その王国は平和だったー。
姫が憑依薬を手に入れてしまう
その日まではー…
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”クローバー王国”
過去に、大きな戦乱があったとされているものの
ここ数百年は平和を謳歌していたとある王国ー。
現女王のヒルダは、
大人しく、優しい性格の持ち主ー。
先王が高齢になってからようやく授かった子供であったため、
先王はヒルダが成人して間もなく老衰により死亡ー、
若くして、ヒルダが女王の座につくことになったー。
”女王”としての職務に関しては優秀で、
大人しい性格故に、王族でありながら気取るような様子もなく、
民からの人気も高かったー。
しかしーー
「ーーー姫様は、優しすぎますぞー」
世話役のロルフが苦笑いしながら言うー。
「第3騎士団長のヴァルテル殿も、最近は
まずます過激になっているご様子ー」
ロルフがそう呟くと、
ヒルダは申し訳なさそうにしながら、
「分かってますー。ただー…」と、表情を曇らせるー。
第3騎士団長のヴァルテルは、
女王であるヒルダが大人しい性格であることをいいことにしてか、
最近では女王を侮るような言動が目立つようになり、
独断で行動を起こすことも増えているー。
第1騎士団長のルーカスと第4騎士団長のヨハンネスが、
その動きを牽制してくれてはいるものの、
ヴァルテルはますますつけあがるだけだったー。
「ーー無理に強く抑えつければ、より強い反発を招くかもしれませんー。
もう少し、様子を見ましょう」
ヒルダ姫はそう言いながらも、落ち着かない様子で
指を動かしているー。
「ーー大丈夫ですかー?姫様ー」
心配そうに呟く世話役のロルフー。
ヒルダ姫は優しすぎる故に、強いストレスを抱えているー。
自分の不満を一切、表に出さない性格故に、
かなり、参っているー
そんな様子が、ヒルダを幼少期から見て来たロルフには
ひしひしと伝わって来たー。
「ーーふふー…大丈夫ですよー。
いつも、ありがとうございますー」
ぺこりと頭を下げるヒルダー。
「ーー少し、一人にして頂けますか?」
ヒルダ姫の言葉にロルフは「はっー」と、頭を下げて退出すると、
一人になったヒルダ姫は爪をかじりながら、
玉座の椅子を蹴りつけるー。
「ーーはぁ~~~~~~~……」
大きなため息を吐き出すと、色々なことが思い通りにならない
苛立ちを、椅子に向かってぶつけるー。
「ーーー…」
女王になってから、強いストレス続きの日々ー。
それでも、ヒルダはーー
”人前”では、優しき女王として振る舞ったー。
ストレスを発散したヒルダは、
廊下に出ると、家臣たちに挨拶をしながら、
職務のために別室へと向かうー。
女王に対する、各騎士団からの任務報告を確認ー、
必要な騎士団長とは直接話を交わすー。
「ーーえぇ、問題ありませんー。
ヴァルテルの動きは、部下にも監視させてます故ー」
頼りになるおじさまー…
そんな雰囲気の第1騎士団長・ルーカスがそう言葉を口にするー。
ヒルダはそんな報告を受けて
「苦労をかけて申し訳ありません」と、頭を下げると、
ルーカスは「いえいえーそんなことはありませんー
これも、クローバー王国の、そして姫様のためですから」と、
そう言葉を口にするー。
「ーありがとうございますー
亡きお父様も、あなたの忠誠に感謝していると思いますー」
ヒルダ姫はルーカスに感謝の意を述べるー。
やがてー、各騎士団からの報告を確認し、話が必要な騎士団長との
話を終えると、
ヒルダは自室の方に向かって歩き始めたー。
「ーーあら、お姉さまー」
背後から声がして、ヒルダは振り返るー。
「ーーアンドレアー…」
ヒルダが振り返ると、そこには妹のアンドレアの姿があったー。
アンドレアは、ヒルダとは正反対の高飛車な雰囲気を持つ第2王女でー、
”ヒルダお姉さまなんかよりも、わたしの方が女王にふさわしいのに”と
いつも愚痴を漏らしているー。
「ーーあらあら、お姉さまーお疲れのようだけどー」
やつれた顔を見て、アンドレアが笑みを浮かべるー。
その言葉に、ヒルダは
「ー別に問題はないわー」と、だけ言葉を口にすると、
アンドレアは「”女王様が無能”だと、振り回される家臣たちも可哀想ねぇ」と、
笑みを浮かべるー。
「ーーーー…」
ヒルダはギリッと歯軋りをするー
”あなたに何が分かるのー?
