見た有菜は、ちょっとだけ顔を赤らめて言った。
「そのー…。
わたしに、これを、、食べさせてくれ…」
有菜が箸を智也の方を向けて
そう呟いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
智也は、有菜の口にあ~ん、
しながらラーメンを食べさせながら
話を聞いた。
さすがにこれはドッキリにしちゃやりすぎだ。
もしかすると本当に”守護者”とやらに憑依
されているのかもしれない。
ラーメン店内で流れているテレビの
ニュースを見ながら智也は言う。
「世界が滅びるって言ったよな」
智也が言うと、
有菜は「あぁ」と口に麺が入ったまま呟く。
よく見たらスカートがめくれかけた状態で
有菜は椅子に座っている。
智也はそんな有菜の様子を
なるべく気にしないようにしながら呟いた。
「---あれか?」
智也がテレビを指さす。
”世界各地で、突然異常行動を起こす人間が
複数目撃されています。
まるで催眠術にかけられたかのように
”新江戸幕府万歳”と叫んでいます。
これに対して、新江戸幕府の将軍・
都戸川外康が犯行声明を発表。
全人類を洗脳する準備が整った
と宣言しているようです”
新・江戸幕府。
沖ノ鳥島を占領し、独立した独裁国家。
それを見て有菜は鼻で笑った。
「--笑わせるな。あんなもので惑星が滅びたりはしない。
あれは、すぐに消える」
有菜はそう言うと、テレビから視線を逸らして、
智也の方を見た。
「よく聞けしもべよ」
有菜が言うと、
智也は「しもべじゃねー!」と叫んだ。
有菜はそんな智也を無視して
ラーメン屋の天井を指さした。
「----へ?」
智也が目を点にしていると、有菜は答えた。
「この星に巨大隕石が向かっているー。
1週間後ー、この星に到達して、
地球は、滅ぶー」
有菜の言葉に
ラーメン屋の店主は「マジかよ!」と大声で叫んだー
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
世界の終末ー。
次回からが本番デス!
憑依のゾクゾクも次回からが本番…!
お楽しみに~
コメント
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結構な量の文章を割いて説明された真江戸幕府がただの出落ち組織で笑いましたw
箸を上手く使えなくて食べさせてもらうところは可愛いですね~♪
巨大隕石からどう地球を救うのやら、続きが気になります。
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> 結構な量の文章を割いて説明された真江戸幕府がただの出落ち組織で笑いましたw
> 箸を上手く使えなくて食べさせてもらうところは可愛いですね~♪
> 巨大隕石からどう地球を救うのやら、続きが気になります。
ありがとうございます~!
次回以降もお楽しみに~!
江戸幕府…?笑
この人たちが憑依人かと思いきやあまり関係ないという…
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まさかとは思うが、不法占拠者がかませ、って事は・・・十分あり得るな!
今回のような超展開?も面白そうだ
初めは、アレ?洗脳が憑依の事なのか、と思ってしまった笑
如何に最強無敵の憑依力といえど惑星を救うのは難しいそうですな
またも意外な結末になりそうな予感がするが
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> まさかとは思うが、不法占拠者がかませ、って事は・・・十分あり得るな!
> 今回のような超展開?も面白そうだ
> 初めは、アレ?洗脳が憑依の事なのか、と思ってしまった笑
>
> 如何に最強無敵の憑依力といえど惑星を救うのは難しいそうですな
> またも意外な結末になりそうな予感がするが
ありがとうございます~!
次回以降もぜひお楽しみください!!