<入れ替わり>博士と助手①~事故~

変わり者の博士と、
真面目な助手ー。

二人が、入れ替わってしまったー…!

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水川 詩織(みずかわ しおり)は、
小さい頃から、理科の授業が大好きだったー。

特に”実験”が大好きでー、
理科の授業で何かの実験をするときには
実験の内容に関係なく、いつもワクワクしていたー。

そんな詩織も、今では大学を卒業ー、
卒業後にはとある研究所で働いているー。

未来のための新技術を開発するために
日夜研究を続けている大手企業の研究所で、
日夜色々な実験や、開発が行われているー、
そんな職場だー。

真面目な性格の詩織は、就職後も、
すぐに周囲から信頼されるようになり、
入社3年目にして、今ではこの研究所にとって
欠かせない存在となっていたー。

「ーー水川くんー
 ちょっといいかねー?」

そんな、詩織を呼ぶ声が聞こえたー。

この研究所の責任者である
矢崎博士(やざきはかせ)だー。

彼は優秀な研究者であるもののー、
かなりの変わり者で、
一部の研究員は影で”マッドサイエンティスト”とあだ名を
つけて呼んでいるー。

「ーーあ、博士ー どうかしましたか?」
そんな、矢崎博士から呼ばれた詩織が、博士の方に近付いていくー。

今日もボサボサの髪に
薄汚れた白衣を着ている矢崎博士ー。

研究に没頭してしまうと、
自分の身なりにも気遣わなくなってしまうタイプで、
その結果、今日も髪はボサボサだー。

もちろん、彼が陰で変わり者と言われたり
マッドサイエンティストと呼ばれたりする理由はそれだけではないー。

彼は、何故か何かを思いつくと、
急に奇妙なダンスのような動きをし始めたり、
ブツブツと独り言をつぶやいたり、
睡眠時間は”1日2時間で十分だ”と、豪語していて、いつも寝不足ー。

しかも、寝る時には自分の首を絞めて失神するという
訳の分からない寝方をしているー
一歩間違えれば死ぬかもしれないし、絶対に真似をしてはいけない寝方だー。

また、彼は何故か自分の名前を”矢崎 博士”だと名乗っており、
研究員のほとんどは下の名前すら知らないー。

もちろん、本名は”矢崎 博士”ではなく、ちゃんと名前があるものの
彼は”名前など捨てた。私は博士だ”の一点張りで、
公的な書類にも「矢崎 博士」と記入して怒られていたこともあるー。

これだけではなくー、他にも大小様々な”変わり者”っぷりを
発揮している矢崎博士ー。

が、研究者としては優秀でー、
ちょっと無茶振りをするようなことも多いもののー、
詩織個人としては、別に博士のことは嫌いではなかったー。

何より、小さい頃から実験が好きでー、
研究者としては”非常に優秀”な彼のことを
詩織は尊敬してすらいたー。

「ーちょっと博士~!ズボン、穴開いてますよ~?」
詩織が戸惑いながら言うと、
矢崎博士は「ん?あぁ、あぁーーホントだ、気付かなかった」と、
そう言葉を口にするー。

「も~…新しいズボン、用意しておきますからー
 ちゃんと取り替えて下さいね」

詩織がそう言うと、近くにいた別の二人組の研究員が
「まるでお母さんか、お姉さんみたいだよなー」と、
そう言葉を口にすると、もう片方の研究員が静かに頷いたー。

矢崎博士に臆することなく、何でも言うことができる人間は少ないー。
別に、矢崎博士は怒りっぽいわけでもないのだがー、
言っても言っても、研究以外無頓着なことと、
何かを指摘しても根気強く伝えないと無反応なことも多いことからー、
あまり周囲に”指摘する人間”がいないのだー。

