辺境の地に存在する”理想郷”ー
コスモス王国を訪れた女旅人。
しかし、彼女は知らないー
その王国は女王も民も、全員は既に魔物に憑依されて支配されていることを…。
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女旅人・ルチアは、
コスモス王国の城の一室で、夜を過ごしていたー。
地図で、シフォン村の住人たちが
”魔物の目撃情報が多い”と、そう言葉を口にしていた
区画を確認するルチア。
「ーー目撃情報が一番多いのは、この辺りねー」
そう言葉を口にすると、ルチアは少しだけ息を吐き出す。
とは言え、今日はもう夜遅いー。
”夜になると”魔物たちはより活性化することが多いー。
種類や個体差はあるものの、
全体的に”夜”の方が魔物たちは狂暴なのだー。
それ故に、今夜はこれ以上の探索は諦めて、
コスモス王国の女王・アドリアの言葉に甘えることに決めたルチア。
「ーーー」
王城の一室から、コスモス王国の城下町のほうを見つめるー。
街の方には光が輝いていて、
夜だと言うのに賑わいを感じるー。
”平和”だからこそ、夜になっても
好きなだけ騒いでいることができるのかもしれないー。
そんな風に思いつつ、ルチアが”そろそろ寝ようかなー”と、
そう考えたその時だったー。
ガサッー…
「ーー!」
人の気配を感じたルチアは
持ち歩いている”妙に立派な短剣”を取り出すと、
警戒した表情で「ーーどなたですかー?」と、
そう言葉を口にしたー。
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夜の森にやってきた
女王アドリアの配下ー…女魔術師のエイネは、
クスッと笑みを浮かべたー。
元々は街の教会で、回復魔法を中心に魔法を使い、
人々を癒していたエイネ。
しかし、魔物に憑依されてしまったエイネは、
同じく憑依されている女王アドリアの手足として
暗躍していたー。
”周辺で目撃情報が上がっている魔物”
そんな情報を旅人・ルチアを通して手に入れた
女王アドリアから派遣されてきたエイネは、
魔物の気配を感じながら、言葉を口にしたー。
「ーーーそこにいますよね?
少しお話をしたいのですがー」
エイネはそう言葉を口にすると、
華奢なエイネの姿を見て”魔物”が姿を現したー。
”悪魔”とでも表現するにふさわしい邪悪な風貌の魔物が
姿を現すとー、
「ーーー俺様に何の用だー?」と、そう言葉を口にするー。
その身体には無数の傷跡が残っているー。
人型ではあるものの、禍々しい翼や、
鋭い爪を持ち、威圧感も兼ね備えている魔物だー。
そんな魔物を前に、エイネは少しだけ笑うと、
「ー女王様が、あなたと会いたいとそう言っていますー」と、
そう言葉を口にする。
「ーふざけるな。人間になど用はない。立ち去れ」
この魔物こそ、”シフォン村”の住人が旅人のルチアに伝えた
”最近目撃情報が増えている魔物”だー。
元はとある地域にいたものの、人間たちに撃退され、
この地方に逃げ込んで来た魔物ー。
人間たちを激しく憎んでいるものの、
自身の命も危うくなってきたため、
人間と関わらないように、この地方の森を最近は根城にしていたー。
「ーーあなたに選択肢はありませんよー。
我らが女王と話をするか、死ぬかー」
エイネがそう言うと、魔物は怒りの形相で、
「去れと言ってるだろう!」と、強靭な爪をエイネに向かって振り下ろすー。
が、エイネに憑依しているのは”力自慢”の魔物。
いかにも魔法を使いそうなエイネの姿で、
突然、強烈な蹴りを魔物に加えるー。
「ぐっは…!?」
魔物が驚くー。
エイネの身体であるために
”中身”がいくら武闘派の魔物であっても、
そのダメージ自体は、元の身体よりは落ちるー。
それでも、あらゆる体術で魔物を圧倒していくと、
エイネは笑みを浮かべながら
「まだやりますー?」と、
魔物に対してそう言葉を口にしたー。
「ーーぐ……」
魔物は表情を歪めながら
「小娘ー。その技は我々魔族に伝わる”魔武道術”ー
なぜ、それをー…」
と、エイネを見つめながら言葉を口にするー。
「ーーどうですか?話を聞く気になりましたかー?
