とある幸せな家庭。
父と母。
そしておしとやかな長女に、明るい次女。
その家庭は幸せだった。
そう、あの日まではー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
とあるアイドルの握手会。
”ゆりっち”の愛称で親しまれる
今、人気の女性アイドルの握手会に
多くの男性ファンが訪れていた。
「・・・・・」
イベント会場の職員である男―、
和久井 健(わくい たける)は、
イベントの様子をじっと見つめていた。
その時だったー
「うへへへへへ!
ゆりっち~
おれと一緒にデート行こうぜぇ!」
突然、ファンの男が汚らしい笑みを浮かべて
アイドルの手を引っ張り始めた。
悲鳴を上げる女性アイドル。
騒然とする会場。
「君、やめなさいー」
健は、男を背後から掴み、取り押さえた。
「くそ、離せ!離せ!」
男はなおも暴れる。
健の拘束から逃れた男は健の方を向いて言った。
「邪魔すんじゃねーよ!
俺の愛がお前に分かるのか?
なぁ、俺のゆりっちにかける想いが!
お前に分かるのかよ!」
アイドルオタクの男は叫んだ。
健は、冷静に―、
そして静かに諭す様な口調で言う。
「--”握手会”はルールあってこそのイベントだ。
君のような人間が来る場所じゃない」
その言葉にアイドルオタクは怒りを露わにした
「テメェ!澄ました表情しやがって!」
殴りかかるアイドルオタク。
しかし、健は得意の柔道の技をかけ、
アイドルオタクを投げ飛ばした。
「ぐほっ!」
たまらずその場に伸びてしまう男。
「--君にファンを名乗る資格はない」
健が言うと、
会場からは拍手が巻き起こった。
そしてブーイングも。
「おらー!でてけ!」
「この迷惑野郎が!」
そして、アイドルオタクの男は他の警備員に連行されていく。
連行される男は
歯を食いしばった。
唇から血が流れるほどにー。
「あの野郎ォ・・・・っ」
”男”は健を憎んだー。
そしてーーー
連行されながら男は邪悪な笑みを浮かべたーー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
とある自宅。
「お父さん!今度の私の誕生日だけど、
これ欲しいな」
次女の和久井 夏帆(わくい かほ)が笑顔で言う。
健の次女・夏帆はまだ中学2年生。
何かと甘えたい年頃のようだ。
「--ははっ、夏帆はよくばりだな」
健が言う。
イベント会場で見せた厳しい表情からは想像もつかない姿。
一家の父としての顔がそこにはあった。
「夏帆、あんまり欲張らないの!」
しっかり者の長女・真里菜(まりな)が笑顔で言う。
真里菜は高校2年。色々な活動に熱心で、
学校では優等生ポジションにいるようだ。
対する次女の夏帆は中学2年。
明るく活発で友達も多い。
二人とも、容姿も良い事から、父の健は
変な男が寄り付かないかと密かに心配しつつ、
毎日を過ごしている。
「行ってきまーす!」
二人とも元気に学校へと向かう。
「ふぅ…」
微笑ましくそれを見送った父の健。
キッチンで作業をしていた妻の郁恵(いくえ)が訪ねる
「あら?今日はお休み?」
郁恵の言葉に健は「ああ」と答える。
イベント会場を利用予定だった音楽家が
体調不良で休んだためだった。
「----」
家族写真を微笑ましく見つめる健。
自分と妻、
そして真里菜と夏帆が笑顔で写っている。
”幸せだー”
健はそう感じた。
しかしーーー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その夜、真里菜は自分の部屋で勉強をしていた。
次女の夏帆は、今日はまだリビングで家族と談笑している。
真里菜は大学受験も近づいてきたこともあり、
勉強に夢中だった。
”良い大学に入って、
おとうさんとおかあさんを楽させてあげるね”
それが真里菜の口癖だった。
眼鏡をかけ直して、ふと時計を見る。
「はぁ…もうこんな時間。
ちょっと一休みしようかな」
そう真里菜がつぶやいた その時だった。
「------!?」
鏡に”煙”のようなものが写っている。
慌てて振り返る真里菜
しかし…
そこには何もない。
「---え?今の煙は…?」
真里菜が恐る恐る鏡に視線を戻すと、
そこにはー”人の顔をした煙”が写っていた。
不気味な笑みを浮かべてーー
「ひっ!?」
そしてーー
鏡にうつる煙はー自分の耳から自分の体の中に入っていった。
「え、、な、、何???なになに…」
煙が見えなくなったその瞬間、
体にゾクっとするような悪寒が走った
「えーーーー?」
何ー?
