<憑依>バレンタインの悪夢①~善意~

モテない男子高校生ー。

彼は、嘆くクラスメイトたちを見て決意する。
ひょんなことで手に入れた「憑依薬」を使い、
クラスで一番可愛い子に憑依して、
チョコを配ると。

全ては、みんなの笑顔のためにー。

しかし…
その決断が悪夢を呼ぶことになる。

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神木 譲治(かみき じょうじ)は、
昼休み、いつものように弁当を食べていた。

「明後日のバレンタイン 俺はどうせ0個だぜ~!」

「バレンタインなんてチョコメーカーの陰謀だろ!」

「俺はバレンタインのガチャ回すからいいもんね~!」

いろんな声が聞こえてくる。
譲治は「僕も0個だよ」とつぶやく。

そう言えば、生まれてこのかた、チョコなんて
貰ったことがない。

「--神木くん、どうしたの?ぼーっとして…」

ふと声をかけられた。

そこには可愛らしい容姿の女子高生…
クラスの中で一番可愛い…とよく言われる
堀本 亜津美(ほりもと あつみ)が立っていた。

「--え、いや、ほら…
 みんな、またバレンタインどうこう話してるな~って」

「--あ~そうだね。明後日だもんね」
亜津美が笑う。

「---神木君はさ、
 誰かから本命チョコとか、貰うの?」

亜津美の質問に、
譲治は少し腹が立った。

「も、貰えるわけないんじゃんか!
 僕、いつも端っこにいるようなタイプだし!」

譲治が言うと、
亜津美が少し微笑んだ。

「--そっか。ごめんね、変なこと聞いて」

そう言うと、亜津美は立ち去って行った。

「--なんだよぉ、変なこと聞いて!」
譲治がすねた様子で呟いた。

彼氏いそうな子はいいよな!と、
心の中で毒づいた。

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放課後。

譲治は一つの決意をしていた。
譲治のいるC組は、モテナイ男子たちが多い。

クラスの8割がチョコ0個だ。

去年は隣のクラスの”王子”のあだ名を持つアホが、
チョコの山を持って自慢しに来たため、
つまみだされるという珍事もあった。

「---僕たちにだって、
 バレンタインを楽しむ資格はあるはずだ」

譲治はそう言うと、
ポケットからとある容器を取り出した。

「---そうだ…僕がやらないで誰がやる」
譲治は容器を見ながら呟く。

そこにはーー
”憑依薬”と書かれていた。

「---2日だけ、2日間だけ、、
 からだを借りるよ…」
譲治は、そう呟いた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日、2月13日の朝。

「よしっ!今日もがんばろっ!」
髪型を整えて、鏡の前でほほ笑む亜津美。

制服もいつものようにちゃんと着こなして、
玄関に向かおうとしたその時だった。

ズルっ…

「---??」
からだの中に何かが入り込んでくるような
不気味な気配を感じた。

「---え…?」
ふと、口元を見ると、そこに”魂”のような
不気味な浮遊する物体が目に入った。

「な、、なにこれ!?」
叫んだ瞬間、霊体は亜津美の口の中に
入り込んでいく。

「きゃ…う・・・うぐっ・・がっ、あっ…あっ」
無理やり口をこじ開けられ、
その中に霊体が入っていく。

亜津美はたまらず、洗面所で膝をつき、
喉を抑えてうずくまってしまう。

「---あ・・・あ・・・」
亜津美が声にならない声を絞り出している。

「---亜津美?大丈夫?」
台所から母親の声が聞こえた。

「------」
亜津美はしばらく黙っていたが、
すぐに、笑みを浮かべた。

自分のスカートから覗く足を見つめながら
「うん、大丈夫・・・」とつぶやいた…。

「---ーーやった…
 本当に、、本当に憑依できた」

鏡を見ると、そこには可愛らしい少女の顔が映った。

「うわぁ…堀本さんだぁ…」
顔をベタベタ触りながら微笑む亜津美…

「わ…わ…」
顔を真っ赤にしながら鏡を見つめる。

「---わ、、、わたしは、、堀本 亜津美…」
自分の名前を言っただけのはずなのに
顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにする亜津美

