<憑依>共に栄光へ①~緊張~

レーサーとしての実力はあるものの、
極度の緊張症の彼女…。

そんな彼女は、レース本番だけ”兄”に憑依して貰い、
代わりにレースを制して貰っていたー。

栄光を目指す兄と妹の物語…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー」

レーサーとして活躍している
藤谷 麻耶(ふじたに まや)は、
今日もとあるレースに参加していたー。

「ーよし、次のコーナーだなー。分かったー」
麻耶がそう言葉を口にするー

麻耶が運転しているレースカーには一人しか乗っておらず、
チームメイトと通話しているわけでもないー。

しかし、麻耶は一人で何かを呟きながら
走り続けていたー。

「ーーははー麻耶にもこのぐらいできるだろー?
 元々、麻耶の方が成績も良かったんだからー」

険しいコーナーを抜けると、
安堵の表情を浮かべながら、麻耶が一人でそう言葉を口にするー。

まるで”自分”と会話しているかのような状態の麻耶ー

「ーーーーーん??
 ーははー、そのことはもういいんだよー。
 何も気にするなって」

なおも、麻耶は誰かと会話しているような言葉を一人で呟くー。

「ー次の周でピットに入るか?」
麻耶がそう確認するー。

しかし、やはり車の中には誰もいないし、
誰かと通話しているような様子もないー。

誰かがこの光景を見たら麻耶が独り言を喋りながら
レースを続けているように見えてしまうー、
そんな状況ー

が、麻耶は独り言を喋っているわけではなかったー。

そもそもー、
今、レースに挑んでいるのは麻耶であって、麻耶ではないー。

今の麻耶は兄である藤谷 雅哉(ふじたに まさや)に
憑依されていてー、
身体は麻耶であるものの、中身は兄の雅哉ー、という状態だったー。

そしてー、麻耶に憑依した雅哉は、
”中”に引っ込んでいる麻耶本人の意識と会話をしながら
レースを進めているー

”お兄ちゃん!次のコーナー気を付けてね!”
麻耶本人の意識が、麻耶の身体を乗っ取っている状態の兄・雅哉に
対してそう言葉を口にするー

憑依されている麻耶の意識は、身体の主導権は奪われた状態であるものの
眠ったりはしておらず、今、自分がどんな状況で何をしているかは
全て見ることができているー。

そして、”外”に対して言葉を発することはできないものの、
脳内で、今、自分の身体を使っている状態の兄・雅哉に
話しかけることは可能だったー。

「ーーもちろんー。俺もここは何度も走ったからな!」
麻耶の身体で、雅哉がそう言い放つと、
そのコーナーをしっかりとクリアしてー、
レースを無事に1位で終えるー。

「ーよしーじゃあ、麻耶、身体を返すから、あとはよろしくー」
麻耶がそう言葉を口にすると、一瞬ビクッと震えてから
麻耶本人が身体の主導権を取り戻すー。

「ーーふぅ…」
麻耶はため息を吐き出すー。

その手は小刻みに震えているー。

麻耶は、レース本番が近付いてくると、
極度に緊張してしまい、途端に走れなくなってしまうー…
そんな状態に陥ってしまっていたー

元々、緊張症ではあったし、
本番には特に弱かったものの、
それでも、レーサーとして優れた実力を発揮、
数々のレースを勝ち抜いていた麻耶ー。

兄の雅哉もレーサーで
共に栄光に向かって、活躍を続けていたものの
”あること”がきっかけで、元々緊張症だった麻耶は
極度の緊張症になってしまい、
”本番前”になるとレースカーに乗り込むことが
できなくなってしまうほどに、緊張するようになってしまったー。