そう思った瞬間に、
急激に視界がかすれ、感覚が無くなり、
真里菜は思わず膝をつく。
「(たーーー、助けを呼ばなきゃ)」
そう思い、スマホに手を伸ばしたが、
真里菜の思考が急激に曇り、
自分が今、何をしているのか分からなくなってしまう
「あれ…わたし…?」
わけもわからずパニックに陥る真里菜。
そしてーーー
今度は急な睡魔に襲われて、
真里菜はそのまま眠りについた…
横たわる真里菜ー。
2分ほど経っただろうか…
突然、真里菜が笑い始めた
「くっくっくく…ひっひひひひっひっ!
あひゃはははははは~!」
大声で笑い出す真里菜。
勢いよく立ち上がると、
真里菜は髪を振り乱しながら鏡を見た
「あっはははは!マジで成功したよ!
ははっ!
すっげぇ!これがJKの体かよ!」
大人しい真里菜が表情をゆがめて言うー。
眼鏡の下の瞳に”狂気”が宿っているー。
「調べたぜ…あの野郎…」
真里菜が可愛い声で静かに呟く。
手で、体中のあちこちをベタベタ触りながら笑うー
”イベント会場で大恥をかかされた憾みは忘れないー”
男は、先週、イベント会場で
真里菜の父親・健に投げ飛ばされたアイドルオタクだった。
大恥をかかされた男は、復讐したいー、そう思った。
そこで自分の持ちうるあらゆる情報網を使って、
健の家を調べ上げた。
健には二人の娘がいるー。
”娘が居る父親にとって、一番大事なものは
”娘”だー”
アイドルオタクはそう考えた。
”誘拐するかー?”
そうも考えたが、
それではベタすぎるし、逮捕されるのがオチだ。
そんな時、男はネットで”憑依薬”というものを見つけた。
幽体離脱して、人に憑依することができる薬なのだというー。
半信半疑でそれを手に入れた男は、
復讐を決意した。
自分に恥をかかせた健に復讐するー。
しっかりものの長女、真里菜に憑依して、
家庭を内部から破壊してやるー。と。
手がビクン、ビクンと痙攣する。
「ケッ…バカが」
真里菜は吐き捨てるように呟いた。
真里菜本人の意識の抵抗ー。
だが、男は意に介さず、鏡の前に立った。
「くふふ・・・イヤらしい体つきだぜ…。」
可愛らしい服の上からでは分かりにくいが、
結構胸もある。
男にとって、初めての感触に、
真里菜は声をあげた
「ふへへへへへへっ!すげえ!すげえ…」
力強く胸を揉んでみたり、
いやらしく少しだけつついてみたり、
机のカドに胸を押し付けてみたり。
真里菜は自分の胸を激しく弄んだ。
「はふっ♡ あっ…♡
すごい!これが女の子の感覚♡」
真里菜の体が真里菜の意思とは
関係なく”その気に”なってしまう。
アソコが疼いて仕方がない。
「あひひ…♡
はっ…、この子、、なかなかエロいじゃないか!
