<憑依>異世界の憑依都市②~危機~

28歳無職の男が、自宅ごと
”憑依が蔓延する異世界”に飛ばされてしまったー…

困惑の中、彼は行方不明の妹を探すもー…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーー畜生ー…
 こんなことにならなければ、今頃、
 ナナちゃんとのデートイベントが見れてたのにー」

不満そうに呟きながら、
”異世界の都市”を身を隠しながら移動していく芳樹ー。

”都市”と言っても、芳樹がいた世界とは違い、
立派な建造物はあるものの、どこか無機質な世界ー。

そこに暮らしているのは”光る人型のシルエット”のような者たちー。

”しっかしー、”人間”の身体ってすごいよねぇ~
 だってさ、こうやって”言葉”って言うのを話せるんだからー”

都市の路地で見かけた二人組の女がそう言葉を口にしているー。

この都市にいるのはほとんどが、”人の形をした光”であるものの、
たまに”人間”の姿を見かけるー。

がー
その人間たちはみんな、母・凛々子と同じように”人型の光”に
乗っ取られているようだったー。

”ふふーそうよねー。
 それに”顔”も素敵だしー…
 わたしたちには、言葉も顔もないからねー
 ーー人間の言葉で言えば、”無個性”ってやつー?”

二人組の女のもう一人が言うー。

”ーあ~、でも、どうせなら”そっちの顔”が良かったなぁ~
 せっかく顔が手に入ったのに、あんま好みじゃないんだよねぇ”

”贅沢言わないの!こうして人間の身体を手に入れられるのは
 ごく一部なんだから”

そんな会話を聞きながら、芳樹は表情を歪めるー。

”人型の光”は、どうやらこの世界の生命体のようだー。
そして、顔がなく、会話ができないことを
不便に思っているのか、人間の身体に憑依して、
それを手に入れているらしいー。

「ーーー……くそっー…まるでゲームに出て来そうな化け物だなー」
芳樹は表情を曇らせながら、
その場を離れるー。

恐らく、”声”も”顔”もない、この世界の生命体たちが、
”身体を奪うため”に、人間をこの世界に呼び寄せて
”憑依”を繰り返しているのだろうー。

芳樹は、そんな風に分析をしたー。

日々、ニートをしながら鍛え上げられた”妄想力”は、
予想外のところで、その実力を発揮したのだー。

さらに、移動をしながら時々見かける”人間”たちの会話を
盗み聞きしているうちに、芳樹はさらにこの世界のことを理解していくー

この世界の生命体は人類よりも高度に発展している生命体のようだー。
ただ、顔のようなものはなく、声も発せずー、
意思疎通はテレパシーのようなもので行っているために
”個性”というものは存在しない、そんな生命体のようだー。

あるのは性別ぐらいで、他は”全員同じ”に見えるー。
本人たちはテレパシーで”誰が誰なのか”ぐらいは分かるようであるものの
どうやら名前も”識別番号”のようなもので管理されていて、
そこもまた、無個性な感じに拍車をかけていたー。

”ーこの人間の名前、恵美(めぐみ)って言うんだってさ~
 恵美 恵美 めぐみー… うへへへー
 D-928472-111-29421とは大違いだぜー”

乗っ取られた恵美という女が友達らしき人物と会話をしているー。

”ーへへ…こいつは~麻耶奈(まやな)だってさ~
 E-5039203-109542-029922よりマシだなー”

そんな会話を聞きながら
「ー滅茶苦茶分かりにくい名前だなー…
 ってか、よく覚えてられるよなー」
と、芳樹は小声で呟くー。

人間より、記憶力も高度なのだろうかー。

「ーーー…くそっー!
 俺の平穏なニート生活を壊しやがってー。
 大体、俺の身体なんか乗っ取っても
 いいことないぞー」

芳樹は自虐的な言葉を口にしながら、
さらに異世界を移動するー。

「ーーったく、明日香も世話が焼けるよなー
 いつも俺のことをニートだと馬鹿にしてる癖にーー」

そんなことを口にしていると、
突然、物陰から腕を引っ張られたー

「ーー!?!?!?」
芳樹が驚くと、
そこには、ヒビの入った眼鏡をかけた
ツインテールの子の姿があったー。

「ーーーあ、あ、あ、あいつらから隠れてるってことはー
 ”まだ”憑依されてないんですよねー?」

セーラー服姿の女子高生らしき子ー。

芳樹は”リアルの女子高生と話す機会”なんて
全くなかったためにドキッとしてしまうー。

「ーー…そ、そ、そ、そーーそう、だけどー」
挙動不審な返事をしてしまう芳樹ー。

「よ、よかったー…よかったー」
目に涙を浮かべながら、
ヒビ割れた眼鏡のツインテールの子は、
生徒手帳を手に、
「ーーわ、わたしはー、坂村 朋美(さかむら ともみ)ですー」と、
息を切らしながら言葉を口にするー。

