5年前に”事故”により、入れ替わってしまい、
裏社会で生きざるを得なくなってしまった彼女ー。
やむを得ず、裏社会で生きる日々を送る彼女の前に、
”ある依頼”が舞い込んでくるー。
それは”元自分”を始末せよという、依頼だったー…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーーへへーダンナー
いつもすみませんねー」
猫背の男がやってくると、
黒いコートに身を包んだ男が「いやー」と言葉を口にしたー。
「ーーそれで、今回は”誰”を始末してほしいんだー?」
彼は、裏社会で暗躍する殺し屋”イプシロン”ー。
当然、本名ではないが、
彼自身もその本名は知らないー。
「ーーー…へへー今回は”この女”を始末してくれますかねー?」
猫背の男ー、とある”組織”に所属するというこの男は、
”殺し屋”イプシロンにとっては常連客の男ー。
”組織”が何なのか、そして、何のために殺しを依頼してきているのか、
そういったことを、彼には詮索する趣味はなかったー。
「ーーーー」
イプシロンは、これまで何人もの人間を始末してきたー。
”そうしなければ”生きることができないからだー。
そして、今回も
そんな仕事の一環ーーー…
”いつも通り”の仕事になるはずだったー。
がーー
「ーーー!」
イプシロンは、一瞬、表情を歪めたー。
その反応を、猫背の男は見逃さなかったー
「おや、知り合いですか?」
そう言葉を口にすると、
イプシロンは「いやー」と、そう言葉を口にしてからすぐに、
「昔の知り合いに一瞬似ていると思ったがー、よく見ると違ったー」と
興味なさそうに写真を手にするー。
「へへーそうですかいー
まぁ、ダンナのことだから、知り合い相手でも
容赦なく始末するんでしょうけどね」
猫背の男が笑いながら言うと、
「ーその女の名前は、長峰 皐月(ながみね さつき)ー。
最近、この辺りで好き放題していて、なかなか悪い女でしてねー」と、
ターゲットである皐月のことを説明したー。
「ーーーなるほどー。分かったー。
3日以内に、始末しよう」
”イプシロン”がそう言うと、猫背の男は満足そうに、
「へへーダンナはやはり頼りになりますね」と、
笑みを浮かべながらそう言ったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
依頼人の男が帰ったあとー、
”イプシロン”は、一人、ホワイトボードに貼り付けた
ターゲットの女を見つめていたー。
これはーーーー
「ーーーー”わたし”を殺すー…」
イプシロンは小さくそう呟くー。
”長峰 皐月”ー
忘れもしないー。
そうー
”長峰 皐月”は、5年前までは”自分”だったのだから
忘れるはずもないー。
”イプシロン”を名乗り、活動している殺し屋の男の中身はー
長峰 皐月 本人ー。
そして、今、各所で悪事を働いているという
長峰 皐月の中身は”元々イプシロンだった男”ーーー。
2人は”5年前”にある事故によって
”入れ替わって”しまっていたー。
「ーーーーーーー」
イプシロン(皐月)は、複雑そうな表情を浮かべながら目を閉じるー。
”元・自分”を殺すー。
けれどー…
もう”元・自分”の身体に未練はないー。
5年という歳月は長すぎたー。
今更、”普通の女”に戻れるとは思えないし、
”5年間も使われた”自分の身体はー、自分の人生は、
もう滅茶苦茶に壊されているだろうー。
「ーーーーふふー」
イプシロン(皐月)は笑みを浮かべるー。
むしろーーー
”わたし自身”に、わたしが引導を渡せることを喜ばなくてはならないー。
そんなことを思いながら、
イプシロン(皐月)は、そのまま”皐月(イプシロン)”の居場所を
探るため、ゆっくりと歩き出したー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5年前ー。
「ーーーーーー」
当時、大学生だった皐月は、
大学での1日を終えて帰宅する最中だったー。
彼氏の沢岡 鉄平(さわおか てっぺい)と、
来週の土曜日にまた会う約束をしていて、
そのことを思い浮かべながら、
