<憑依>美しき標本①~昆虫収集家~

美しいものを保存するー。

彼には、そんな趣味があった。

そんな彼が集めていた”美しいモノ”とはー?

憑依と標本の物語…。

-------------------------–

彼は、
女性というものに神秘を感じていた。

彼は、自宅に展示している美術品を眺めながら、
微笑む。

美しい女性は、
芸術であり、宇宙に等しい神秘を持つ。
彼は、そう信じていた。

「---んあぁっ♡」
彼に撫でられた美術品が声をあげるー

彼は、その美術品の頭を撫でると、
そのまま歩き出した。

彼の展示スペースには、
他にも多数の”美術品”が展示されていたー

清楚なブラウスを着た少女が、
うつろな目のまま人形のように立ち尽くしている。

彼女はーー
鎖のようなもので縛られているー。

そして、その近くには別の女性が
釘のようなもので固定されている。

その女性もうつろな目で、
何も感じていない様子だった。

「---標本は、美しいー」

昆虫収集家・崎守 直樹(さきもり なおき)は微笑む。

うつろな目の女性の太ももをペロリと舐めると、
直樹は、立ちあがった。

展示スペースの隅の方を見つめる。

そこには、弱り切った女性の姿があった。

「--そろそろ”破棄”だな」

腐った標本になど用はない。
もちろん、標本にした人間を、
上手く世話してやれば、身体を維持することは可能だが、
それをする必要はない。

何故なら、おもちゃは壊れたら
また買えば良いのだから。

彼はー
裕福な家庭で育った。
おもちゃが壊れたら。親に泣きつけば
新しいおもちゃを買ってもらうことができた。

それはー
大人になった今でも変わらないー。

腐った身体は破棄すればいい。

それにー
同じ体ばかり眺めていれば、
飽きてしまうー。

彼はにやりと笑みを浮かべると”霊体”になって、
その弱り切った女性に憑依した。

「えへへへへ…♡」
荒い息で、笑みを浮かべる女性ー。

彼女は近所の大学に通っていた女子大生だ。
半月ほど前に、直樹に憑依された挙句、
”人体標本”として直樹の家に展示され続けて、
ロクに何も食べていない為、
既に身体はボロボロだった。

