<憑依>ママがおかしいよ!③~かぞく~(完)

母親は、完全に乗っ取られてしまった。

それでも、外に助けを求める小学1年生の息子ー。

平穏を奪われた家族に起きた悲劇の結末は…?

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「あぁん♡ あっ♡ ふふっ♡ ひゃああ♡」
法子が、昼間から、男と抱き合い、
嬉しそうに叫んでいた。

金髪男の浩二が法子の体を堪能し、
法子は快感に支配されていたー。

金髪男と、法子に憑依したひげ男は、
同じ会社の同僚だった。

二人はー、
法子の家の前をいつも通っていた。
彼らの通勤時間にー、
息子の孝敏を見送っている法子にー
二人は一目ぼれした。

そして、二人は狂気の行動に出た。
金髪男の浩二が秘密裏に手に入れた憑依薬を
使って、法子を自分たちのものにしてしまおうー、
そう考えたのだった。

金髪男は、女を抱きたかったー
ひげ男は、そのものになりたかったー。
二人の利害もちょうど一致した。

そして、ひげ男は、法子に憑依し、
金髪男は、新しい男として法子を抱いているのだった。

「ーーーうふふふふふ♡ さいこうっ!」
行為を終えた法子は、昼間からワイングラスに
ワインを注ぎ、一口に飲み干した。

「俺も最高だよ。
 そのからだ、エロすぎだぜ!」

浩二が言うと、法子は意地悪っぽく笑った。

「そのからだ、なんて言わないで。
 もうわたしは法子なのよ?
 法子って呼んで?」

甘い声でそう言うと、
金髪男は笑った。

「--そうだったな、エロすぎだぜ!法子!」

そう言うと、再び二人は熱い抱擁を交わし始めた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「元気ないね?どうしたの?」
担任の松森先生が訪ねて来た。

20代後半の若い女性教師。
孝敏の担任の先生だ。

放課後ー。
孝敏は一人、机で涙を流していた。

母が、変わってしまった。

「---…何か悩みがあるなら
 先生が聞くよ」
松森先生がほほ笑むと、
孝敏は泣きながら言った。

「ママが、おかしくなっちゃった…」

と。

ふと、松森先生が、孝敏の腕を見る。

そこにはー
痣があった。

昨日、母親である法子が
実の息子にタバコを押し付けてできた
やけどの跡だった。

「・・・・先生、西井くんのおうちに
 言っても大丈夫かな?」

先生はただ事ではないと考えて、
孝敏の家を急遽、訪れることにした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

同時刻。

西井家の前には車が止まっていた。

「---法子!どういうことだ!」
父親の学が、妻の浮気を知り、
慌てて帰ってきていた。

「どういうことって?
 見ればわかるじゃない?」

挑発的な態度で、網タイツ姿の法子が笑う。
胸をいやらしく強調したアダルトな格好をして
微笑んでいる。

「--それが、お前の本性か」
学は、そう言った。

「そうね…わたし、アンタになんて興味ないから!」
法子が吐き捨てるようにして言うと、
学は叫んだ。

「ふざけるな!孝敏はどうする? 
 アイツの悲しそうな声、聞いただろ!?
 どうして、そんなことをするんだ!」

叫ぶ学。

「ふん。」
法子は、学を鼻で笑った。

「--貴様ぁ!」
学が法子に近づくと、法子はさらに挑発を続けた。

「---わたしが今”助けて”って叫ぶながら
 外に出たらどうなると思う?
 夫に乱暴されたと、服をはだけさせながら外に出たら
 どうなると思う?」

法子が服をはだけさせながら笑う。

「---お前…」
学は足を止めた。

こういうとき、男の立場はとても、弱い。

「--くそっ…」

プスッ…

背後から痛みが走った。

金髪の男がニヤニヤしながら注射器を、学に刺していた。

「くくく…」
笑う金髪男の浩二。

「お、お前が浮気相手か?」
学が注射器を振り払いながら、叫ぶ。

「--ほらほら、早く出ていきなさいよ!」
法子が胸を露出させながら笑う。

「---くそっ!、孝敏の親権は俺が貰うからな!」
学はそう言うと、足早に立ち去って行った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

車を走らせてから数分後…。

学は異変に気付いた。

ーーなんだか…
とても楽しい気分だ…。

丸裸になりたい気分。

「な、何だこれは…」
学は慌てて車を止めた。

だがー
車を止めた時には既に…。

学は、大笑いしながら
車から出てきた。
まるで、狂った廃人のようにー。

もう、学には何も分からなかった。
ただただ、楽しくて仕方がなかった。

だから、
学は笑い続けた。
何も分からずにー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「あいつ、今頃、おかしくなってるぜ」
金髪男・浩二が注射器を持ちながら笑う。

「---ふふふ、もうわたしには関係ないわ」

”憑依薬”とは別に、浩二が手配していた薬ー
それは、人間の脳に一瞬にして潜り込み、
脳を楽の感情で支配してしまう恐怖の薬だった。

これで、邪魔者を葬ることができる。

「---ママ!」
孝敏が帰ってきた。

「---西井さん、担任の松森です。」
インターホンに、担任の松森先生も映っている。

「--お、おい!何か連れてきやがったぞ!」
金髪男の浩二が言うと

「--あんまり騒ぎになると面倒だわ!」
と言って、法子は慌てて着替え始めた。

浩二は、トイレの中に隠れる。

そして、法子は
息子と、息子の担任を招き入れた。

「---あら先生!どうかしましたか?」
法子は普通を装って笑顔で先生を出迎えた。

「--いえ、ちょっとお聞きしたいことが
 ありまして…、今、お時間大丈夫でしょうか?」
松森先生が言うと、法子は「はいどうぞ~」と答えた。

リビングのテーブルに座る
法子と息子の孝敏、そして担任の松森先生。

「-それで、今日はどのような?」

法子が愛想笑いを浮かべて言うと、
松森先生が口を開いた。

「--孝敏くんから聞いたのですが…
 ”最近、ママがおかしい”って孝敏くんが
 言うんです。
 何か、お心当たりはありますか?」

松森先生の言葉に、法子の顔がピクッと動いた。

(余計なこと話しやがって)

