<皮>その姿を永遠に③~罪人~(完)

②にもどる!

人を皮にする力を手に入れてしまった、
”老いは罪”だと考えている男子大学生ー。

力を得た彼は暴走、
恋人を、そして妹を”皮”にしてしまうー。

そしてー…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

妹・真桜の”皮”を着て、
真桜として大学にやってきた亮太は
真桜として”退学”するための書類を提出するー。

現在は彼女であった”紅葉”の皮を通って
大学に通っている亮太ー。

しかし、流石に”二人分の大学生活を一人でこなす”ことはできないー。

そのため、彼女の紅葉を乗っ取ったあとには、
紅葉として大学に通うために、”亮太”は退学する道を選んだー。

そして、今度は真桜も退学させようとしているー。

”紅葉”として大学に通いつつ、
別の大学に通う”真桜”としても大学に通うー。

それは、一人の力では難しいー。
亮太自身も大学を退学したとは言え、
両親と定期的に連絡を取ったり、
知り合いと会ったり、という時間を作る必要はある。

そのため、妹の真桜として大学に通うか、
あるいは彼女の紅葉として大学に通うか、
”選ぶ”必要があったー。

そして、亮太は”紅葉”として大学に通い続ける道を選んだー。

と、言うのも妹の真桜が通っているのは
”別の大学”であったために、
亮太と同じ大学に通っていた紅葉として、
そのまま大学生活を送った方が色々やりやすいのだー。

「ーーーど、どうしていきなりー…?」
大学の職員が戸惑いの表情を浮かべるー。

亮太に乗っ取られて、退学届を提出しに来た真桜は
笑みを浮かべながら
「ー他にどうしてもやりたいことが見つかってしまってー。ごめんなさいー」と、
適当にそんな言葉を口にするー。

困惑する大学の職員を余所に、
真桜はそのまま退学の手続きを終えて、
大学を立ち去ろうとするー。

がー、そこに亮太の妹・真桜の親友である美恵が姿を現したー。

「ー真桜、急に退学ってー、どういうつもり?」
美恵がそう言葉を口にすると、
亮太に乗っ取られている真桜は「ごめんねー急で」とだけ言葉を
口にして、そのまま立ち去ろうとするー。

”亮太”からすれば、この子が誰なのかも
あまり詳しく知らないー。
長々と話せば、それだけボロが出るリスクもあるし、
そうするつもりはなかったー。

がー、立ち去ろうとした真桜に対して、美恵は言うー。

「ーねぇ、”本当に真桜”ー?」
とー。

「ーーーー!」
真桜は立ち止まって振り返ると、
「あははー…急に何を言い出すのー?」と、そう言葉を口にするー。

すると、美恵は言ったー。

「この前、真桜が”お兄ちゃん”と話をしているの、見たの」
とー。

真桜は鬼のような形相を浮かべると、
必死にそれを誤魔化しながら、
「ーそ、そっか~、それでー?」と、不満そうに言葉を口にするー。

「ーー真桜、”何かされてた”よねー?」
美恵がそう言葉を口にするー。

そんな美恵の言葉に、真桜を乗っ取っている亮太は
”コイツ…全部見てやがったのかー?”と、
青ざめながら内心で焦り始めるー。

「ーーな、な、何かってー?」
真桜はそれだけ言うと、美恵は少し躊躇うような表情を浮かべてから、
”真桜が変な注射を打たれて、ペラペラになって地面に崩れ落ちた”
と、見たモノを全て口にしたー。

「ーーー」
真桜は歯ぎしりをすると、
「ーそっか~…それはねー」と、そう言葉を口にしながら、
”人を皮にする注射器”を取り出して、それを美恵に打ち込もうとしたー。

がーー

「!!!!」
美恵は咄嗟に真桜の腕を掴むと、
「これは何!?!?わたしに何をするつもりだったの!?」と
怒りの形相を浮かべるー。

「ーーぐっ…放せー!」
真桜の身体では、美恵の腕を振り払うほどの力がないー。
真桜はもがきながら美恵を振り払おうとするも、
逆に”人を皮にする注射器”を叩き落とされてしまうー。

「ーー真桜!お兄さんに何かされたんでしょ!?
 何をされたの!?」
美恵がすかさず注射器を拾ってそう言葉を口にすると、
亮太は慌てた様子で、真桜の身体で叫ぶー

「何もされてないし!!どこからどうみてもわたしは真桜でしょ!」
とー。

”人を皮にする力”なんてー、誰も信じるわけがないー。
亮太はそう思いつつ、
”邪魔されてたまるものかー”と、怒りをたぎらせるー

しかし、美恵は「これを警察に持って行くから」と、そう言葉を口にするー。

その言葉に、真桜は声を上げて、美恵に突進するー。

「ーー老いは罪だー…!罪は正さなくちゃいけない!!!
 真桜が、紅葉が、ババアになるなんて、許せない!!!!
 ババアになった真桜なんて、ババアになった紅葉なんて、
 何の価値もない!!醜いだけだ!」
真桜の身体で大声で叫ぶ亮太ー。

