護衛対象の身体に憑依することで、
護衛対象を確実に守り抜くー。
そんな、”闇の壁”の異名を持つボディガードの彼は
大仕事を引き受けようとしていたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーー……ーーそんな…そんなー」
男は、目に涙を浮かべながら
倒れている女に駆け寄ったー。
その女は、血を流していて、
今にも息絶えそうだ。
しかし、まだ彼女には意識があったー。
駆け寄ってきた男を見て、
彼女ー、”美音”はどこか穏やかに、
そして切ない表情で微笑むー。
「ーーごめんねー…
わたしーーー…」
美音は血を流したまま、そう言葉を口にするー。
「美音ー…くそっー……美音ー…
しっかりしろー」
男はそう叫ぶと、
「今、助けを呼ぶからな」と、
スマホを手に、救急車を呼ぼうとする。
しかし、美音はそんな男の手を止めたー。
「ーわたしはもう、助からないー」
とー。
自分のことは、自分が一番よく分かるー。
美音はもう”わたしは助からない”と、
そう確信してしまっていたー。
あと、数十秒ー、あるいはあと数分ー。
そのぐらいしかもう持たないと、
何となく分かってしまったー。
だからこそ、彼の助けを呼ぼうとする電話を止めたー。
彼が、電話をし始めてしまったら、”わたし”は
その間に死んでしまうかもしれないからー。
”想い”を伝えられるのは、もう今しかないからー。
「ーー美音ー…」
美音本人から”わたしはもう助からない”と言われた
男は、目に涙を浮かべながらそう言葉を口にする。
すると、美音は弱々しく微笑んでから言ったー。
「ー”お兄ちゃん”のせいじゃないよー。
お兄ちゃんは、わたしのこと、一生懸命守ろうとしてくれたもんー」
とー。
”美音”は、男の妹だったー。
彼女は、同じ大学に通う”男”からストーカー行為を
受けていて、最近ではその行動がエスカレート、
兄である彼に相談し、”守って”貰っていたー。
兄である彼は美音の住んでいるアパートに一時的に
一緒に住むようになって、
美音のことを一生懸命守ったー。
けれどーー
それが裏目に出た。
”美音が男と同居し始めた”と誤解したストーカー男は、
凶行に走り、隙をついて美音のことを刺して逃亡ー、
最悪の結末を迎えてしまったー。
「ーーありがとう、お兄ちゃんー」
苦しそうに、美音がそう言葉を吐き出すー。
「ーーーー美音ーー」
男は、悔しそうに、そして悲しそうに美音の名を呼ぶー。
美音は、最後に穏やかに微笑むと
そのまま動かなくなったー。
「うっ…うあああああああああああ!」
男は怒り、悲しみ、叫んだー。
そしてー
気付いた時には、ストーカー男の居場所を突き止めて、
逃げるその男を追い回していたー。
ストーカー男は慌てて近くの施設に逃げ込むー。
妹の仇を打とうとする彼は、その男を追い回す。
が、ストーカー男は必死に抵抗ー
その施設にあった薬品を次から次へと美音の兄に投げつけたー。
美音の兄は、薬品を浴び、
異なる種類の薬品が混じったことで発生した謎の煙に包まれ
激痛にもだえ苦しむー。
その様子を見て、ストーカー男は
「ざまあみろ!!クソ野郎が!」と、そう叫んで逃亡したー。
美音の兄は、生死の渕を彷徨った。
がー、彼は死ななかった。
そして、浴びた薬品の影響か、
それとも別の影響かー、
彼は”憑依能力”を身に着けたのだー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”闇の壁”の異名を持つボディガードの男は、
依頼人である嘉山 源三郎の娘である
姫奈と対面していたー。
姫奈は、どこか”闇の壁”の異名を持つ彼の
”妹”・美音に似た雰囲気を持っていたー。
もちろん、美音そのものー…というほどではないけれど、
仕草や雰囲気も、どことなく美音と重ねてしまうような、
そんな雰囲気を持ち合わせた子だったー。
「ーーわたしの身体を借りるー…ですかー?」
姫奈は少し戸惑いの表情を浮かべながらそう言葉を口にするー。
「ーあぁ。”護衛対象”を守るには、俺自身がその護衛対象になってしまうのが
最も手っ取り早いからなー。
君を護衛するとなれば、君の周りで俺がウロウロしているよりも、