「---えへへへへっ!えへへへへっ!」
そんな彼女は家を飛び出し、嬉しそうにスキップする。

山中の奥に立てたこの豪邸には、
誰も近づかない。

女性が出入りしていても、不審に思う人間はいない。

彼女はそのまま街まで下りていくと、
大通りで叫んだ。

「こんな人生やってられないわ~~~~!」

と。

周囲の人間が見つめる中ー
彼女は”自ら”命を絶ったー

世間では、置手紙を残して消息を絶った女子大生が
自ら命を絶ったー

そう、報じられた-

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

街を歩く
昆虫収集家・崎守 直樹。

昆虫好きの間ではそこそこの知名度があり、
主に昆虫標本の収集を行っている。

そんな彼は、
標本になった昆虫を見て、
勃起した。

美しい生命が、
生きていたときの姿と同じ姿で、
意思もなく、自由もなく、
その姿をさらしている。

そんな姿に、
彼は興奮してしまったのだ。

そして、彼は闇市場であるものと出会った。
それが「憑依薬」。

憑依薬と出会った彼は、
狂気に取りつかれた。

”人間を、標本にすることができるのではないか?”と。

憑依薬で人間に憑依して、その思考を全て破壊、
その上で安楽死させて、
標本にすることを試みたー。

だが、人間は昆虫とは違った。
医学に精通しているわけでもない彼に、
人体標本をつくることはできなかった。

しかしー
彼は思いついてしまう

「生きているままでも、思考を破壊してしまえば、
 それは標本と呼べるのではないか?」

と。

そして、彼は実行した。

憑依して、思考を破壊し、
思考を破壊した人間を展示するー

”人体標本”の完成だった。

直樹は、今日も新しい標本を
求めて、近くの高校にやってきていた。

「--ふぅ~今日も疲れた~!」
女子高生の聖香(せいか)が言うと、
横に居た女子高生の比佐子(ひさこ)も
「そうだね~」と微笑んだ。

2人はそれぞれの部活動で帰りが遅くなっていたのだった。

「---」
そんな二人の背後に、彼はいたー

彼は不気味な笑みを浮かべる。

「女子高生か…」

そして、彼は考える。

今、前を歩いている二人はとても美しい。

しかしー
美しい姿も、いつかは衰えて、
その華は散ってしまう。

ならばー
自分が、彼女たちを標本いして
美しい姿のまま散らせてやるのが、
筋ではないかと。

彼はー
完全にイカレていた。

しかし、彼にも理性がある。

今まで彼が標本にしてきた女性たちは、
一人暮らしをしている人間がメインだ。

家族と一緒に暮らしていれば、
消息を絶ったり、家出すれば、
すぐに騒ぎになる。

だからこそ、
なかなか手を出すことはなかった。

だがしかしー
自分には憑依能力があるー

ならば、何も問題はないではないかー。

女子高生2人が、人気のない公園の前を通る。

直樹はにやりと笑みを浮かべた。

「今だー!」

と。

「---ひぅっ!?」
歩いていたロングヘアーの聖香が突然
ビクンと身体を震わせた。

「---!?」
一緒に歩いていた比佐子が「だいじょうぶ?」と
声をかける。

「---ふふふふ…大丈夫だいじょうぶ」
聖香が不気味な笑みを浮かべると、
突然、夜の公園の中に入って行くー。
憑依した直樹が、人目につかないようにと考えての
移動だが、
当然、比佐子にはそんなこと知る由もない。

「え?ちょっと!?」
比佐子は、意味も分からずに
聖香のあとを追って公園に入る。

木々に囲まれた夜のこの公園には
ほとんど誰もやってこない。

”標本化”にうってつけの場所だ。

「---ふふふ…」
夜の公園の中で立ち止まると、聖香は笑みを浮かべた。

「--ねぇ、わたしって綺麗だよね?」
聖香が比佐子に問いかける。

「---へ…?せ、、聖香?」
比佐子は突然の問いかけに意味が分からず、
聞き返した。

聖香はにやりと笑みを浮かべたー。

しかし、夜の公園は暗く、その表情は
比佐子には、よく読み取れなかった。

「---でもね、この身体も
 だんだんと汚れて、穢れて、
 老いていくの」

聖香がクスクスと笑いながら言うー。

「だから、美しいままで保存したいでしょ?
 美しいまま、消えたいでしょ?」

聖香の言葉に、
比佐子は寒気を感じて、少し声を荒げた。

「せ、、聖香?
 さっきから言ってる意味が全然わからないよ!」

比佐子が言うと、
聖香が
「わたし、今から標本になるの!あっはははははは!」
と声をあげた。

比佐子は、聖香…?と呟くだけで
何もできなかった。

良く知る親友のはずなのにー
今は、聖香のことを怖いと思った。

「--くひっ、、、、あ…あひぃ…わ、、わたしの記憶が…
 えぐっ…あ…消えていくぅ…はははあ♡」

聖香が苦しそうに、
けれども興奮した様子で声をあげる。

憑依した直樹が、強く念じて、
聖香の記憶を破壊しているー

”生きた標本”になってもらうためにー。

「---あ、、、ぁ♡
 おかあさん、おとさうん、ぜんぶ、ぜんぶ
 消えていく♡ あはは♡」

この子が積み上げてきた17年間を、
一瞬にして壊していくー
消去していくー

直樹は、この瞬間が、
”標本になった少女を眺めている瞬間”の次に
大好きだった。

「あ…あ…アア…♡」
聖香は眼から涙をこぼしながら、不気味に微笑んだ。

そしてー
にっこりと笑うと、呟いた

「--今日は、標本を2つゲットしちゃおっと」

比佐子がゾクっと、悪寒を感じるー。
”この場に居てはいけない気がするー”

そう思った。

目の前にいる聖香がビクンと震えると、
聖香はうつろな目のまま、ぼーっと立っていた。

”生きる標本”になってしまった彼女は、
もう、何も考えることはできないー

「せ…聖香!な、、なんかやばいよ!
 逃げよ?」

比佐子が言う。

しかし、聖香は何の反応も見せない。

”一人だけで逃げるしかー”

比佐子がそう思った直後、
比佐子は”ゾクゾク”としたおかしな感覚を感じた。

「---!?」

それが、彼女の最後の思考になったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ーーー彼女の聖香が失踪した。

