中学時代の初恋の相手と大学で再会したー。
けれど、彼女は変わり果てていた。
その裏に潜む憑依。
もう一度、彼女の笑顔を見たいー。
そのために、彼は、真実を追求する…。
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大学を歩きながら、
イライラした様子を浮かべている菜々美。
大学の壁を蹴ると、
ため息をついて壁に寄り掛かった。
「---私は…」
ペンダントを手にして、悲しそうな表情を浮かべる
菜々美ー。
その中に、写真が入っているー。
中学生ぐらいの可愛らしく微笑む少女の写真がー。
「---まだ、苦しまないといけないんだね…」
菜々美はその写真の少女に語りかけた…
その少女はー。
眩しい太陽を見つめた菜々美の表情にはー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
今日は大学の用事はヒルで終わりだ。
稔は、大学が終わった後、
菜々美の兄・郁也に会いにいくつもりだった。
郁也は現在 大学3年になっているらしい。
菜々美より2学年上の兄のようだ。
その郁也が、3年前、つまり高校3年の時に
オークションで憑依薬を出品していた愛染なる男から
憑依薬を購入したー。
そして、菜々美は高校1年の時に豹変した。
で、あれば…
この郁也が菜々美に憑依した、
もしくは、郁也が誰かに憑依薬を提供した可能性が高い。
稔は、郁也に会いにいく決意を固めていた。
「---あ」
たまたま菜々美と鉢合わせした。
「---?」
稔は菜々美の目の近くに泣いたような跡が
あるのに気付いた。
「--何よ」
菜々美が稔を睨みつける。
「--…憑依」
稔は、菜々美を揺さぶる為に、その
キーワードを出してみた。
これで何らかの反応を示せば…
「---それを、どこで…」
菜々美が明らかな動揺を浮かべた。
「--矢向さん、もしかして…」
”もしかして、誰かに憑依されているのか”
そう尋ねようとした。
「----も、、もう私に近づかないで!」
菜々美が叫んだ。
「--もし憑依されてるんだったら…」
「近づくな!」
菜々美が大声で叫んだ。
「--もう放っておいてくれる?
迷惑なのよ!」
菜々美はそう吐き捨てるように言うと、走り去ってしまった。
「---矢向さん! くそっ!」
稔は、周囲の目線から、追いかけることもできず、毒づいた。
「--一体、何が」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夕方ー。
郁也の住むアパートの前にやってきていた稔。
郁也はー、菜々美とは違う場所で
一人暮らしをしている。
整った格好の、真面目そうな背の高い男がやってきた。
「--矢向 郁也さん?」
稔が尋ねると、
郁也は驚いた表情を浮かべた。
稔は、これまでの経緯を説明した。
中学時代、好きだった菜々美に何も告げることができず
そのまま逃げたこと、
その菜々美と大学で再会したこと、
今でも菜々美が好きだということ、
そしてー
その菜々美と、憑依薬の関係を尋ねた。
すると、郁也は「ここじゃなんだから、中で」と
言って、自分の部屋に稔を案内した。
部屋の中は綺麗に片づけられていた。
人当たりの良さそうな青年。
それが、郁也に対するイメージ。
それに、今、こうして郁也が存在しているということは
菜々美に憑依しているのは郁也ではないのか。
それともー。
「---」
ふと、仏壇が目に入ったー。
中学生ぐらいの可愛らしい女の子が
微笑んでいる写真。
「・・・・・-!?」
一瞬、その写真が菜々美に見えた。
だが、よく見たら違う子だった。
会ったこともないのに、