倒れ込んだ美恵から注射器を取り上げると、
「お前だってババアになりたくないだろ!!!」と、そう叫びながら
何度も何度も、人を皮にする注射器を美恵に打ち込んでいくー。

「ー俺は大事な人がずっとずっと、綺麗でいられるようにー、
 大切な人が”罪人”にならないように、
 真桜と紅葉を皮にしたんだ!!!

 それなのに、お前になんて邪魔されてたまるか!!」

大声で喚き散らす真桜の
異様な光景ー。

周囲に他の学生たちが集まる中、真桜はハッとすると、
既に真桜の親友の美恵は、”皮”になっていてー、
真桜を乗っ取っている亮太の声は届いてはいなかったー。

我に返った亮太は
「くそっ!」と、そう言葉を口にすると、美恵の皮を回収して
どよめく大学内から逃亡していくー。

そして、そのまま自分のアパートに駆け込むと、
真桜の皮を脱ぎ捨てて、
疲れ果てた表情で息を吐き出し始めたー。

「ーくそっーー…ここはー…もうダメだー」
亮太はそう呟くー。

”真桜”が、美恵を皮にする瞬間をー
真桜が大声で怒り狂う姿を大学の人たちに見られてしまったー。

”亮太”は真桜の兄ー。
仮に真桜の皮をこの先着ずに生活しても、
”真桜の行方が分からない”となれば、
兄である亮太の家にもやってくるかもしれないー。

「ーーー……ーーこ、こうなったらー…」
亮太は彼女であった”紅葉”の皮を身に着けると、
早速行動に出たー。

”紅葉”が住んでいた一人暮らしの家に
生活拠点を移すことにしたのだー。

「ー俺と、真桜が”失踪”したってー
 大丈夫ー……
 そう、大丈夫なんだー」

亮太は、当分の間、紅葉の皮を脱がずに
紅葉として生活し、
真桜の皮はこの先2度と外では着ない、
と、心の中でそう固く誓うー。

「ーーあぁ…やっぱ、紅葉は綺麗だー
 俺のおかげで、紅葉はずっとずっと、この先も綺麗なままなんだー
 俺は、何も悪くないー 何も悪くないよなー?」

鏡に映る”紅葉”に向かって
紅葉の身体でそう呟く亮太ー。

”俺は何も悪くないー”
”俺は何も悪くないー”と、
まるで呪文のように何度も繰り返すと、
今度は”紅葉”のような口調で言葉を発したー

「ーーうんー。わたしがずっと綺麗でいられるのは亮太のおかげー
 何も間違ってないよー

 綺麗なものは、美しいものは、そのままの姿で標本にしておかなくちゃー」

紅葉はそんなこと言わないー。
でも、紅葉の姿でそう言葉を発することで、
亮太は壊れそうな精神をギリギリ保っていたー。

いやー、もう、亮太は壊れていたのかもしれないー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

”亮太”と妹の”真桜”、
そして妹の真桜に”謎の注射器”を打ち込まれて皮にされた”美恵”が
消息を絶ったー。

世間で、そんな話題がニュースになる中、
紅葉の身体で生活を続けていた亮太は
その映像を見つめながら呟くー。

「ー俺は”老い”という罪から紅葉を救ったんだー
 いや、紅葉だけじゃないー真桜のことも。その友達もー」

紅葉はそう言葉を口にすると、
満足そうに笑みを浮かべながら、自分好みの服を着た
”自分”の姿を見つめるー。

「ーーへへへへー、俺がもっともっと紅葉を綺麗にしてやるんだー」
紅葉の身体でそう呟きながら、
キラキラしたパーティドレス姿の自分を見つめて
満足そうに微笑むー。

紅葉はこれで永遠に老いることはないー。
そう、永遠に綺麗なままー。
それだけじゃないー。
紅葉に色々な服を着せたり、色々なメイクをしたりして
”さらに美しい紅葉”を見ることができるー。

「へへ…へへへへへー」
紅葉は思わず嬉しそうに笑うー。

妹の真桜や、その親友の美恵の”皮”は
世間的に色々な意味で騒ぎになってしまったために、
その皮を着て外に出る…ということは
できなくなってしまったけれど、
それでも、こうして”皮”にして保管さえしておけば、
その美しさは衰えることはないー。