まじめな顔しちゃって」
長い髪が、顔にかかる。
乱れた髪で再び鏡を見つめると、
真里菜は鏡の自分に向かってキスをした。
「うふふっ♡」
顔を赤らめて笑う真里菜ー。
そこには、いつもの穏やかで優しい笑みはないー。
歪んだ、獣のような笑みが浮かんでいるー
「あぁっ!邪魔くせぇな!」
何度も視界に入る髪をイライラした様子で振り払う
真里菜。
次にミニスカートから覗く、自分の足を見つめて、
両手で足を触りだすー
「んはぁ…スベスベぇ…♡
俺の足と全然ちがう~
ひひひひひっ♡」
足を狂ったようにこすりながら
ケラケラと笑う真里菜。
あまりの嬉しさに足をドタバタさせながら
「くぅぅ~たまんねぇ!」と叫ぶ。
また、髪の毛が視界に入る
「っ!邪魔くせぇんだよ!」
机の上に置いてあったヘアゴムを見つけて、
適当に髪の毛を結んだ。
いびつなポニーテールが出来上がる。
「へっ…これでいっか♪」
ふぅ…と一息つくと、
真里菜は微笑んだー
”ここからが本番だー”と。
アイドルオタクの男の目的は
”家庭”を内部から破壊すること。
単に”憑依してやったぜ”と家族を脅すのはたやすい。
だが、それではぬるい。
自分に恥をかかせたあの男を地獄に落とす。
ならば、それ相応の苦しみを与えなければならない。
「---」
男は、真里菜の潜在意識を呼び起こした。
(え…わ、、、わたし…)
真里菜の声が脳裏に響き渡る。
意識を取り戻した真里菜が見たものはー。
鏡の前で笑みを浮かべて乱れきった、、
自分の姿だった。
「真里菜ちゃん…脅かせてごめんね」
自分の口がそう、言葉を発した
(え…なにっ、、なんなの!?)
真里菜が驚いて言う
「ふふっ…そんなに驚くなよ…
俺さ、君のお父さんに恨みがあるんだ。」
真里菜の体がそう、言葉を離す
(え…、、ちょっと…?
お父さんに何するつもりなの!?
わたしをどうするつもりなのー!?)
焦った様子の真里菜。
その様子を感じ取り、
笑みを浮かべる
「安心しなよ。
真里菜ちゃん。君に恨みはないから」
そう言い、足を組み、鏡の前でほほ笑む。
(ちょっと!やめて!
私の体から出ていって!)
誰かが自分の体の中に居る―。
そう感じた真里菜は声をあげたー
「…うん、出てってもいい。
でも、一つだけ手伝って欲しいんだー」
真里菜の口がそう声を発した。
そしてーー
「”君のお父さん”の家庭を滅茶苦茶に壊すのをー」
真里菜の顔が不気味にゆがんだー。
(ふ…ふざけないで!
私がそんなことすると思うの!?)
真里菜の声が、協力を拒む。
「…そう言うと思ったよ」
すると、真里菜は立ち上がった。
「もう気づいてると思うけど、
今、この体を俺は好き勝手にできる。
体の全てをね。」
そう言うと、真里菜は服を脱ぎ捨て始めた
(や…やめて!)
「ふふふっ…
こ~んな風に部屋で裸になるのも自由だ」
笑いながらポーズを決める真里菜。
そしてー
「”体”の全てが思いのままー
そうーーー”脳”もね」
真里菜が邪悪な笑みを浮かべたー。
それはーー”これから全てを奪うー”という
狂気に満ちた笑みだったー
(な…何をするつもりなの…?)
「俺が君の”脳”を使って
”あることを強く念じれば”
君自身の思考もそれに”染まる”ってことだよ。
今、俺は君の脳を使って、色々と考えている。
そこに俺の邪念をふきこんだら、
俺の恨みをふきこんだら、
どうなると思う―?」
(や…やめて!)
「---そう、
君も”お父さん”への恨みに支配されて、
俺と一緒に復讐をし始めるんだよ!
ははははははっ!」
部屋の中で、全裸の真里菜が一人爆笑する。
そしてー
「じゃあ、真里菜ー
君を”復讐者”に染めるよー」
(いっ・・・いや!やめて!)
