モテない男子高校生ー。
彼は、嘆くクラスメイトたちを見て決意する。
ひょんなことで手に入れた「憑依薬」を使い、
クラスで一番可愛い子に憑依して、
チョコを配ると。
全ては、みんなの笑顔のためにー。
しかし…
その決断が悪夢を呼ぶことになる。
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神木 譲治(かみき じょうじ)は、
昼休み、いつものように弁当を食べていた。
「明後日のバレンタイン 俺はどうせ0個だぜ~!」
「バレンタインなんてチョコメーカーの陰謀だろ!」
「俺はバレンタインのガチャ回すからいいもんね~!」
いろんな声が聞こえてくる。
譲治は「僕も0個だよ」とつぶやく。
そう言えば、生まれてこのかた、チョコなんて
貰ったことがない。
「--神木くん、どうしたの?ぼーっとして…」
ふと声をかけられた。
そこには可愛らしい容姿の女子高生…
クラスの中で一番可愛い…とよく言われる
堀本 亜津美(ほりもと あつみ)が立っていた。
「--え、いや、ほら…
みんな、またバレンタインどうこう話してるな~って」
「--あ~そうだね。明後日だもんね」
亜津美が笑う。
「---神木君はさ、
誰かから本命チョコとか、貰うの?」
亜津美の質問に、
譲治は少し腹が立った。
「も、貰えるわけないんじゃんか!
僕、いつも端っこにいるようなタイプだし!」
譲治が言うと、
亜津美が少し微笑んだ。
「--そっか。ごめんね、変なこと聞いて」
そう言うと、亜津美は立ち去って行った。
「--なんだよぉ、変なこと聞いて!」
譲治がすねた様子で呟いた。
彼氏いそうな子はいいよな!と、
心の中で毒づいた。
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放課後。
譲治は一つの決意をしていた。
譲治のいるC組は、モテナイ男子たちが多い。
クラスの8割がチョコ0個だ。
去年は隣のクラスの”王子”のあだ名を持つアホが、
チョコの山を持って自慢しに来たため、
つまみだされるという珍事もあった。
「---僕たちにだって、
バレンタインを楽しむ資格はあるはずだ」
譲治はそう言うと、
ポケットからとある容器を取り出した。
「---そうだ…僕がやらないで誰がやる」
譲治は容器を見ながら呟く。
そこにはーー
”憑依薬”と書かれていた。
「---2日だけ、2日間だけ、、
からだを借りるよ…」
譲治は、そう呟いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日、2月13日の朝。
「よしっ!今日もがんばろっ!」
髪型を整えて、鏡の前でほほ笑む亜津美。
制服もいつものようにちゃんと着こなして、
玄関に向かおうとしたその時だった。
ズルっ…
「---??」
からだの中に何かが入り込んでくるような
不気味な気配を感じた。
「---え…?」
ふと、口元を見ると、そこに”魂”のような
不気味な浮遊する物体が目に入った。
「な、、なにこれ!?」
叫んだ瞬間、霊体は亜津美の口の中に
入り込んでいく。
「きゃ…う・・・うぐっ・・がっ、あっ…あっ」
無理やり口をこじ開けられ、
その中に霊体が入っていく。
亜津美はたまらず、洗面所で膝をつき、
喉を抑えてうずくまってしまう。
「---あ・・・あ・・・」
亜津美が声にならない声を絞り出している。
「---亜津美?大丈夫?」
台所から母親の声が聞こえた。
「------」
亜津美はしばらく黙っていたが、
すぐに、笑みを浮かべた。
自分のスカートから覗く足を見つめながら
「うん、大丈夫・・・」とつぶやいた…。
「---ーーやった…
本当に、、本当に憑依できた」
鏡を見ると、そこには可愛らしい少女の顔が映った。
「うわぁ…堀本さんだぁ…」
顔をベタベタ触りながら微笑む亜津美…
「わ…わ…」
顔を真っ赤にしながら鏡を見つめる。
「---わ、、、わたしは、、堀本 亜津美…」
自分の名前を言っただけのはずなのに
顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにする亜津美
「ふ、、ふふふ…だ、、だめ…!
