”老い”ー
それを誰よりも嫌う男子大学生ー。
そんな彼が”人を皮にする力”を手に入れてしまい、
その力を使って、手始めに彼女を皮にしてしまうー。
そして…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”皮”にした紅葉を家の中に飾るかのようにして、
大切に保管している亮太は笑みを浮かべるー。
「ーーあぁ、綺麗だなぁ…」
”紅葉の皮”を見つめながら、亮太は満足そうに微笑むと、
「皮になったおかげで、紅葉はこれから先、5年経っても、
10年経っても、100年経っても、綺麗なままでいられるんだー」と、
紅葉の皮を嬉しそうに撫で回すー。
「ー紅葉も、嬉しいよな?」
亮太はそう言葉を口にすると、そのまま紅葉の皮を身に着けて
「うん!嬉しい!」と、紅葉の身体で一人二役をしているかのように
勝手に返事をするー。
「ーーわたし、せっかく可愛いのに、
歳なんか取りたくないし、ずっと可愛いままでいたいもん!」
紅葉の皮を着て、紅葉の身体を乗っ取り、
勝手なことを口にさせる亮太ー。
紅葉本人は恐らくー、
いや、確実にそんなこと思っていないのに、
亮太は、紅葉の身体で”亮太の思い通りのセリフ”を言わせて、
悦に浸っていたー。
「ーわたし、ババアになんて絶対になりたくないし、
亮太に”標本”にしてもらえてよかった!」
紅葉本人が言っているかのように、亮太はそう言葉を口にすると、
満足そうに紅葉の後頭部に手を触れてから、
紅葉の皮を脱ぎ捨てるー。
「ーへへー紅葉も”標本”になれて喜んでるみたいだしー」
亮太は脱ぎ捨てた紅葉の皮を拾い、
”皮”を飾るために改造したハンガーを使ってそれを壁に掛けるー。
亮太は”皮にした人間”のことを”標本”と呼んでいるー。
厳密には昆虫の標本などとは、仕組みが違うものの
”美しい姿をそのままに”という点が、何となく似ている気がして、
そして、亮太自身小さい頃に飼育していた昆虫の標本を大切に保管していることもあってか、
皮にした人間を”標本”とそう呼んでいたー。
「ー次は、”真桜”も標本にしてあげようかなぁ…
真桜だっていつまでも可愛いままでいたいと思うし」
亮太は、本気で”紅葉が喜んでくれている”と思っているのかー、
あるいは思い込もうとしているのか、そう言葉を口にすると、
今度は、”妹”の真桜のことも皮にしてしまおうと、
そんな恐ろしい言葉を口にする。
真桜を皮にする方法を考えながら、
チラッと、亮太は机の上に置かれている書類を見つめる。
そこに置かれていたのは大学の”退学”の書類だ。
彼女である紅葉を皮にしてしまったことで、
紅葉は自分で大学に行くことができなくなり、
周囲から、”紅葉はどうしたの?”と怪しまれる結果になってしまった。
そこで、先日から、亮太は紅葉の皮を着て
紅葉として大学に通っている。
しかし、そのせいで今度は”亮太”が大学に足を運べない状態が
続いているー。
亮太が自分の身体で大学に行けば”紅葉”が行方知れずに、
亮太が紅葉の皮を着て大学に行けば”亮太”が行方知れずにー、
少なくとも、周囲から見ればそう見える状況になってしまっていた。
その対策として亮太が考えたのがー、
”自分自身が退学すること”
だったー。
「ーー俺として大学に通い続けるよりも、紅葉の身体で大学に
通った方が、色々やりやすいし、
就職するにしてもその方が楽そうだからなー」
亮太はそんな風に考え、
自分自身が大学を辞めることで、
大学には”紅葉の身体で通う”ことに一本化しようとしていたー。
「ーーさて、とー。
真桜に連絡するかー」
大学を辞めるための書類の準備も終えた亮太は
満足そうにそう呟くと、
妹の真桜に対して連絡を入れるー。
真桜も、今年から大学生ー。
今は実家にいるものの、”皮”にしたあとには
上手く一人暮らしをさせるか、あるいは亮太と”同居”の設定にするつもりだー。
「ーー父さんと母さんには悪いけど、
でも、これは真桜が老いて、醜くならないためなんだー
真桜自身のためなんだー」
亮太はそう言葉を口にすると、