「ふ、、ふふふ…だ、、だめ…!
 恥ずかしくておかしくなっちゃうよ…!」

亜津美はそう言うと、そのまま足早に家から飛び出した。

長い髪の感触。
下を見下すとどうしても目に入ってしまう胸のふくらみ。
スカートの感触。

どれにもなれなかった。

「うん・・・変な感じ」

そう言って口元を触る。

「こ、、こんな声が僕の声なんて…」
そう呟いてから、ハッとした様子で喉を調整する。

「---コホン、、
 だめ…。堀本さんに迷惑はかけられない。
 僕はただ、みんなにチョコを配るだけ」

そう言うと、
”今日と明日は堀本 亜津美になりきらないと”と
心の中で呟いてから微笑んだ。

「わたしは亜津美ー。」

そう言うと、顔を少し赤らめて、亜津美は学校へと向かった。

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教室では相変わらず、男子たちが
明日のバレンタインどうこう言っている。

「---女の子って大変だなぁ…」
亜津美は、さっきお手洗いに行ったときに、
勝手が分からず、少し制服を汚してしまった。

それに、なんだかスカートは落ち着かない。
足がイスに触れたり、ひんやりとして
気持ち悪い。

「--はぁ、何でこんなヒラヒラしたもの
 穿いてるんだろ…」

亜津美はそう呟きながら、
教室の前を見つめた。

変な事をするつもりはない。
ただ、チョコを配るだけだ。

「…あのさ」
亜津美は、普段の亜津美の素振りをなるべくまねて
一人の女子生徒に話しかけた。

綾瀬 史子(あやせ ふみこ)。
お菓子作りが趣味な子で、亜津美とも仲が良い。

「---今日、、チョコ作ったりする?」
亜津美が尋ねると、
史子が「うん。毎年作ってるからね」と笑う。

「--わたしも、一緒に作らせてもらっていいかな?」
と亜津美が言うと、史子が笑った。

「ふふ、どうしたの?
 元々その約束でしょ?」

史子の言葉に亜津美は「え?」と声を出す。

「先週、約束したじゃん!
 もう忘れたの?」

笑いながら史子が続ける。

「今年は”本命チョコ”作るって言ってたでしょ?
 亜津美、あんまりお菓子作り得意じゃないから
 「なら私が教えてあげるって!」約束したじゃない」

史子の言葉に

「あ、あ、そうだったね」とほほ笑む亜津美。

いけないいけない。
まさかそんな約束してたなんて…。

今日と明日はーー
自分の体ーー、つまり神木 譲治は欠席だ。

親はうま~く誤魔化してある。

「---じゃ、よろしくね」

クラスのみんなに亜津美の手作りチョコレートを
プレゼントする、そういう計画だ。

みんなのバレンタインデーが少しでも
良いものになれば…

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放課後。

史子の家を訪れた亜津美は、
一緒にチョコを作っていた。

「あれ~亜津美、そんな手、不器用だったっけ?」
チョコを作りながら、笑う史子。

「え~~ぼ…、、わ、私は前からこんなものよ…」
ついついいつもの口調が出てきそうになる。
気を付けないと…。

「--本命チョコ渡すの初めてって言ってたよね?」
史子がそう言うので、
とりあえず亜津美は「うん」と答えた。

「上手く行くといいね!」
史子の笑みー。

”本命”を誰にあげるのか知りたい

そう思った亜津美。
でも、聞いたら変に思われる。

「でもさーー」
史子が口を開く

「今日、”アイツ”休みだったよね。
 明日来るのかな?」

史子の言葉に、亜津美は首をかしげる。

「あいつって…?」

もしかして…と
亜津美の中に憑依している譲治は、心臓がバクバク言っていた。

それに影響されて、亜津美の心臓もバクバク言っている。

「--何言ってんのよ。
 神木くんに告白するって言ってたじゃない」

史子がほほ笑む。

「え…えぇ~~~~~~~~~~~~!?」
亜津美は思わず叫んでしまった。

神木とは…
僕だ…。

「~~~~~~~!!!」
顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしている亜津美を見て
史子は「どしたの?」と呆れ顔で尋ねる。

