観光バスは順調に運行していた。
多くの観光客が、バスでのひと時を
過ごす中、そのバスでは異変が起きたー。
”地獄のバスガイド”におびえる状況たち。
果たしてその運命はー?
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男は、絶望していた。
何に?
仕事に?
人生に?
それとも、人間関係に?
否ー。
”この世の全てに”
だ。
男は、会社をリストラされ、
信じていた彼女に浮気され、裏切られて、
プライベートではとある事故により、友達を失った。
もう、生きている意味はないー
しかし、男は考えた。
どうせ死ぬのであれば…
”最後に一花咲かせたい”
とー。
男の手には憑依薬。
そしてー
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「あちらに見えるのが、観光名所となって~」
とある観光バス。
多くの観光客を乗せて、
目的地を目指している。
まだ大学を卒業したばかりの
初々しさが残るバスガイドの
南原 阿由菜(なんばら あゆな)は、
観光地の説明を熱心にしていた。
「--じゃあここで問題~」
バスに乗っている子供たちのために
クイズを出して場を盛り上げる阿由菜。
若い割にしっかりとしているし、
臨機応変もできる。
それでいて、容姿も可愛らしい。
この子は、立派なバスガイドになるだろう、と
観光バスを運転している運転手・佐久原は思った。
観光バスは、パーキングエリアに到着した。
バスガイドの阿由菜も外に出て、
しばしの休憩をとる。
そんな、パーキングエリアに、
一台の乗用車が止まっていた。
その乗用車に乗るのは、
”この世に絶望した男”
人生の最後に
憑依薬を使って派手な事をしたいー
そう思っていた男は、
無意識のうちにこのサービスエリアにやってきていた。
「----」
このサービスエリアは観光客や旅行客が多く訪れる。
”これから始まる旅”に夢を抱いてー。
人間は、不幸であれば不幸であるほど、
他人の幸せが”輝いて見える”
そして、中には、輝いて見えるだけではなくー
それを妬み、壊そうと考える者さえいるー。
この男がそうだった。
「--楽しそうにしやがって」
男は憑依薬を飲み干して、
たった今、サービスエリアに入ってきた
観光バスを睨んだ。
お手洗いに入っていた
バスガイドの阿由菜は、服装を整えて、
バスに戻ろうとした。
その時”異変”は起きた。
身体に何かが入ってくるかのような
”ゾクゾク”した感じがしたのだ。
「--え?何?」
慌てて自分の身体を見るが何も起きていない。
「--なんだろう?今の?」
そう思った直後、
頭にズキッと激痛が走った。
「--!?
うへ、、うへへへへへへへっへ」
口が勝手に動く
慌てて口を塞ごうとするが、
手が動かない。
”えっ? えっ?”
そう思っているうちに、
彼女の意識は闇に飲み込まれた。
男が、憑依した目的は
”命を絶つこと”
彼女は、もう2度と目覚めることはないのかもしれないー
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観光バスの発車時間が近づいてきた。
阿由菜もバスに戻ってくる。
「--?」
運転手の佐久原が違和感を覚える。
阿由菜の服装が少し乱れていて、
「はぁ、はぁ」と言っている気がしたからだ。
腹痛でも起こしたのだろうか?
「大丈夫か?」
佐久原が問いかけると
阿由菜はわざとらしい笑みを浮かべた
「はい!大丈夫ですよ」
と。
そして、バスに乗り込んだ阿由菜は、
不気味な笑みを浮かべた。
「最高だぜ…
トイレで思わずイッちまいそうになったが…
俺の目的はそれじゃない」
阿由菜は小さな声で呟いた。
幸せそうな奴らの幸せを壊して、
道連れにしてやるー
どうせ、死ぬなら、何だってやってやるー。
阿由菜に憑依した男は、
そう思っていたー。
阿由菜は乗客の確認をしながら、
物色するようにそれぞれの乗客を見た。
幸せそうな家族。
若い女子大生の3人組、
おじさんおばさんの団体。
色々な客がいる。
しかし、そのいずれもが、幸せそうだった。
男にとっては、腹立たしいこと
この上なかった。
ふと、阿由菜は可愛らしい少女の前で足を止めた。
家族で観光に行くようだ。
女子高生ぐらいだろうか?