会ったことのあるような、そんな気がした。
「--中学時代…って言ったかな?」
郁也がお茶を差出ながら言う。
「はい…。中学時代、妹の、菜々美さんとは
仲良くさせてもらってました。
まぁ、結局付き合うことはできなかったんですけど」
稔が言うと、
郁也は笑った。
「じゃあ、君が稔君か。」
郁也は稔の事を知っていた。
”妹”から聞かされていたからー。
「--最近、大学で彼女と再会したんです。
でも、彼女、人が変わったように荒れていて…。
で、、俺、調べたんです。
そしたら、兄のあなたが憑依薬なるものを
3年前に購入したと聞いて」
稔はそこまで言うと、
他人行儀な態度を捨てて言った。
「まさかーー憑依薬を妹に…」
稔が少し睨むようにして言うと、
郁也が頭を下げた。
「--その通りだ」
郁也の言葉に稔は、
こみ上げる何かを感じた。
「--お前!」
敬語を殴り捨てて、
今にも掴みかかりそうな勢いで、菜々美の兄・郁也を睨む。
「--6年前…」
郁也が呟いた。
「---俺が憑依薬を初めて購入したのは6年前だ…。
それから3年間、定期的に憑依薬をある男から購入していた。
定期的に服用しないと、憑依状態が解けてしまう 不完全な
憑依薬を…」
郁也の言葉に
稔は思う”6年前?”と。
6年前と言うと、
菜々美や稔が中学時代の話だ。
「--けど、家のお金も限界だった。
そんな時、オークションで憑依薬を売っている別の男の存在を知り、
その男から憑依薬を買った。
それが3年前ー。
つまり、稔君、君が調べた、オークションで購入したときのことだ」
郁也の話が見えない。
「--6年前だとか、3年前だとか、
そんなことは言い!
矢向さん…菜々美に何が起きているんだ!」
稔が必死に叫ぶと、
郁也がとあるビデオを手に取って再生した。
ーー映像には、可愛らしい女子中学生が映し出された。
「--寧々(ねね)…
俺の妹だ」
稔は、仏壇の写真とビデオの少女を見比べるー。
同じ姿ー。
つまり、この寧々という子は、既に死んでいることになる。
「--寧々は長女、菜々美は次女…。
寧々は…中学1年のとき、交通事故で死んだよ。
当時小学6年だった菜々美を守ってな」
映像の少女を見るー。
映像の姉・寧々は、優しい笑みを浮かべていた。
まるで、中学時代の菜々美を見ているかのようだった。
「---菜々美は、小学生の頃からワルでさ…
よく手を焼いていた。
ある日も夜遊びをしていて、で、妹のーー
菜々美から見れば姉の寧々が迎えに行ったんだ」
郁也が悲しそうに言う。
「--そして、その帰りに、寧々は事故にあって…」
郁也の言葉を稔はさえぎった。
「待て。それと菜々美の豹変に何の関係がある?」
稔は尋ねた。
郁也はビデオの中の寧々を悲しそうな目で見つめた。
「寧々は植物状態になったよ。
目を覚まさなかった。
菜々美は、責任を感じてふさぎ込んだ。
”お姉ちゃんにわたしの体をあげるから”
よく、そう泣きわめいていた。
見ていられなかった」
郁也は続けた。
「--ーーそして、菜々美は言った。
俺に、”憑依薬”と言うものを買って欲しいと。
”お姉ちゃんにこのからだをあげるから”と、
菜々美は俺に泣きついたー
それで、俺は憑依薬を買ったんだ」
郁也の言葉に、稔は思うー
菜々美が小学6年生のころに、
菜々美の姉・寧々がこん睡状態になって、
責任を感じた菜々美が、姉に体を差し出したー?
「--それで、こん睡状態の寧々に憑依薬を
飲ませて、寧々はー菜々美に憑依したーーー」
郁也は、稔の方を見て言った。
「--中学時代。
そう言ったな?
君が3年間、菜々美だと思って接してきた子はー
菜々美じゃない…。
俺の上の妹…寧々が憑依していた菜々美だ」
ーーーー!?
