「見てる~?お前の彼女は俺が頂きましたぁ~」
ある日、彼女から突然動画が送られてきたー。
その動画の中には、不気味な笑みを浮かべる彼女の姿がー…?
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大学に通う賀山 亮太(かやま りょうた)は、
今日もいつものように、大学内で楽しそうにお昼の時間を過ごしていたー。
「ーえ~?ホントに?それで、大丈夫だったのー?」
話をしている相手は、彼女の藤森 彩菜(ふじもり あやな)ー。
高校時代から同じ学校で、高校の時に文化祭実行委員で一緒に
なってからそれなりに話すようになり、
偶然、進学した大学が一緒で話す機会がさらに増え、
昨年からは付き合い始めたー、そんな間柄だー。
「ー結局、最近、徘徊するようになっちゃった
近所のおじいさんだったらしくてさー」
亮太は、彩菜と楽しそうに雑談を続けているー。
話の内容はー、
先週、亮太の実家に”急に見知らぬおじいさんがいた”話で、
実家にいる弟の修二(しゅうじ)と昨日、電話した際に聞かされた話を
彼女の彩菜に話していたー。
「え、でも、急に知らない人が家の中にいたらびっくりしちゃうよねー」
「ーははー。弟も”マジでびっくりした~”って言ってたよー」
亮太がそう言うと、彩菜は笑いながら頷くー。
二人で昼食を済ませながら、雑談を楽しむー。
そんな、穏やかな”いつもの”日常ー。
けれどー…
それが”壊される”ことになるとは、この時の亮太はー、
いいや、”壊すことになる”彩菜の方も、夢にも思っていなかったー。
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その日の夜ー。
「ーーちょっと遅くなっちゃったー」
バイトを終えて、家の前にやってきた彩菜は、
そんな言葉を口にするー。
彩菜も亮太も、大学生になってからは
それぞれ一人暮らしをしていて、
彩菜は、このアパートの一室に住んでいるー。
階段を上って、2階にある自分の部屋の前に到着すると、
そのまま玄関のカギを開けて、中に入るー。
「ーーーー」
がー
その時だったー。
彩菜は”違和感”を感じたー。
部屋の奥から、小さな明りが見えたからだー。
「ーーえっ…」
彩菜は表情を歪めるー。
ふと、昼間に彼氏の亮太が口にしていた
他愛のない話を思い出すー。
亮太の実家に、近所の認知症のおじいさんが
迷い込んでしまった話ー。
その話を頭の中に思い出しながら、
彩菜は「ーだ…誰かいるんですかー?」と、
家の奥の明りが見える方向に向かって声を掛けるー。
すると、人影が動いたー
彩菜はビクッとしながら、家の玄関の扉のところに
後ずさっていくと、
奥の方から声がしたー。
「ーーおかえり」
とー。
「ーーー!?!?!?」
彩菜は困惑の表情を浮かべるー。
聞こえてきたのは”男”の声ー。
一瞬、彼氏の亮太かとも思ったけれど、
”声”が違うー。
それに、亮太は彩菜の家の合鍵を持っていないー。
彩菜は亮太の家の合鍵を亮太から貰っているものの、
亮太の方は”いくら彼氏とは言っても、不安かもしれないし、
俺はいいよー”と、そんなことを言っていて、
合鍵を持っていないー。
そのため、鍵が閉まっている彩菜の部屋に勝手に
入ることはできないはずだー。
すぐに、彩菜は、彼氏である亮太の実家で起きた話と
同じようなことー…
つまり、おじいさんかおばあさんが間違えて
彩菜の家に入ってしまっているー、なんて可能性も考えたー。
がー、それもあり得ないー。
何故なら鍵は確実に閉めて出かけたからだー。
合鍵を持っていない彼氏の亮太がこの部屋に入れないのと同じで、
仮に認知症のおじいちゃんやおばあちゃんが
自分の家と間違えて、この部屋に入ろうとしたとしても
”入ることはできない”のだー。
だとすればー…
彩菜が後ずさって玄関から出ようとすると、
「ーそんなに怖がらないでよー」と、部屋の中にいた男が
部屋の電気をつけて、笑みを浮かべたー。
「ーーーー…久しぶりー。俺だよー」
そこにいたのは、小太りの清潔感に欠ける雰囲気の男ー。
がー、その顔を見ても、彩菜には見覚えがないー。
「ーーど、どちら様ですかー?」
彩菜がそう確認すると、
小太りの男は、その表情から笑みを消したー。
「ーーへへへー冗談言うなよー。
俺だよ、上杉(うえすぎ)だよー。
上杉 幸太郎(うえすぎ こうたろう)ー。」
小太りの男は、自らをそう名乗るー。
「ーー上杉ー…?」
しかし、彩菜はそれでも相手が”誰”なのか分からなかったー。
そんな態度に幸太郎は
「そういう冗談はいいからさー。久しぶりの再会なんだー」と、
そう言いながら、ケーキの箱を手にして笑うー。
「ー藤森さんの好きなケーキ、買って来たよー
チーズケーキ、好きだっただろ?」
幸太郎がそう言うと、
彩菜は「ーーで…出てってくださいー」と、そう言い放つー。
「ーーーー」
しかし、幸太郎は首を横に振ると、
「ーーそういうのはいらないって言ってるだろ!」と、声を荒げるー。
ビクッと震える彩菜ー。
「ーーーー俺のことを忘れたフリなんてしなくていいんだー。
藤森さんが俺のことを好きなのはわかってるんだー
照れなくてもいいぜ」
幸太郎はそう言うと、彩菜は声を上げるー
「わたしはあなたのことなんて知らないし、好きじゃありません!
