<皮>君のことが大好きだから②~愛~(完)

信頼していたバイト先の先輩女子大生と、
姉が、”皮”にされていた。

その事実を知った菜穂…。

そして、さらなる恐怖が菜穂を襲う…。

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力なく床に横たわる2つの”皮”

姉の克美と、バイト先の先輩女子大生・麗子。

二人とも、うつろな目…
いや、もはや生気などない目で床に横たわっていた。

力無く、ペラペラに…。

そして、後頭部から背中にかけて、大穴を開けて。

「--ひっ……」
菜穂はただ、恐怖に表情をゆがめるしかなかった。

男は笑う。

「俺さ…ある日、”人を皮にする力”を手に入れたんだよ。
 ヒトに手をかざすことで、その人を皮にして、
 俺が着こむことで、その人になることができる。」

男ー、皮野が笑いながら説明を続ける。

「--パン屋に行ったとき、
 この子に惚れたんだ…麗子ちゃんにな。
 一目ぼれさ。

 そして、俺はバイト後に帰宅中の彼女を背後から襲い
 ”皮”にした」

皮野が笑いながら言う。

菜穂はただ、身を震わせている。

「--この子、皮にされる直前言ってたよ…。
 ”わたしには病弱なお母さんがいるんです…
  お願いですから助けてください” って…

 美しかったぜ?徐々に、自分の夢が奪われていく様…
 皮になって、自由が奪われていく様。
 
 今じゃあ、麗子ちゃんは俺の大切な皮の一つだ!」

そう言うと、男は再び、麗子の皮を手につかみ、
その中に入っていく。

「……う、、うそ…こんなの嘘よ!」
菜穂が叫ぶ。

あまりに非現実的な光景を目の当たりにして、
菜穂は現実を受け入れることができなかった。

ファスナーを上げる音が聞こえる。

「ふふっ…どこからどうみても高木 麗子よね♡」

体をクネクネさせながら色っぽくポーズをとっている麗子。

「わたしには病弱なお母さんがいるんです…
  お願いですから助けてください!」

目を潤ませながら、そう叫ぶ麗子。

「~~~な~んて言う風に命乞いしてたの!
 うっふふふふ♡
 いまじゃ、わたし、こ~んなに嬉しそうにしてるのに!」

震える菜穂。

麗子がニヤリと笑みを浮かべて続けた。

「---さっきの話の続き。

 麗子ちゃんを”着た”わたしはね…
 ずっと麗子ちゃんとして生きていくつもりだった。

 でも…
 そんな時にあなたがパン屋にアルバイトとして入ってきた」

菜穂が怯えながら麗子を見る。

「わたしね…
 素直に私の言うことを聞いて、仕事をどんどん覚えていく
 菜穂ちゃんのことがだいすきになったの!
 うふふ♡

 …だいすきだからこそ、素のあなたをずっとそばで
 見ていたかった。

 だ・か・ら♡」

麗子が菜穂の姉・克美の皮をつかむ。

ぶらぶらと、力なく、垂れ下がる克美。

「---あなたといつも一緒に居れるように
 お姉さんのことも皮にしちゃったの! あはははは!」

「うそ…」
菜穂が絶望した表情でつぶやく。

「---あなたがバイトに行く直前になったら、
 わたしはここで、麗子の皮を着る。
 あなたがバイトを終えたら、あなたが家に帰るまでに
 わたしは麗子を脱ぎ捨てて、あなたのお姉さんの克美の皮を着る」

麗子が笑いながら語る。

「--あなたとはずっと一緒。
 あなたが移動するたびに、わたしはあなたと一緒にいる
 女に着替えていたの…くふふふふっ♡」

麗子が胸を触りながら笑う。

「---うそ…お姉ちゃん!お姉ちゃん!
 しっかりしてよ!」

皮となった克美をつかんで叫ぶ菜穂。

人の体ではないーーー
もう”皮”なんだとはっきり分かる、
気持ち悪い手触りだった。

「---お姉ちゃんを元に戻して!」
菜穂が泣き叫ぶ。

だが、麗子は首を振った。

「”皮”にされた人間の意識がどこに行くのか
 わたしにもわからないの…!

