信頼していたバイト先の先輩女子大生と、
姉が、”皮”にされていた。
その事実を知った菜穂…。
そして、さらなる恐怖が菜穂を襲う…。
------------------------------—-
力なく床に横たわる2つの”皮”
姉の克美と、バイト先の先輩女子大生・麗子。
二人とも、うつろな目…
いや、もはや生気などない目で床に横たわっていた。
力無く、ペラペラに…。
そして、後頭部から背中にかけて、大穴を開けて。
「--ひっ……」
菜穂はただ、恐怖に表情をゆがめるしかなかった。
男は笑う。
「俺さ…ある日、”人を皮にする力”を手に入れたんだよ。
ヒトに手をかざすことで、その人を皮にして、
俺が着こむことで、その人になることができる。」
男ー、皮野が笑いながら説明を続ける。
「--パン屋に行ったとき、
この子に惚れたんだ…麗子ちゃんにな。
一目ぼれさ。
そして、俺はバイト後に帰宅中の彼女を背後から襲い
”皮”にした」
皮野が笑いながら言う。
菜穂はただ、身を震わせている。
「--この子、皮にされる直前言ってたよ…。
”わたしには病弱なお母さんがいるんです…
お願いですから助けてください” って…
美しかったぜ?徐々に、自分の夢が奪われていく様…
皮になって、自由が奪われていく様。
今じゃあ、麗子ちゃんは俺の大切な皮の一つだ!」
そう言うと、男は再び、麗子の皮を手につかみ、
その中に入っていく。
「……う、、うそ…こんなの嘘よ!」
菜穂が叫ぶ。
あまりに非現実的な光景を目の当たりにして、
菜穂は現実を受け入れることができなかった。
ファスナーを上げる音が聞こえる。
「ふふっ…どこからどうみても高木 麗子よね♡」
体をクネクネさせながら色っぽくポーズをとっている麗子。
「わたしには病弱なお母さんがいるんです…
お願いですから助けてください!」
目を潤ませながら、そう叫ぶ麗子。
「~~~な~んて言う風に命乞いしてたの!
うっふふふふ♡
いまじゃ、わたし、こ~んなに嬉しそうにしてるのに!」
震える菜穂。
麗子がニヤリと笑みを浮かべて続けた。
「---さっきの話の続き。
麗子ちゃんを”着た”わたしはね…
ずっと麗子ちゃんとして生きていくつもりだった。
でも…
そんな時にあなたがパン屋にアルバイトとして入ってきた」
菜穂が怯えながら麗子を見る。
「わたしね…
素直に私の言うことを聞いて、仕事をどんどん覚えていく
菜穂ちゃんのことがだいすきになったの!
うふふ♡
…だいすきだからこそ、素のあなたをずっとそばで
見ていたかった。
だ・か・ら♡」
麗子が菜穂の姉・克美の皮をつかむ。
ぶらぶらと、力なく、垂れ下がる克美。
「---あなたといつも一緒に居れるように
お姉さんのことも皮にしちゃったの! あはははは!」
「うそ…」
菜穂が絶望した表情でつぶやく。
「---あなたがバイトに行く直前になったら、
わたしはここで、麗子の皮を着る。
あなたがバイトを終えたら、あなたが家に帰るまでに
わたしは麗子を脱ぎ捨てて、あなたのお姉さんの克美の皮を着る」
麗子が笑いながら語る。
「--あなたとはずっと一緒。
あなたが移動するたびに、わたしはあなたと一緒にいる
女に着替えていたの…くふふふふっ♡」
麗子が胸を触りながら笑う。
「---うそ…お姉ちゃん!お姉ちゃん!
しっかりしてよ!」
皮となった克美をつかんで叫ぶ菜穂。
人の体ではないーーー
もう”皮”なんだとはっきり分かる、
気持ち悪い手触りだった。
「---お姉ちゃんを元に戻して!」
菜穂が泣き叫ぶ。
だが、麗子は首を振った。
「”皮”にされた人間の意識がどこに行くのか
わたしにもわからないの…!
