<皮>Preppy⑤~新しい人生~(完)

不夜お嬢様のメイドとして仕事をこなす五郎。

彼は、次第にその環境にも適応していく。
しかしながら、ある日、不夜に呼び出された彼に
待っていた運命は・・・!

※Яain様との合作、最終回デス!

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「わたしが・・・元に、、戻る…?」
唖然とする五郎。

彼は半年の時を過ごし、
既に五郎としてではなく、
メイとして、これからの人生を過ごしていくつもりだった。

それが…。

「黒畝…彼女、いえ、彼の皮を脱がせてあげなさい」
不夜が言うと、
執事の黒畝が近づいてきた。

いやだ…
嫌だ…!

そう思いながらも、
五郎は抵抗することができなかった。

か弱いメイドの身体では、
執事の黒畝に敵うハズなどないのだー。

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落田 五郎(おちた ごろう)
冴えないサラリーマン。会社を解雇され、お嬢様に憑依するも…

高砂 博昭(たかさご ひろあき)
TSF関連の会社を経営する男。不夜の父親。

高砂 不夜(たかさご ふや)
現役高校生のお嬢様。

黒畝(くろうね)
高砂家に仕える執事の長。

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皮は、いとも簡単に脱げた。

「これで、元通りでございます」
執事の黒畝が礼をしながら、
鏡を五郎に差し向ける。

「----…」
五郎は、泣いた。

みじめな自分の姿が
鏡に映っていた。

メイドとして、やっと、人生の居場所を見つけた五郎。

しかし、それすらも、奪われてしまった。
与えられて、奪われ得る。
やはり、それが自分の人生なのかもしれない。

自分に、居場所なんてないのだ。
与えられては奪われて。
それの繰り返し。

自分に、誰も居場所なんて与えてくれない。

服を着せられ、
館の外へと道を案内される五郎。

その目は、死んでいた。
もう、自分には何も残されていない。

輝いていた半年は、全て幻だったのだ。

もう、自分には、何もない。
自分は、このまま、消えていくだけ。

「--ははは…」
五郎は笑った。

手を振る不夜。

これで、終わりなのか。
屋敷の正門を前にして、
五郎は振り向いた。

「…す、、捨てないでください!」
五郎は泣きながら嘆願した。

「----?」
不夜お嬢様が驚いた表情で五郎を見る。

「わ、、私を捨てないで!!
 お嬢様…お願いします!
 わたしを…わたしを…メイドとして、
 働かせてください!」

五郎は叫ぶ。

「----あらあら」
不夜は、悪戯っぽく笑う。

五郎がメイとして働いている間に、
先輩メイドだったサクラは、ある日姿を消した。

どうしてだろうと思っていたが、
五郎は理解した。
きっと、自分と同じように、何らかの理由で
皮を被せられて、
そして、自分と同じように、解放されて
屋敷から去って行ったのだろう、と。