それを、ニコニコしながら言える詩織は、
研究員たちの中では貴重な存在だったー。

「ーそれより、水川くんー見てくれー」
そう言葉を口にした、矢崎博士ー。

矢崎博士の持つ試験管の中には
緑と赤が混ざったような、謎の液体が入っているー。

矢崎博士が手にしているのは、
この研究所で研究しているもののひとつー、

”人間の身体を入れ替える”薬ー。

他にもこの研究所では
”人類の未来”のために現在の技術では不可能な研究を多数進めていて、

人間の寿命を延ばす薬や、
人間を冷凍保存する技術ー、
果ては時間を逆行する技術などなど、
実用化できるかどうかはともかく、色々な研究が進められているー。

既に、この研究所では
3つほど、大きな研究成果を挙げており、
そのうちの2つは、この世界において広く活躍しているー。

それ故に、この研究所には多くの予算も割り当てられていたー。

「ーー今までにない反応ですねー」
詩織が、”入れ替わり薬”を、見つめながらそう呟くー。

「ーーあぁ。異なる物質同士の性質が入れ替わっているー。
 この反応を応用すれば、人間同士の精神を入れ替えることも 
 できるかもしれないー」

研究者同士にしか具体的なことは分からなそうな会話を続ける二人ー。

「ーまずは動物実験をクリアしないとですね」
詩織がそう言うと、矢崎博士は「そうだなー。今年中には
動物実験にたどり着ければよいがー」と、そう言葉を口にすると、
そのままボサボサの髪を掻きむしるー。

”入れ替わり薬”はー、
現在、医療分野での活用を目指して作られているー。
将来的に実用化するとすれば、色々クリアするべき課題はあるものの、
まずは”人間と人間の中身を入れ替えること”を成功させなければ
スタートラインに立つこともできないー。

「ーーでも、本当に人間同士が入れ替わるなんてことができたらー…
 すごいですよねー」
詩織が目をキラキラさせながら言うと、
矢崎博士は静かに頷くー。

「ーひとまず、この反応をもう一度、安定して引き起こせるかどうか
 試してみたいー

 サンプルを3つほど、また用意して貰えるかね?」

矢崎博士が、”入れ替わり薬”のサンプルを手にしながらそう言うと、
詩織は「分かりました」と、そう言葉を口にしたー。

「ーー分かってるとは思うが、この入れ替わり薬は
 空気に触れると、急激に不安定になるから、
 絶対にこの容器の外には出さないようにな」

その言葉に、詩織が頷いたー。

がー
その時だったー

「博士!!博士!!!博士!!!!」
お調子者の研究員・坂山 健太郎(さやかま けんたろう)が、
部屋の中に入って来るとー、
「博士!!!!!すごいデータが取れましたよ!!」
と、駆け寄って来たーーー

そしてーー

「ーーーーーあっ…!?」
あまりに急いで駆け寄ってきた健太郎が躓いて、
”入れ替わり薬のサンプル”を持っていた
矢崎博士に激突してしまうー

「ーーちょっ!?坂山くんー!?」
詩織が驚くと同時に、
矢崎博士の手から入れ替わり薬のサンプルが入った容器が落下ーー

さらに、最悪なことに「は、博士!すみません!」と叫んだ
健太郎が、その容器を踏んでしまいーーー、
入れ替わり薬のサンプルが入った容器が破損ーー

その中から、液体が溢れ出したー。

「ーーな、な、な、なんてことをーーー!!!」
矢崎博士が声を上げると、健太郎は「あああーす、すみません!」と
謝罪の言葉を口にするー。

がーー
こぼれた液体から、煙のようなものが出始めるー。

「ーーは、博士!?この煙は!?」
詩織がそう叫ぶと、矢崎博士は「分からんー!未知の化学反応だー!」
と、そう叫び返して、詩織と健太郎に外に出るように促したー

健太郎は慌ててその部屋から飛び出すー。
詩織も後に続こうとしたものの、
背後で”人が倒れる音”がしたー。

矢崎博士がその場に倒れ込んでしまったのだー。

「博士ーーー…!」
ハンカチを口元に当てて、詩織は
倒れた矢崎博士を救出しようとするー。

しかしー
詩織の意識も突然遠のき始めるー。

”ーーなにこれー…ーー…早くここから出ないとー”
詩織は内心でそう思うー。

がー、どうすることもできないまま
詩織もそのまま、その場に倒れ込んでしまったー。

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「ーーーーーー!」

詩織が研究所内の医務室で目を覚ますー。

「ーー…あ、水川さんー!よかったー!」

研究所の副所長・北島(きたじま)がそう言葉を口にすると、
「北島?」と、詩織は表情を歪めたー。

「ーーえ?」
いつも物腰が低く、冴えないおじさん、という雰囲気の
北島副所長ー

が、突然詩織に呼び捨てにされたことに少し驚いたのか、
オドオドしながら
「ーーだ、だ、大丈夫かいー?水川さんー」と、
そう言葉を口にするー。

「ーーーそうだーー」
突然ガバッと起き上がる詩織ー。

「ーー入れ替わり薬のサンプルはー?
 研究室はどうなったー?」
詩織の言葉遣いと、勢いに気圧されながら
北島副所長は「ま、まずはーとにかく、安静にー」と、そう言葉を口にするー。