必死に”わたしは怪しい者じゃないんですー”と、
言わんばかりに自分の通っている学校の名前も口にする朋美ー。

そんな朋美を前に、
芳樹は「え、あ、お、俺はー…そ、そのー…」と、
言葉を口にしてから、
「ふ、福山芳樹っていうんだー よ、よろしくー」と、
そう自己紹介をしたー。

ニートだとは、なんとなく言えなかったー。

「ーーど、どうなってるんですかー?ここは、どこなんですかー?」
朋美が泣きながらそう言葉を口にするー。

芳樹は、”に、二次元以外の女子高生と話したことなんてー
ほとんどないぞー?”と、そう思いながら、
「お、お、俺にも分からないけどー…でも、俺たちがいた世界じゃないみたいでー」と、
そう言葉を口にするー。

「ーーーど、どうやったら、元の世界に戻れるんですかー…?」
泣きじゃくる朋美ー。

聞けば、学校から帰って昼寝をしていて、
目を覚ましたら”家ごと”ここに飛ばされていたらしいー。

両親は行方不明で、どこにいるのかは分からないのだというー。
そして、弟もいたものの、その弟は姉である朋美を庇い、
”憑依”されてしまったのだというー。

「ーー…わ、分からないー…」
芳樹は、何も気の利いたことを言えずに、それだけ言うと、
朋美は泣きながら、その場に蹲るー。

「ーーーー」
恋愛アドベンチャーゲームでは、
数多のヒロインを”攻略”してきた芳樹ー。

が、現実はそう甘くはないー。

どうすることもできず、
泣いている女子高生にどう対応していいか分からず、
芳樹は困惑してしまったー

そしてーー…

「ーーー!!」
芳樹は、泣いている朋美の背後から
”光る人型の生命体”が迫っていることに気付いたー。

「ーーあ…!う、うしろ!」
芳樹が言うと、朋美は泣きながら背後を振り返って
悲鳴を上げたー。

芳樹が慌てて朋美と共に逃げようとするー。

がー、路地から飛び出ると、
”別の個体”が、3体ほど、こちらに気付いて、
ゆっくりと近づいて来たー。

「お、おいっ!く、くそっ…!」
芳樹が、光る人型の生命体たちに言葉を投げかけるー。

が、人間に憑依していない状態の彼らに
”言葉”は、通じたとしても意思疎通をすることはできないー。
相手は言葉を発さないのだからー。

光る人型の生命体たちに囲まれていく芳樹と朋美ー。

朋美はガクガクと震えながら
「ー助けて下さいー…」と、小声で芳樹に言葉を口にするー。

芳樹は朋美を庇うような格好で、
光る人型の生命体たちと対峙したー。

がーーー

”俺はヒーローなんかじゃないー。ただのニートだ”
芳樹は、心の中でそう叫ぶと、
突然、朋美の腕を掴んで、そのまま光の人型の生物たちの方に向かって
突き飛ばしたー。

「ーーひっ…!?」
朋美がよろめいて、人型の光の前に倒れ込むと、
涙目で、芳樹の方を見つめたー。

「ーーーひどいー…」
泣きながら、絶望の表情を芳樹の方に向ける朋美ー。

「ーへ…へへへー
 お、俺が逃げるための時間稼ぎをしてくれよ…!なっ!?」

芳樹は、それだけ言うと、
人型の光たちが、朋美に気を取られた隙を突いて
走り出すー。

「ーーあっ… っ… やめ… い…いやー…ぁ…」
朋美が”憑依される”光景が見えたー。

芳樹は、振り返りながらその光景を見つつー、
「ーど、どうせ、三次元の女は俺のことキモいって言うんだー!
 ここから逃げることに成功したらあの女だってー!」と、
小声で呟くー。