「--そんなに私のことが気に入ったの?
 その正門をくぐれば、あなたは自由ですわよ?」

不夜が言う。

けれど、五郎は首を振った。

「わたしには、もう居場所がないんです!
 わたしの帰るべき場所はもうない!
 わたしの居場所は、ここなんです!」

すっかりメイドに染まっていた五郎は、
男の声でそう叫んだ。
もう、なりふり構っていられる状況では無かった。

とにかくー、
この屋敷に残りたい。

その、一心だった。

「ーーーーーー……」

”居場所がどこにもない”
不夜は思うー

あの雨の日…
何も残されていなかった自分を…

不夜は目を閉じる。

轟く雷鳴ー。
降り注ぐ大雨ー。

死のうとしたー。
もういいと思ったあの日。

ボロボロになりながらも、
父は”居場所”を作ってくれた。

「---…そこまで言うのなら」
不夜は言った。

頭を上げる五郎。
その顔はグシャグシャになっている。

「ーー黒畝!」
不夜が言うと、黒畝は黙って頭を下げて、
何かを持ってきた。

紫色の液体が入った試験管を
かざす不夜。

「これは、お父様が作った
 性転換薬…。
 これを飲めば、あなたはもう、
 落田五郎としてではなく、
 永遠にわたしのメイドとして生きていくことになる」

不夜が言う。

五郎は、喜びの表情を浮かべた。

「ただしー、
 これは皮とは違うのよ。
 あなたは、もう、後戻りできなくなりますわ…
 一度飲めば、あなたは永遠にわたしのメイド…」

不夜は言った。

もう、戻れない。
でもー

それでも、それでもー

五郎は
「一生お嬢様についていく覚悟です!」
と叫んだ。

不夜は微笑んだ。
”あなたも、居場所を手に入れるのねー”と。

不夜が試験管を五郎に手渡すと、
五郎は嬉しそうに、それを飲み干した…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

父・博昭は、とある人物と電話をしていた。
会社を共同で立ち上げた人物と、電話をしているようだ。

共同経営者のその人物は
博昭の長年の友人でもある。
何故かいつも傘とレインコートを手放さない。

「---明日?分かった。今夜の飛行機で向かう」
仕事上の打ち合わせの会話。

ふと、電話相手が言った。

”そういえば、娘さんは元気かな?”

とー。

「--あぁ、おかげさまで」
博昭が言うと、
電話相手は続けた。

”いや、娘さんじゃなくて
 ”息子さん”と言った方がいいかな”

と。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

不夜は、髪が伸び、胸が膨らみ、
完全に女体化していく五郎を
見つめながら、
”あの日”のことを思い出していた。

”かつては自分もそうだったー”

