検死官ジョー。
日々、悪の魂を憑依させ、その変化を観察する彼は
荒ぶっていた。
そう、12月。
クリスマスが近づいてきたのだ。
検死官ジョーは、クリスマスを前に、あることを決意する。
「悪の魂」と「憑依弁護士」のクリスマス特別版です。
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「くく…12月24日」
検死官ジョーが、部屋のカレンダーを
ワイングラス片手に見つめながら笑う。
「クリスマスケーキ、クリスマスチキン、
彼女とのデート」
ジョーはニヤリと笑う。
「--世の中は愚かなものだ。
クリスマスで儲かる業界の陰謀だというのに、
寒い中、カップル同士で楽しい時間を送る。
まんまと、業界に乗せられているわけだ」
検死官ジョーには、
彼女が居ない。
いつも、悪の魂を憑依させて観察をしているだけだから、
仕方がないと言えば、仕方がない。
彼には出会いが無いのだ。
「--賢い私は、25日の夜にスーパーへ行く。
ケーキやチキンが値下がりしているからな。」
ジョーは部屋の隅に自分で立てた
小さなクリスマスツリーを見て微笑んだ。
「愚民どもー。
私はクリスマスなどに惑わされない。
そう、銅像の如く、
私の心は揺らぐことは無い」
ジョーはそういうと、
一人立ち尽くしてから叫んだ。
「寂しくなんか…」
ジョーは持っていた
ワイングラスをクリスマスツリーのほうに投げて叫んだ。
「寂しくなんか、、、ないもんねーーーー!!!」
ジョーは足を子供のようにジタバタさせて、
悪の魂が保管してある場所へと向かった。
彼はーー
本当は寂しいのだ。
だがーーー
インターホンが鳴った。
「--なんだ、こんな時に?」
ジョーは考える。
きっと、女神がやってきたのだと。
ジョーは微笑みながら玄関の扉をひらいた。
「---こんな夜分に、何の用かな…?」
検死官ジョーが、ワイングラスを手に、
キザな雰囲気で言う。
何故だか知らないが、ジョーには、来訪者が女性である
確信があったのだ。
しかしーーー
目の前に立っていたのは、男だった。
「----誰だ貴様」
ジョーが、面倒くさそうに言う。
「--奥本 丈さんですね?」
男が、薄ら笑みを浮かべて笑う。
奥本丈、本名で呼ばれた。
ジョーの部屋のクリスマスツリーがむなしく輝いている。
彼は一人ぐらしだが、何故か家の中は
クリスマスデコレーションされている。
「・・・・本名で呼ぶな」
ジョーが言う。
「奥本 丈さんですか?」
来訪者の男は、再び聞き返した。
丁寧だが、威圧感がある。
「-----チッ、、、そうだ」
ジョーが言うと、
その男が、名詞を手渡した。
「弁護士の、甘利 卓です」
「---甘利?」
ジョーは記憶を辿る。
裏世界のネットワークにも精通しているジョーは、
その名前を聞いたことがあった。
何でも、彼が担当する裁判では、
時々、とんでもないことが起きるのだとか。
ジョーは、自分同様、
この弁護士が何らかの力を使っていると、憶測していた。
「ーーで、その弁護士が何の用かな」
ジョーがワイングラスに入れたぶどうジュースを飲みながら言う。
すると、甘利は缶コーヒーを手に微笑んだ。
「君の同僚の検死官、舛田という男がね…
君を訴えたんだよ…。
盗難、暴行、痴漢行為などなど…」
甘利の持つ書類を見てジョーは驚く。
「なにっ…私はそんなこと…!」
そこまで言いかけてジョーは言葉を止めた。
同僚の検死官、舛田は、
ジョーの悪の魂による蛮行を知っている。
彼は、それを止めようとしていた。
ジョーを止めるため、舛田は手段を選ばず、
嘘の被害届をまとめあげ、
弁護人として”裏世界で噂”の憑依弁護士、
甘利卓をつけ、
ジョーを罪人に仕立て上げて、悪の魂による蛮行を止めようとしたのだ。
ジョーは、それを悟った。
「くくく…舛田のやつ、強引な手に出たか。
良いだろう。で、裁判はいつだ?」
ジョーが言うと、甘利は缶コーヒーのタブをあけながら答えた。
「明日だー 12月25日。クリスマスの裁判。良いだろう?」
ちょうど別の案件も抱えていた甘利弁護士は、
今回の裁判を速攻で終わらせようとしていた。
関係者への憑依や、思考の書き換えを駆使し、
裁判を明日に設定。
それも、1日で判決がでる
スピード裁判を用意したのだった。
「---くくく」
ジョーが呟く。
「--君は今、クマに戦争を挑んだダンゴ虫の
ような存在だ」
ジョーが笑うと、
甘利弁護士も笑った。
「ふん…。」
そして、甘利はニヤリと笑った。
「--ところで、奥本 丈さんよ。。。
寂しそうな部屋だな。
くりぼっちか?」
甘利弁護士が笑うとジョーが叫んだ。
「くりぼっちではない!