俺が君そのものになってしまえば、より君の助かる確率が上がるー。
そういうわけだー。」
”闇の壁”の異名を持つ彼は、”憑依”する理由をそう説明するー。
姫奈はそれに納得しながらも、不安そうな表情を
浮かべながら”闇の壁”の異名を持つボディガードの男のほうを見つめた。
もちろん、”不安”を感じるのはムリもないことだ。
一時的とは言え、”自分の身体を乗っ取られるー…”
自分の意思とは関係なく、身体を動かされるわけだから、
”はい、そうですねー”などと、すぐにそれに同意できる子は少ないはずだー。
「ーー不安か」
”闇の壁”の異名を持つ彼は、そう尋ねるー。
「あーー…い、いえー」
姫奈が戸惑いの表情を浮かべながら言うと、
”闇の壁”の異名を持つ男は、少しだけ笑ったー。
「いや、構わないー。
誰だって”あなたを守るためにあなたに憑依します”と
言われれば、不安に思うのはムリもない。
当然のことだー。俺だって逆の立場だったら”何だコイツ”って
なるからなー」
”闇の壁”の異名を持つ彼は、緊張をほぐそうと
少し笑いながらそう言葉を続けると、
姫奈も「ーはいー正直、不安はありますー」と、
少し笑いながらそう言葉を口にするー。
姫奈の命を狙っているのは”犯罪組織アビス”ー。
どうして狙われているのか、そこまでは具体的に
父親の源三郎が教えてくれなかったものの、
狙われているのは事実のようで、
”髑髏マーク”がついた、アビスからの手紙が
送られて来ていたー。
最近、アビス内で”髑髏マーク”をシンボルに活動している
”幹部候補の男”がいると噂で聞いたことがあるー
恐らくは、その男かもしれないー。
と、なればー…非常に危険な護衛任務になるー。
「ーーー…俺には、妹がいたんだー」
”闇の壁”の異名を持つ男は、少し寂しそうな表情を
浮かべながらそう言葉を口にすると、
姫奈も「妹さんがー…」と、そう言葉を口にするー。
「ーあぁ。君を狙ってる”アビス”と比べりゃ
全然怖いやつではないがー
俺の妹も命を狙われてたー。
俺は、妹から相談を受けて、妹を守ろうとしたんだ。
ただー…」
”闇の壁”の異名を持つ男は、そこで言葉を止めるー。
姫奈もゴクリ、と唾を飲み込むと、
「助からなかったー」と”闇の壁”の異名を持つ男は
静かにそう言葉を続けたー。
「ー自分で言うのも何だが、俺はかなり警戒してたんだー。
妹の身に危険が及ぶようなことがあったら、
ー悲しいからなー。
でも、ダメだったー。」
”闇の壁”の異名を持つ男はそこまで言うと、
「ー”別の人間”である以上、ずっとくっついて行動することはできないからなー…」と、
寂しそうにそう言葉を口にしたー。
そして、その上で言うー。
「だからこそ、”憑依”するんだー。
もう2度と、守りたい存在を奪われないために。
もう2度と、奪わせないために」
”闇の壁”の異名を持つ男は、力強くそう言葉を口にすると、
姫奈はその目を見つめるー。
”この人は信用してもいいかもしれないー”
そう、思ったのだろうか。
少し間を置いてから、姫奈は目に涙を浮かべると、
「わたしはまだ、死にたくないですー」と、そう言葉を口にするー。
”闇の壁”の異名を持つ男は、
そんな姫奈の反応を見て、静かに頷くと、
「ー大丈夫だー。俺が君を死なせはしないー」と、
そう言葉を続けるー。
「俺はボディガードになってから”成功率100%”だからなー。
任せろ」
”自慢”したくてそう言っているわけではないー。
護衛対象が少しでも緊張を和らげることができるようにと、
そう力強く言葉をかけているー。
ボディガードが少しでも不安そうにしていれば、
護衛される側も当然不安になってしまうー。
そんな不安を抱かせないためにも
彼は言うのだー。
”これまで100%、ボディガードを成功させてきた”
とー。
そして、自信満々に言うー。
”今回も絶対大丈夫だ”
とー。
それが、護衛される側に不安を抱かせないようにするための言葉ー。
特に”闇の壁”の異名を持つ彼の場合、
護衛対象に憑依して護衛を行うという
”かなり特殊な方法”であるために、尚更だー。
「ーーーーよろしくお願いします」
姫奈はそう言葉を口にすると、”闇の壁”の異名を持つ彼は
静かに頷いたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そして、犯罪組織アビスによる
