<憑依>地獄のバスガイド②~想い~(完)

観光バスは、
地獄に向かって運行を続けていく。

「この先の道をまっすぐ進め!」と叫ぶバスガイド。

果たして、乗客たちの運命は?

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「俺はさぁ…」
バスガイドの阿由菜が、自分の胸を触りながら笑う。

「--女に裏切られて、
 会社をリストラされて、
 家族にも見捨てられて、
 友達をも失った」

阿由菜は悔しそうな表情で呟く。
本当に悔しいのは、憑依されて
好き放題されている阿由菜のほうだと言うのに。

「--だからさぁ、むかつくんだよ!」
阿由菜が乗客の方を睨みつける

「幸せそうな、お前らがなぁ!」

乗客たちは泣いているものや、
パニックに陥っている者、
なんとか隙をついて、チャンスをうかがっているもの、
色々な反応を見せている。

「--俺は死を選ぶことにしたよ!
 でもよ、どうせ死ぬなら、
 何か最後にしでかしたい!
 俺はそう思った!

 俺をこんな惨めにした世間への復讐さ!」

阿由菜が歪んだ表情で笑う。

「--あぁぁぁああ…むかつくぜ!」
阿由菜は髪の毛をかきむしり、
自分の髪をボサボサにすると、
胸を触り始めた。

「---可愛い声しちゃってよ!
 俺を裏切った女もそうだった!