私には、タオちゃんが居る!
それと、本名で呼ぶな!!」
ジョーの言葉に、
甘利弁護士は部屋の隅をちらりと見る。
そこにはー
水槽に入ったカメが居た
「---あれがタオちゃんか…」
甘利弁護士が笑いをこらえる。
「--イヴにも仕事か?
あんたも、くりぼっちみたいだな」
ジョーが言うと、甘利弁護士は笑う。
「くくくくくく…ふふふふふふふ」
甘利に釣られて、ジョーも笑う
「ふふふふふふ…はははははははは!」
そして、何故かジョーが、
ぶどうジュースの入ったワイングラスを差し出した。
それを見て、甘利弁護士は完コーヒーを差し出した。
「メリークリスマス!」
二人は邪悪な笑みを浮かべながら
”乾杯”したーーー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日。
検死官ジョーが法廷に入ると、
既に甘利弁護士は自信満々の表情で
席についていた。
「---舛田のやつめ…
そんなに私の”悪の魂”を止めたいか。」
ジョーが笑う。
痴漢。
暴行。
窃盗。
よくもまぁ、こんなにでっちあげたものだ、とジョーは笑う。
こんなでっちあげの訴えが
通るはずがないーー。
「・・・・・」
ジョーは、缶コーヒーを法廷で飲んでいる甘利弁護士を見つめる。
「-----何かあるな」
ジョーはそう、思った。
痴漢。暴行。窃盗。
ジョーはそのいずれもしていない。
だから、普通であればこんな訴え…。
しかし、痴漢の被害者を名乗る女性ー。
そして、暴行の被害者を名乗る女性ー。
窃盗の被害者を名乗る女性が法廷に入ってきていた。
そして、ジョーに訴えを起こした、張本人・
同じ検死官の舛田も…。
「--ージョー…
これ以上、悪の魂で、罪のない人々を
悪の道に引きずりこむことはさせない…」
同僚の検死官・舛田は、
ジョーの暴走を止めようと、
甘利弁護士と結託して、
ジョーを罪人に仕立て上げようとした。
痴漢・盗難・暴行の被害者を名乗る3人の女性は、
全員、甘利弁護士に憑依されている。
甘利弁護士は、複数人のコントロールを同時に
行うことができる、憑依人の中でも高い技術の持ち主だった。
「では、奥本丈さん…」
痴漢の被害者を名乗る女性が言う。
「裁判をはじめ… ぶふっ!」
女性が突然口をふさいだ。
「----(ま、、間違えた!)」
甘利弁護士は冷や汗をかくー。
同時操作していると、よく動かすからだを間違える。
今の台詞は、自分で言おうとしていた台詞だ。
「ゴホン・・・。
では、奥本 丈さん、裁判を開始しようと思うが良いか?」
ーー傍聴人
ーー裁判官
ーーそして裁判長。
”全て”に甘利弁護士は暗示をかけている。
この法廷は、甘利弁護士のシナリオどおりに進むのだ。
正気なのは、
甘利弁護士本人と、
検死官のジョー、
そしてジョーの同僚検死官、舛田の3人だけだ。
「-ーー待て。2つ、良いかな?」
ジョーが笑う。
なぜか暴行の被害者女性がうなずく。
ジョーはあえて無視して言った。
「ひとつ。私も弁護士を用意した。」
ジョーはそういうと、昨日慌てて雇った弁護士を
招き入れた。
「---私の弁護を担当する草薙弁護士だ」
ジョーが紹介すると、
冴えないおじさん風の草薙弁護士が、甘利のほうを睨む。
「---草薙…か」
甘利は笑う。
ついこの間、とある会社のバカ息子が夜道で
女性に襲い掛かった事件があった。
そのときも、草薙とは対決している。
「ーーそしてもう一つ。
…わたしを…
本名で呼ぶな!!!!!!」
ジョーが叫んだ。
甘利はそれを無視して、裁判長に裁判の開始を促した。。
ジョーには秘策があった。
”既に”悪の魂はヤツを侵食しているのだー。
ジョーは小声で笑う。
「メリークリスマス」と…。
最初に、ジョーに痴漢被害を受けたという女性が立ち上がる。
見たところ、女子高生のようだ。
制服姿の彼女は、淡々と”作り話”を語る。
もちろん、甘利弁護士に憑依されていて、彼女の意思ではない。
「わたし…通学中に、電車内で、その人に
触られて…ほんとうにこわかった…」
ジョーは心の中で思う。
”よくも、まぁ嘘をでっちあげて…”と。