警察呼びますよ!」
とー。
”幸太郎”がどうやって部屋の中に入ったのかは分からないー。
しかし、とにかく幸太郎を追い出さないといけないー。
そう思いながら、彩菜が幸太郎の方を見つめると
幸太郎は「ーー俺のことを忘れたー?好きじゃないー?嘘だッ!ありえない!」と、
顔を真っ赤にしながらそう叫んだー。
彩菜は「け、警察呼びますから!」と、スマホを手にしたまま
すぐ後ろの玄関の扉を開けて、いったん外に出ようとするー。
”いつでも逃げられるように”玄関の扉の側で
ずっと会話を続けていたのだー。
がーー
「ーーそんなことはさせねぇ!」
そう言い放つ幸太郎ー。
彩菜が振り返ると、
幸太郎の手には、彩菜が大事に育てている
ハムスターの”きーちゃん”が、いたー。
「ーーーちょっ!?き、きーちゃんに手を出さないで!」
彩菜が怒りの言葉を口にすると、
幸太郎は「なら、こっちに来いよー」と、そう言い放つー。
彩菜は、幸太郎が飛び掛かって来ても逃げられる距離を考えながら
スマホを手にしたまま幸太郎に近付くー。
幸太郎は笑みを浮かべながら、
「ーー絶対に付き合ってくれると思ってたのにー。絶対に結婚してくれると思ってたのにー」
と、呟くと、
ニヤッと笑ったー。
「ーまぁいいー。手に入らないなら、俺が”藤森 彩菜”になればいいんだからー」
下品な笑みを浮かべる幸太郎ー。
「ーーーな、何を言ってるのー?」
彩菜はそう言いながら、なおもハムスターの”きーちゃん”を解放するように
幸太郎に対して叫ぶー。
すると、幸太郎は笑みを浮かべながら
「わかったわかったー。解放してやるぜー」と、
ハムスターのきーちゃんを持った左手を掲げると、
次の瞬間ーーー
突然、幸太郎の姿が”煙”のようになって消え始めたー。
「ーー!?!??!?!?」
その様子に、思わず驚く彩菜ー。
幸太郎が”煙”のようになって消えたことで、
ハムスターのきーちゃんは床に落下ー
そのまま床を動き回り始めるー。
「ーきーちゃん…よかったー」
彩菜は、幸太郎が”消えた”ことに安心したのか
人質にされていたハムスターのきーちゃんをその手に乗せると、
安堵の表情を浮かべるー。
がーーー
そのすぐ背後にはー
”霊体”になった幸太郎がいたー。
上杉 幸太郎はー、
彩菜の中学時代”同級生”ー。
彩菜はD組の生徒で、幸太郎はA組の生徒ー。
3年間で一度もクラスが被ったことがない上に、
友達もいなかった幸太郎は、学校内でも目立つ存在ではなく、
現在大学生の彩菜が覚えていないのもムリはなかったー。
がー、幸太郎は忘れなかったー。
中学時代、身体の弱かった幸太郎が貧血を起こして
廊下でしゃがみ込んでいたところ”大丈夫?”と声をかけてくれた、
そんな彩菜のことをー。
自分勝手な性格で、クラスでは孤立していた幸太郎を
心配してくれて、保健室の先生も呼んで来てくれたー
そんな彩菜のことを、幸太郎は好きになったー。
一方的な愛情を抱いたー。
高校時代ー。
学校は違ったけれど、文化祭の際に彩菜の高校を訪れて、
彩菜のクラスの出し物に足を運んだー。
その際に、彩菜は嬉しそうに笑ってくれたー
もちろんーーー
彩菜は”大勢の客のひとり”に対して、営業スマイルを浮かべただけー…
けれど、幸太郎は”俺が会いに行ったことを喜んでくれた”と思い込んだー。
そして、来る日も、来る日も、彩菜に執着を続けー、
”憑依薬”を手に入れた今ー、彩菜の前に姿を現したのだー。
彩菜の住むアパートの管理人にまずは憑依し、合鍵を入手、
彩菜の家に入り込んだのだー。
”俺の彼女になってくれないならー、
俺と結婚してくれないならー
俺が藤森さんになればいいんだー!”