その中に残ってるかもしれないし、
もう、心は死んでいるのかもしれない」
麗子の言葉に菜穂は怒気をこめて
泣き叫んだ。
「ふざけないで!お姉ちゃんはどうなったの!?」
目の前に横たわる姉・克美の皮。
姉の心は今、どこにー?
「--知らないわよ。そんなの私の管轄外だから」
そう言うと、麗子は奥の棚の方に歩いていく。
菜穂は思うー。
恐らく姉が突然”公務員”をやめて、在宅で仕事をし始めたあのころー
きっと、あのころ”皮”にされたんだとー。
どうして、気づけなかったのだろう…。
あんなに公務員の仕事が好きだった姉が、辞めるはずなんてないのに…。
在宅の仕事に変えたのは、
他の人の皮を着ている間、姿を消しても不自然に思われないためだろう。
「--ねぇ、菜穂ちゃん…
わたし、”いつでもあなたと一緒”って言ったよね」
別の女性の声が聞こえた。
クローゼットから姿を見せたその女性はーーー
菜穂もよく知る人間だったーーーー。
「み…美来ちゃ・・・ん?」
ミニスカート姿の、、
高校のクラスメイト・佐川美来の姿がそこにはあった。
いつも学校で楽しく話をしているーー。
「うふふ♡、ごめんね~!菜穂ちゃん!
わたしも皮にされちゃったの~うふふ♡」
美来がふざけた様子で言う。
「う…嘘…嘘よ!」
菜穂が叫ぶーーー。
だがーー
美来は”最近、部活を突然辞めているー”
美来が笑みを浮かべる。
「ちょっと前にね、、裏路地に追い詰めて、美来ちゃん
皮にしちゃったの!
うふふふ♡
女子高生は初めてだったけど、やっぱり若いっていいねぇ♡」
自分の太ももをまじまじと見つめながら笑う美来。
「--あ、そうそう、わたしが大好きだった部活を
やめたのは、菜穂ちゃんとずっと一緒にいるためだよ!
菜穂ちゃんが家に帰る前に、わたしを脱いで、
お姉さんの克美に着替えて、菜穂ちゃんが家に
帰る前に、家に戻ってたの!
うっふふふふ♡
どう?早業でしょ~?」
美来が得意げな表情で言う。
「うそ…うそよ…」
菜穂が力無く、その場に泣き崩れる。
男はー、
学校の時間は、親友の美来の皮を着て、
家にいる時間は、姉の克美の皮を着て、
バイトの時間は、先輩の麗子の皮を着て、
1日中、菜穂のそばにいたのだ。
「--ふふっ♡
わたしも、克美も、麗子も!
あなたと一緒にいるために皮にされちゃった!
えへっ♡」
舌を出して悪戯っぽく笑う美来。
「本当はずっと、ばれたくなかったんだけど、
菜穂ちゃん、バイトの時間1時間遅らせてたんだね。
気づかなかった。」
菜穂はー、
姉・克美の在宅ワークが何かを知りたいばかりに、
店長に「学校行事」とウソをついて、1時間バイトの時間を
遅らせていた。
店長と1:1で相談したため、
”麗子”としてバイト先に居た男は、そのことに気付けなかった。
それ故、いつものように、菜穂が家を出て、バイト先に
つくまでの間に、克美の体で男の自宅に戻り、
克美を脱いで、麗子を着て、バイクでバイト先に向かう予定だった。
けれどー。
姉・克美を尾行してきた菜穂に、
ばれてしまった。
「----しょうがないなぁ…もう」
美来が言う。
「ばれちゃったから…しょうがないなぁ…
そうそう、さっき菜穂ちゃん、
”皮”になった人間はどうなるのか?って
わたしに聞いたよね?
ーー今から、その身で、分からせてあげるー」
そう言うと美来が邪悪な笑みを浮かべて
菜穂の方に近づいてきた。
「いやっ!来ないで!美来ちゃん!