でも、顔の赤みが止まらない。

「ちょ、ちょっとお手洗いに!」
亜津美はその場から走り去る。

そして、洗面所で一人恥ずかしそうに顔を真っ赤にして
もじもじしていた。

「きゅ、急にびっくりさせないでよヤダな…
 僕に告白なんて…」

笑みがこぼれる。
顔が真っ赤になったまま戻らない。

「あぁ…ふふ・・・あぁああ・・・まさか堀本さんが僕を…
 ふぇええええ」

だらしない顔でニヤニヤしている亜津美。

「---でも…
 明日まで憑依してたらぼく…もらえないじゃん!」

そう一人、突っ込むと、
深呼吸して、史子の方に戻った。

全ては、チョコを配る為。

亜津美から、手作りチョコを貰えば、
男子のみんなも喜んでくれるだろう…。

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チョコづくりを終えて、自宅にチョコを持ち帰った亜津美。

膝上ちょっと上のスカートと、セーター姿で、
部屋でのんびりしていた。

この憑依薬は、寝ている間に憑依から抜け出すことで、
憑依されている間の記憶も適当に調整してくれて、
本人が不自然に思わないようにしてくれる力も持つ、
大変便利な薬だった。

だがー
欠点として、一度この憑依薬で憑依された人間には
「抵抗」が出来てしまい、2度と憑依できない、という特性があった。

だから、譲治は今日の夜はずっと、亜津美のからだで過ごす
必要があった。

変なことはしないー

そのつもりだった。

けれどーー
亜津美が自分のことを好きだと知ってしまった。

鏡の前に立って顔を赤らめる亜津美。

「---かみき…くん」
真っ赤になる顔。

でも、亜津美は続けた。

「神木君…わたし、、、あなたのこと・・・
 ずっと、、好きだったの…」

お願いするようなポーズを作り、
あざとく鏡の前で言う亜津美。

「--あぁ…ダメだ…
 も、、、もう我慢できないよ…」
亜津美はそう言うと、鏡の方に近寄って行って
鏡の中の自分にキスをした。

「あぁ…堀本さん~~!!
 あぁ…僕も、僕も大好きだ!!

 わたしも!!わたしもよ!神木くん!
 わたしを…わたしをだいて♡」

一人二役を始める亜津美。

そのまま興奮のあまり、
自分のからだを強く抱きしめて。
床を転がりまわった。

「うふふふふふ神木くん!!
 だいすき!!!だいすき♡ だいすきぃ♡!!」

もはや自分が譲治なのか、
亜津美なのかも分からなかった。

「僕も、、僕も大好き!
 堀本さん…ううん…あつみ!!!」

そう言うと、
亜津美は、激しく声をあげた。

「うぁあああああああん♡ さいこう!!!
 あつみ!!!あつみ!!!
 ぼくが下の名前で呼べるなんて!!
 亜津美♡ あつみぃ♡」

自分の体を抱いたまま
ゴロゴロ床を転がる亜津美。

「--あぁ、わたしは、、わたしは♡
 あつみ♡ あつみ♡ ~~!」

そして、たまらず服を脱ぎ捨てて、
からだを鏡の前にさらす。

「あぁあああん♡ きれい♡ きれい♡
 あつみ、、きれいだよ♡ わたし、、きれい♡」

自分はーー譲治??
それともーー亜津美ー??

境界線は揺らぎ、
悲劇が起きようとしていた・・・。

②へ続く

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コメント

もうすぐバレンタインデーなので、
バレンタインデー題材の小説を書いてみました!

比較的優しい流れに見えますね^^
(今のところは!)

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