幸太郎は霊体のままそう叫ぶと、
そのまま彩菜の身体に自分の霊体を重ねたー
「ひっ!?!?!?」
ハムスターを持っていた彩菜がビクッと震えるー。
やがて、彩菜は低い声で笑い始めると、
そのまま大好きなハムスターを握る手に、力を込め始めるー
「ーー藤森さんは俺のものだー」
彩菜は、彩菜とは思えないような不気味な声でそう囁くと、
「ーお前なんかに渡さないぞー」と、
ハムスターのきーちゃんを握る手に、さらに力を込めたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
”ーーーーー”
亮太は心配そうにスマホを見つめていたー。
それもそのはずー、
昨日の夜から、彼女の彩菜からの連絡が途絶えたのだー。
いつも、彩菜の方が積極的に連絡してくるタイプで、
こんな風に一晩中、何の反応もなかったことは珍しいー
”既読”はついているものの、
その反応がないー。
そんな状態が昨晩から続いているー。
”調子でも悪いのかなー?”
亮太はそう思いつつ、”まぁ、何事もなければいいけど”と、
スマホを置いて立ち上がろうとしたー。
がー
その時だったー。
彼女の彩菜から”動画”が送られてきたー。
「ーーー????」
何のメッセージもなく、突然送られてきた動画に
首を傾げながらも、その内容を確認するー。
動画を再生すると、すぐに彩菜が映し出されたー。
嬉しそうに笑みを浮かべていてー、
とても体調が悪そうには見えないー。
「ーーー…??」
亮太は、その動画の彩菜の笑い方に、
少しいつもより違和感を感じるー。
言葉には言い表し難いものの、
なんだか”いつもの彩菜”とは違うような、
そんな違和感を感じたのだー。
そしてー、そう思っているうちに、
彩菜は突然、自分の胸を嬉しそうに両手で揉み始めたー。
「ーー!?!?!?!?!?」
動画の中の彩菜の突然の”奇行”に困惑するー。
もちろん、Hな動画を彼氏に送りつける彼女も
世の中にはいるかもしれないけれどー、
少なくとも、彩菜はそういう子じゃないし、
亮太から頼んでもいないし、遠回しに要求したりもしていないー。
が、動画の中の彩菜は顔を赤らめながら
イヤらしい笑みを浮かべつつ、自分の胸を揉むー。
そんな映像がしばらく続きー、
ようやく、彩菜はカメラ目線になると
不気味な笑みを浮かべたー
”見てる~?お前の彼女は俺が頂きましたぁ~”
とー、そんな言葉を口にする彩菜ー。
「ーーあ…彩菜ー?」
恐らく、録画された映像の彩菜に話しかけても意味が
ないことは分かっているけれど、言葉を発さずにはいられなかった
亮太がそう言葉を口にすると、
映像の中の彩菜は”へへへへへへへっ”と、奇妙な笑い声をあげると、
不気味な表情を浮かべながら、言葉を続けたー
”ーまさか”彼氏”がいたなんて思わなかったけどー
この女は今日から俺のものだからー
だから今日でお別れバイバイー
もう、今日からこの女はお前の彼女じゃないから
二度と連絡してくるなよ!じゃっ!”
彩菜はそれだけ言うと、
そのまま動画の撮影を止めようとするような仕草をするー。
がー、少し考えるような仕草をすると、
何度か咳ばらいをしてから、言葉を続けたー
”ー今日で亮太とはお別れー。
わたしはもう”元カノ”だから、そのつもりでよろしくね。
ばいばいー”
とー。
そのまま動画が終わるー。
「ーーーー…は…????」
あまりにも突然、”振られた”亮太は呆然としながら、
スマホを見つめるー。
”憑依された彼女からの宣戦布告”
それが、全ての始まりだったー。
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
憑依で彼女が奪われちゃう…!
そんな、王道な(?)ダークな路線のお話ですネ~!
明日以降も、ゾクゾクを楽しんでくださいネ~!!
コメント
王道なダーク路線ですネ!!
ハムスターのきーちゃんは無事なんですか?
きーちゃんはエサもらってるんですか?
感想ありがとうございます~~!★
きーちゃんがとっても心配なのデス…!