<入れ替わり>喜ばれる者 喜ばれない者①~バレンタイン~

バレンタインデーを前に
”人気者”の女子と、
”孤立している”女子が入れ替わってしまったー。

チョコをあげた時の周囲の反応が
全く違う立場になってしまった二人の運命は…?

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バレンタインデー前日ー。

そのクラスでは、明日のバレンタインデーを前に、
賑わいを見せていたー。

「ーーー架純(かすみ)、またどうせおしゃれなチョコ作って来るんでしょ~?」
明るい雰囲気のポニーテールの少女・麻耶(まや)がそう言うと、
そんな声を掛けられたツインテールの美少女・坂森 架純(さかもり かすみ)は
「え~?おしゃれかどうかは分からないケド~」と、笑いながら
そう言葉を口にするー。

架純は、明るく元気な性格の持ち主で、
その容姿もとても可愛らしいために、
クラスのアイドル的存在だー。

明るすぎるせいか、時々相手の気にしているようなことも
平気で口にしてしまうような一面はあるものの、
誰にでも優しい性格で、
自分の可愛さや立場を盾に調子に乗った振る舞いをするようなことも
ないため、周囲からやはり愛されているー。

そんな”架純”からバレンタインチョコを貰いたい、と
密かに期待している男子は、クラスの中にも、
いや、クラスの外にもたくさんいたー。

一方ー…
そんな様子を眺めていたのは、三つ編みに眼鏡の女子生徒ー、
黒原 静恵(くろはら しずえ)ー。

静恵は、架純とは正反対で大人しく、暗い性格の持ち主。
”容姿”にも恵まれておらず、
それが原因で嫌な思いもこれまでにたくさんしてきたー。

そういった境遇であったために、
成長するにつれてどんどん自分への自信を無くしてしまい、
今ではすっかりと暗い性格になってしまっているし、
コミュニケーション能力も、壊滅的に失われてしまっていたー。

しかし、そんな静恵にも趣味があったー。
彼女の趣味は”お菓子作り”ー。」

実は、毎年バレンタインデーに向けて
とても美味しそうな手作りチョコを用意しているものの、
以前、”お前みたいなゾンビのチョコいらねーよ!
俺もゾンビ化しちまったらどうするんだよ!”などと、
そんなことを言われてしまったことがあり、
それ以降、人にバレンタインチョコを渡すことも
できなくなってしまったー。

去年は、手作りのバレンタインチョコを大量に持ってきたものの
誰にも渡すことが出来ず、
結局持ち帰って自分の部屋で食べたー。

そんな子だー。

心のどこかで、架純に対して”いいなぁ”と
思いつつも、
今年もきっと”同じことになる”と、
静恵はそんな風に思っていたー。

今年もきっと、自分はバレンタインチョコを作るだろう。
そしてまた、誰にも渡すことができないまま、
バレンタインチョコを持ち帰って、一人で食べることになるのだろう。

そんな”今年の私のバレンタインデー”を思い浮かべると
静恵は少しため息を吐き出しながら、
架純のほうを羨ましそうに見つめたー。

がー
その日の翌日のことだったー。

「ーーーあっ!やばっ!
 自販機のところに置いて来ちゃった!」

自分のスマホを自販機の側のベンチに置いてきてしまったことに
気付いた架純は、隣にいた友人の麻耶にそう言葉を伝えると、
麻耶は「あははーうっかりさんー」と、そんな言葉を口にするー。

架純は「ちょっと、取りに戻るね!
すぐ戻って来るから!!」と、そう声を上げると、
そのまま階段の方に向かって走り始めるー。

が、
その時だったー。

ちょうど上から降りていた架純が向きを変えるタイミングと、
登校してきて、下から上に昇っていた静恵が向きを変えるタイミングが
”一致”してしまいー、
二人は盛大に衝突して、階段を転がり落ちてしまったー。

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「その結果が、”コレ”って訳ね」

保健室ー。
階段から転落して、保健室に運び込まれた二人は
目を覚ました時には
互いの身体が入れ替わってしまっていたー。

クラスの人気者のキラキラ女子・架純は
大人しい三つ編みの眼鏡の女子・静恵の身体に、
そして、静恵の方は逆に自分にとっては
眩しすぎるほどにキラキラしている架純の身体に
なってしまったのだー。