当然、そんな状況ではレーサーとして活躍することはできないー。

がー、
それを見かねた兄の雅哉が、レース本番の際には
麻耶に憑依して、麻耶としてレースに挑むことで、
勝利を重ねていたー。

「ーー今日も、本当にありがとうー」
麻耶が、スマホを手に、そんな言葉を口にするー

レースの表彰式や、会見など
一通りのタスクを終えて帰宅した麻耶ー。

麻耶は、レース中に自分に憑依して、
代わりにレースをこなしてくれた兄・雅哉に対して電話を入れて
お礼の言葉を伝えていたー。

”ーいやいやー全然いいさー。”
兄の雅哉が笑いながらそんな言葉を口にするー。

”でも、麻耶の方が成績良かったからさー
 俺が麻耶の身体で同じようにいい成績残せるかどうか
 こう見えても、俺も緊張してるんだけどなー”
兄・雅哉がそう呟くー。

「ーふふ、ごめんごめんー
 でも、成績良かったって言っても、”ほんの少しの差”でしょ?
 あれぐらい運だと思うしー」

麻耶がそう言い放つー。

麻耶と兄・雅哉は、共にレーサーで、
元々、麻耶のほうが兄・雅哉よりも
ランキング上位にいた。

兄の雅哉も十分な実力者であるものの、
麻耶の方がわずかながら、”さらに上”に
ランキング上はランクインしていたー。

”ーーーまぁー…そういうことにしておくかー”
雅哉がそう言うと、
麻耶は笑いながら「それに、わたしは今はもう自分じゃ本番走ることすら
できないんだしー」と、自虐的に呟くー。

雅哉は少し間を置いてから
”まぁ、またいつか克服できるさー。
 それにー、麻耶がそうなったのはー”
と、申し訳なさそうに言葉を続けるー

「ーその話は、やめてー」
麻耶が少し寂しそうに言うと、
雅哉は”ははー、そうだなー悪い”と、そう言葉を口にしてから、
話を変えるー。

”今日も優勝おめでとうー。
 次のレースの前日にはまた連絡するよー”

兄・雅哉が穏やかにそう言葉を口にするー。

「ありがとうー」
そう言葉を口にしながら、麻耶は兄・雅哉からの電話を切ったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

数日後ー。

先日とは別のレースに参戦する予定があった麻耶は、
レースを前に、大きく息を吐き出すー。

身体が震えて、冷や汗が溢れ出すー。

元々緊張症だったとは言え、ここまでではなかったー。

しかし、今の麻耶は本番になってしまうと
レースを走ることすらできないー。

控室で、麻耶は大きく息を吐き出すー。

そしてー、ビクッと震えると、
兄の雅哉が麻耶に憑依して、麻耶の身体の主導権を握るー。

「ーーよしー憑依完了っとー」
憑依された麻耶がそう言葉を口にすると、
「ー麻耶ー、今日もよろしくー」と、
麻耶の身体でそう言葉を口にするー。

”うんーわたしこそー”
麻耶の意識がそう答えると、
「ーじゃ、いつも通りレースが始まるまでは返事はしないけどー
 何か伝えておくことがあったら聞いておくからー」と、
それだけ言葉を口にして、移動を始めるー。

誰かがいるかもしれない場所で、一人でブツブツ喋っているわけにはいかないー。
”麻耶が変な人だと思われてしまう”ためだー。

そのため、控室で憑依をした後には、車に乗り込むまでの間、
麻耶に憑依した雅哉は、声では返事をしないようにしているー。

”今日のコースは、最近、第3コーナーのところが
 改修されてから、ちょっと曲がり加減も変わったからー
 お兄ちゃんも前と同じような感覚でカーブしようとすると
 失敗しちゃうかもしれないー”

麻耶の意識が麻耶の身体で移動中の雅哉に対して
そんな助言を行うー。

周囲に人がいる場所を歩いている最中のため、
雅哉は返事はしなかったものの、
手を軽く握って、”わかった”という合図をするー。

周囲に人がいる時に返事はできないために、
内側にいる麻耶に伝わるように、予め二人でサインを決めてあるのだー。

”ー前よりも少し、スピードを余計に落としてから
 コーナーに入った方がいいかなー”
麻耶の意識がなおもそんな話を続けると、
麻耶に憑依している雅哉は”ありがとう”という返事を示すサインを
手の握り方ですると、
”ふふー、気を付けてねー”と、麻耶本人の意識は
少しだけ嬉しそうに言葉を口にしたー。

やがて、車に乗り込むとレースの開始時間が迫るー。

「ーさっきのコーナーの話だけどー」

車の中に入った麻耶に憑依している雅哉は
ようやく声を発して会話できるようになり、
レース中の対策を相談し始めるー。

”ーうんーその方がいいと思うー
 あとは、お兄ちゃんなら、わたしが色々言わなくても
 全然心配ないと思うし”