不夜は、
生まれた時は男だった。

ひ弱で、何かといじめられがちだった。
中学になったころには、そのいじめは激しくなり、
不夜は、次第に死を考えるようになった。

金持ちの息子ということで、
皆のいじめのターゲットになってしまったのだ。

ある日ー
不夜は、屋敷の中で自ら命を絶とうとしていた。

「---居ないのか?入るぞ?」

その時ー
偶然、父の博昭が、扉を開けた。

そこには、自ら命を絶とうとしている
息子の姿があった。

「な、何をしているー!」
博昭は叫ぶ。

息子は、泣いた。
自分には、居場所が無いと。
誰からも、必要とされていない、と。
”男らしくない”といじめられていると。
こんなんなら、女に生まれたかったと。

当時、博昭の会社は、
新薬の開発などを行う会社だった。
入れ替わりや、女体化、憑依など、
人間の新たな可能性を切り開く新薬をー

憑依薬が完成すれば、医療などにおいて
活躍する。
医師は患者に憑依することで症状を
的確に知ることができる。

入れ替わり薬が完成すれば、
望まぬ人生を送る人たちを入れ替えて、
新たな可能性を与えることができる。

女体化薬が完成すれば、
女に生まれたかった男性や、
性に悩む男性を救うことができる。

博昭は決意した。

「待ってろ、お前に希望を与えてやる」

死のうとしている息子を救うため、
それから博昭は必死になって、
女体化薬を開発した。

息子は、小さいころから自分の性別に
悩んでいる節があった。

だからー、
息子を救うためには・・・。

妻の雪乃(ゆきの)も一緒になって
新薬の開発を手伝ってくれた。

共同経営者のレインは、
全ての就業時間を新薬開発に充てることを
理解してくれた。

そして、不眠不休で、新薬の開発に成功したー。

それが、女体化薬。

博昭は、それを持ち、自宅へと向かった。
そして、息子にそれを渡した。

「お前の居場所を作ってやるー」
博昭に手渡された女体化薬を、息子は飲んだ。

その日から、息子は、不夜となり、
お嬢様となった。
思考も女性化し、彼は、彼女となり、
自分に自信を持つようになった。

後に転校し、お嬢様として別の中学に通い出し、
明るくなった不夜はいじめられることもなく、
たくさんの友達に囲まれるようになった。

しかし、不夜が女体化した日、事件は起きた。
不眠不休で開発を続けたことにより、
妻の雪乃が倒れてしまった。

突然のことだった。

息子が娘になり、
不夜となったのを見届けた博昭は
執事の黒畝から連絡を受け、
病院へと飛んで行った。

しかしー
雪乃は危篤状態で、
間もなく息を引き取ろうとしていた。

「そ…そんな…」
その場に膝をつく博昭。

共同経営者のレインも悲しそうにそれを見つめている。

「---ご主人様」
黒畝が背後から、博昭を呼んだ。

博昭が振り返ると、黒畝は薬を手にしていた。

「--それは」
博昭が尋ねると、黒畝は笑った。

「私は、20年、あなたに仕えてきました。
 何もなかったわたしを、あなたは救ってくれた」

執事の黒畝は、会社をリストラされて、
路上生活を送っていたところ、
博昭と出会い、執事として、召し抱えられた過去を持っていた。

まだ博昭が、会社を立ち上げたばかりの頃だった。

「--その御恩を、お返しさせてください」
黒畝が持っていたのは、入れ替わり薬。

黒畝は笑みを絶やさないまま、
博昭の妻、雪乃を指さした。

「お前・・・」

博昭は理解した。

黒畝は、今死にゆく、雪乃と入れ替わることで、
妻を救ってくれようとしているのだと。

「--こんな老いぼれの身体で、申し訳ありませんが」
黒畝が笑う。

そしてーーー
黒畝は、入れ替わり薬を雪乃の口に含ませると、
自分も一想いに入れ替わり薬を飲みほした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

博昭は、机の写真を見つめた。

そこには、
自分と妻・雪乃、そしてーー
”息子”だったころの不夜が写っている。

「--もう、あのころには戻れない…」
そう呟く博昭の隣には黒畝が居た。

「--年下だったお前が、今や年上だからな」
博昭が笑うと、
黒畝は微笑んだ。

入れ替わり薬によって、
黒畝は、死にゆく雪乃の身体に入り、そのまま世を去った。

黒畝になった雪乃は決意した。
自分を救ってくれた黒畝の代わりに自分がなる、と。

「--私が雪乃だってことは、
 あなたと私だけの秘密ー」

黒畝はそう呟いた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

夜―。

「---これで、もうあなたは引き返せませんわ」
不夜がほほ笑む。

「は、、はいっ!お嬢様!」
五郎は、完全に女体化した。

これからは、メイドのメイとして、生きていく。

「--ありがとうございます!お嬢様!」
何度も、何度も繰り返す。
今まで居場所のなかった五郎に
不夜は居場所を与えてくれた。

不夜は、五郎の身体を見つめると
叫んだ。

「ちょっと!私より胸も大きいし、
 可愛らしいじゃない!どういうことなのよ!」

不夜の叫びに、メイとなった五郎が「えっ…」と声を出す。

「---主であるわたしより可愛いなんて
 生意気ですわ!
 明日からたっぷりしごいてあげますわ!
 覚悟しておきなさい!」

不夜がそう宣言した。

「--お、お手柔らかにお願いいたします」
メイドとなった五郎は、
そう頭を下げながらも、
やっと見つけた自分の居場所に、
満足そうに微笑むのだった…。

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

Яain様との合作でした!
いかがでしたしょうか!
憑依から始まり、色々なTSF要素が絡み合った作品になりました!

お読み下さったすべての皆様と、
Яain様に感謝です!
ありがとうございました!

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憑依<Preppy>

コメント

  1. 柊菜緒 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    居場所を入れるのね
    ここの部分にちょっと違和感

    まさかこんなことだったとは……

  2. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    > 居場所を入れるのね
    > ここの部分にちょっと違和感
    >
    > まさかこんなことだったとは……

    こんなことになってました…!
    「居場所を”手に”入れるのね」ですね…
    修正しておきます!