真桜に”今度の休みの日に、話したいことがあってー”と、
そんな連絡を送るのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーあ、お兄ちゃんー。話ってー?」
数日後ー。
真桜が、兄・亮太の姿を見つけると、
近付いて来るー。
「ーははー、せっかくの休みなのに、悪いなー」
亮太はそう言葉を口にしながら、真桜のほうを見つめるー。
相変わらず、おしゃれで可愛いー。
しかし、真桜ももう大学生ー。
あと数年もすれば、ゆっくりと、けれども確実に
衰えが少しずつ始まっていくー。
あと10年もすれば、それは確実なものとなるー。
だから、その前にー…
亮太はそう思いながら
「真桜って、本当におしゃれだよなぁー
俺の妹とは思えないぐらいだー」
と、そう言葉を口にすると、
真桜は「あははー急に何言ってるのー?」と、笑うー。
亮太と真桜は、仲は悪くないー。
喧嘩をすることもあったけれど、
基本的には、いつも仲良くやっているー。
「ーーーはははー、いや、でもさー
真桜も、この先、だんだんとおばさんになっていってー、
醜くなっていくんだなぁって思うと、残念でさー」
亮太が苦笑いしながらそう言うと、
真桜は「ー出たーまたそういう話ー」と、そう言葉を口にすると、
「前からお兄ちゃんって先のこと考えすぎだよねー」と、笑うー。
「ーまだわたしもお兄ちゃんも大学生でしょ?
おじさんとか、おばさんとか、そういうこと考えるの
流石に早すぎない?」
真桜がそう言うと、亮太は「はははー」と、笑う。
が、すぐに
「でも、真桜も俺も老いからは逃れられないー。
こんなに可愛い真桜だって、いつかはー」と、悲しそうに言葉を口にするー。
「俺、真桜がババアになるのなんて見たくないよー」
亮太がそう言うと、
真桜の表情から笑顔が消えるー。
亮太が”こういう性格”なのは前から知っているー。
が、真桜としてはそういう話はあまりしたくないー
”老い”を極端に嫌う亮太とは”その点では”話が合わないし、
聞いていても疲れるだけだからだー。
「ーーそれで、話って何ー?」
真桜は、話題を変えようと、今日呼び出された理由を
確認しようとする。
けれどー…
「あぁー話ってのは、”真桜が永遠に可愛いまま”にするための
話なんだけどー」
と、亮太がそう言葉を口にするー。
「えっ?」
真桜が戸惑いの表情を浮かべる。
それと同時に亮太が、人を皮にする注射器を取り出して、
それを真桜に打ち込もうとするー。
しかしー…
「ーちょっと!何よそれ!」
真桜は、咄嗟に亮太が注射器を持つ手をはたいて、
それを回避すると、そう声を上げたー。
真桜は、反射神経が良く、
亮太の注射器にいち早く気付いて、
それを防いだのだった。
「ーー!」
亮太は”不意打ち”を阻止されて、少し驚いたような表情を
浮かべたものの、すぐに笑みを浮かべるー。
「ーま、真桜ーそんな顔するなって。
これは、真桜のためなんだー。
この注射を打てば、真桜は永遠に可愛いままでいることができる」
亮太がそう言うと、
真桜は「た、確かに可愛いままでいたいって気持ちはあるけどー」と、
した上で「でも、歳をとるのは普通のことだし、
歳を取ったら取ったなりのおしゃれを楽しむから、いいの!」と、
そう言葉を口にするー。
「ー歳をとったなりのおしゃれー?」
亮太はそう言うと、それを失笑して見せるー。
「そんなものは幻想だー。
男も、女も、若いうちこそが輝く時間ー
ジジイになったり、ババアになったりすりゃ、
どんなに言葉で着飾ろうと、それは醜い存在だ!
老いは罪だ!!!」
感情的になってそう叫ぶ亮太ー。
「お、お兄ちゃんー…?」
真桜は、感情的になる亮太を前に困惑するー。
「ー俺は、真桜がババアになるのを見たくない!
いいや、真桜だけじゃないー!
大事な人が罪を犯していくのを見たくない!!」
亮太はそう叫ぶと、真桜のほうを真っすぐ見つめるー。
「な、な、何を言ってるのー…???
罪ってー…どういうこと?」
真桜は困惑するー。
”老いるのは罪”とでも言いたいのだろうかー。
「に、人間は誰だって歳をとるでしょー?