恥ずかしくておかしくなっちゃうよ…!」
亜津美はそう言うと、そのまま足早に家から飛び出した。
長い髪の感触。
下を見下すとどうしても目に入ってしまう胸のふくらみ。
スカートの感触。
どれにもなれなかった。
「うん・・・変な感じ」
そう言って口元を触る。
「こ、、こんな声が僕の声なんて…」
そう呟いてから、ハッとした様子で喉を調整する。
「---コホン、、
だめ…。堀本さんに迷惑はかけられない。
僕はただ、みんなにチョコを配るだけ」
そう言うと、
”今日と明日は堀本 亜津美になりきらないと”と
心の中で呟いてから微笑んだ。
「わたしは亜津美ー。」
そう言うと、顔を少し赤らめて、亜津美は学校へと向かった。
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教室では相変わらず、男子たちが
明日のバレンタインどうこう言っている。
「---女の子って大変だなぁ…」
亜津美は、さっきお手洗いに行ったときに、
勝手が分からず、少し制服を汚してしまった。
それに、なんだかスカートは落ち着かない。
足がイスに触れたり、ひんやりとして
気持ち悪い。
「--はぁ、何でこんなヒラヒラしたもの
穿いてるんだろ…」
亜津美はそう呟きながら、
教室の前を見つめた。
変な事をするつもりはない。
ただ、チョコを配るだけだ。
「…あのさ」
亜津美は、普段の亜津美の素振りをなるべくまねて
一人の女子生徒に話しかけた。
綾瀬 史子(あやせ ふみこ)。
お菓子作りが趣味な子で、亜津美とも仲が良い。
「---今日、、チョコ作ったりする?」
亜津美が尋ねると、
史子が「うん。毎年作ってるからね」と笑う。
「--わたしも、一緒に作らせてもらっていいかな?」
と亜津美が言うと、史子が笑った。
「ふふ、どうしたの?
元々その約束でしょ?」
史子の言葉に亜津美は「え?」と声を出す。
「先週、約束したじゃん!
もう忘れたの?」
笑いながら史子が続ける。
「今年は”本命チョコ”作るって言ってたでしょ?
亜津美、あんまりお菓子作り得意じゃないから
「なら私が教えてあげるって!」約束したじゃない」
史子の言葉に
「あ、あ、そうだったね」とほほ笑む亜津美。
いけないいけない。
まさかそんな約束してたなんて…。
今日と明日はーー
自分の体ーー、つまり神木 譲治は欠席だ。
親はうま~く誤魔化してある。
「---じゃ、よろしくね」
クラスのみんなに亜津美の手作りチョコレートを
プレゼントする、そういう計画だ。
みんなのバレンタインデーが少しでも
良いものになれば…
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放課後。
史子の家を訪れた亜津美は、
一緒にチョコを作っていた。
「あれ~亜津美、そんな手、不器用だったっけ?」
チョコを作りながら、笑う史子。
「え~~ぼ…、、わ、私は前からこんなものよ…」
ついついいつもの口調が出てきそうになる。
気を付けないと…。
「--本命チョコ渡すの初めてって言ってたよね?」
史子がそう言うので、
とりあえず亜津美は「うん」と答えた。
「上手く行くといいね!」
史子の笑みー。
”本命”を誰にあげるのか知りたい
そう思った亜津美。
でも、聞いたら変に思われる。
「でもさーー」
史子が口を開く
「今日、”アイツ”休みだったよね。
明日来るのかな?」
史子の言葉に、亜津美は首をかしげる。
「あいつって…?」
もしかして…と
亜津美の中に憑依している譲治は、心臓がバクバク言っていた。
それに影響されて、亜津美の心臓もバクバク言っている。
「--何言ってんのよ。
神木くんに告白するって言ってたじゃない」
史子がほほ笑む。
「え…えぇ~~~~~~~~~~~~!?」
亜津美は思わず叫んでしまった。
