<憑依>偽りのユートピア①~理想郷~

とある王国にたどり着いた旅人ー。

しかし、彼女がたどり着いたその王国は
女王から、民にいたるまで
”全員が魔物に憑依された”、そんな王国だったー。

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世界各地を旅する旅人の女性ー・ルチアは、
”ある王国”にたどり着いていたー。

「ーーーーー」
以前立ち寄った街で買った地図を手に、
その王国のほうを見つめるルチア。

”ーー確かここは、コスモス王国だったわねー…”
ルチアはそう言葉を口にしながら、
眼前に広がる王国・”コスモス”を見つめるー。

ルチアは世界各地を旅している旅人だったー。
行く先々で、芸を披露したり、用心棒をしたり、
あるいは街で必要とされることがあればそれを手伝ったり、
モンスター退治をしたりしながら、生活をしていたー。

そんな彼女がたどり着いたのが
今、眼前に広がる王国”コスモス”だったー。

標高の高い場所に存在し、
時に雲に包まれることもある幻想的な王国ー。

他の王国とは離れた位置に存在していて、
外部との交流があまりないこと、
そして幻想的な風景が広がることから
”理想郷”などとも呼ばれていたー。

そんな、”コスモス王国”にたどり着いたルチアは、
その入口となる場所まで歩を進めていくー。

”コスモス王国”の情報は、ほとんどないー。
ただ、女王アドリアを中心に、
栄えている、ということだけは知っていたー。

「ーーーーー旅のお方ですか?」
コスモス王国の入口にいた警備兵がそう言葉を口にすると、
ルチアは「はいー。わたしはルチアと言いますー」と、
そう言葉を口にすると、
自分が各地を旅している身だということを明かすー。

そして、コスモス王国から一番近い村・シフォン村から、
このあたりで魔物の目撃情報が多いと聞いて討伐しようと、
やってきている最中であることも説明したー。

「ーーーー」
警備兵二人は互いに顔を見合わせると静かに頷いてから
「ルチア殿だなー。通行を許可する。ようこそコスモス王国へー」と、
そう言葉を口にしたー。

そのまま、”別の兵士によって、王宮の方へと案内されるー。

「我が王国には外部からの人間はほとんどやってこない故ー
 国を挙げて歓迎させていただいております」
女性兵士のネレアがそう言葉を口にしながら、
ルチアを案内していくー。

幻想的な雲と光に包まれる中、
街の様子を見つめるー。

街では誰もが幸せそうに、
そして、楽しそうに暮らしていたー。

「ーーーみんな、幸せそうですねー」
ルチアが、街の風景を見ながら言うと、
女性兵士・ネレアは笑みを浮かべるー。

「えぇ、とても」
そう答えつつ、ネレアは再び前を向くー。

がー、一瞬ルチアはネレアの”目”に少しだけ
違和感を覚えたー。

「ーーーー」
しかし、その違和感が”何”なのかは分からなかったために、
すぐにその考えを振り払い、ネレアと共に歩き出すと、
コスモス王国の”王宮”に、ルチアはたどり着いたー。

「ーー旅人がやってくるとは珍しいー」
女王の間で待ち構えていたコスモス王国女王・アドリアが
そう言葉を口にすると、
「ー歓迎しますー。わたしはアドリア。コスモス王国の女王です」と、
そう言葉を口にしたー。

想像以上に若く、ルチアと同じぐらいの年齢に見える
アドリアは、笑みを浮かべると、
「父上が早くに病で亡くなられてしまいましてねー
 わたしが、こうして後を継ぐしかありませんでしたー」と、
そう言葉を口にするー。

ルチアは「それは、大変でしたねー」と、そう返すと、
改めて、自分の自己紹介をするー。

「ーーーーー」
自己紹介をしているルチアを
”頭から身体まで”全てを物色するような視線で見つめる
女王・アドリア。

その視線に、ルチア自身も少し違和感を覚えたものの、
「わざわざ、このような歓迎ー、ありがとうございます」と、
お礼を口にする。

「いえ、外部から人がやってくるのは珍しいことですから」
女王アドリアはそう言葉を口にすると、
「わたしたちとしても、治安を守る意味合いもありますし、
 あまりお気になさらずにー」と、そう言葉を続けるー。

