<憑依>異世界の憑依都市③~逃避行~(完)

家ごと異世界に飛ばされてしまった28歳無職の男ー。

彼は憑依が蔓延する異世界の都市の中で
憑依される人々を目撃ー…

逃げ惑うことしかできなかったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー大丈夫ー、時間を稼いでいれば、
 必ず助けは来るよー」

少し汚れたスーツを気にしながら、
OL姿の明日香がそう言葉を口にするー。
母・凛々子が憑依されたという話には動揺していたものの、
気を取り直して、”助けが来れば、お母さんも元に戻せるはず”と、
そう言い放つー。

「ーーー…くそっー…夢じゃねぇのかー…
 これ…夢だよなー…!?」
狼狽えた様子で、そう言葉を口にする芳樹ー。

「ーーー夢じゃないの!!!
 こういう時ぐらいしっかりして!」
気の強い明日香が、そう言葉を口にすると、
芳樹は「で、でもー…」と、涙目になって呟くー。

「ーあんた、”自宅警備員”なんでしょ!?
 だったら、少しはー」

「ーここ、自宅じゃないしー」
芳樹はそう言いながら目を逸らすー。

「ーー…は~…こういう時、頼りになる兄がいたら
 どんなに良かったことかー」
呆れ顔で言葉を口にする明日香ー。

「ーーお、お、俺だって、お前のこと心配して、
 探してたんだぞ!一応…」
芳樹がそう言うと、明日香は「はいはい」と、そう言葉を口にしながら
異世界の都市を移動していくー。

「ーー静かね…怖いぐらいにー」
明日香がそう呟くー。

不気味な光が蠢く世界ー。
どこか”綺麗”で、幻想的ー
音すらほとんどしない、静寂の世界ー。

この世界に住む”光の人間”は、顔もなく、
言葉も発さず、テレパシーで会話するー。

また、歩く時も、人間と違い、ほとんど音がしないため、
とにかく”静か”だったー。

するのは、この世界に連れて来られた人々の悲鳴や、
音だけー。

「ーーた、助けて…あぁっ… あっ… へへへへへー」

そんな声が、少し離れた場所から聞えるー。

「ーー”また”憑依されたのねー」
明日香が、物陰に隠れながら呟くー。

芳樹は「ど、どうすんだよー…」と、小声で呟くと、
明日香は「とにかく、時間を稼ぐの」と、言葉を口にするー。

「ーわたしたちの他にも”家ごと”この世界に連れて来られた人が
 結構いるみたいだしー、
 そしたら、元いた世界では、今頃大騒ぎになってるー。
 家ごと消えた家族が、何人もいるんだもんー」

明日香は、そう言いながら、
周囲を見渡すー。

「わたしがウロウロしてる間に”不自然な場所にある家”を、
 3軒見たのー。
 わたしたちの家と同じようにー…
 だから、絶対に元の世界で、みんな異変に気付いて
 助けようとしてくれてるはずー