 その中に残ってるかもしれないし、
 もう、心は死んでいるのかもしれない」

麗子の言葉に菜穂は怒気をこめて
泣き叫んだ。

「ふざけないで!お姉ちゃんはどうなったの!?」

目の前に横たわる姉・克美の皮。
姉の心は今、どこにー?

「--知らないわよ。そんなの私の管轄外だから」

そう言うと、麗子は奥の棚の方に歩いていく。

菜穂は思うー。
恐らく姉が突然”公務員”をやめて、在宅で仕事をし始めたあのころー
きっと、あのころ”皮”にされたんだとー。

どうして、気づけなかったのだろう…。

あんなに公務員の仕事が好きだった姉が、辞めるはずなんてないのに…。

在宅の仕事に変えたのは、
他の人の皮を着ている間、姿を消しても不自然に思われないためだろう。

「--ねぇ、菜穂ちゃん…
 わたし、”いつでもあなたと一緒”って言ったよね」

別の女性の声が聞こえた。
クローゼットから姿を見せたその女性はーーー

菜穂もよく知る人間だったーーーー。

「み…美来ちゃ・・・ん?」

ミニスカート姿の、、
高校のクラスメイト・佐川美来の姿がそこにはあった。

いつも学校で楽しく話をしているーー。

「うふふ♡、ごめんね~!菜穂ちゃん!
 わたしも皮にされちゃったの~うふふ♡」

美来がふざけた様子で言う。

「う…嘘…嘘よ!」
菜穂が叫ぶーーー。

だがーー

美来は”最近、部活を突然辞めているー”

美来が笑みを浮かべる。

「ちょっと前にね、、裏路地に追い詰めて、美来ちゃん
 皮にしちゃったの!
 うふふふ♡
 女子高生は初めてだったけど、やっぱり若いっていいねぇ♡」

自分の太ももをまじまじと見つめながら笑う美来。

「--あ、そうそう、わたしが大好きだった部活を
 やめたのは、菜穂ちゃんとずっと一緒にいるためだよ!

 菜穂ちゃんが家に帰る前に、わたしを脱いで、
 お姉さんの克美に着替えて、菜穂ちゃんが家に
 帰る前に、家に戻ってたの!

 うっふふふふ♡
 どう?早業でしょ~?」

美来が得意げな表情で言う。

「うそ…うそよ…」
菜穂が力無く、その場に泣き崩れる。

男はー、
学校の時間は、親友の美来の皮を着て、
家にいる時間は、姉の克美の皮を着て、
バイトの時間は、先輩の麗子の皮を着て、
1日中、菜穂のそばにいたのだ。

「--ふふっ♡
 わたしも、克美も、麗子も!
 あなたと一緒にいるために皮にされちゃった!
 えへっ♡」

舌を出して悪戯っぽく笑う美来。

「本当はずっと、ばれたくなかったんだけど、
 菜穂ちゃん、バイトの時間1時間遅らせてたんだね。
 気づかなかった。」

菜穂はー、
姉・克美の在宅ワークが何かを知りたいばかりに、
店長に「学校行事」とウソをついて、1時間バイトの時間を
遅らせていた。

店長と1:1で相談したため、
”麗子”としてバイト先に居た男は、そのことに気付けなかった。

それ故、いつものように、菜穂が家を出て、バイト先に
つくまでの間に、克美の体で男の自宅に戻り、
克美を脱いで、麗子を着て、バイクでバイト先に向かう予定だった。

けれどー。

姉・克美を尾行してきた菜穂に、
ばれてしまった。

「----しょうがないなぁ…もう」
美来が言う。

「ばれちゃったから…しょうがないなぁ…

 そうそう、さっき菜穂ちゃん、
 ”皮”になった人間はどうなるのか?って
 わたしに聞いたよね?