”わたしたち”のユートピアの話をー」
その言葉に、魔物は”この小娘ーー”と、
心の中でそう思いながら、
「分かったー女王とやらの場所に案内して貰おう」と、
そう言葉を口にするのだったー。
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「ーーーーわ、わたしです!
ルチア様ー」
一方、”理想郷”ーコスモス王国の王城で休んでいた
旅人のルチアは、”気配”の主が顔を出したのを見て、
警戒を緩めていたー。
部屋にやってきていたのは、
案内役も務めていた女性兵士・ネレアー。
「ネレアさんー。どうかしましたか?」
ルチアがそう言葉を口にすると、
「大事なお話がー」と、そう言葉を返して来たー。
「ー大事な話…」
ルチアが不思議そうにすると、ネレアは頷くー。
そして、「わたしから部屋の説明を聞いている雰囲気で
話を聞いて下さい」と、ネレアは小声で言葉を口にした。
その言葉の意味は分からなかったものの、ルチアは静かに頷くと、
ネレアの話を聞き始めるー。
”ーーーーー”
ルチアが滞在している部屋の様子を、
女王アドリアの側近の一人である、全身に鎧を纏う女・イルマが
見張り台から見つめる中、
ルチアとネレアは会話を続けるー。
ネレアは”どこからか監視されている”ことは理解した上で、
身振り手振りで”部屋の説明をしている”フリをしながら、
ルチアに”大事なこと”を伝えるー。
「わたしの祖国ーこの王国は
全員、魔物に憑依されていますー」
とー。
「ーな…何ですってー?」
ルチアはそう返しながらも、
ネレアが「雑談している雰囲気でお願いします」と小声で
そう言葉を口にすると、
「あ、そうだったのですね~!」と、ルチアはわざとらしく
そう声を上げたー。
「女王様も、側近も、民も、みんなです。
魔族長の一人に率いられた魔物たちがやってきて、
わたしたちに次々と憑依して、王国ごと奪われてしまいましたー
わたしたちの国は他の国と離れた場所にあって
交流もないことが逆に仇になってしまったんです」
ネレアはそう言うと、
ルチアは雑談しているフリを続けながら
「でも、どうしてそれをー?」と、疑問を口にする。
すると、ネレアは言ったー。
「ーわたしには”双子の姉”がいましたー
ただ、魔物たちはそれを知りませんでしたー
先にお姉ちゃんが憑依されてーー
わたしたちが双子だと知らない魔物は
”もうこの女への憑依は完了した”と、そう思っているんですー
だから、わたしだけは憑依されていない状態なんです」
とー。
ネレアには”そっくり”な双子の姉がいたー。
憑依されたその姉に、身を隠していたネレアは偶然遭遇ー、
襲撃されて止むを得ず、姉を返り討ちにすると、
ネレアは”双子の姉”のフリをして、
そのまま”魔物たち”に支配されたこの国を何とかしようと
ずっとタイミングを見図ってきたー。
双子の姉が、女王アドリアに憑依している魔族長の目の前で
魔物に憑依されたために、
ネレアは”既に憑依済み”と、周囲から思われていて、
魔物たちの支配を、”唯一”逃れているー。
「ーーどうかー、お逃げくださいー
そして、できればこの国の異変を、外にお伝えくださいー」
ネレアは言うー。
自分はここから離れることができないと。
離れれば、疑念を抱かれてしまい、
ここの様子を内側から探ることができなくなってしまうー。
だから、ネレアは身動きが取れずに、
ずっと”外から人が訪れる”のを待っていたー。
ただ、これまでは、こうして接触する機会がなく、
また、”お願いする”にふさわしい人間ではなかったこともあって、
”魔物に国全体が憑依されている”ことを打ち明けたのは、
ルチアが初めてだったー。
ルチアは静かに頷くと、
「ー分かりましたー」と、そう言葉を口にするー。
「絶対に、あなたを見捨てませんー」
ルチアはそう言葉を口にすると、
「ーわたしの”母国”に助けを求めて見ますー」と、
そう続けたー。
「わたしがお願いすれば”お父様”は絶対に動いてくれますから」
ルチアはそう言うと、
自分の素性を明かしたー。
ルチアはーー
ここから離れた地にある国、魔導国家・フラリス”第3王女”だったー。
つまり、魔導国家フラリスの現国王の娘の一人。
長女と次女、二人の姉がいることや、
フラリス自身、自由奔放な性格であるため
国王に直訴して、各地を一人で旅して回る許可を得て、
こうして一人で旅をしているー。
当初、父は”護衛をつける”と言っていたものの
”わたしは一人で旅をすることで色々なことを学んで
色々な強さを身に着けたいんです”と、そう言い放ち、
こうして一人で旅を続けているー。
”王族として甘やかされている状態”では得られないものを得たい。
それが、ルチアの考えだったー。
「ーーーフラリスの王女様…?」
ネレアは驚いた様子でそう言葉を口にすると、
ルチアは静かに頷く。
その上で、ルチアは言ったー。
「もう少しだけ、辛抱できますかー?