 どいつもこいつも…!」

男は、憑依している阿由菜に対しても
憎しみをぶつけた。

「おら!おら!おらおらおら!」
胸を乱暴に揉みまくる阿由菜。

「おらおらぁああ♡ あぁああっ♡ あぁあああああん♡」
阿由菜の喘ぐ声がバスの中に響き渡る。

ただ、唖然としている乗客たち。

「--あぁああああ♡
 どうだぁ♡ 見なさいよ♡
 この女は今、俺の所有物だ♡ 
 はぁああ♡ 俺の、、俺の興奮が
 この女を支配してる♡」

阿由菜が顔を真っ赤にしながら言う。

制服のスカートを少し下すと、
そこは既にぐしょぐしょに濡れていた。

容赦なく、阿由菜は、そこに手を突っ込み
快感に身をゆだねる。

「んはっ♡ はぁあああ♡ すごい♡
 はぁあああ♡ おれが、、♡ おれが♡
 この女にこんなことをさせている♡」

勤務中のバスガイドにとんでもないことをさせている。
その背徳感が、男をさらに興奮させた

「んへへへへへへ♡
 あはふふふふふふふふっ♡」

激しい勢いで、阿由菜が液体をまき散らしている。

周囲は唖然として言葉を失っている。

なおも阿由菜は自分の身体を弄ぼうと、
激しく身体を動かしている。

「いやああああああああっ!」

さっきまで男に憑依されていた女子高生が
目を覚まして悲鳴をあげた。

着ていた服は、さっき憑依されている際に
自分でバスの外に放り投げてしまった。
泣きながら恥ずかしそうに身を隠す女子高生。

親と思われる人物が、抱き寄せて、
頭をなでる。

「----あはははっ!
 泣く必要なんかないじゃない!
 も~すぐ、地獄に行くんだからっ♡」

阿由菜がだらしない格好のまま立ち上がる。

スカートをその場に落として、
異様な姿のまま、他の乗客を見つめる阿由菜。

その時だった。

阿由菜の立っている位置の近くにいた、
男性の若者が突然、阿由菜を殴りつけた。

「ぐふっ!」
突然のことに阿由菜がよろめく。

「--黙って聞いてりゃ調子に乗りやがって!」
男は、阿由菜をそのまま押し倒し、
無理やり押さえつけた。

男は、新婚のカップルで、観光バスを利用して
旅行に向かう最中だった。

「--ーお前が何者かは知らないがな、
 みんな迷惑してるんだよ!」

若い男は叫ぶ。
そして、「運転手さん、警察に連絡を!」と叫び、
自分のスマホを手渡した。

「わ、分かりました」
運転手の佐久原も頷き、
警察に連絡しようとする。

しかしー

突然、背後から男は、ものすごい衝撃を受けて
吹き飛ばされた。

「--おい、調子のんじゃねぇぞ!」

背後から男を蹴り飛ばしたのは、
男の、妻ー
新婚相手の妻だった。

「--み、美雪、な、何を…」
若い男が驚く。

バスガイドの阿由菜を離さないようにしながら、
美雪を見る男。

男と結婚したばかりの美雪は笑った。

「さっき、見てなかったのかよ。
 俺は誰にでも憑依できるんだぜ」
美雪が挑発的に笑う。

「--ま、まさか…」
若い男は、唖然として手を止める。

「--おい、さっきのパンチ、痛かったじゃねぇか」
美雪が夫の胸倉をつかみながら睨む。

まだあどけなさの残る美雪の恐ろしい形相に、
男はたじろいでしまう。

「ふざけんじゃねぇよ!」
美雪が大声で叫び、夫を殴りつけた。

1発、2発、3発。
何度も何度も、夫を殴りつける。

今まで暴力をふるったこともないであろう美雪が、
手を血まみれにしながら、夫を殴り続けている。

「------!」
運転手の佐久原は警察に通報することができず、
そのまま手を止めてしまう。

「はぁ…はぁ…」
夫を殴り終えた美雪は
自分の手についた血をペロリと舐めて
微笑み、その場に倒れた。

少しして、再びバスガイドの阿由菜が起き上がる。

「おい、運転手!」
阿由菜が佐久原の方を見た。

「この先の道をまっすぐ進め!」
阿由菜が叫ぶ。

「--し、、しかし」
佐久原はうろたえた。
この先の道は、曲り道だ。

そこをまっすぐ走れば、
バスは高速道路から転落する。

「もう終わりだ!みんなで地獄に行こうぜ!
 あははははははは!」

阿由菜が両手を広げて、
下半身から液体を流しながら
笑っている。

「ククク…ははははははははは!」
大笑いする阿由菜。

バスの中は悲鳴に包まれる。

しかしー
佐久原は阿由菜の指示に従わず、バスを止めた。

「な、何停車してんだテメェ!」
阿由菜が大声で怒鳴った。

「この場で全員に憑依して地獄送りに…」

「----!?」

運転手の佐久原が阿由菜を抱きしめた。

「な…な、、、何だ・・・?」
阿由菜が訳も分からずに声を絞り出す。

憑依している男にとっても、流石に
突然抱き着かれるとは思ってもみなかったのだろう。

「---辛かったな」
佐久原が、まるで子供をあやすようにして言った。

「---な、、、」
阿由菜は只々戸惑っている。

「--君の辛さはよく分かった。
誰も手を差し伸べてくれないつらさ…」

佐久原の言葉に、阿由菜は「何言ってやがる…!」と叫ぶ。

だがー

「--私もそうだった。
 婚約した彼女に裏切られて、
 私が一方的に婚約を破棄したかのように
 言いふらされて、それが原因で実家から
 絶縁されて、会社もリストラされた」