責任のある立場にもつかず、文句ばっかりー”
そう、心の中で思いながらー。
しかし、それを表情には出さずに
「ーー有能になれるように頑張るね」と、それだけ言うと、
アンドレアは「ーーなんで、”あんた”が先に生まれたのかなー」と、
不満そうに言葉を口にするー。
「ーわたしが先に生まれてれば、
わたしが女王になれたのにー」
不満を呟くアンドレアに対して、
ヒルダはそれ以上何も言わずに立ち去っていくー。
「ふんーー。
あんたのやり方で何年持つかしらー?
失脚したら、わたしが女王よー」
アンドレアは、ヒルダが立ち去って行った方向に向かって
そんな言葉を口にすると、
そのまま「ふん!」と、一人、立ち去って行ったー。
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それから、数日が経過したある日のことだったー。
「ーー姫様ー」
第8騎士団長・ガスパロが、ヒルダ姫の元にやって来るー。
先日から、ガスパロは
魔物が出現することのある、クローバー大森林の見回り・調査の任務に
当たっており、その最中に”奇妙なモノ”を見つけたというのだー。
「ーーーー”憑依薬”(ひょういやく)ー」
ヒルダ姫が驚いた様子で、その石を見つめるー。
「はっー。森の中に潜伏していた怪しげな魔導士の一団が
持っていたものですー。
何やら、”これを飲む”と、他人に憑依できるようになる薬なのだとかー。
幸い、まだ開発の最終段階だったようで、悪用されていないことは
魔導士の連中から確認しました」
第8騎士団長・ガスパロのその言葉に、
ヒルダ姫は表情を曇らせるー。
「他人の身体を乗っ取ることができるー
そういうことですか?」
とー。
「ー恐らくはー」
第8騎士団長・ガスパロは戸惑いの表情を浮かべながら
そう言葉を口にすると、
「ー大変危険な代物ですので、姫様に一刻も早くご報告をーと、そう考えた次第です」
と、頭を下げたー。
「ーーーー」
ヒルダ姫は憑依薬を見つめながら、
”ーーー他の人の身体に、憑依できるー…”と、
心の中で呟くー。
「ーー分かりました。わざわざご苦労様ですー。
これはわたしが責任をもって、悪用されないよう
処分しておきます」
ヒルダ姫はそう言うと、
第8騎士団長のガスパロは「はっ!」と頭を下げるー。
「ーーでは、我々は引き続き、大森林の調査を進めますので
これにて失礼します」
そう言葉を口にしながら立ち去ろうとするガスパロー。
「ーーーーガスパロー」
ヒルダ姫は、ふと、ガスパロを呼び止めると、
ガスパロは少し不思議そうな表情を浮かべながら振り返るー。
「ーー”この薬”のことを他に知っている人間はいますか?」
ヒルダ姫が憑依薬の入った容器を手にしながら言うと、
ガスパロは「いえ。悪用されれば大変な代物ですからー
私と、姫様しか知る者はいません」と、そう返事をするー。
「ーそうですかー。分かりましたー」
ヒルダ姫はそう言葉を口にすると、
そのまま少しだけ笑みを浮かべるー。
第8騎士団長のガスパロは静かに頭を下げると、
そのまま女王の間から立ち去って行ったー。
「ーーーーーーーーーー…」
ヒルダ姫は”憑依薬”を見つめるー。
「ーーー他人の身体を、乗っ取ることができるー」
そう呟くと、”憑依薬”を大切に抱えながら
自室へと戻ったヒルダ姫はー
”いつも、文句ばっかり言ってくる妹”の、
アンドレアの姿を思い浮かべながら
”憑依薬”を手にしたー。
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翌日ー
「ーーー…な…何なの!?近寄らないで!!」
女王・ヒルダの妹であるアンドレアが悲鳴をあげながら、
周囲に向かってそう叫んでいるー。
「ー何かあったのですかー?」
第8騎士団長のガスパロが、
その場に居合わせた第4騎士団長のヨハンネスに確認すると、
いい加減な雰囲気のヨハンネスが笑ったー
「アンドレア様が、酔い潰れて庭で寝てたんだよー」
とー、そう呟きながらー
「えぇっ…?」
第8騎士団長のガスパロは驚くー
どよめく兵士や王宮の家臣たちに囲まれて
アンドレアは「離れなさい!」と、乱れた格好のまま声を上げるー。
「ーーーーあ、アンドレア様ー
いったいこれはー?」
アンドレアの側近の男が戸惑いながら言うと、
「ー昨日の夜の記憶が飛んでるの!わたしは酔い潰れるまで飲んだりしないわ!」と、
怒りの形相で叫ぶー。
二日酔いのような状態なのか、
頭を押さえながら
「ーー吐きそうー…早く部屋に連れて行ってー」と、
そう言葉を口にすると、側近の男は
「ーアンドレア様を部屋にお連れしろ!」と、
使用人のメイドたちに向かって叫んだー。
”ーあのプライドの高いアンドレア様が酔い潰れて庭で眠るなんてー…”
第8騎士団長のガスパロはそう思いながら表情を歪めるー。