ずっとずっと、真桜も美恵も綺麗なままだー。

そして、美恵の皮のほうを見つめながら言うー。

「ーーこいつはともかく、紅葉と真桜が
 ずっと、綺麗なままでいられるんだー
 俺はー…俺は二人のためにいいことをしたんだー」
紅葉の身体で、亮太はそう言葉を口にすると、
「ーー老いは、罪だー。標本にして綺麗なままにしておくのが
 大事な人を守る唯一の方法なんだー」と、
そう言葉を付け加えたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

10年後ー。

紅葉の皮を着て、亮太は今日も
”紅葉”として自分の勤務先に足を運んでいたー。

あの後、亮太は紅葉として大学を卒業ー、
就職したー。
しかし、その会社で”親しくなった”同期の女を
”これ以上年齢を重ねたら、この女は罪人になってしまう”という理由で
皮にしてしまい、
さらには先輩一人と上司も皮にしてしまったことで、
人員不足が生じて職場が大混乱、
最終的にそのオフィスごと封鎖されることになって
職を失ってしまったー。

けれど、亮太はそのことを後悔はしていなかったー。

”俺は、会社のやつらも罪人にならないように救ってやったんだー。
 老いて罪人にならないために、人は標本になるべきなんだー”

と、心の底からそんな風に考えていたー。

その後、紅葉として再就職をしようとしたものの
なかなかうまく行かず、
亮太は紅葉の美貌を生かして、夜の仕事をすることにした。

”想像”とは全然違う過酷な世界ではあったものの、
”老い”は罪だと考える亮太にとって
若さが武器になるその世界は、理想の世界とも言えた。

”皮”にされていることで老いない紅葉の身体ー。
その身体で、亮太は順調な社会人生活を送っていた。

しかしーーー

「ーーーはぁ」
帰宅した紅葉は大きくため息を吐き出すー。

最近の亮太は”あること”に酷く悩んでいたー。

それはーーー
”自分自身の老い”ー

”人を皮にする力”を手に入れてから、
10年が経過したー。

既に亮太は30を超えたー。

そう、亮太は自分自身の老いに酷く悩み始めていて、
精神的におかしくなりつつあったー。

皮になった紅葉ー
皮になった真桜ー。
そして、皮になった他の人々ー。

紅葉も、真桜も、みんな老いることなく
”皮にされたあの時”のままー。

まるで昆虫標本のように”美しかったときの姿”そのままー。

けれど、亮太は違う。

亮太自身、外では主に”紅葉”の身体で行動していても、
家では皮を脱いで、自分の姿で行動することもそれなりにあるー。

その都度、自分が老いていく姿を見てー、
彼は酷く悩み、落ち込んでいたー。

気になるなら、ずっと”紅葉”を着て、紅葉の姿で
過ごせばいいのかもしれない。

それでも、どうして気になってしまうー。
気にしなければいいのに、皮を脱いで老いた自分を見てしまう。

「ーーくそっー…俺は罪人だー…俺は、罪人だっ…」
頭を抱えながらそう言葉を口にする亮太ー。

そしてーー
亮太は、10年前ー、真桜を皮にする前に
言われた言葉を最近は思い出すようになっていたー。

”「それに、お兄ちゃんだって歳は取るんだよ!?
 それが罪だって言うなら、お兄ちゃんだってそのうち罪人になるんだよ!!??」”

とー。

「ーへへー真桜ーお前の言った通りだったー…
 俺、罪人になっちまったー」

紅葉の皮も、真桜の皮も、散らかった状態の部屋で
亮太は自虐的にそう呟くと、
少しだけ笑みを浮かべてから”人を皮にする注射器”を手にしたー。

今一度、鏡を見つめるー。

30代になって、老いが始まっているー。
亮太はそう思うと、
「ー俺は、罪人だ」と、そう言葉を口にする。

そしてーー

「ーー俺は…俺は…これ以上罪を重ねたくないー」と、
涙目でそう言葉を口にすると、
亮太は自分の首筋に”人を皮にする注射器”を突き立てたー。

自分の身体から力が抜けていくー。
その場に倒れ込んで、
亮太は思わず笑みを浮かべるー。

”これで俺もーこれ以上、罪を重ねなくて済むーへへーー”

亮太の意識は、そう思ったのを最後に途切れたー。

”老い”に異様なまでの恐れを抱き、
人を皮にする力を手に入れてしまった亮太は、
最後までその考えに取り憑かれたまま
自らを皮にしてしまうという最期を遂げたのだったー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

自分も皮にしてしまう結末に…★!

私も、若いままで~~!☆
なんて、時々思っちゃいますケド、
老いは仕方のないことなので、
歳を取ったら取ったなりの楽しみを色々見つけたいデス~!!

お読み下さりありがとうございました~~!☆!

「その姿を永遠に」目次

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皮<その姿を永遠に>

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