自分のことを”キモい”と言ってくる妹から
他人の姿で変身するように、強要されてしまった兄ー。
が、変身生活を続けるうちに、
兄は違和感を覚え始めてー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーー…~~~」
あくびをしながら、部屋でスマホを眺めていた
兄・貞治ー。
今は、妹・円花のクラスメイトの一人である
女子の姿に変身していて、
その姿で、スマホを眺めているー。
いつもは、おしゃべりが絶えない明るい子らしいものの、
貞治がその姿を使うと、
無気力そうなー、そんな表情を浮かべる子に早変わりしてしまうー。
「ーーー…ー」
スマホの画面が暗くなった時に、”今の自分の姿”が反射するー。
”確かに、騒がしそうな顔だなー”
と、思いつつも、特にそれ以上は興味を示すことなく、
ベッドに潜るー。
「ーーーーー」
そこにーー
妹の円花がまたやってきたー。
「ーうわっ!また寝てるーキモッ」
円花がそう言うと、寝ようとしていた貞治は、
円花のクラスメイトの女子の姿のまま、
「なんだよー…何でわざわざキモいやつの部屋に入って来るんだよー」と、
ため息を吐き出したー。
「ーっていうかさー…
どうせ、俺のことキモいキモいって言うなら
俺を変身させても意味なくないかー?」
いかにも、教室でキャーキャー騒いでそうな雰囲気の声で、
そう言葉を口にする貞治ー。
「ーーー…ーー…き、キモいのはキモいけど、
キモさが100パーセントから50パーセントぐらいに減るの!」
円花は不満そうにそう言うと、
貞治は円花のクラスメイトの姿のまま、さらに続けたー。
「そもそも…ー
変身薬を飲ませるようになってから
むしろ、俺の部屋に来る回数も逆に増えちゃってんじゃんー」
とー。
「ーそ、それはーお兄ちゃんが変なことしてないかどうか
確認するためでー」
円花は少し挙動不審になりながら言うー。
「ーーー…やっぱ、何か企んでんだろ?」
貞治が、円花のクラスメイトの姿のまま、円花を凝視すると、
円花は「た、企んでない!」と、不満そうに言い返したー。
「ーま、いいやー
今日はちょっと風邪気味だから、このまま晩御飯まで寝るからー、
もう部屋に入ってくんなよー。じゃ」
貞治は可愛い声のままそう言うと、
「ーーというか、何で最近”女”にばかり変身させようとするんだー?
髪、長くて寝る時、なんか気が散るんだけどー」と、
不満を一人、漏らすー。
「ーーーーー…」
そうこうしているうちに、すぐに寝息を立て始めた貞治を見て
円花は不満そうにすると、「キモ」と、そう言葉を口にして
そのまま部屋の外へと出て行ったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それからも、”何のために”変身させられているのかも
分からない日々を続けるー。
円花の親友の美咲や、
他のクラスメイトの女子に変身させられたりしつつも、
貞治はいつものように”無趣味な生活”をひたすら続けていたー。
がー、
そんなある日ー。
「ーーー今日は、わたしに変身してー」
円花が、そう言いながら変身薬の入ったペットボトルを差し出すー。
「ーー…はぁ…??
なんで円花にー?
ーーー…またキモキモ!とか言うつもりかー?」
貞治は苦笑いするー。
何度か咳き込みながら、
「ま、いいやー、今日もだるいから、さっさと昼寝したいしー、
誰の姿でもいいから、とっとと変身させて寝かせてくれー」
と、そう言葉を口にする貞治ー。
「ーーー…風邪、治んないの?」
円花が少しだけ表情を歪めると、
「ーーまぁ、そのうち治るだろ」と、貞治はそう答えたー。
「ーーキモッー…移るからこっち向かないで」
円花はそれだけ言うと、変身薬を手渡してくるー。
貞治は、”なんで、キモい兄を自分の姿に変身させようとしてるんだよー”と、
円花の意図がますます分からず、戸惑いながらも、
とにかく寝たい、という一心で変身薬を飲み干すー。
「ーーーーー……」
円花の姿に変身した貞治は、「ふぁ~~~~~…」と、
そのまま大あくびをすると、
「ちょ!?わたしの姿でそんなあくびしないで!?」と、
不満そうに円花は言い放ったー。
「ーー…じゃあ、他のやつの姿に変身させてくれればいいだろ」
円花の姿のままそう呟く貞治ー。
「ーーーー…」
円花はなおも不満そうに「キモー…」と、小さく呟くと、
「ーー円花が何を企んでるのかは知らないけどさー…
とにかく今日はもう寝かせてくれー」と、
そのまま円花の姿をした貞治は、さっさと円花に
部屋の外に出るように促したー。
半分、”追い出された”ような状態になった円花は
不満そうにしながらも、そのまま部屋の外に向かって歩き出したー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌朝ー。
「ーーそういえば、円花ー」
母親が、円花に声をかけるー。
「ーん~~?なに~?」
学校に向かう準備をしていた円花が、
制服を整えながらそう返事をすると、
「ー貞治、まだ起きて来てないんだけどー」と、
そう言葉を口にしたー。
「ーーー…お兄ちゃんがー?