その上で、「王宮内に旅の方を歓迎するための部屋も
ご用意してあります」と、そう説明した上で
「もちろん、門限だとか堅苦しいことを言うつもりはありません
 街の中を自由に回って頂いて結構ですー。
 夜に休む際に、お好きなようにお使い下さい」と、
そんな言葉を付け加えたー。

「ー色々なお気遣い、ありがとうございます」
ルチアは改めてお礼の言葉を口にすると、
背後に控えていた案内役の女兵士・ネレアに案内されて、
部屋の方に向かっていくー。

頭を下げて女王の間から退出していくルチアー。

が、そんな後ろ姿を見つめながら
女王アドリアは不気味に目を赤く輝かせたー。

「ーあの者は”我々のこと”を嗅ぎつけて来たのではなかろうな?」
そう言葉を口にしながら、背後にいた親衛隊の一人に確認するー。

「ーーはっ!ただの”旅人”のようですー
 他国からの諜報員や、我々を嗅ぎつけた人間ではありません」
親衛隊の男がそう言葉を口にすると、
女王アドリアは笑みを浮かべたー

「そうか。なら良いー」
そう言葉を口にすると、アドリアは立ち上がってから、
邪悪な笑みを浮かべるー。

その背後にはー、”邪悪な黒い影”ー。

「ーここは、我々魔物がようやく手にした”理想郷”ー。
 人間どもになど、邪魔はさせぬー」

そう言葉を口にする女王・アドリアは
魔物に”憑依”されていたー。

いや、女王アドリアだけではないー。
この”コスモス王国”は数年前に魔物の軍勢の侵略に遭い、
”全員”憑依されてしまっていたー。

手始めに、当時の国王の娘である王女・アドリアが憑依され、
憑依されたアドリアは父親を”病死”に見せかけて抹殺、
自身が女王となり、その権力を使って
周囲の人間に次々と魔物を憑依させていくと、
やがて、民たちにも”伝染病対策”と偽り、
一人一人に予防接種のようなものをするという”嘘”をつき、
魔物を憑依させていったー。

”魔物の人数”よりも、”コスモス王国で暮らす人間”の数の方が
多かったために、”余りの人間”は殺された。

そうして、このコスモス王国は魔物たちに全員憑依される形で
完全に乗っ取られてしまったのだったー。

”憑依”という方法を用いた内部からの侵略であったこと、
そして、コスモス王国自体、他の王国から離れた辺境の地に
存在しており、外部との交流がほとんどなかったことから
異変を察知されることのないまま、
魔物に完全に乗っ取られてしまったー。

しかし、この世界では”魔物”たちは人間に押されている状況で、
見つかれば退治されるために、細々とした生活を強いられていたー。

そのため、こうして手に入れた”コスモス王国”は
魔物たちにとって、まさに理想郷だったー。

「ーーーークククク
 人間よー。我ら魔物のための王国は
 絶対に貴様らなどに渡さぬぞー」
女王・アドリアは邪悪な笑みを浮かべながら
そう言葉を口にすると、
女旅人のルチアの姿を思い浮かべるー。

「ーーあの旅人はどうしてくれようかー…」
女王アドリアはそう言葉を口にしながら
”ルチア”の処遇を考えるー。

あの人間は、”この王国”の置かれている現状に
気付いていないー。
素性に関しても、他国からコスモス王国について
調査しにきた人間ではないことは、
恐らくほぼ確実だー。

ルチア本人が言っている通り
”旅人”なのだろうー。

ただー、魔物退治をしに来た、という点が
引っ掛かるー。

「ーーーこのあたりの魔物の目撃情報ー…」

ルチアは”シフォン村”なる村から
このあたりで魔物の目撃情報が多いと聞きつけて、
この場所にやってきたのだと言うー。

が、その”魔物”とやらは
女王アドリアに憑依した魔族長の配下ではないー。

この世界の魔物は”魔王”のような絶対的な存在は存在しておらず、
それぞれ、魔族長と呼ばれる高ランクの魔物が
グループを形成して、各地で好き勝手やっているー。

女王アドリアに憑依した魔族長の配下である魔物たちは
全員、このコスモス王国の人間の身体を乗っ取って、
この王国での生活を続けていて、”魔物の目撃情報”と言われてしまうような
行動はとっていないー。
全員、人間の身体で行動しているのだから、
外部の人間に見られても”魔物がいたぞ!”とはならないのだー。