 ーー今から、その身で、分からせてあげるー」

そう言うと美来が邪悪な笑みを浮かべて
菜穂の方に近づいてきた。

「いやっ!来ないで!美来ちゃん!
 お願い!目を覚まして!」

皮になった美来に叫ぶ菜穂ー。
だが、無駄だった。

「いやああああ!」
菜穂がパニックを起こして、男の家の廊下に飛び出す。

そしてーー
とにかくどこかに隠れようと手近な部屋に飛び込んだ。

しかしーー
そこはーーー

「ひっ…」
菜穂が涙を浮かべる。

部屋中にーー
菜穂の写真が貼ってあったーーー。

学校の写真ー

バイト中の写真ーー

家での写真ーーー

そういえば…
よく姉の克美も、親友の美来も、バイト先輩の麗子もーー
菜穂の写真を撮っていたーーー

「--うふふ♡
 菜穂・・・怖がらないの」

姉の克美の声がした。

今度は克美の皮を身に着けたようだ。

「--や…や…来ないで!来ないで!」

「怖がらなくていいのよ。菜穂。
 お姉ちゃんだって、皮になったんだから」

笑う克美。

「---いやあああああああ!」
菜穂が克美に突進して、克美が吹き飛ばされる。

「---くっ・・・くそがぁああああ!」
克美が荒々しく叫ぶと、男は克美の皮を脱ぎ捨てた。

意思なく、克美が床に横たわる。

そして、
男は、菜穂の背中に手をかざした。

「あ・・・・・・」
菜穂の動きが止まる。

「さぁーーくくく、、
 俺が、菜穂ちゃんになるよ…
 菜穂ちゃんは、俺が着るよ…くくく」

男がそう言うと、
菜穂は後頭部に不気味な違和感を感じた。

「---う……い…いやだ…」

違和感はより鮮明なものになる。

そして、ファスナーを降ろす音が聞こえ始めた

「・・・(あ・・・・・・こ、、、声がでない・・・たすけて・・・)」

後頭部の感覚が無くなる。

ファスナーが降りるにつれて、感覚がなくなる。

視界がなくなるー
音も聞こえなくなるー
声もーー。

菜穂は懸命に足をばたつかせた。

けれどーー

男がファスナーを勢いよく下まで降ろす”感触”がしたー

「---(------や…)」

菜穂の意識は、そこで途切れたーー。

ファスナーで自分が開かれる感覚ー。
それが、菜穂が最後に味わった感触だった。

「---」
皮になった菜穂を見つめる皮野は呟いた。

「美しい…」

皮になった菜穂をなぞるようにして
撫で回した。

そしてーー

それを身につけた…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「遅いわねぇ…」

菜穂の母親が心配そうに時計を見る。

バイトはもう終わっているはずなのに、菜穂が帰ってこない。

在宅ワークの姉・克美も、いつも帰ってくる時間に帰ってこない。

母がため息をついた、
その時だった。

「---ただいま~!
 ごめん、お母さん!遅れちゃった♡」

菜穂がとても嬉しそうに笑う。

「あら、何かいいことでもあったの?」
母が尋ねると、菜穂は満面の笑みでほほ笑んだ。

「うん♡ とってもいいことあったの!うふふ!」

そう言うと、菜穂は嬉しそうに部屋の方に
駆け込んでいった。

後日ーーー

姉・克美の水死体が発見された。

皮を2つ同時に着こむことはできない。

だからーーー。
男は”破棄”した。

姉妹のうちの一人がいなくなれば当然騒ぎになる。
面倒だから、事故死ということで、幕引きを図ったのだ。

案の定、姉の克美は、事故死で処理されたー。

バイト先の、麗子は”失踪”した。
元々一人暮らしだから騒ぎにはならない。

親友の美来は、家出する、という書置きを残して、
世の中から姿を消したー。

もう、”あの3人の皮”は必要ないー。

自分が、菜穂になったのだから。

菜穂は、鏡の前に立って、ほほ笑んだ。

「わたしはー、村野 菜穂。
 ふふふふふ…♡」

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

皮モノに初挑戦してみました!
皮モノとして上手く書けているかは分かりませんが、
無事に最後まで書ききれたのでひとまず満足です!

ありがとうございました!

コメント

  1. 匿名 より:

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    管轄外だのとこは、ゼアルのカイトの台詞からとりましたか?

  2. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    > 管轄外だのとこは、ゼアルのカイトの台詞からとりましたか?

    お察しの通りです!笑

  3. 柊菜緒 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    意外と呆気ない幕引きでしたね。

  4. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    > 意外と呆気ない幕引きでしたね。

    もしかすると、
    私の黒い結末に慣れてしまったのかもしれません(笑)