お願い!目を覚まして!」
皮になった美来に叫ぶ菜穂ー。
だが、無駄だった。
「いやああああ!」
菜穂がパニックを起こして、男の家の廊下に飛び出す。
そしてーー
とにかくどこかに隠れようと手近な部屋に飛び込んだ。
しかしーー
そこはーーー
「ひっ…」
菜穂が涙を浮かべる。
部屋中にーー
菜穂の写真が貼ってあったーーー。
学校の写真ー
バイト中の写真ーー
家での写真ーーー
そういえば…
よく姉の克美も、親友の美来も、バイト先輩の麗子もーー
菜穂の写真を撮っていたーーー
「--うふふ♡
菜穂・・・怖がらないの」
姉の克美の声がした。
今度は克美の皮を身に着けたようだ。
「--や…や…来ないで!来ないで!」
「怖がらなくていいのよ。菜穂。
お姉ちゃんだって、皮になったんだから」
笑う克美。
「---いやあああああああ!」
菜穂が克美に突進して、克美が吹き飛ばされる。
「---くっ・・・くそがぁああああ!」
克美が荒々しく叫ぶと、男は克美の皮を脱ぎ捨てた。
意思なく、克美が床に横たわる。
そして、
男は、菜穂の背中に手をかざした。
「あ・・・・・・」
菜穂の動きが止まる。
「さぁーーくくく、、
俺が、菜穂ちゃんになるよ…
菜穂ちゃんは、俺が着るよ…くくく」
男がそう言うと、
菜穂は後頭部に不気味な違和感を感じた。
「---う……い…いやだ…」
違和感はより鮮明なものになる。
そして、ファスナーを降ろす音が聞こえ始めた
「・・・(あ・・・・・・こ、、、声がでない・・・たすけて・・・)」
後頭部の感覚が無くなる。
ファスナーが降りるにつれて、感覚がなくなる。
視界がなくなるー
音も聞こえなくなるー
声もーー。
菜穂は懸命に足をばたつかせた。
けれどーー
男がファスナーを勢いよく下まで降ろす”感触”がしたー
「---(------や…)」
菜穂の意識は、そこで途切れたーー。
ファスナーで自分が開かれる感覚ー。
それが、菜穂が最後に味わった感触だった。
「---」
皮になった菜穂を見つめる皮野は呟いた。
「美しい…」
皮になった菜穂をなぞるようにして
撫で回した。
そしてーー
それを身につけた…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「遅いわねぇ…」
菜穂の母親が心配そうに時計を見る。
バイトはもう終わっているはずなのに、菜穂が帰ってこない。
在宅ワークの姉・克美も、いつも帰ってくる時間に帰ってこない。
母がため息をついた、
その時だった。
「---ただいま~!
ごめん、お母さん!遅れちゃった♡」
菜穂がとても嬉しそうに笑う。
「あら、何かいいことでもあったの?」
母が尋ねると、菜穂は満面の笑みでほほ笑んだ。
「うん♡ とってもいいことあったの!うふふ!」
そう言うと、菜穂は嬉しそうに部屋の方に
駆け込んでいった。
後日ーーー
姉・克美の水死体が発見された。
皮を2つ同時に着こむことはできない。
だからーーー。
男は”破棄”した。
姉妹のうちの一人がいなくなれば当然騒ぎになる。
面倒だから、事故死ということで、幕引きを図ったのだ。
案の定、姉の克美は、事故死で処理されたー。
バイト先の、麗子は”失踪”した。
元々一人暮らしだから騒ぎにはならない。
親友の美来は、家出する、という書置きを残して、
世の中から姿を消したー。
もう、”あの3人の皮”は必要ないー。
自分が、菜穂になったのだから。
菜穂は、鏡の前に立って、ほほ笑んだ。
「わたしはー、村野 菜穂。
ふふふふふ…♡」
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
皮モノに初挑戦してみました!
皮モノとして上手く書けているかは分かりませんが、
無事に最後まで書ききれたのでひとまず満足です!
ありがとうございました!
コメント
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
管轄外だのとこは、ゼアルのカイトの台詞からとりましたか?
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
> 管轄外だのとこは、ゼアルのカイトの台詞からとりましたか?
お察しの通りです!笑
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
意外と呆気ない幕引きでしたね。
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
> 意外と呆気ない幕引きでしたね。
もしかすると、
私の黒い結末に慣れてしまったのかもしれません(笑)