「--い、いえ、そんな、
 わたしはホラ、いつも通りですよ!」

笑みを浮かべて言う法子。

「--お前なんかママじゃないよ!」
孝敏が敵意をむき出しにして言う。

「--うるさ…、、、い…な、何言ってるの孝敏?」
法子が顔をピクピクさせる。
怒りを必死にこらえている。

「--ママは他の男の人とチュウなんかしたりしないよ!」
孝敏が言う。

そのやり取りを松森先生は困惑した様子で見つめていた。

松森先生が緊張して、
出されたお茶を口に運ぶ。

「---他の男の人と?どういうことですか?」
松森先生が喰い下がると法子は言った。

「プライベートを詮索するんですか?」
その声には怒りがにじみ出ている。

「い、いえ…そんなつもりは。
 ですが…」

松森先生が言うと、
法子は不機嫌そうに答えた。

「--大体なんですか?
 連絡もなしにわたしの家に来て。
 失礼じゃないですか?」

法子の言葉に、黙り込んでしまう松森先生。

「教育委員会に訴えますよ?」
法子が、机から立ち上がり、松森先生の方に近づく。

「それにしても先生、綺麗な唇ですね」
法子が甘い声を出した。

「---!?な、何を…?」
松森先生が驚く。

「--先生!だめだよ!ママは怪物なんだ!」
孝敏の年齢からすれば、
憑依なんて考えには辿り着かない。

「--ママは悪い奴等に何かされちゃったんだ!」
孝敏が今、考えることのできる精一杯の答え。

だが、それは、
”半分当たり”で”半分ハズレ”だったー。

「--ーーーーあんたを…壊したい…!」
法子は狂った目で松森先生を見つめた。

「ひっ…」
松森先生は怯えた表情で法子を見る。

「--け、警察を…!」
松森先生は襲われそうになり、
たちまちスマホを取り出して、
110に連絡を入れるー。

「もしもし…!」

ーー松森先生は、連絡が警察に繋がった安心感で
突然”楽しく”なったー。

「--ふふ…」

笑い出す松森先生。

「あはは…あは…なんだろう…なんか、たのしぃ♡」

「--先生?」
孝敏がおびえた様子で松森先生を見る。

「うふふふ…あはははははははは~
 あ~~~~ははははははははははは!!」

スマホをその場に放り投げて
手を広げて笑い出す松森先生。

「--あらら…」
法子は笑う。

お茶に、浩二が用意した薬を入れて
おいたのだ。

「あはははははは!孝敏く~~~ん!
 ふふふふふ、ぷぷっ!ひゃはははははははは!」

笑い転がる松森先生。

玄関先から、松森先生を押し飛ばすと、
彼女は両手を羽根のよういに広げて
大笑いしながらー
”飛び去って行った”。

「--孝敏?駄目じゃない。
 ヒトに言いつけたりしたら」

法子が孝敏を睨む。

あまりの恐怖に孝敏は、
おもらしをして、その場に座り込んだ。

「--誰かに言ったら、
 松森先生みたく、みんな”楽しく”なっちゃうよ?
 それでもいいの?」

法子が脅すようにして言うと、
孝敏は、震えあがったー。

「ぼ、、、、ぼ、、、ぼくは…」
涙を流しながら震える孝敏。

「--いい子ね」
法子は、”脅し”が効いたと判断して
孝敏の頭を優しくなでた。

「余計なことしないで、
 あなたは普通にしてなさいー」

「……う、、、、、うん…」

孝敏は諦めたー
母親を取り戻すことをー。

母親に何があったのかは分からない。
けれど、もうこれは母親じゃないー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

夜ー。

孝敏は”お茶”を手にしていたー。

松森先生が飲まされたお茶を…。

母親が寝ている部屋に忍び足で入る孝敏。
金髪男と、母親が寝ている。

二人とも裸で、だらしなく抱き合って、
口で息をしながらいびきをかいていた。

「---ごめん…ママ」

孝敏は、二人の開いている口に、
お茶を流しこんだ…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

警察が近所の通報を受けて、
西井家に突入したー。

夜になっても大声で笑っていて、
近所迷惑だと。

警官が突入するとー、
リビングで服を脱ぎ捨てて大声で笑い続けている法子と、
風呂場付近でもがくように笑い続けている金髪男の浩二を発見した。

そしてーー
2階では、まだ小学1年生の小さな子が、
嬉しそうに大笑いしていたー。

原因は不明ー
病院に運び込まれた3人は、
笑うのをやめることはなかったー。

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前の日の夜ー。

孝敏は、”ママ”と”わるもの”に
特殊な薬のは言ったお茶を流し込んだ。

きっと二人は、まもなく松森先生と同じ運命をたどるー。

そしてーー
「ママ…僕も一緒に…」

孝敏は涙を流した。

また、ママと一緒に笑いたいー。
その願いから、孝敏は、残ったお茶を、
自らの意思でー
飲み干した…。

おわり

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コメント

無事に完結できました!
目の体調不良のため、明日検査予定です!
明日の小説は書置きなので普通に投稿されますが
明後日以降は、何とも言えません…
検査で何事も無い事を祈ります!

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