「--あら、可愛いですね」
阿由菜が言うと、
女子高生は戸惑った様子で「は、はい、ありがとうございます」と答えた。
「--ちょっと触らせて」
阿由菜はそう言いながら、女子高生の胸を触った。
「ひゃぅ!な、何するんですか?」
女子高生が叫ぶと、
その女子高生の両親も異変に気づき、
阿由菜の方を見た。
「ちょっと!何してるんですか!?」
家族が叫ぶ中、
阿由菜は女子高生にキスをした。
そしてー
「---失礼しました。
あまりにも可愛かったのでつい」
そう言って、微笑む阿由菜。
唖然とする女子高生と両親を無視して、
前の方に戻って行った。
「確認済みました」
阿由菜が言うと、
運転手の佐久原は不思議そうな表情を浮かべた。
「今の騒ぎは?」
佐久原は運転席の確認をしていたため、
何が起きたのかを把握していなかった。
「--なんでもありませんよ ふふ」
阿由菜が言うと、
「そうかぁ?」と言いながら、佐久原はバスを発進させた。
「さて、皆様、ここで、お姉さんからの重大発表~」
阿由菜が嬉しそうに言う。
「--なんだろ~?」
「なんだろうね?」
「ん?何が始まるんだ~?」
乗客たちは嬉しそうに声を出している。
しかしー
そんな乗客たちの楽しみを、
阿由菜の一言が打ち消した。
「--今からこのバスは、地獄に向かいま~す!」
高らかに、満面の笑みで阿由菜は宣言した
「な…何だって?」
運転手の佐久原がバスを運転しながら
驚いた表情で言う。
「--ど、どういうこと?」
「なにそれ~」
「な、何を言ってるんだ?」
乗客たちが騒ぎ出す。
騒ぎ出して混乱する乗客たちを、
見下すかのように見つめながら
阿由菜は腕を組んで微笑んだ。
何も言わない阿由菜に対して
乗客たちが恐怖と混乱から
色々な声をあげる。
「--ふふふ、怖いですかぁ~?」
阿由菜はようやく口を開いた。
「--さ、さっきから何を言ってるんだ?」
乗客の一人が言うと、
阿由菜は言った。
「--わたし、この世に絶望したんですよ~
えへへ…
だ・か・ら!死んじゃおうと思って!
でもでも~
わたしはこんなに不幸なのに、
人生楽しそうにしてるお前らみたいの見てると
と~ってもイライラするの!」
ぶりっ子のようなしぐさをしながら
阿由菜がとんでもないことを言う。
「--き、君!何を言ってるんだ?」
運転手の佐久原が横から声をあげる。
「--うるせぇな!黙って運転してろよ!」
阿由菜が声を荒げて言う。
乗客たちの中に、次第に恐怖が広がっていく。
「ふふふ…これから旅行?
すっごく楽しい時ですよね~
そんな喜びの絶頂にいるみなさんが、
一転して絶望に突き落とされる…
くふふ・・・興奮する…
わたし、興奮しちゃう!
あは、あははははははははっ!」
阿由菜が愉快そうに笑う。
笑っているのは阿由菜だけだ。
乗客の子供の一部は泣き出している。
阿由菜は泣いている赤ん坊の
方に近づいていくと、
その赤ん坊を無理やり奪い取った。
「--ちょ、何をするんですか!」
母親が叫ぶ。
「何って?お前たちが逃げないように人質だよ!」
阿由菜が、男言葉で凶悪な表情を
浮かべて笑う。
そこに、バスガイドとしての阿由菜の面影はない。
「--…!」
運転手の佐久原が動揺した表情を浮かべる。
彼は高速道路の端に車を寄せて
止めようとしていたが、
赤ん坊が人質に取られたことで
それができなくなった
「おいお前ら!」
阿由菜が、本人が出したことのないであろう、
恫喝するような声を出す。
「変な行動してみろ!