”襲撃”の予告がある前日の23時過ぎー。
”闇の壁”の異名を持つ彼は
いち早く、嘉山 源三郎の屋敷へとやってきていたー。
「予告のあった日は、”明日”で間違いないですね?」
”闇の壁”の異名を持つ男が再度、そう確認するー。
伝えられた日付が間違っていたら本末転倒だー。
「えぇ。間違いありませんー」
姫奈の父・源三郎は今一度、犯罪組織アビスから届いた
髑髏マーク付きの予告状を見せ付けるー。
「ーーしかし、このような時間に何故ー?」
事前に連絡はあったものの、前日の23時に”闇の壁”がやってきたことに
少し疑問を覚える源三郎。
その源三郎に対して、”闇の壁”は言ったー。
「日付しか予告がない。つまり0時過ぎの可能性もあると言うことです」
とー。
「ーた、確かに」
源三郎がそう言葉を口にする中、
”闇の壁”は姫奈の方を見ると
「今から、君に”憑依”するー。準備はいいかな?」と、
そう確認するー。
姫奈はどこか不安そうな表情を浮かべると
静かに頷くー。
”闇の壁”の異名を持つ彼は、その場で憑依能力を使うと、
煙のような状態になって姫奈の方に向かって行くー。
憑依される直前ー、
姫奈は”これから手術で意識を失う”時かのように、
”また目を覚ますことができますようにー”と、心の中で呟くー。
このままーーー…
憑依されたまま、自分を狙う者たちに殺されるかもしれないー。
このままーー
自分に憑依する人がもしも悪人だったら、もう目を覚ますことはないかもしれないー。
そんなことを思いつつ、
姫奈は”闇の壁”に憑依されたー。
不安そうな表情を浮かべていた姫奈が
その顔に似合わぬ鋭い視線を浮かべると、
父・源三郎は「これが…憑依ー」と、少し驚いた様子を浮かべるー。
「ーえぇ、娘さんのことは必ず守って見せます。
依頼を受けた以上、死なせることはありませんー。
安心して下さい」
姫奈になった”闇の壁”の異名を持つ男は、
静かにそう言葉を口にすると、
姫奈として、自分の部屋に移動し始めるー。
が、そこにスーツ姿の男が一人、姿を現したー。
「ーよぉ、変態野郎ー」
スーツ姿の男がそう言葉を口にすると、
姫奈は表情を歪めるー。
すると、その男は笑みを浮かべたー。
「ーあんたが”闇の壁”だろー?
そんな可愛い子に憑依してー、
へへー今日はナニをするつもりなんだ?」
ニヤニヤするスーツ姿の男ー
彼は、姫奈の父・源三郎が念には念を、と、
”闇の壁”の異名を持つ彼以外に”念のため”警護を依頼した
別のボディガードーー
”命の番人”の異名を持つ男、守谷 ジンだったー。
ジンは笑みを浮かべながら、
「変態野郎のあんたがいなくても、俺だけで十分だー。
あんたは部屋の中でその子の胸でももみもみして楽しんでなー」と、
そう言葉を口にするー。
「ーーフン」
姫奈は不満そうに、それだけ言うと、
そのまま部屋の中へと入っていくー。
「ーククー犯罪組織アビスだか、アイスだか知らねぇが、
この俺、ジンがそのお嬢様を護衛している以上ー
どうにもならねぇよ」
ジンのその言葉を無視して、姫奈に憑依している闇の壁は
そのまま部屋の扉を閉めるー。
するとー、午前1時過ぎーーー
外が騒がしくなったー。
「ー!」
姫奈が部屋の外を見つめると、
髑髏マークのペンダントを身に着けた男ー
犯罪組織アビスの幹部候補の一人と、
その部下たちがゾロゾロとこちらに向かっているのが見えたー
そしてーー
「ーーーー!!」
姫奈は表情を歪めるー
犯罪組織アビスの幹部候補の男の一人ー、
姫奈の命を狙う男の顔に見覚えがあったー。
その男はーー
「ーーあいつはー」
姫奈は瞳を震わせるー。
その男は…”闇の壁”の異名を持つ男の
妹・美音の命を奪った男ー…
美音のストーカーだった男だったー…。
③へ続く
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コメント
次回が最終回デス~!!
ボディガードの任務は成功するのかどうか、
見届けて下さいネ~!!
今日もありがとうございました~!★

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