そして裁判官や、裁判長、傍聴席の人々を見つめて思う。
「--こいつら」
”甘利 卓”
ジョーは昨夜、裏世界のネットワークを通じてこの弁護士をしらべた。
恐らく、この男は、他人に憑依ーー
もしくは暗示をかけるなんらかの力を持っている。
甘利が関わった裁判では、不可解な判決や
女性が暴走する事例が多い。
ジョーには分かっていた。
”この法廷に居る人間、全員、
甘利弁護士に憑依、もしくは暗示をかけられている”と。
「--わたし……悔しくて…恥ずかしくて…」
痴漢被害を訴える女子高生が涙を流す。
「---」
何故か甘利弁護士も涙を流している。
「---むっ」
甘利弁護士はそれに気づいて慌てて涙をふく。
甘利は現在、自分の体と、
痴漢被害の女性、暴行被害の女性、盗難被害の女性、
計4人のからだを同時に操っている。
残りの裁判関係者には、一度それぞれに憑依して、
暗示をかけておいた。
この裁判に、負けはないー。
だが…
甘利弁護士が同時に、違和感なく操れるのは3人まで。
今回は無理して自分と、3人に憑依=計4人に憑依しているため
うまくコントロールできていなかった。
「悪いがー。
私はここ数年、電車にすら乗っていないが」
ジョーが言う。
「--嘘よ!」
甘利弁護士が叫ぶ。
「---プッ」
ジョーが笑う。
何で甘利弁護士が女言葉で叫ぶのか。
「---ーー!?」
甘利弁護士が「しゃべるからだ」の間違えに気づいて
顔を赤らめる。
「---どうした?甘利弁護士?
体調でも悪いのか?」
ジョーが笑いながら言うと、
痴漢被害の女子高生が
「うるさい!黙れ!」と叫んだ。
完全に制御できていない。
だが、
裁判長や傍聴者、裁判官は誰も気にするそぶりを見せない。
「---私は、奥本丈に、下着を盗まれました」
OL風の眼鏡の女性が言う。
ジョーは思う。
”誰だよお前はよ” と。
お前の家なんか知らんぞ?
でっちあげご苦労さん。と…。
「--うふふ…やだ、下着盗まれたことを
思い出したら興奮してきちゃった!
とにかく、そこの男、わたしの下着を盗んだの!」
盗難被害のOL女性が言う。
もちろん、そんな事実はないし、
甘利弁護士に彼女も憑依されている。
「--私はお前の家など知らん。
あと、私を本名で呼ぶな」
ジョーが言う。
だが、甘利は無視して、
最後の暴行被害者の女性の証言をはじめさせた。
「--私は、そこの奥本に殴られました」
あざだらけの女子大生。
ジョーの暴行被害を訴えている。
だがー
このあざは、甘利弁護士に憑依された
女子大生が、自らを殴りつけたときに出来たあざだ。
はいはい、と言う様子でジョーが話を聞いている。
なぜこの女子大生は、
ミニスカサンタの姿で法廷に来ているのか。
甘利の趣味なのか。
ジョーはだんだん茶番に飽きてきた。
「--では、奥本丈さん。何か反論は?」
甘利弁護士に言われて、
ジョーは笑った。
ジョーの担当弁護士、草薙弁護士が口を開こうとするが、
ジョーはそれを手で止めた。
草薙は、ジョーがなんとなく、”飾り”として呼んだだけで、
ジョーは最初から彼には期待していない。
「---私を奥本と呼ぶな。
ジョーと呼べ」
ジョーはそれだけ呟いた。
甘利弁護士が缶コーヒーを飲みながら笑う。
「反論はそれだけか!くはは!これは傑作だ!」
甘利弁護士が笑うと、
3人の被害女性も笑う。
もはや、隠す気もないようだ。
「奥本丈さん。
あんたは、有罪だ!
痴漢、暴行、盗難 その全ての罪で!」
甘利弁護士が缶コーヒーの缶をぐしゃりとつぶす。
「-ーくくく…ははははははははは!」
甘利弁護士が笑う
「あはははははははっ!はははははははっ」
痴漢被害を自称する女子高生も狂ったように笑う
「くくく…うひひひひひひひひっ!」
完全に憑依されている盗難被害のOLが笑う
「ははははははははは~」
暴行被害の女子大生が何故か服を脱ぎ捨てながら笑う。
ジョーはただ、その様子を見つめていた
「さぁ、裁判長!判決を!」
甘利弁護士が叫ぶ。
3人の被害者役の女性には憑依してー
そして、裁判官や裁判長は暗示をかけてー。
「---判決」
裁判長が呟く。
「くくくくく…あ~おもしれぇ!