 ここがどこだか分からないけど、絶対助けは来るから」

明日香のその言葉に、芳樹は不安そうな表情を浮かべるー。

「ーー…で、でも、”この場所”に来ることができなかったらー?」
芳樹がそう言うと、明日香は表情を曇らせるー。

仕事中で家にはおらず、巻き込まれなかった父の洋一や、
他の人々が異変に気付いても、
”この場所”に来れなければ終わりだー。

芳樹は、そう言いながら
「あぁ、くそっ!ナナちゃんルートに突入できたのに!
 やっとエンディングが見れると思ったらこれだ!」と、
ゲームの話をし始めるー。

「ーーー時間を稼ぎながら、元の世界に戻る方法を探すのー。
 助けが来るか、元の世界に戻れるか、
 どっちか、上手く行けばわたしたちは助かるんだから!」

明日香はなおもそう言葉を口にすると歩き出すー。

「わ…分かったよー…
 あ、明日香のことは、俺が守るからー」
芳樹が、そう言いながら歩き出すー。

「ーー…頼りないなぁ……
 まぁでも……ありがとう」
明日香はそう言いながら前を歩き始めるー。

しかしー
その時だったー

「ーーー!!!」
明日香が立ち止まるー。

「な、なんだよー…」
芳樹が言うと、明日香は前方を指差したー。

”光の人間”が、多数、明日香と芳樹たちの方に向かって来ているー。

そして、その中心には
”憑依された”と思われる男女が数名いたー。

慌てて、後ろに引き返そうとする明日香と芳樹ー。

がー、背後にも”光の人間”が迫りつつあったー。

「ーふふふふー逃げられると思わないことねー」
笑みを浮かべる女ー。

「転送できる数には限度があるからなー
 ”貴重な人間の身体”ー
 ”1個も”逃がしはしないー」

笑いながら言葉を口にするのはー
先程、芳樹が見捨てた女子高生・朋美だったー。

先程の涙を浮かべていた表情とは別人のようにー、
強気な笑みを浮かべているー。

「ーーっ…」
芳樹は、朋美の方を見ながら表情を歪めるー。

「ーー…か…囲まれてる…ど、どうしようー…」
明日香が困惑の表情を浮かべながらそう言葉を口にするー。

が、それでも明日香は諦めずに周囲を見渡すー。

そしてー

”ーーーー!!!”
明日香は、”二人で協力すれば”、登れそうな建物を見つけるー。

”あそこに二人で登れば、こいつから逃げられるかもー”
そう思いつつ、明日香が「あそこー…」と、そう言葉を口にしかけた
その時だったー。

芳樹が、突然明日香の腕を掴んで叫んだー

「ーこ、こいつの身体は差し上げます
 だ、だから、どうか、どうか助けて下さいー」
とー。

「ーーは…はぁっ!?」
明日香が驚いた表情を浮かべるー。

「ーーこ、こいつ…な、生意気な妹ですけどー
 か、顔は可愛いし、み、み、皆さんでぜひ使ってくださいー

 お、俺はニートだし、不細工だしー、運動もできないしー
 お、俺の身体になんか憑依してるいいことなんてー
 そ、そうー、いいことなんてないっすよ!」

芳樹はそう言いながら、明日香を無理やり引っ張ると、
「明日香ー…お、お、俺のために、あいつらに憑依されてくれ!」と、
涙目で叫ぶー。

「ーーな…何言ってんの…!?
 あそこなら、二人で力を合わせれば登って逃げーー」

明日香は、戦意を喪失した芳樹に対して
”まだ逃げられる可能性のある場所があるよ!”と、そう伝えようとするー。

しかしーー

「ーーうるせぇ!」
芳樹はそう言うと、明日香を殴りつけて、
「ーーこのままじゃ、二人とも憑依されて終わりだ!
 そしたらもう助からない!
 俺が、必ず明日香のことも、母さんも助けるから、
 だから、ここはお前が囮になるしかないんだよ!」
と、そう叫ぶー。

もちろん、芳樹に”明日香や母・凛々子のことを助ける”なんて
気持ちは、もうないー。
恐怖のあまり、自分が助かることしか考えていないー。
”このままじゃ、二人とも憑依されて終わりだ”と言う言葉も
己が助かるためだけの言葉ー。

殴られた明日香は目に涙を浮かべながら
「あんたー…自分が何言ってるか分かってんのー!?」と、
怒りの形相で叫ぶー。

がー、芳樹はそれを無視して、明日香の頭を掴んで、
自分と一緒に無理矢理土下座させると、
「ーこいつの身体は差し上げます!だから、見逃してくださいー!」と、
情けない声で泣きながら叫ぶー。

明日香は「あんたー…最低っ!…ぜったい、絶対許さないから!」と、
泣きながら叫ぶー。

それでも芳樹は、明日香を無理やり土下座させながら
必死に命乞いをしたー。

そこにー
光の人間たちと、憑依された女子高生・朋美たちが近付いてくると、
朋美は、土下座している芳樹を見下しながら言葉を口にしたー。

「ーー醜悪な豚めー」
朋美の心底、見下したような口調に、芳樹は泣きながら
「どうかお助けをー…」と、そう言葉を口にするー。

朋美は、鼻で笑いながら芳樹に唾を吐き捨てるとー、
「あまりにも醜悪すぎて話にならないー」と、そう言いながら、
そのまま明日香の方を見つめるー。

「ーーどうしようもない兄を持って、可哀想にー」

震える明日香に向かって、そう言い放つ朋美ー。

しかしー、
朋美は仲間である”光の人間”の一人に合図をすると、
光の人間は、容赦なく明日香に憑依していくー。

悲鳴を上げる明日香ー。

やがて、明日香は目に涙を浮かべたまま、
スーツの上から自分の胸を揉みー、笑い始めるー。

「あはははっ!!やっと、やっと人間の身体を手に入れたぞ!」
明日香が嬉しそうに笑うー。

芳樹は、妹の明日香が憑依されてもなお、土下座したまま
命乞いをしていたー。

やがてー…そんな芳樹の周囲から
明日香ら憑依された人間も、光の人間も立ち去っていきー、
芳樹は、異世界の憑依都市で、”ひとり”ぽつんと残されたー。

「ーーー…」
あまりの恐怖に、その場でお漏らしもしてしまった芳樹は
”見逃してもらえた”と、喜びのあまり、
「あ、ありがとうございますーーー!!!」と、土下座したまま
大声で叫んだー。

そして、走り出すー。

自分の家が飛ばされてきた方向へ走り出すと、
家の中に入って、ゲームを起動するー。

「えへへへーナナちゃんーえへへへへへへ」
芳樹は狂ったような笑みを浮かべながら、
ここに飛ばされてくる前に遊んでいたゲームを起動すると、
ナナちゃんとのデートイベントを遊び始めるー。