「ーへへへー
まぁ、アンドレア様も”女王”になれなかったから
嫉妬してるんだろー」
第4騎士団長のヨハンネスが笑いながら言うー。
が、近くにいた第1騎士団長のルーカスー
真面目なおじさま、そんな感じの風貌の彼が
「ー口を慎めヨハンネス」と、そう言葉を口にすると、
ヨハンネスは「へいへいー」と、苦笑いしながら首を横に振ったー。
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「ーーいい気味ー」
ニヤッと笑みを浮かべるヒルダ姫ー。
ヒルダは昨晩ーー
”憑依薬”を口にしたー。
そしてー、いつもいつもいつもいつも自分のことを
馬鹿にしてくる妹・アンドレアに憑依ー、
アンドレアの身体でストレス発散と言わんばかりに酒を飲みまくり、
酔い潰れたアンドレアを庭で解放ー、
そのまま戻って来たのだー
「ーー姫様ー」
世話役のロルフの声がしたー。
ヒルダ姫は振り返ると、
「ーーどうかしましたか?」と、いつものように穏やかな笑みを浮かべながら
執務中に使っている自分の机の方に向かって行き、椅子に腰かけるー。
「アンドレア様の件、既にご存じですか?」
ロルフが言うと、
ヒルダ姫は「はいー…すみませんー妹がお騒がせして」と、
いつものように物腰低く、謝罪の言葉を口にするー
「いえいえ、迷惑だなんてー」
ロルフは戸惑いながら、逆に自分が申し訳なさそうにすると、
「ーアンドレアには、わたしからもよく言っておきます」と、
ヒルダ姫はそう言葉を口にしたー。
がーーー
その日以降も、アンドレアはそれに懲りず
すぐにいつも通りの態度に戻ったー。
「ーお姉さまが、”無能”だからわたしも忙しいの」
この日も、アンドレアが姉のヒルダに好き放題言い始めるー。
「ーごめんねアンドレアー。
でも、わたしだって色々大変なのー。」
ヒルダはニコニコしながら、そう言い返すー。
が、アンドレアは「ー大体、何で姉だからってあんたが女王なのー?
わたしの方が器だったのにー」と、不満をぶつけながら、
「ーニコニコしながら、周囲に気を遣うことしかできない無能の癖に!」と、
そんな言葉を口にするー。
「ーーー…」
ヒルダはカチンとすると、
「ーーーいつもフラフラしてるだけのアンドレアに、
”女王”の大変さなんて分からないでしょ」と、ボソッと呟くー。
「ーーーは?」
姉のヒルダに言い返されたことにムッとしたアンドレアが表情を歪めると、
「ーーこの前、酔い潰れて醜態を晒したようねー」と、
ヒルダはさらにアンドレアに対して”攻撃”を続けたー。
「ーーー…あ、あれはーー
気付いたら、酔い潰れててーー!」
アンドレアが顔を真っ赤にしながら言うー。
ヒルダは、そんなアンドレアの表情を見て
満足そうに微笑むと、
「ー”女王”にふさわしい姿とは思えないけどー?」と、
そう嫌味を口にして、そのまま立ち去っていくー。
「ーーー……ーー何なのーーあの態度ー」
ギリギリと歯軋りをするアンドレアー。
今まで、嫌味の一つも姉・ヒルダから言われたことのない
アンドレアは、怒りの形相でヒルダの後ろ姿を見つめたー。
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「ーーー…」
部屋に戻ったヒルダは、笑みを浮かべたまま、
部屋の壁を何度も何度も蹴りつけるー。
「ーーー……ーーー」
ヒルダの”ストレス”は、もはや限界だったー。
引き出しから憑依薬を取り出すと、
ヒルダは怒りの形相でそれを口にするー。
妹・アンドレアへの不満を爆発させたヒルダは、
「ーアンドレアに恥をかかせてあげるわー」と、
そう言葉を口にすると、
再び、妹のアンドレアに憑依したー。
そしてーー
アンドレアの身体で手当たり次第兵士に声をかけて誘惑ー、
ヒルダ自身もストレスを発散するかのように、
アンドレアの身体で、狂ったようにお楽しみの時間を楽しんだー。
アンドレアが失神するまで、欲望の限りを尽くしたヒルダは、
失神したアンドレアを王宮の廊下に放置して、
そのまま満足そうに、アンドレアから幽体離脱ー、
自分の部屋へと戻っていくのだったー。
「ーーーーこれでもうアンドレアは王宮に顔を出せないわー…
ふふふーー
ふふふふふふふふー」
”憑依薬”を手に入れてしまった姫ー
その力に魅入られるのは、もはや時間の問題だったー。
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
普段からストレスを抱えている姫が
憑依薬を手に入れてしまったお話デス~!
手遅れになる前に、誰かが止めることができると
いいですネ~笑
続きはまた明日デス~!☆!
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