翌日ー
彼氏である男子高校生・織野 幸保(おりの ゆきやす)は、
そのことを知った。

クラスメイトの聖香と比佐子が、無断欠席をした。
学校が確認したところ、
昨日から自宅にも帰っていないという。

2人から時々、LINEが親の元に届き、
自撮りの写真と共に「元気です!」みたいな連絡は
来るようだが、
どちらの両親もおかしいと感じて、警察に通報したらしい。

彼氏である幸保も、LINEで聖香に連絡してみたところ、
普通に返事は帰ってきた。

だが、”今、どこにいるんだ?”と聞いても
”心配しないで”の一点張りだった。

「---どうしたんだ?聖香のやつ」
幸保は、心配に思いながら、
一日を過ごす。

そして、放課後ー

彼女たちがいつも帰る道を、
友人の弥太郎(やたろう)と共に
一緒に調べてみることにした。

「--僕さ、二人は誘拐されたと思うんだよね」
弥太郎が言う。

弥太郎は、聖香と一緒に標本にされてしまった
比佐子の彼氏だ。

「--まぁなぁ…
 自分の意思で聖香や比佐子ちゃんが
 学校サボるなんて思えないしなぁ」

幸保はそう言いながら、
目撃情報がないかを聞いて回っていた。

「---昨日の夜…
 おかしな二人を見たぞ」

木々に囲まれた公園で、
ホームレスに話を聞い2人は
有力な情報を手に入れた。

昨日の夜、この公園にやってきた女子高生2人が
奇声をあげたと思ったら、
2人で、近くの山奥に歩いて行ったと。

「---その場所は分かりますか?」
幸保が聞くと、老人は「あっちの方角だな」と答えた。

「--ありがとうございます」
幸保は疑問に思いながらも、礼を言って、
2人が昨日の夜に入って行ったと言う
山の方に向かう。

「---実はキノコ狩りに来て
 遭難しただけじゃね?」

弥太郎が言う。

「--んなわけねーだろ!
 やっぱ何かに巻き込まれたんだ!」

山の中を進みながら幸保はそう叫んだ。

部活で遅くなった学校帰りに、
わざわざ女子2人で山奥に向かうはずがない。
何かあるー。

そうこうしているうちにー
幸保は山の中にある少し立派な民家を見つけた。

「--話、聞いてみるか?」
手がかりがあればと、幸保はその家のインターホンを押す。

「---はい?」
中から出てきたのはー
昆虫収集家の崎守 直樹だった。

「--この2人、見かけませんでしたか?」
幸保が、聖香と比佐子の写真を見せる。

するとー
男は笑った。

”昨日、標本にしたJKじゃねぇか”

直樹はそう思いながらも、
紳士的に対応した。

「---あれ?もしかして、昆虫収集家の
 崎守さんじゃないっすか?」

背後にいた幸保の友人、弥太郎がそう呟くと、
弥太郎は返事を聞く前に笑みを浮かべて
握手を求めた。

「ぼ、、僕、大ファンなんすよ!
 あ、、握手してください!」

弥太郎の言葉に、直樹は微笑しながら
握手に応じた。

「おい…」
幸保は弥太郎に、そんなことしてる場合じゃないだろ、という
視線を送ると、
話を本題に戻した。

「--この2人、昨日から行方不明なんです。
 俺たち、2人の彼氏なんですけど、
 心配して、探してるんです」

幸保が言うと、
直樹は笑みを浮かべた。

”二人の彼氏か…
 この二人にも、芸術というものを教えてやるか”

そう考えると、
直樹は「はいりたまえ」とだけ呟いて、
2人を家の中に招いた。

「やったぜ!有名人の家の中!」
弥太郎が一人ではしゃいでいる。

幸保と弥太郎が家の中を進むとー
何かが展示されている展示スペースに辿り着いた。

「--見たまえ。これが、美の進化系だー」

そう言って、昆虫収集家の直樹は、
標本になった聖香と比佐子を、二人の男子高校生に披露したー

「--せ、、聖香!」
幸保は、うつろな目で立っている聖香を見て、
そう叫んだ―。

②へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

狂気の昆虫収集家に標本にされた彼女たちを
救い出すことはできるのでしょうか!

続きは明日デス!

PR
憑依<美しき標本>

コメント

  1. 飛龍 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    女性をモノとしかみないいかれっぷり……
    1話から相当飛ばしてますねぇ。
    憑依された時点で記憶も壊されていて助け出すも何もない鬼畜っぷり、果たして彼氏君たちはどうなってしまうのやら……。続きが楽しみです

  2. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    > 女性をモノとしかみないいかれっぷり……
    > 1話から相当飛ばしてますねぇ。
    > 憑依された時点で記憶も壊されていて助け出すも何もない鬼畜っぷり、果たして彼氏君たちはどうなってしまうのやら……。続きが楽しみです

    ありがとうございます~!
    憑依空間にまたおかしな憑依人が登場してしまいました笑