「ーーご、ごめんなさいー…ごめんなさいー」
架純(静恵)は”わたしなんかが、坂森さんの身体をー”と、
心底申し訳なさそうに謝罪を繰り返すと、
静恵になった架純は「ちょっとちょっと、そんなに謝らないでいいって」と、
クラスで孤立している静恵の身体になってしまったにも
関わらず、特にそれを気にする様子も、責める様子も見せずに、
笑いながらそう言葉を口にするー。

「ーーーで、でもー…
 今日は……」

架純(静恵)がいつも明るい架純の身体で、
架純が絶対に浮かべないような自信のなさげな表情を浮かべると、
「バレンタインデーだし…」と、そう言葉を続けたー。

「ーあははーそんなこと気にしないで。
 まずはわたしも黒原さんも怪我がなくてよかったー。
 階段から落ちた時に頭打っちゃったりしてたら大変だったしー」
静恵(架純)が明るい笑顔を浮かべながら言うー。

普段の静恵がこんな笑顔を浮かべることはない。

架純(静恵)は、”さっきまでの自分の身体”の満面の笑顔を見て、
”わたし、こんなに笑うこともできるんだー”と、
驚きのような感情を覚えながら、
「で、でも、こんなことになっちゃってー」と、
バレンタインデーを台無しにしてしまいそうなことを謝罪するー。

「ううんー。別に大丈夫ー。
 ただー…
 わたしが黒原さんの身体でチョコを配るのは、変だと思うからー

 わたしが用意したチョコ、代わりに配ってくれるー…???」

静恵(架純)は少し申し訳なさそうにそんなお願いをすると、
「え…えぇ…で、で、でも、わたしー」と、
架純(静恵)は自分がみんなから嫌われていることや、
孤立気味であることを口にするー。

「え~?そうなの?そんなことはないと思うけどなぁ~」
静恵(架純)はそう言葉を口にすると、
ふと、保健室に一緒に運び込まれた自分たちの荷物のほうを見つめるー。

特に、登校中だった静恵は鞄やら何やら色々持っていて、
階段から落ちた際にそれも一緒に保健室へと
運び込まれたー。

その中の紙袋を見つめながら、
「あれ、これ何?」と、静恵(架純)がその中身を確認するー。

「あ、そ、それはー…」
架純(静恵)がオドオドしながらそう言葉を口にすると、
静恵(架純)が覗いた紙袋の中には、
美味しそうな手作りチョコレートが大量に入っているのが見えたー。

「ーわぁ、美味しそうーすごいー」
静恵(架純)がそう言葉を口にすると、
架純(静恵)は「ーぜ、全然だよ……坂森さんが作るチョコに比べたら…」と、
自信なさげにオドオドしてみせるー。

しかし、架純(静恵)から見ると、冗談抜きで
本当に美味しそうに見えるチョコレートを見て、
「はじめて作ったの?」と、
そう確認するー。

「ーえ……あ、あのー…」
架純(静恵)がそう言葉を口にすると、
静恵(架純)は少しだけ笑いながら
「前にイヤなことがあったのかもしれないけど、
 わたしは何も悪いこと言わないから」と、
安心して話してほしい、と、そう言葉を口にするー。

すると、架純(静恵)は少しだけ躊躇ったものの、
意を決した様子で頷くと、
「わたし、実は…」と、
バレンタインチョコを毎年手作りしているけれど、
ここ数年は渡せずに持ち帰っているのだということを、
明かすのだったー。

それを聞いた静恵(架純)は何度か静かに頷くと、
「そっかー…」と、そう言葉を口にした上で
「じゃあ、せっかくだしー」と、笑みを浮かべながら
静恵の作ってきたバレンタインチョコが入った紙袋を手にすると、
「ーーわたしが黒原さんとして配ってあげる」と、
そう言葉を口にするー。

「え…えぇっ…?」
その言葉を聞いた架純(静恵)は
ツインテールを揺らしながらソワソワとした様子を見せると、
「で、でも…わ、わたしなんかのチョコー…
 みんな、食べたくないでしょ…?」と、心底申し訳なさそうに言葉を口にするー。