寝坊してるんじゃないー?
自分でちゃんと起きられないなんて、やっぱりキモー」
そう笑いながら、円花がそろそろ学校に向かおうと荷物を手にするー。
しかしー
「ーー…でも、貞治、普段寝坊したことないからー」
と、母親はそう言葉を口にするー。
「ーーーー!」
円花が表情を歪めるー。
母親は、料理中で手を離せそうな様子ではないー。
それを見た円花は、玄関ではなく、慌てて2階の方に向かって行くー。
そしてーー
兄・貞治の部屋に駆け込むとー、
貞治が、ぐったりとした様子でベッドの下に倒れ込んでいたー。
「ーーえっ…!?ちょっーー…
はーー…?」
円花は戸惑いながら、貞治に駆け寄るー。
「ーーお兄ちゃん??お兄ちゃんー??」
そう言いながら、兄の貞治を呼び掛けるー。
がー、返事はないー。
円花は青ざめた表情を浮かべながらも、
少し間を置いてから笑みを浮かべるー。
「ー分かった!わたしに仕返しをしようとして
ドッキリを仕掛けてるんでしょー?
そういうとこ、ホントキモいよねー。
言っとくけどわたし、そういう手には引っかからないからー」
うんざりした様子でそう言い放つ円花ー。
そのままため息を吐き出して、
部屋の外に出ようとするも、やはり反応のない兄・貞治ー。
「ーーー…キモッ!いつまでそういう死んだふりみたいのしてるの!?」
苛立った様子で声を上げるー。
しかしーー
それでも、兄・貞治は起きないー。
「ーーー…ちょっと!いい加減にー!」
円花は、焦り切った様子で、そう言いながら
兄・貞治の腕を掴むとー、
兄・貞治の腕に謎の発疹のようなものが見えたー。
「ーーー!?!?!?」
円花は青ざめるー。
”変身薬”を、毎日のように連日、服用し続けた副作用ー。
そんな頻度で使うことを想定して作られていない変身薬ー。
毎日毎日、それを円花に飲まされ続けていた兄・貞治は
少しずつ身体を蝕まれていたのだー。
「ーーちょ…う、嘘ー…」
目に涙を浮かべながら、円花は慌てるー。
慌てた様子で階段を駆け下りると、
「お母さん!お母さん!!」と、悲鳴に似た叫び声を上げながら、
兄・貞治の状況を伝えたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
兄ー貞治は昏睡状態のまま病院に緊急搬送されたー。
病院に到着した時点で、危篤状態で、
円花は泣き叫びながら、
「死んだら絶対に許さないから!」と、そう言い放ったー。
円花がー、兄・貞治に変身薬を使って
他人の姿に変身させていたのはーー
”兄と話をするため”ー
何事にも無頓着で、興味を示さない兄ー。
しかし、円花は小さい頃から、兄のことが妹として好きだったー。
けれどー、興味関心を何事にも示さない兄は
円花のこともあまり相手にしてくれなかったー。
やがて、気を引きたい一心で「キモッ!」などと言い始めた結果ー、
逆に素直になれなくなってしまい、エスカレート。
兄にも嫌がられているような、そんな状況になってしまったー。
そこで、何とか接点を持とうと見つけたのが変身薬ー。
毎日キモキモ言っている円花が、いきなり”お兄ちゃんと話したい”は、
無理があるし、円花自身にも変なプライドがあったー。
”キモいから他人に変身して”と、あくまでもそんな振る舞いを崩さずー、
それでいて、兄の貞治の部屋を訪れる口実を作り、
貞治と話をしようとしたー。
結果ー、兄の貞治との時間は増えたものの、
それでも、兄の貞治との会話は弾まなかったー。
いつもいつもいつもいつも眠たそうにしていて、
何事にも無気力な兄は変わらなかったー。
単純にー
”お兄ちゃんともっと話したいんだけど!”と伝えれば良かったのかもしれないー。
でも、いつも”キモッ!キモッ!”と言っていた円花は
今更素直になれなかったー。
だからー、次第に男子ではなく女子に変身させたり、
円花自身に変身させたりして、