この赤ん坊、外に放り投げてやるからなぁ!」
阿由菜の言葉に乗客たちの間にパニックが広がる。
赤ん坊を逃げられないように、自分の足元に置くと、
阿由菜は言った。
「---くはははははは!
良い顔!良い顔だよお前ら!」
可愛い声で、乱暴な言葉を吐くー。
憑依している男はそのギャップに興奮しながら続けた。
「--楽しそうにしやがってよぉ、
お前らみたいのがわたしは一番むかつくのよ!
くくくく…ぶっ壊してやりたくなる…!」
阿由菜は女言葉と男言葉が入り乱れた口調で喋る。
「--あんた、自分が何をしてるか分かってるのか!」
乗客の一人のおじいさんが叫ぶ。
「--何をしてるかって?
ふふふ、もちろん”わたし”は分かってるわよ!
ま、でも”この身体”は分かってないだろうけどねぇ~!
今はわたしの意思に従って動く、
操り人形だからぁ!あはははははっ!」
阿由菜が嬉しそうに笑う。
「ど…どういうこと?」
先ほど阿由菜にキスをされた女子高生が言うと、
阿由菜は笑った。
「--憑依って言ったら、信じる?」
阿由菜が言う。
乗客たちの中にどよめきが起こる。
「-今、わたしは、男の人に憑依されて
身体も心も思いのまま動かされてるの!
わたしの意識とは関係なく、ね!
だから~どんなことだってできるの!」
阿由菜が言うと、
乗客たちから失笑と、怒りの声が聞こえてきた。
「ふざけるのもいい加減にしろ!」
その言葉に、阿由菜は、「じゃあ、証拠見せてあげる」と叫んだ。
「ひぅっ!?」と声をあげて突然倒れる阿由菜。
白目をむいて、痙攣を起こしている。
そしてー
「ひっ!?」
女子高生が声をあげた。
乗客たちが女子高生の方を見る。
「--くくく、あははははははははは~
今度は、この女が乗っ取られちゃいました~!」
嬉しそうに叫ぶ女子高生。
「--う、、、嘘だろ」
「ひぃぃぃぃぃ…」
今まで普通にしていた女子高生が憑依されたのを
見て”憑依”の存在を信じるしかなくなった乗客たちは
パニックを起こした
「--ほらほら!この女も俺の思いがままだ!」
女子高生はバスの中で上着からスカートを
乱暴に脱ぎ捨てる。
制止する母親を殴りつけると、
窓を開けて、脱いだ服とスカートを高速道路に投げ捨てた。
「どうだ!これが憑依だ!」
両手を広げて下着姿の女子高生が笑う。
そしてー
「--おい!ドアを開けろ!」
運転手の佐久原にそう叫ぶ女子高生。
「--な、何をする気だ?」
佐久原が言うと、
女子高生は「コイツを高速道路に捨てるんだよ!」と
自分を指さしながら笑った。
「--そ、、、そんなことできない!」
佐久原が叫ぶと、女子高生は「あっそ!」と叫び、
そして、低いうめき声をあげて倒れた。
バスガイドの阿由菜とおなじように白目を剥いて
痙攣している。
しばらくすると、阿由菜が立ち上がった。
「さぁ、みなさん。憑依は信じて頂けましたか~ふふふ♡
地獄逝きのバスのガイドを、最後まで務めさせていただきますよ~」
その言葉に、乗客たちは凍りつく。
倒れたままの女子高生は泡を吹いて痙攣している。
戸惑う乗客たちを見つめてー
阿由菜が邪悪な笑みを浮かべたー
②へ続く
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コメント
この世に絶望した男の憑依。
果たしてバスの地獄行を阻止することは
できるのでしょうか。
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