身体をガクガク震わせながら
「俺のことを分かってくれるのはナナちゃんだけだー!
 えへっ!えへへへへっ!」と、声をあげる芳樹ー。

芳樹は一人、異世界に転送された”家”の中で
涙を流しながら、恋愛アドベンチャーゲームを楽しみ、
この世界でも”ニート”を続けるのだったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーあの醜悪な人間はどうした?」
芳樹に”突き飛ばされた”女子高生・朋美が言うと、
芳樹の妹・明日香は言葉を口にしたー

「放っておけー。あのような人間、
 憑依する価値もないー。
 
 あのような妹を見捨てるような人間に憑依すれば、
 醜悪な心が我らにも移りそうだー。
 
 我らは、同法を見捨てることはしないー
 ”汚物”の身体など不要」

明日香はそう言うと、
朋美は「確かにー…この女も奴に突き飛ばされたからなー」と、
笑いながら言葉を口にしたー。

「ところで、”次”の転送はどうするの?
 人間の身体、みんな欲しがってるんだけどー」

隣にいた男がそう言うと、
明日香は「ー”次”は来月だー。一度に転送できる量は
”10軒”ぐらいが限界だし、身体は早い者勝ちだー」と、
それだけ言葉を口にするー。

「ーそっかー」
男はそう頷くと、
乗っ取られてしまった芳樹の妹・明日香は
静かに笑みを浮かべたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

一方、元の世界では
芳樹らの父親・洋一が呆然とした表情を浮かべていたー

”家”が無くなっていたからだー。

目撃証言によれば”家”が急に消えたのだと言うー。

この日ー、各地で10か所ほど、同様の事件が発生、
警察らの捜査も行われたものの、
ついに”家”や、その中にいた住人が見つかることはなかったー。

”相手は異世界”であることなど、気付くことは出来ず、
また、それ以上、同様の事態が起きることはなかったために
”怪奇現象”として、事件は闇に葬られてしまったー。

”異世界”と”この世界”の時の流れは違うー。
”異世界”は、1ヵ月に1度、この世界から人間を転送しているものの、
異世界の1ヵ月は、この世界の100年程度に相当するー。

そのため、前回、同様の事件が起きたのは100年前ー。
”次”は100年後ー。
1回ごとに、10程度の家が消失するだけであるため、
100年もしていれば、人間は”前”のその出来事を忘れるのだー。

洋一は、家族と家を失い、
そのまま失意の人生を送るのだったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

異世界ー

「ーーーナナちゃんー……おなか…すいたよぉ」

芳樹は、異世界に転送された家の中で放置され、
未だにゲームをやっていたー。

がー、
家の中の食料も飲み物を食べ・飲み尽くしー、
水道水も出ないため、ホームレスのような状態になってしまっていたー。

そしてー、
ついに、限界を迎えたー。

食べ物もなく、芳樹は今、まさに餓死しようとしていたー。

”芳樹くんー大好き”
ゲームの中のヒロイン・ナナがそう呟くー。

ナナが嬉しそうに、ケーキを食べているシーンが映し出されるー

「あぁ…くそっ!
 よこせ!!!おいっ!ナナ!俺にケーキをよこせ!」

テレビに向かって叫ぶ芳樹ー

「ケーキ…俺に… ケーキぃ…」
芳樹はその場に崩れ落ちると、力なく倒れ込むー

「ぁーーー…ぁぁ…」
死にゆく芳樹ー。

そこに、”憑依された明日香”がやってくると、
明日香は笑みを浮かべたー。

芳樹は、明日香に気付くと
「たすけてくださいー たすけてくださいー」と、
それだけ言葉を口にするー。

そんな芳樹に対して、
明日香は、”この異世界の食べ物”と思われるものを
手にして、にっこりと微笑むーー。

「ーーへ…へへーーあ、ありがー」
芳樹がそう言いかけると、明日香は目の前で美味しそうにそれを食べ始めるー。

「ぅ…ぅ… ぅぁ… ぁぁぁぁぁ…」
うめき声をあげる芳樹ー。

「ーー”この妹”も、お前のこと、許せないってさー」
憑依された明日香はそれだけ言うと、笑みを浮かべながら
そのまま立ち去っていくー。

「ぁ… ぁ…ぁ」
芳樹は、もはや声を上げることもできず、
ガリガリにやせ細った身体で、その場に倒れ込んだー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

”芳樹くんーどうしたの?”

”芳樹くんー返事、してほしいなー?”

”芳樹くんー?”

異世界に飛ばされた家の中ではー、
ずっと放置されていると喋るセリフを、
ゲームのヒロイン・ナナが定期的に発していたー。

がー、返事するものは、もういないー。
その部屋にいるのは、無様な最期を遂げた芳樹の屍だけなのだからー。

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

異世界からの脱出はできませんでした~…★!

ここに転送されてしまった時点で、
もう助かる道は無さそうですネ~…!

お読み下さり、ありがとうございました~!!★

コメント