奥本丈、お前もその程度か!あはははははっ!」
自称痴漢被害者の女子高生が笑う。
もはや憑依を隠す気すらない甘利弁護士は、
操作している4体の体で好き勝手騒いでいた。
「--うはははははっ!勝利の宴だ!」
暴行被害の女子大生が証言台に立って笑い出す。
「---真実は捻じ曲げるためにある!」
甘利弁護士と、3人の憑依された女性が同時に叫んだ
「---奥本丈を無罪とする」
裁判長が言った。
「----へ?」
甘利弁護士と、3人の被害者役の女性が唖然としている。
ジョーは笑いながら立ち上がった。
「---くくく、どうした?
落城寸前の城主みたいな顔して」
ジョーが言うと、
甘利弁護士が「なぜだ…私はカンペキに仕組んだはずだぞ!」と叫ぶ。
ジョーは首を振った
「正義(ジャスティス)は勝つ。 それだけのことだー」
そういうとジョーは鼻で甘利弁護士を笑う。
「では…私は忙しい。 これで失礼するよ
”二流弁護士”」
そして法廷の出口へと向かう。
「--ジョー…!」
同僚の検死官、舛田がジョーを呼び止める。
「もう悪の魂で人の人生を壊すのはやめ…」
舛田がそこまで言うと、ジョーは言葉を遮った。
「---私は己が道を突き進む。
ジャスティス道をな」
ジョーはニヤッと笑い、
そのまま法廷を後にした。
「--くそっ!くそっ!この私が!
真実は、捻じ曲げるためにあるのに…」
甘利弁護士が歯軋りをする。
裁判長も含めて、
”ジョーは有罪”と暗示をかけておいたはず。
なぜだ・・・?
「くっそがぁ!」
甘利弁護士は裁判長の頭を叩く。
だが、暗示をかけられている裁判長は無反応だ。
女子高生と女子大生とOLも怒りをあらわにして
暴れている。
「--ーーくそっ…覚えておけ検死官ジョーよ…。」
甘利弁護士は、一人そう呟いた。
「-----」
ジョーの同僚検死官・舛田は、ジョーの出て行ったほうを見つめて
ため息をついた。
そして、甘利弁護士のほうを見て…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ジョーは自宅でワイングラスを手に
大笑いしていた。
「くくく…あの二流弁護士の顔、、、
無様だったな」
ジョーは、
”裁判長”に”ひねくれ者の悪の魂”を3つほど
投げ込んでおいたのだった。
だからー
甘利弁護士の”ジョーは有罪”の暗示に対して
ひねくれた裁判長は”無罪”と判決を出したのだった。
「--ーー」
ジョーはカレンダーを見て顔をしかめる。
12月25日。
「くっくくく…今年も私はくりぼっちか…」
ジョーはそう呟くと、ベランダに飛び出して叫んだ。
「寂しくなんか…ないもんねーーーー!
私にはタオちゃんがいるもんねーーーー!」
道を歩いていた通行人がビクっとしてベランダを見て
目をそらした。
やばいやつが叫んでいる。
通行人たちはそう思ったのだ。
ジョーは、水槽の前に行って、
カメを見ながら乾杯した。
「メリークリスマス、タオちゃん」 と。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
とある川辺ー。
ジョーとの裁判で被害者を名乗っていた
3人の女性が満面の笑みを浮かべたまま、
目を見開いて、川に浮かんでいた。
そしてーー
ジョーの同僚の検死官、舛田も、
恐怖を顔に浮かべたまま、川に浮かんでいた。
動かぬ体となって…
「---使い終わったパーツはゴミ。
金にならない依頼人もゴミ…」
甘利弁護士はそう呟きながらその場をあとにした。。。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
無駄に長くなりました^^
憑依空間の憑依人たちはくりぼっちが多いようです笑
コメント
SECRET: 1
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これで舛田も死んで、現時点でジョーに対抗できそうなのは、リベンジを申し込みそうな甘利くらいか。
まあ名倉みたいな規格外もいるから上には上がいるが。
出来ればそのさらに全ての上に立って見下ろしたいねえ。かなり難しいけど
何でもこうやって対抗馬?が出てくるのも見てて面白いのでもっとやってほしいです。
今回のジョーみたいに甘利には勝ったが、名倉には圧倒されたり、見てて楽しかった。