そのまま、必死に走る芳樹ー。
しかし、28歳自宅警備員の運動不足の身体では、
すぐに息が上がってしまうー

「ーはぁっ…はぁっ…はぁっ…!」

”元の世界”の、夜とは少し違うー、
不気味に輝く夜空のような空ー。

ここが異世界であると確かに感じさせてくれる、
不気味な光景ー。

「ーくそっ…」
芳樹は、”人型の光”たちから逃げきると
その場に蹲ったー。

がーーー

「み~~~つけたぁ」
ふと、背後から声がして驚いて振り返ると、
そこには、母親の凛々子の姿があったー。

「ーーひっ…!?か、か、か、母さん!?」
驚いて声を上げる芳樹ー。

「ーーふふふー
 人間の身体は貴重だからねぇ~
 ”お前”も逃がさないよー」

母・凛々子にそう言われて芳樹はショックを受けるー。

「ーー…ぅ…… ぅ…… か、母さんー
 め、目を覚ましてー…」

芳樹はそう言葉を口にしながら、狼狽えるー。

がー、凛々子は笑みを浮かべながら
「ーーさぁ、”お前”も我らに身体をよこせー」と、
無理矢理芳樹の腕を掴んでくるー。

母親に”お前”と言われて、芳樹は
自分が好きな恋愛アドベンチャーゲームのヒロインに
嫌われた時のような衝撃を受けつつ、
「や…や…やめてくれ!」と、言葉を振り絞るー。

が、そんな言葉も響かず、
母・凛々子は
「人間の身体は”発声”ができて使いやすいー」と、
笑みを浮かべながら、そのまま芳樹を引きずって行こうとするー。

「ーー…や…やめろっ…!やめろやめろやめろ!」
芳樹はそう叫ぶと、母・凛々子を突き飛ばして
パニックになりながら、逃げ始めるー。

「あっ…待てっ!!!」
母・凛々子が声を上げるー。

”もうあれは母さんじゃないー”
”もうあれは母さんじゃないー”
芳樹は、自分にそう言い聞かせながら
涙目で走るー。

”あぁ、くそっ!どうしてこんなことになるんだー!
 どうしてー…!”

”俺はただ、ニートしてただけなのにー”

芳樹はそんなことを思いながら
「これは夢だこれは夢だこれは夢だー」と、
自分の頭を異世界の都市の建物の壁に打ち付け始めるー。

「そうだ、これは夢だー
 ナナちゃんから告白されて、そのまま寝落ちしたに違いないー」
芳樹は現実逃避するあまり、
自分が遊んでいた恋愛アドベンチャーゲームのヒロインから
告白されたあとに、そのまま寝落ちしてしまって
夢を見ているのだと、そうに違いないと自分に言い聞かせながら
何度も何度も、自分の頭を壁に打ち付け始めたー。

こうしていれば、きっと目が覚めるに違いないー

こうしていればーーー

「ーーー…ち、ちょっと!?何してんの!?」

そんな声が聞こえたー。

芳樹が驚いて顔を上げるとー
そこには、妹の明日香の姿があったー。

家で小言を言われた時と同じー、
OLの格好をしたままの明日香がー。

「ーーー…あはー…
 都合よく明日香が現れるはずなんてねぇ

 やっぱ夢だー」

芳樹はそう呟くと、再び壁に頭を打ち付け始めるー。

そんな芳樹を見て
「ーいい加減にしなさいよ!」と、明日香は
芳樹の腕を掴むと、そのまま芳樹の頬にビンタをしたー。

「ぐふっー!?」
芳樹がそう声を上げながら、
「いってぇなー!何すんだよ!
 ナナちゃんはこんなことしねぇぞ!」と、
ゲームのヒロインの名を叫ぶと、
明日香は「キモッー…」と、そう言葉を口にしながらも、
ほんの少しだけ笑ったー

「ーそのキモさー…まだ正気ってことねー」
とー。

「ーー…はぁ…?お前こそ、その生意気な感じー
 まだ憑依されてないんだなー?」

芳樹が不満そうにそう言うと、明日香は頷くー。

明日香は家の外に出て、
この異世界の都市の様子を見て回っているうちに
憑依の場面を目撃して、
その後は一旦家が飛ばされた場所に戻ろうとしたものの、
”光の人間”が多すぎて、戻るのは困難だと判断、
身の安全を図っていたのだと言うー。

「ーー…お母さんは?」
明日香がそう言葉を口にすると、
芳樹は「母さんはー…」と、
母・凛々子が憑依されてしまったことを告げるのだったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

現実世界ー

「ーーーーーー」

芳樹・明日香の父親、洋一(よういち)が、
仕事を終えて、家に向かうー。

「ーー今日も、疲れたなー」
そう呟きながら、家に向かう洋一は知らなかったー。

妻と、子供たちに起きた出来事をー。
芳樹も、明日香も、凛々子も、
もう、”そこ”にはいないことをー…。

③へ続く

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コメント

異世界の憑依都市から無事に帰還できるのかどうか、
結末は明日のお楽しみデス!!

今日もお読み下さり、ありがとうございました~!!

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