それはわたしだって、歳を取りたくないって気持ちはあるけどー
歳を取るのが罪だなんて言い過ぎだよー。
どうしてそんなことを言うの?」
真桜の心底困惑した表情ー。
亮太は表情を曇らせるー。
しかし、すぐに”人を皮にする注射器”を手に
「これが!これさえあれば、真桜は永遠に今のままでいられるんだ!」と、
そう言葉を口にするー。
「ーーそ、そんなの必要ない!
それに、お兄ちゃんだって歳は取るんだよ!?
それが罪だって言うなら、お兄ちゃんだってそのうち罪人になるんだよ!!??」
真桜がそう叫ぶと、
亮太は少しだけハッとしたような表情を浮かべるー
「ー俺も、罪人ー」
ふと、”人を皮にする注射器”に少しだけ反射している自分の顔を見つめる亮太ー。
「ーーはは…ははははー
俺も、俺もーどうにかするさー」
亮太はそう言葉を口にすると、再び真桜を見つめるー。
そして、真桜の腕を無理矢理掴むと、
「ー俺は…真桜に罪を犯してほしくないー」と、
そう言葉を口にして、真桜に注射器を打ち込もうとするー
「やめて!」
”何の注射器”だか分からないものを打ち込まれそうになる真桜は
声を上げるー。
その注射器は”真桜の想像以上に”恐ろしいものだとは知らずー、
それでも、真桜は抵抗し、亮太をビンタして
振り払おうとしたー。
しかし、亮太は真桜についに注射器を打ち込むことに成功すると、
真桜は「え…」と、自分の身体から急速に力が抜けていく感覚を
覚えて、青ざめながら亮太のほうを振り返る。
「ー大丈夫ーこれで真桜はずっとずっと綺麗なままだー
可愛いままだー」
亮太が穏やかな表情を浮かべながら言うと、
真桜は力を振り絞って亮太に向かって言ったー
「ーー間違ってるー……絶対にーー間違ってるーーー」
とー。
そのまま、”皮”になって地面に崩れ落ちる真桜ー。
”皮になった真桜”を見て、亮太は笑みを浮かべると、
そのまま”真桜”を回収するー。
「ーーへへへへ…
これで真桜もずっと可愛いままー
真桜もずっと綺麗なままだー。
真桜も罪人にならなくて済むー」
自分に言い聞かせるようにして、亮太はそれだけ言葉を口にするー。
がーーー
亮太は気付いていなかったー。
「ーな…何…あれ…?」
偶然ー…
妹の真桜と同じ大学に通う女子大生・美恵(みえ)が
その異様な光景を目撃してしまったことにー。
美恵は慌てた様子で、今見た光景を頭の中で思い浮かべると、
警察に通報しようと、スマホを操作し始めたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
早速、真桜を着た亮太は
嬉しそうに「お兄ちゃんのおかげでわたし、ずっと綺麗なままでいられる!」と、
真桜の口調を真似て感謝の言葉を口にさせるー。
「ーははー真桜のためなら、当たり前のことだろ」
真桜の身体で、亮太としてもそう言葉を口にすると、
そのまま意気揚々と”実家”に帰宅したー。
実家の両親を見て
”父さんと母さんも、老いる前に標本にしてあげたかった”と、
そう内心で思いつつ、
「ねぇねぇ、わたし、しばらくお兄ちゃんのところに行こうと思うのー!」と、
そう言葉を発するー。
”将来的に一人暮らしを始めるための練習を、お兄ちゃんの家でしたい”と、
そう宣言する乗っ取られた真桜ー。
両親は、真桜の突然の言葉に驚きつつも、
真桜が乗っ取られていることに気付かず、それを受け入れてしまったー。
両親との会話を終えると、真桜はニヤニヤしながら
一旦、自分のー…真桜の部屋へと戻るー。
「ーへへへへー
真桜もずっと、この可愛い姿のままでいられるんだなー」
鏡を見つめながら、自分の可愛さに酔いしれる真桜ー。
「ーー俺はー…
俺は、真桜のことも、紅葉のことも守ったんだー。
俺はー…いいことをしてるー
そうだー。そうに決まってるー」
真桜はそれだけ言葉を口にすると、
隠し持っていた”人を皮にする注射器”を手に、
笑みを浮かべるー。
人を皮にする力ー。
そんな力を手にしてしまった彼の暴走は、
取り返しのつかないところまで、進みつつあった。
③へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
だんだんと大変なことに…★!
明日の最終回で
結末を見届けて下さいネ~!!
今日もありがとうございました~!★!

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