が、詩織は何かブツブツ独り言を呟きながら、
「こうしてはいられないー」と、言葉を口にすると、
そのまま、一人で事故のあった研究室の方に向かって走っていくー。

「ーえっ!?ちょっと!?水川さんー!?」
詩織の様子に戸惑う北島副所長ー。

「ーど、ど、どうしちゃったんだー…?
 やっぱ、何か悪影響がー…?」

実験中の薬から噴き出した得体の知れないガスー。
幸いと言うべきかー、
あのあと、開発中だった入れ替わり薬から溢れ出した謎のガスは
換気システムによって除去されたことで、
矢崎博士と詩織のことはすぐに救出できー、
命には別状ない様子に北島副所長をはじめ、
研究所仲間はホッとしていたー。

がー、なんだか様子がおかしいー

「ーふ、ふ、副所長ー!!
 は、博士が目を覚ましましたー!」

北島副所長が心配していると、
別の部屋から研究員のひとりが駆け込んで来たー。

「ーあ、あぁ、そ、そうかいー。
 それはよかったー。

 たった今、水川さんも目を覚ましたんだけどー
 なんだか様子がおかしくてー」

北島副所長がそう言うと、副社長を呼びに来た研究員が
少し表情を歪めるー。

「ーーえ……水川さんもー、ですかー?」
所員の言葉に、北島副所長も不安そうな表情を浮かべるー

「ーは、博士も様子がおかしいということかいー?」
北島副所長が確認すると、
研究員は静かに頷きながら、
「それがー…”わたしは水川 詩織”だとそう言ってましてー」と、
気まずそうに言葉を口にするー。

「ーーーーえぇ…?」
困惑した表情の北島副所長ー。

博士は元々、奇行が多いしー、
冗談でそういうことを言う可能性は十分にあるー。

がーー
さっき、この部屋から飛び出して行った詩織の様子も
そう言えば何だか変だったー。

「ーー…わかったー。今行くよ」
北島副所長は不安そうな表情を浮かべながら、
そう言葉を口にすると、
矢崎博士が目を覚ました第2医務室の方に向かって歩き出したー。

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「ーーーあぁぁあ…ああああああああ!」
詩織は、先ほど事故のあった研究室にたどり着くと、
開発中だった入れ替わり薬のサンプルが
無残な姿を晒していることに悲鳴を上げていたー。

悔しそうにその場で、
飛び跳ねながら怒りの奇声を一人であげる詩織ー。

髪を振り乱しながら子供のように飛び跳ね続ける詩織を見て、
偶然研究室の前を通りがかった他の研究員は
ガラス張りの部屋の向こうから
「え…み、水川さんー!?」と、困惑の表情を浮かべるー。

「ーーーー~~~はぁ…はぁー
 私の研究がー」

詩織はそう呟くと、ブツブツ独り言を呟きながら
壁に自分の頭を打ち付け始めるー。

ゴツンゴツンと頭を打ち付けながら、
ひたすら何かをブツブツ呟く詩織ー

がーー
しばらくすると、髪を邪魔そうに払いのけながら
ようやく、ため息をついて、
先程、入れ替わり薬の容器が破損した際に散らばった破片を
片付け始めるー。

「ーーーまったくー…
 これで研究の完成がまた遠のいたー。」

なおも、ブツブツと呟き続ける詩織ー

だがーー
詩織は、ふと、表情を歪めたー。

「ーーー…!?」
自分の身体に”胸”の膨らみがあるー。

それに、”今”気付いたのだー。

「ーーー!?!?!?!?」

もちろんー、詩織本人からすれば、
自分に胸があるのは当たり前のことで
何もおかしなことではないー。

しかし、今の詩織はーー

「ーふっ…ふぉぉぉおおおおおおおおおおお!?!?」
詩織はあまりの驚きに、その場でひっくり返ってそのまま失神してしまうー。

そうー
博士と詩織はー、
入れ替わってしまったのだったー。

②へ続く

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変わり者の博士と真面目な助手が入れ替わってしまうお話デス~!

どうなってしまうのかは…
明日以降が本番ですネ~!!

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