佐久原が阿由菜のことを暖かく抱きしめながら言う。

「君と同じだ」

その言葉に、阿由菜は
「お、、おっさん…」とつぶやいた。

「ま、わたしには君と違って
 元々友達なんていなかったけどな」

冗談っぽく笑う佐久原。

「--わたしも君と同じように
 この世の中に絶望して、死ぬことを考えた。
 誰かを道連れにしてやろうと思った。

 でも、死ななかった
 なぜだと思う?」

佐久原の言葉に、阿由菜は呟く

「ど…どうして…?」

その言葉に、佐久原は笑う

「どうせ死ぬなら…
 やりたいことをやりまくってから死のうと、
 そう思ったんだ。

 君みたいに、犯罪を起こすことも、
 私も考えた。

 けど、それをしたらそれで終わりだ。
 
 だから私は、犯罪に手を染めず、
 自分の人生を楽しむことにした。

 貯金を使って美味しいものを食べまくったり、
 好きなモノを買いまくったり、
 働きもせずに、やりたい放題したよ。

 ま、貯金なんてほとんどなかったから
 1週間で有り金使い果たしたけどさ」

運転手の佐久原が過去を語る。

「-----」
阿由菜は動きを止めてその話を聞いている。

「--でもな、その1週間で私は思った。
 例え一人になっても、まだ楽しいことはある、と。
 飯がうまい。遊べば楽しい。

 だから、私は死ぬのをやめたんだ。
 死んだら、そこで終わりだー」

佐久原の言葉に
阿由菜は、下を向いた

「きみも…どうだ?
 人生、終わらせるにはまだ早いんじゃないか?
 ここでバスを落としたら私も君も終わりだ。
 けど、どうだ?
 もう1回、人生を考えてみないか。

 もし辛かったら私のところを訪れなさい。
 私は東部バスの第2営業所で勤務してるから。

 なぁに、私は今も独身だ。友達もいない。
 もしも良ければ、君と一緒に暮らしてもいい」

佐久原の優しさに、
阿由菜は涙をこぼした。

「おっさん…」

そしてー

「---すまなかった…」
阿由菜はその場に座り込んだ。

「--みなさん、
 どうでしょう?
 ちょっと過激なバスガイドさんのイベントだったということで、
 ここは丸く収めませんか?」

佐久原が乗客たちに言う。

もちろん、不満を口にするものもいたが、
相手が憑依の力を持っているせいか、
早く丸く収めたい乗客たちは、
佐久原の提案に拍手した。

「--辛かったらいつでも尋ねてきなさい。
 だから、その子を解放してやってくれ」

佐久原が言うと、
阿由菜は無言でうなずいて、
うっ…!と言うと、その場に倒れた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

男は自分の身体に戻っていた。
サービスエリアの自分の車の中で、
男は涙していた。

そしてー

「うまいものでも…食うか」
サービスエリアのラーメンでも食べようか、と
男は車から降りたのだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1か月後。

男は有り金を使い果たした。

辛い…
やはり、人生はつらい。

だが、あの運転手が、手を差し伸べてくれた。

男は、東部バスの第2営業所に来ていた。

「もし辛かったら私のところを訪れなさい。
 私は東部バスの第2営業所で勤務してるから。

 なぁに、私は今も独身だ。友達もいない。
 もしも良ければ、君と一緒に暮らしてもいい」

あの、手を差し伸べてくれた運転手に
合う為にー。

第2営業所の前で、どうしようか考えていると、
あの時の運転手、佐久原とその同僚が、
第2営業所前の、自販機の前で
談笑し始めた。

「---でも、佐久原、お前、阿由菜ちゃんに抱き着いたんだろ?」
同僚が笑いながら言う。

「はは、チャンスだったからね。
 憑依されてたってことは、何しても、阿由菜ちゃんは
 覚えてないってことだ。
 だから、抱くなら今しかないって」

佐久原が笑いながら言う。

「ったく、このエロオヤジが!」
同僚の運転手が笑う。

「--にしても、あの時の男、どうしてるかな?
 私が適当に作った作り話で感動して、
 憑依もやめて改心してくれたみたいだけどさ。

 チョロイよな。
 大体ああいうやつってのは中身が空っぽだから
 ちょっと親身になってる”ふり”してやれば、
 すぐに心を開く」

佐久原がタバコを吸いながら笑う。

「--はは、佐久原さんも役者だねぇ」
同僚が笑う。

「--ま、私は阿由菜ちゃんにも抱き着けたし、
 自分も助かったしで言うことなしだよ!
 ははははははっ!」

佐久原が笑った。

その話を聞いていた男は、手を震わせた。

やっぱりこの世は終わっている。
何の、救いもないー

男は、まだ残っていた憑依薬を握りしめて、
怒りに手を震わせた。

唇を血が出るほどの力で噛みしめて、
男は、憎悪の目で、運転手の佐久原を
見つめるのだったー

おわり

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コメント

一旦は場を収めた運転手の佐久原ですが、
このあとは大変そうですね…。

お読み下さり、ありがとうございました!!

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