そこは、脳移植を専門に請け負う
”移植病棟”ー
しかし、実用化されたばかりの”脳移植”には、
様々なトラブルもつきものだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーー本当に、ありがとうございますー」
ぺこりと頭を下げる女子大生の清美(きよみ)ー。
しかし、彼女はどことなく落ち着かない様子を
見せているー。
「ーーー…でもまさか、異性の身体に移植されることになるなんてー…」
清美が、申し訳なさそうにそう言葉を口にすると、
”脳移植手術”を担当した女医・佐倉 紀香(さくら のりか)は、
少し申し訳なさそうに、
「ー身体の”ドナー”が、その子以外には見つからずー、
杉島(すぎしま)さんの身体はもうそれ以上待つこともできなかったのでー」
と、そう説明したー。
「ーーー…ーー…いえーー…こうして生きていられるだけでも幸せですー」
清美は、自分の手を動かしながら
そう言葉を口にすると、
「慣れるまで時間はかかりそうですけど」と、そう言葉を付け加えたー。
この世界では”脳移植”手術が数年前から実用化され、
実際に行われているー。
”脳移植”にも2通りあり、
一つは”脳側”の人間を助けるための脳移植手術ー。
もう一つは”身体側”の人間を助けるための脳移植手術ー。
前者は、”今回”行われた手術で、
ある病気により余命宣告を受けていた男・
杉島 純一(すぎしま じゅんいち)の脳を、
杉島 純一の身体から、”清美”に移植ー、
清美の身体を、杉島 純一が使用することで、
”脳”側の人間を助けるための手術だー。
杉島 純一の脳を移植され、
彼に身体を譲ることになった彼女ー…清美は
”身体”のドナーだった子だー。
”清美”は、一家全員で命を絶とうとした家族の生き残りで、
両親は死亡、彼女だけは何とか助かったものの、
脳死状態となっていて、”肉体だけが”健康な状態となっていたー。
そういった”身体はまだ使えるけれど、何らかの理由で
本人がもう日常生活に復帰できない状態”の人間は
この世界では関係者らの同意を得た上で”身体のドナー”となり、
杉島 純一のように、”病気でもう生きられない人”が、
別の身体で生きていくために使われるー。
そのため、今回は脳死状態でもう回復の見込みのない清美の身体に、
病気で身体自体がもう持たない杉島 純一の脳を移植ー、
杉島 純一を救ったのだー。
一方、後者の”身体側”の人間を助けるための脳移植手術は、
”移植される身体側”を助けるための手術だ。
何らかの理由で脳を損傷、あるいは脳死状態になった患者に、
他人の脳を移植、脳機能を回復させて
蘇生させるための手術ー。
こちらのパターンの脳手術を行う場合、
摘出した脳に”特殊な処置”を行ってから移植をするー。
そうしないと、”脳側”が身体を乗っ取ってしまうために、
身体側の記憶や意識を維持するため、
特殊な処置が必要になるのだー。
この世界では、こうした”2つのパターンの脳移植手術”が
実際に実用化され、まだ数は少ないものの、
実際にそれが行われていたー。
「ーーーそれで、僕はこれからーー」
清美に脳移植された純一は、少し恥ずかしそうにそう言うと、
「ーその子の身体で生きていくことになりますー」と、
女医の紀香はそう答えるー。
「色々手続きなどもありますので、
落ち着いてから、手続きを進めていただくことになります」
紀香のその言葉に、
清美に脳移植された純一は「分かりましたー」と、そう言葉を口にすると、
落ち着かない様子で、髪を触るー。
脳移植手術の際に、髪を残す手法も確立されていて、
手術を行うと、髪がなくなってしまうようなことはないー。
清美になった純一は「髪ー…長いですねー」と、苦笑いすると、
「ー男性の方には落ち着かない長さかもしれませんねー」と、
紀香はそう答えてから
「何か異変があったり、疑問があったら、すぐに呼んでください」と、
清美に対してそう告げると、
そのまま清美の病室を後にするー。
「ーーーー」
ここはー、脳移植を専門に請け負う
”移植病棟”ー
紀香も脳移植を行うことができる数少ない医師で、
脳移植手術を連日こなしているー。
しかし、”脳移植手術”には、問題があったー。
移植後の身体が脳に対して拒否反応を示し、