「そんなことないよー
 黒原さん、もう少し自信を持ってー。

 わたしは黒原さんのチョコを見て
 美味しそうだって思ったしー、
 それに、可愛いチョコだしー
 みんなきっと喜ぶと思うから!」

静恵(架純)は、そんな言葉を
何の迷いもなく発するー。

架純(静恵)は、いつもオドオドしているはずの
”自分の顔”が、こんなにも晴れ渡った表情を
浮かべているのを見て、とても不思議な感覚に陥るー。

「ーーで…でも…」
架純(静恵)は、”坂森さんは、わたしのことを高く評価しすぎだよー”と、
内心でそう思ったものの、
それ以上は言えなかったー。

ただー、”静恵”は思うー。

架純に悪気はないとは思いつつも、
”静恵”のような人間の”立場”を、
ちゃんと想像することができていないー、と。

静恵のような立場の人間はー、
”架純が思っている以上に”その孤立は根深いー。

架純が静恵のチョコを見て
”美味しそうだし、可愛いしー”と、思ったとしても、
他のクラスメイトたちはそうは思わないー。

架純はいい人だと思うー。
架純は本気で、静恵のチョコを美味しそうだと
思ってくれているのだと思う。

けどー…”だからみんなにも”は、
人気者の架純の立場から考えた静恵の立場だー。

「ーーー坂森さんーわたしの身体でチョコを配ったりしたら
 みんなに嫌がられると思うし、
 み、みんなを不快にしちゃうと思うからー」

架純(静恵)は心底悲しそうにそう言葉を口にするー。

けれどー、静恵(架純)は、
「大丈夫 自信持って!
 こんなすごいチョコを貰えたら、みんな嬉しいってー」と、
満面の笑みでそう言葉を口にしているー。

「ーーーそ、それならー…」
架純(静恵)は、”わたしは坂森さんが思ってるよりもー…”と、
なおも心の中で思ったものの、
オドオドした性格の”静恵”には、もうそれ以上
何かを指摘することも、何かを言うこともできなかったー。

「ーーよ~し、じゃあ、早速ー、
 教室に行こっかー」

幸い怪我もなかった二人ー。

戻ってきた保健室の先生に、もう大丈夫だと告げると、
静恵(架純)は”入れ替わり”のことは言わないまま、
そのまま保健室の外に出たー。

「ーい、言わなくていいのー?」
架純(静恵)がオドオドした様子でそう言葉を口にすると、
静恵(架純)は少し考えてから
「わたしも迷ったんだけどー…でも、普通”身体が入れ替わっちゃいました”
 なんて言っても信じて貰えないと思うしー…
 もしも、黒原さんまで変な風に思われちゃったら良くないって思ってー」と、
そう言葉を口にするー。

その上で、
「それに、このまま病院に連れて行かれちゃったりしたら、
 わたしも、黒原さんもバレンタインデーを楽しめなくなっちゃうでしょ?」と、
微笑んで見せる静恵(架純)ー。

自分の”顔”なのに、
心の底から穏やかに微笑んでいる静恵(架純)を見て、
架純(静恵)はドキッとしてしまうー。

が、そんな架純(静恵)の反応には気づかずに、
静恵(架純)は今一度微笑むと、
「ーじゃ、ほら、せっかくのバレンタインデー、楽しも!」と、
そう言葉を口にして、
お互いのチョコを指差すー。

「う、うんー」
架純(静恵)は戸惑いながらも頷くー。

静恵は”架純”として架純のチョコを、
架純は”静恵”として静恵のチョコを
教室で配ることになってしまったー。

けれど、前を歩く静恵(架純)の後ろ姿を見つめながら、
架純(静恵)は、
”チョコをあげれば誰でも喜んでくれる”立場にいた架純のことを
心配そうに、そして申し訳なさそうに見つめたー。

世の中は、残酷だー。
チョコをあげても、
架純のように”喜ばれる”人間もいればー、
静恵のようにチョコをあげただけで”ゾンビのチョコ”などと罵倒されるー
”喜ばれない者”もいるのだー。

「ーーーーー」
けれど、すっかりその気の静恵(架純)を止めることは出来ず、
架純(静恵)は、申し訳なさそうにしながら教室へと向かうのだったー。

②へ続く

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コメント

土曜日(※土曜日だけ予約投稿デス~!!)が14日な都合上、
今年のバレンタインデーモノは
ちょっぴりフライングして登場デス~!!

本番まであと2日ありますケド、
一足先に、バレンタイン気分を楽しんで下さいネ~!!

「喜ばれる者 喜ばれない者」目次

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