「---何だって?」
稔が聞き返す。
「--中学生時代の3年間、
菜々美はずっと、寧々に憑依されていたー。」
郁也が目をつぶる。
「--じゃあ…今の菜々美は…?」
稔が尋ねると、郁也はうなずいた。
「今、君が大学で接している
”不真面目な”彼女ー、
あれが本当の菜々美だー。
菜々美は小学時代もワルだったー。
中学時代だけ、真面目で優しかったのは
”中身が別人だから”-。」
郁也がうなだれた様子で言った。
「--な、何だよそれ…
じゃあ、中学時代の、その憑依したお姉さんは、
今、どうしてるんだよ?」
稔が言うと、
郁也は引出からあるものを取り出した。
「---寧々が、”消える”直前に書いたものだ」
少し濡れている手紙のようなもの。
それを渡された稔は、その手紙に目を通した。
”3年間 楽しかったよ
ありがとうー。
わたしはーー”
そこで、文章は途切れていた。
「--菜々美に憑依していた寧々は、
稔君のこと、本当に好きだった。
だから”消える前”に君に想いを伝えようとして
それを書いていた。」
稔は手紙を見ながら思う。
「--消えた、とは?」
中学時代、自分と接していた菜々美は、
姉の寧々が憑依していた姿ー。
それは分かった。
つまり、今の菜々美は誰にも憑依されていない。
あの、不貞腐れた態度の菜々美が本来の菜々美ということになる。
だが、姉の寧々はそれなら今、どこに?
「---寧々は…
もうこの世には居ない」
郁也は、暗い表情で言った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー。
結局、昨日、郁也からそれ以上話を聞くことは
できなかった。
妹・菜々美に憑依していた姉の寧々は
中学生3年間を妹の体で過ごしたのちに、
消えたのだと言う。
その理由は、教えてもらえなかった。
ーーーーー
夕暮れの差しこむ中、
稔は、菜々美を呼び出していた。
「---」
菜々美が屋上へとやってくる。
「---」
稔は菜々美の方を見た。
太陽光がちょうど、こちら向きでとても眩しい。
「---あのさ…」
稔が口を開く。
「ーーー聞いたよ、お姉さんの話。」
稔が言うと、菜々美は表情を少し変えた。
「---俺が、中学時代、一緒に居た、
矢向さんは、、
君に憑依したお姉さんの方だったんだね」
稔が言うと、
菜々美が少しだけ笑った。
「---そう。
わたしは、中学の3年間をお姉ちゃんにあげたの」
菜々美が屋上の端の方に歩いていき、
遠くを見つめる。
「--お姉ちゃんは、私が殺したからー」
菜々美は目を瞑るー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
小学生6年のあの日ー。
雨が降っていたー。
地元の不良仲間と遊んでいた、菜々美を、
姉の寧々はずぶ濡れになりながら迎えに来た。
「---どうしうて心配ばっかりかけるの!」
寧々は言った。
「--うるさい!」
素直になれなかったー
姉が自分を心配してくれていることはよく分かっていた。
「--どうせお姉ちゃんだって、わたしなんかいなければ
いいと思ってるんでしょ!」
菜々美は叫んだー。
パチンー。
姉の寧々にビンタされたー。
”やっぱりだ”
そう思った。
嫌われているとー
「---私はー」
寧々が涙を流しながらそう叫んだー
「--うるさい!あっちいけ!」
菜々美は、姉の言葉を聞かずに、姉を突き飛ばした。
車道のほうにー。
一瞬だった。
水しぶきを上げた車がーー
姉を吹き飛ばしたーーー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「--だから、お姉ちゃんが死んだのはわたしのせい」
菜々美が、稔の方を見た。
「--私は、そんなことになるなんて思ってなかった。
寝たきりになったお姉ちゃんを見て、
私は決めたのー。
死ぬべきはわたしだったー。
だから、このからだはお姉ちゃんが使うべきだって」
菜々美が話し終えると、稔は尋ねた。
「--お姉さんは、今、どこにいるんだ…?
それに…矢向さんは、どうして俺を避けるんだ…?」
稔の言葉を聞いて、菜々美は自虐的に
微笑んだ…。
③へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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今日は比較的目の調子も良いので
スムーズに書けました^^
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