死に至ったり、錯乱してしまう患者がいるほかー、
”身体側”を助けるために脳移植手術をしたケースでは、
”脳側”に元の人間の記憶や人格が強く残っていて、
身体を乗っ取られてしまうケースなども多発しているー。
また、”脳側”を救おうとするケースでも、”身体側”を
救おうとするケースでも、
二重人格のようになってしまった事例や、
自分がどっちだか分からなくなってしまった事例、
二人の性格が混じりあってしまった事例など、
色々な事例が報告されていたー。
「ーーーへへへへー
今日も綺麗だねー先生ー」
ニヤニヤしながら、そんな言葉を口にする
入院患者ー、女子高生の内海 真里菜(うつみ まりな)ー。
紀香はため息を吐き出しながら
「内海さんー。そんなことばっかり言ってると退院できないわよ」と、
呆れ顔でそう言葉を口にするー。
真里菜は、体育の授業中にボールが頭部を直撃、
緊急の脳移植手術が行われた子だー。
真里菜の場合は”身体側”を救うため、破損した脳の代わりに
別人の脳を”調整手術”をした上で移植ー
真里菜を助けようとする目的で手術が行われた。
しかしー…
手術後、真里菜は次第に下心塗れになっていきー、
今では自分も女なのに、変態としか言えないような行動を
女性看護師や女医に繰り返すようになってしまっていたー。
真里菜に移植された”脳”は、
とある事件で逮捕された”変態男”の脳ー。
何度も何度も逮捕され、最終的に脳移植の”脳”の
ドナーとなってしまったー。
この世界では、”終身刑”あるいは”極刑”に値する
犯罪者は”脳のドナー”として再利用される法律が既に可決されて、
適用されているー。
”脳を必要とする人”を救うため、
そして、もう一つは終身刑や極刑の犯罪者を
ずっと刑務所で暮らさせておくほどの”余裕”が社会に
なくなってしまったことで、そのような法律が通っていたー。
しかしー…
現役の女子高生である真里菜に、そうした脳が移植されたことで、
真里菜はすっかり”変態”になってしまっていたー。
「内海さんーしっかりしてー。
手術する前の自分のこと、ちゃんと覚えているでしょ?」
紀香がそう指摘すると、
真里菜は「えへへーもちろん」と、笑うー。
”脳の調整手術”を移植前の脳に施した上で、
真里菜の身体に移植しているため、
本来であれば”元の脳の持ち主”とは関係なく、
真里菜が、真里菜として生きていくことができるー…
それが、”手術が成功した場合”の理想の形ー。
ただ、真里菜は術後、最初の数日は普通だったものの、
次第に、移植元の男の脳に影響を受け、
おかしくなってしまったー。
「でもさー、ムラムラして仕方ないんだよねー
だから、先生ー、ちょっとだけ触らせてよー」
服の上から紀香の胸を凝視しながら笑う真里菜ー。
「ーーーーー」
紀香は「とにかく、病室に戻って」と、そう言葉を口にすると、
残念そうにしながら、真里菜は病室に戻っていくー。
ようやく真里菜の対応を終えて、
ため息を吐き出しながら、紀香は再び移動を開始するー
今度はその途中ー、
奇声を上げながら、病室で拍手をしている20代後半の女性患者の
病室の前を通ったー。
今日も彼女は、奇声を上げながら奇行を繰り返しているー。
そう、彼女はー
”脳”側の人間を救うべく、”自ら”身体をドナーとして差し出した女に、
脳を移植された脳移植患者ー。
しかし、移植された脳に対して身体が拒否反応を起こしてしまい、
脳と身体が上手く結びつかなかったー。
そのため、脳機能に異常をきたし、
常に錯乱状態のような状態になってしまっているー。
その光景を紀香は病室の外から見つめながら
ため息を吐き出すー。
”脳移植手術”ー。
それで、救われた人間は確かに大勢いるー。
一方で、”上手く行かなかった”患者も大勢いて、
女子高生の真里菜や、たった今通りがかった病室に入院しているOLらは、
その一例に過ぎないー。
脳移植手術を行う医師である紀香自身、
”現段階では、まだ脳移植手術は実用化できるほどの安全性がない”
と、そう感じていたー。
しかし、脳移植の実用化を”急ぐ”者たちがいて、
見切り発車のように、脳移植は実用化されたー。
世界の”上流階級”の人間たちが、
”脳移植”を使って生き永らえようとした結果ー、
脳移植にはまだ課題がありながら、
世界各国で実用化されたのだー。