と、いうことはー

「このあたりに、我々以外の魔物がいるということかー」
女王アドリアは表情を歪めるー。

魔族は、”別のグループ”に所属する魔族であっても
同胞ではあるー。

がー、せっかく王国ごと憑依で乗っ取った
この理想郷を、壊させるわけにはいかないー。

「ーーーエイネ」
女王アドリアがそう言葉を口にすると、
背後から、穏やかな雰囲気の女魔術師が姿を現すー。

「はいー族長ー、いえ、女王様ー」
エイネがそう言葉を口にすると、
アドリアは「族長と呼ぶなー。今の我ー、いや、わたしは女王よ」
と、そう返すー。

エイネは「そうでございましたー」と、頭を下げると、
「それで、何か御用でしょうか?」と、そう言葉を口にするー。

「この近くに、魔物の目撃情報があるらしいー
 あの旅人よりも先にその魔物と接触して、
 対話が出来そうであれば、ここに連れて来るのだ」
女王アドリアのその言葉に、
魔術師エイネは「はいー分かりました」と、そう言葉を口にすると、
そのまま立ち去ろうとするー。

そんなエイネを見て、アドリアは少しだけ笑うと、
「ーしかし、我が配下の中で一番の武術の使い手であるお前が
 その身体を選ぶとはなー」
と、そう言葉を口にする。

その言葉に、立ち去ろうとしていたエイネは
「こんな、魔法を使えそうな女なのにー、全く魔法を使えないなんて
 誰も思わないでしょうね」と、クスクスと笑うー。

「ーククーそうだなー。
 だが、相手には魔法が使えそうなイメージを与えることができるし、
 まさかその姿でいきなり肉弾戦を仕掛けて来るとは
 相手も思うまいー。
 賢い身体を選んだものよ」

女王アドリアはそう言葉を返すと、
女魔術師エイネは笑みを浮かべながら
そのまま王宮の外へと向かって行くー

そしてーーー

「イルマ」
女王アドリアは別の者の名前を呼ぶと、
全身を鎧で覆う女が背後から姿を現したー。

「ーーあの旅人を見張れ。
 あの旅人が我々に何の疑問も抱いていないうちは
 とりあえず放置しておいていい。
 だが、もしも何かに気付くようであれば処分しろ」

女王アドリアがそう指示をすると、
イルマと呼ばれた女ー
もちろん、魔物に憑依されている女は
静かに頭を下げてそのまま姿を消したー。

一通り指示を終えると、ゆっくりと立ち上がる女王アドリア。

旅人・ルチアはその動向を監視し、
今のところは放置しておくつもりだ。
そのまままた別の場所に向かうのであれば、
そのまま解放しても構わない。
何の疑念も抱かれていないのでれあれば
わざわざリスクを冒す必要は、今のところはないー。

そして、”この辺りで目撃情報のある魔物”は、
接触して、話が通じそうであれば、仲間に引き入れるつもりだ。
人間の身体に憑依して、人間として生活しているとは言え、
魔族は同胞だー。
が、向こうが敵意を持つのであれば仕方がない。
王国ごと乗っ取ったこの”ユートピア”を守るためであれば
手段は択ばないー。

「ーーククー誰にも邪魔はさせぬー」
女王アドリアは邪悪な笑みを浮かべると、
静かにそう言葉を口にしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

部屋に案内された旅人・ルチアは、
豪華な部屋を見渡しながら
「本当に、こんな場所をお借りしても大丈夫なのですか?」
と、そう言葉を口にするー。

案内役の女兵士・ネレアが「旅の方は珍しいので」と、
そう言葉を口にすると、
「では、ごゆっくりー」と、そのまま立ち去っていくー。

「ーーーー」
ルチアはひと息つくと、このあたりで目撃されたという魔物を
探すために、地図を見つめ始めるー。

「……」
一方、部屋の外に退出した女兵士・ネレアは少しだけ表情を曇らせると
そのままゆっくりと立ち去っていくのだったー…

②へ続く

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コメント

姫も民も、みんな魔物に憑依されている王国…☆!
大変なところに足を踏み入れてしまいましたネ~!!!

どうなってしまうのかは、明日以降のお楽しみデス~!

今日もありがとうございました~!!

続けて②をみる!

「偽りのユートピア」目次

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