何とか、貞治の反応を引き出そうとしたー。
それでも貞治はやっぱり無気力で、
そうこうしているうちに、こんなことになってしまったー。
「ーーーお兄ちゃんー」
祈るようにして、兄・貞治の無事を祈る円花ー。
「このまま死んだら、本当にキモいからー」
円花はそう呟くと、只々、兄の無事を祈るのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーーー…」
奇跡的に兄・貞治は一命を取り留めたー。
両親が、貞治の無事を心底喜ぶ中、
円花はどう顔を合わせていいか分からずにいて、
兄・貞治が入院している病室になかなか顔を出せずにいたー。
「ーーわたしのせいで、こんなことにー」
円花は、今回の件に責任を感じながら、
あれこれ悩むー。
が、ようやく決心するー。
”全てを打ち明ける”ことをー。
変身薬を兄・貞治に飲ませていたのは、
”キモいから”ではなく、”お兄ちゃんと話す口実が欲しかったから”であることを、
素直に明かすー。
そう決意して、円花は深呼吸をしてから兄・貞治の病室へと足を踏み入れるー。
「ーーーーー…」
貞治は窓の方を向いてベッドに横たわっていたー。
助かったものの、かなりやせ細っていて、
まだ本調子ではなさそうなのがすぐに分かるー
「ーーお兄ちゃん、わたしー…」
円花は全てを打ち明けようと、口を開くー。
しかしー…
「ーーー…”こういうこと”だったんだなー」
窓の方を向いて、円花に背を向けたまま兄・貞治は言うー。
「なんで、俺と会う機会が増えちゃうのに
わざわざ毎日俺に変身薬を飲ませたりするのか
ようやく分かったよー」
兄・貞治の言葉に、円花は「え…?」と、首を傾げるー。
「ーキモい兄が、死ななくて残念だったなー。
まさか、妹に殺されかけるとは思わなかったけどー
そういうことするやつだったんだなー」
貞治はそう呟くー
「えっ…ち、ちがっ…」
円花は目に涙を浮かべながら、貞治に言葉を口にしようとするー。
”お兄ちゃんを殺そうとした”わけじゃないー
そんなことするつもりは一切なかったー。
しかしーー
「キモくてごめんな、円花ー。
俺を殺そうとしたことは、母さんと父さんには黙っておくからー
でも、俺以外の人間にはこういうことするなよー?
それと、俺、退院したら実家を出るからー。
もう、キモい俺のこと見なくても済むから安心してくれ」
と、貞治はそう続けたー。
「ち、ち、違うー 違うの!」
目から涙をこぼしながらそう叫ぶ円花ー
しかしーーー
「ーもう出てってくれ!円花とは何も話したくない!」
”円花は、俺を殺すために変身薬を俺に毎日飲ませに来ていた”
そう思ってしまった貞治は、そう言葉を口にしたー
「ーーーー~~~~~」
円花が目からぼたぼたと涙を流すー。
「ーーー俺も、円花のこと、大っ嫌いだー。
でも、今回のことは俺の心の中にしまっておくからー
もうー、俺に構わないでくれ」
貞治にそう言われた円花は、
泣きながらそのまま病室の外へと立ち去るー。
病室の外に出た円花は
廊下の角で、そのまま泣き崩れてしまうー。
「お兄ちゃんー…わたしーーーー」
取り返しのつかないことをしてしまったー。
兄に嫌われてしまったー。
兄のことを、キモッキモッ!といつも言いながら
本当は構って欲しかった円花は、
真逆の結果になってしまったことを
受け止めることが出来ずに、
その場で一人、涙を流し続けたー。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
妹が無茶な変身を突き付けて来る理由は…
本当は構って欲しいから…でした~!☆
でも、真逆の結末になってしまいましたネ~…!
お読み下さりありがとうございました!★!
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