要するにー
”自分たちが脳移植で新しい身体を手に入れて生き永らえたい”ー。
それが、不完全であるにも関わらず、
脳移植手術が実用化された理由ー。
安全性が十分に確立されるまで待っていたら
”自分たちが死んでしまう”ー
だからこそ、世界を牛耳るような”上流階級”の人間たちが
脳移植手術の実用化を急ぎ、不完全なままに実用化されてしまったー。
移植病棟の院長である逢坂(おうさか)院長は、
”そういう奴らはともかく、それでも一般の人でも救われている人間はいる”と、
そう言葉を口にしていて、
事あるごとに紀香に”気にしないように”そう、告げているー。
「ーーあ、先生ー。
おかげ様で、新しい身体にも慣れてきましたー」
廊下ですれ違った”脳移植手術”を終えて経過観察中の
入院患者・瀬奈(せな)が嬉しそうに笑うー。
”瀬奈”は、自ら命を絶とうとして失敗ー、
その後、”身体”のドナーに志願した子だー。
そして、”脳側”を救うために使われたー。
中身は持病が悪化して、外に出ることもできなくなっていた
おばあさんだー。
”脳自体”には、まだ何の異常もなかったために、
瀬奈の身体に、おばあさんの脳が移植され、
おばあさんは瀬奈として生きていくことができるようになったー。
「ーーどこか調子の悪いところがあったら、すぐに教えて下さいね」
紀香がそう言葉を口にすると、
瀬奈は「はいー。本当にありがとうございますー」と、
年齢的には高校生ではあるものの、
どこか大人びたような、そんな雰囲気で頭を下げるー。
彼女の場合は、”術後の経過は良好”でー、
もうすぐ退院することができる状況だー。
脳移植手術も全部が全部失敗しているわけではないー。
半分ほどは”何の問題もなく”退院しているのは事実で、
逢坂院長の言う通り、”脳移植で救われた人がいる”というのは事実。
例え、脳移植手術の実用化が急がされた理由が
世界を牛耳るような人々の私的な理由であったとしても
”一般人”がそれによって救われているのも事実ではあったー。
しかし、その一方で”残りの半分”は何らかの異常が生じているー。
そのうちの3割程度は”異常はあるけど、日常生活には復帰できている”ものの
性格が少し変わったり、記憶に障害が起きたりと、
そういった症状が出ていて、
残りは”再起不能”に陥っているー。
「ーーーー」
紀香は、複雑そうな表情を浮かべながら、
院長室を訪れると、今日の脳移植手術の報告を行うー。
「ーーご苦労様ー」
逢坂院長はそれだけ言葉を口にすると、
紀香のほうを見つめるー。
優しそうな、白髪交じりの初老の男性であるものの、
計算高く、裏では何を考えているか分からない一面もある人物だ。
「ーーーまた、迷っているのかいー?」
逢坂院長が、そう言葉を口にすると、
紀香は「いえー…」と首を横に振るー。
そんな紀香の様子を見て、
逢坂院長は少しだけ溜息を吐き出すと、
「君の迷う気持ちも理解はできるー。
ただー、以前も言ったが救われている人間も大勢いるんだー」
と、そう言葉を口にすると、
「ー君は、この病院の脳移植外科医の中でも最も優秀な医師だ」と、
そう付け加えてから、「これからも期待しているよ」と、
さらにそう付け加えたー。
「ーー」
頭を下げる紀香ー。
そのまま、院長室を後にするー。
「ーーーー」
”脳移植手術”ー。
最初は”人を救う”ために、その手術をしていたー。
けれどーーー
”ーーあんたのせいで、お姉ちゃんはーーー!!!”
脳移植後、下心丸出しになってしまった真里菜の妹から、
少し前にそう言われたー。
そのことを思い出しながら、紀香は悲しそうな表情を浮かべるー。
”わたしはーーー…”
本当に、このままでいいのかと自問自答しつつ、
ゆっくりと歩き出す紀香ー。
そんな紀香の様子を物陰から
逢坂院長は、じっと、静かに見つめていたー…
②へ続く
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コメント
久しぶりの脳移植のお話デス~!!★
脳移植手術が実用化された世界…!
でも、なんだか色々大変そうですネ~…!
続きはまた明日デス~!
今日もありがとうございました~!★!

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