神木とは…
僕だ…。
「~~~~~~~!!!」
顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしている亜津美を見て
史子は「どしたの?」と呆れ顔で尋ねる。
でも、顔の赤みが止まらない。
「ちょ、ちょっとお手洗いに!」
亜津美はその場から走り去る。
そして、洗面所で一人恥ずかしそうに顔を真っ赤にして
もじもじしていた。
「きゅ、急にびっくりさせないでよヤダな…
僕に告白なんて…」
笑みがこぼれる。
顔が真っ赤になったまま戻らない。
「あぁ…ふふ・・・あぁああ・・・まさか堀本さんが僕を…
ふぇええええ」
だらしない顔でニヤニヤしている亜津美。
「---でも…
明日まで憑依してたらぼく…もらえないじゃん!」
そう一人、突っ込むと、
深呼吸して、史子の方に戻った。
全ては、チョコを配る為。
亜津美から、手作りチョコを貰えば、
男子のみんなも喜んでくれるだろう…。
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チョコづくりを終えて、自宅にチョコを持ち帰った亜津美。
膝上ちょっと上のスカートと、セーター姿で、
部屋でのんびりしていた。
この憑依薬は、寝ている間に憑依から抜け出すことで、
憑依されている間の記憶も適当に調整してくれて、
本人が不自然に思わないようにしてくれる力も持つ、
大変便利な薬だった。
だがー
欠点として、一度この憑依薬で憑依された人間には
「抵抗」が出来てしまい、2度と憑依できない、という特性があった。
だから、譲治は今日の夜はずっと、亜津美のからだで過ごす
必要があった。
変なことはしないー
そのつもりだった。
けれどーー
亜津美が自分のことを好きだと知ってしまった。
鏡の前に立って顔を赤らめる亜津美。
「---かみき…くん」
真っ赤になる顔。
でも、亜津美は続けた。
「神木君…わたし、、、あなたのこと・・・
ずっと、、好きだったの…」
お願いするようなポーズを作り、
あざとく鏡の前で言う亜津美。
「--あぁ…ダメだ…
も、、、もう我慢できないよ…」
亜津美はそう言うと、鏡の方に近寄って行って
鏡の中の自分にキスをした。
「あぁ…堀本さん~~!!
あぁ…僕も、僕も大好きだ!!
わたしも!!わたしもよ!神木くん!
わたしを…わたしをだいて♡」
一人二役を始める亜津美。
そのまま興奮のあまり、
自分のからだを強く抱きしめて。
床を転がりまわった。
「うふふふふふ神木くん!!
だいすき!!!だいすき♡ だいすきぃ♡!!」
もはや自分が譲治なのか、
亜津美なのかも分からなかった。
「僕も、、僕も大好き!
堀本さん…ううん…あつみ!!!」
そう言うと、
亜津美は、激しく声をあげた。
「うぁあああああああん♡ さいこう!!!
あつみ!!!あつみ!!!
ぼくが下の名前で呼べるなんて!!
亜津美♡ あつみぃ♡」
自分の体を抱いたまま
ゴロゴロ床を転がる亜津美。
「--あぁ、わたしは、、わたしは♡
あつみ♡ あつみ♡ ~~!」
そして、たまらず服を脱ぎ捨てて、
からだを鏡の前にさらす。
「あぁあああん♡ きれい♡ きれい♡
あつみ、、きれいだよ♡ わたし、、きれい♡」
自分はーー譲治??
それともーー亜津美ー??
境界線は揺らぎ、
悲劇が起きようとしていた・・・。
②へ続く
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コメント
もうすぐバレンタインデーなので、
バレンタインデー題材の小説を書いてみました!
比較的優しい流れに見えますね^^
(今のところは!)
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