わたしは、周囲に怪しまれないようにあと数日間
ここに滞在したら、自然な形でいったんここから去って
父に連絡を取りますー」
ルチアがそう言うと、ネレアは「分かりました」と、
そう言葉を返すー。
ネレアと話をしたあとに、すぐに出立しようとすれば怪しまれるー。
ネレアの身の安全を図るためにも、”自然な形”で出立しようと、
ルチアはそう言葉を口にしたー。
ネレアも、”魔物”たちは、気付かれずにルチアが立ち去れば
それでいいと、そう話していたことをルチアに伝えるー。
ルチアが怪しまれるような行動を取らなければ、
ルチアはそのまま”コスモス王国”の外に出ることができるはずだー。
女王アドリアの身体を乗っ取った”魔族長”としても、
せっかく手に入れたこの”理想郷”が乱されるようなことは
望んでいないー。
「ーーー…ーご丁寧に、ありがとうございました」
話が終わると、ルチアは部屋の説明を受けた風を装い、そう言葉を口にする。
ネレアも「はいー。ではごゆっくり」と、そう言葉を口にすると
部屋の外に立ち去っていくー。
一人残されたルチアは、
街のほうを見つめるー。
夜の方が、むしろ活気がある気がするー。
そう思ったのは恐らくー
”人々が魔物に憑依されている”からー。
魔物は夜行性のものが比較的多いー。
この王国の人間が、民も含めて全員憑依されているのであれば、
夜の方が賑わっているのも頷けるー。
「ーーー…お父様に、知らせなくちゃー」
”旅人”として一人、色々経験しようと旅を続けて来たルチア。
しかし、この王国に起きていることは、一人で対処できるものではないし、
一人で対処できないことに、一人で立ち向かうのは、
”勇気”ではなく、”無謀”だー。
「ーーーー」
ルチアは不安を押し殺すようにして、静かに息を吐き出すと、
”自然な形で、数日間滞在したらここを出るー”
と、内心でそう呟くのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”ーーーーーー”
憑依されている女王・アドリアの側近の一人、
鎧の女騎士・イルマは、
ネレアがルチアに”部屋の説明”をしに行ったのも監視していたー。
会話内容までは聞こえなかったものの、
雰囲気から”部屋の説明と雑談”であったように見えるー。
”ーーーーー”
イルマは、特にネレアがルチアに接触したことを
問題視せず、そのまま監視を続けるのだったー。
しかしーーー
ルチアとネレアにとって”ある誤算”が生まれてしまったー
「ーーー俺も、人間になれるのかー?」
同時刻・女王の間に連れて来られた
魔物が、そう言葉を口にするー。
女王アドリアの側近の一人で
憑依されている女魔術師・エイネが連れて来た魔物ー。
ルチアが討伐しに来た魔物でもあるこの魔物が、
女王アドリアから、”我々は全員、人間どもの身体を乗っ取っている同志だ”と、
そう告げられて、そう返事を返している最中だったー
「ーーあぁ、なれるともー。」
女王アドリアは、グラスを手にすると、
”人間の血”から抽出したドリンクを口にして、
笑みを浮かべるー。
そして、言葉を続けたー。
「ちょうどいいー。
今、”人間”が一人王国内にいるー。
そのまま立ち去るのを待つつもりだったが、
”お前の入れ物”に使うとしようー」
とー。
女王アドリアは、旅人のルチアの身体を
この魔物に与えることに決め、邪悪な笑みを浮かべるのだったー。
③へ続く
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今日から12月★!
改めてよろしくお願いします~!☆
物語は先月からの続きデス!!
明日の最終回で、結末を見届けて下さいネ~!!

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