麻耶の意識がそう言葉を口にすると、
麻耶の身体で、雅哉は少しだけ笑うー。

「ーーでもさー、俺にこんな風に任せて、怖くないか?」
そう言葉を口にする麻耶に憑依している雅哉ー。

”ー怖い?”
麻耶本人の意識がそう言うと、
「いや、だってほらー、俺がこうやって麻耶に憑依して
 レースをしてるってことはさー、
 もしー、もしも、俺が事故を起こしたら
 麻耶が大怪我するかもしれないし、最悪、死んじゃうかも
 しれないだろー?」
と、麻耶の身体で雅哉はそう言い放つー。

”ーーあははー
 でも、本番を前にすると震えちゃう今のわたしより、
 マシでしょー”

麻耶の意識が笑うと、
「ーーホントは、麻耶の方が俺よりうまいと思うんだけどなー
 それに俺はー」
と、麻耶の身体で雅哉は言葉を続けるー

”ーーあれは、お兄ちゃんのせいじゃないでしょー。
 わたしは、お兄ちゃんのこと信じてるからー”

麻耶の意識のその言葉に、
麻耶の身体で雅哉は少しだけ笑うと、
「そっかー」と、そう言葉を口にするー。

そして、レースのスタートの瞬間が迫る中、
麻耶はハンドルを握りしめながら少しだけ思うー。

”ずっと、このままー”
と、いうわけにはいかないー、
とー。

本当は、麻耶の方がレーサーとして”上”なのだー。
それに、いつまでもこうしていたら
麻耶は走れなくなってしまうー。

もちろん、”ずっと”憑依でこうして代わって
あげられていれば、レースに出場することはできるし、
時には勝つことだってできるー

けれどー…
麻耶だって、自分で走るのが好きだったはずだー。
それを奪い続けるのはー

”ーー全部、俺のせいだからなー”
麻耶に憑依している雅哉はそう思いながらも、
麻耶の身体でアクセスを踏み、レースを開始するー

”お兄ちゃん!後ろから2台近付いてるよ!”
麻耶の意識がそう言葉を口にするー

「わかった!」
麻耶の身体で雅哉がそう返事をすると、
先読みしながらコースの位置取りを注意しつつ、
後方のマシンに抜かれないように
レースを進めていくー。

身体はひとつだけど、2人分の”思考”がそこにはあるー。

麻耶に憑依している雅哉は、
”他のレーサーたちより有利だよなーこの状況”と、
ズルをしているような気持ちになりながらも
レースを進めるー。

最初は、ミラーで麻耶の顔が見えるたびに
ドキッとするー…と、いうか、変な気持ちになったー。

自分の顔が映るはずのそこに、自分の姿がなく、
妹である麻耶の顔が映るー。

憑依して、レースをこなすー…
それを始めたばかりの頃は、とても強い違和感があったー。

もちろん、今はもう慣れているものの、
”憑依”なんてことが本当にできるなんて、
今でも不思議で仕方がないー。

「ーー次の周、ピットに入った方が良さそうだなー」
麻耶の身体で雅哉はそう言葉を口にすると、
”そろそろ、余計なことを考えずにレースに集中しないといな”と、
心の中で静かにそう呟いたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

レースを良い成績で終えた麻耶は、
満足そうに帰宅するー。

「ー今日も、助かったよー
 色々な助言をしてくれてー」
麻耶の身体でそう言葉を口にする雅哉ー。

”ううんーわたしこそいつもありがとうー
 あ、そうだー、お兄ちゃんー、
 たまにはーー”

麻耶の意識がそう言葉を口にすると、
麻耶の身体で雅哉は笑うー。

「ーーはは、前に言ったろ?
 気にしなくていいってー。」
そう言葉を口にしながら、
イスに座ると、
「ーじゃ、またー」と、雅哉はそう言葉を口にしてから
麻耶の身体から抜け出すー。

自分の身体の主導権を取り戻した麻耶は
少しだけ寂しそうな表情を浮かべながら
自分の手を見つめるー。

どうしても、レース本番前になると身体が震えてしまうー。

以前は”ただ緊張”しているだけだったし、
それはどうにかなったー。

でも、今の緊張は違うー。
単なる緊張だけじゃないー
麻耶がレースで走ることができなくなってしまったのはーーーー…

「はぁ…」
麻耶は少しだけ溜息を吐き出すと、
以前、兄と一緒にレースの後に撮影した記念写真を見つめるのだったー。

②へ続く

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コメント

レーサーの兄と妹の物語デス~!!

憑依を使いながら、二人で協力し合っている状態ですネ~!

続きはまた明日~~!★!

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憑依<共に栄光へ>

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