真里菜は恐怖して脳内で叫んだー。
しかしー
「---”わたし”はお父さんが嫌いー」
真里菜の口が低い声でそう呟いた。
脳に”刻み込む”ように。
はっきりとした口調で。
「”わたし”はこんなクソみたいな家”大っ嫌い”」
(や…やめ……うぅ…)
思考がまとまらず、真里菜は黙り込んでしまう
「--特に”お父さん”は大っ嫌い」
「お父さんを追いつめるためならわたしは何でもする」
「手段も択ばないー
誰が傷つこうと構わない」
「お母さんは”お父さん”を選んだおかしな女―」
「夏帆はお父さんを慕う”バカ女”」
一つ一つ、
脳に”刻み”こむ真里菜。
はっきりとした口調で、
静かにそう告げる―
「わたしがーーー”この家”をぶっ壊す―」
真里菜は力強く、
目に狂気を浮かべながら呟いた。
脳内の真里菜本人の意識は黙り込んでいる。
黒い意思が真里菜の脳を塗りつぶしていく。
今までの”自分”と新しく流れ込んできた”黒い意思”
それが脳の中で激しく戦っている。
真里菜はそれを感じて呟いた。
「私がこの家を”支配”するー」
「お父さんを”地獄”に落とす―」
「そうーーーー
今日からわたしがこの家の世帯主―」
脳内が真っ黒に染まる。
アイドルオタクの男はそれを身を持って感じとって微笑んだ。
「さぁて…俺はいったん、奥に下がるよ真里菜ちゃん。
約束どおり、体を返してあげるー」
そう言い、ニヤッと笑うと、真里菜はその場に倒れた。
5分後。
真里菜は意識を取り戻した。
「あれーーわたしーー
勉強中に…」
自分が裸なことに気づき、慌てて服を着直す
真里菜。
勉強しようと机に戻り、勉強を再開するー。
自分が勉強しているのはーー
”早くこのクソみたいな家から出ていくため”
クソ親父にー
それに従う馬鹿女ー
そして、何にも出来ないくせに、いつも笑っている
クズみたいな妹。
そんな奴等と早くおさらばするためだー。
「……」
真里菜はペンを力強く握りしめた。
「お父さん…ほんっとうにうざい!」
吐き捨てるようにして呟き、
真里菜はペンをゴミ箱に投げ捨てた。
(ヒュウ…すげえじゃねぇか!
この女、本当に憎しみに染まっちまった!)
脳内のアイドルオタクは笑う。
妹の夏帆が部屋に戻ってきた
「あ、お姉ちゃん!勉強中?
いつも大変だね」
夏帆が笑う。
真里菜は愛想なく「そうよ」とだけ答えた。
夏帆の声にイライラする真里菜。
「でもなーお姉ちゃんが頑張ってるから
私も頑張らないとな~!
お父さんとお母さんに比べられちゃうよ!」
夏帆がさらに続ける
「あれ?なんか今日お姉ちゃん元気ないね?」
いつもは夏帆が話しかけると、すぐに笑って
話に乗ってくる真里菜。
だが、今日はー?
「熱でもあるの?」
夏帆が心配そうに尋ねる。
真里菜はカッとなって声を荒げた
「さっきからごちゃごちゃうっさいわね!
わたし、勉強してるの!
そのぐらいも分からないの!?」
怒鳴り声をあげた真里菜は不機嫌そうに
机に視線を戻す
「ご・・・ごめん お姉ちゃん」
夏帆が驚いて謝罪の言葉を口にする。
「これだから……。
あの男の娘ってだけで寒気がする!」
吐き捨てるように言う真里菜ー
真里菜の中のアイドルオタクは微笑んだー
(さぁ…共に復讐劇をはじめようじゃないか- ) と。
②へ続く
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コメント
憑依・染め上げ…
王道的な展開(?)に…。
次回からは、徹底的に家族が追い詰められていきます!
コメント
SECRET: 0
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これはBAD一直線( ˘ω˘ )
SECRET: 0
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> これはBAD一直線( ˘ω˘ )
あらら…笑