嬉しそうに家に向かって歩き出す皐月ー。
だがーーー…
ちょうど、同じころー、
当時から”裏社会の殺し屋”として暗躍していた男・イプシロンは、
”追手”から逃げていたー。
「ーーチッー…裏切者めー」
イプシロンは不満そうに舌打ちをするー。
彼はー、裏社会組織の一員だった男と、その男が遊び相手として
親しくしていた女との間に生まれたー。
が、望まれぬ子供だった故に、彼は生まれてすぐに捨てられてー、
文字通り、地べたを這いつくばって生きてきたー。
そんな彼を、ある裏社会組織の男が拾い、
”殺し屋”として育てるために面倒を見てくれたー。
そして、”イプシロン”は凄腕の殺し屋となり、
裏社会でも名を馳せる存在となったー。
だがー、彼の”育ての親”とも言える男が、
半年前に病気により他界、
居場所を失った彼は一匹狼の殺し屋として
各地を転々としていたー。
がー、これまで度々”依頼”をくれていた組織の裏切りに会い、
”イプシロン”は必死に逃げていたー。
「ーーー…♪~~」
そんな出来事のことなど、全く知らずに
家に向かっていた皐月ー。
その皐月が、少し寂れた通りの階段を下りていたその時だったー。
「ー邪魔だ!どけ!」
背後から、そんな声がしたー。
「ーえ?」
皐月が振り返ると同時に、上から物凄い勢いで
階段を駆け下りて来た男と目が合うー。
がー、直後ー
その男、イプシロンは既に足を負傷していたこともあって
階段で躓きーーー…
皐月を巻き込んで転落してしまったのだー。
「ーーーー」
「ーーーーーーー」
そしてーーー
目を覚ました時には、皐月はその男と入れ替わっていたー。
裏社会で暗躍する殺し屋・イプシロンの身体になってしまった皐月ー。
しかも、目を覚ました時には
既に”皐月(イプシロン)”の姿はその場にはなくー、
先に意識を取り戻した皐月(イプシロン)は
入れ替わってしまったことに驚きつつも、
”逃げ切るチャンス”だと考えて、
イプシロン(皐月)が目を覚ましたり、
自分をねらう者たちの追手が来る前に、その場から姿を消したのだったー。
イプシロン(皐月)は戸惑いながら
よろよろと歩き出すー。
がー、その直後ー、
”イプシロン”を追っていた男たちに追い付かれてしまいー、
イプシロン(皐月)は殺されそうになってしまうー。
”イヤだー…死にたくないよーー”
皐月は心の中でそう思ったー。
必死に、必死に、生き延びる手段を探したー。
そしてー”手段”を見つけたー。
”イプシロン”は、銃を隠し持っていたー。
イプシロン(皐月)はそれに気付いて、
”死にたくない”という思いだけで
無我夢中になって反撃したー。
訳も分からないまま、
ただ死にたくない、という思いだけが
イプシロン(皐月)の身体を突き動かしたー。
「ーーーーーはぁ…はぁ…」
気付いた時には、雨の中、6人の亡骸を前に
一人で立ち尽くしていたイプシロン(皐月)ー
死に直面してー、
自分でも信じられないほどの力を発揮しー、
イプシロン(皐月)は、追手を全員返り討ちにしたのだー。
「ーーーー……はぁ…はぁーーー…」
遺体を前に震えるイプシロン(皐月)ー
がー、このままでは捕まってしまうー。
そう思ったイプシロン(皐月)はその場から姿を消しー、
その後ー、”裏社会で生きる”しかなくなってしまったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それが、5年前の出来事ー
あれから皐月は、殺し屋・イプシロンとして
様々な仕事をこなして来たー。
全ては、生きるためー。
”この身体”では表の世界に出ることはできないー。
だから、こうして生き続けるしかなかったー。
今までも。
そして、これからもー。
既に”裏社会の人間”としてドップリ漬かっていた
”イプシロン”の身体で平穏な生活を続けることなど、
できなかったー。
だからこそ、”死にたくない”一心で殺し屋としての
活動を続けて、
いつしか自分自身が、凄腕のヒットマン・イプシロンに
なってしまったのだったー。
「ーーーーー…」
イプシロン(皐月)が、独自の情報網で手に入れた情報を元に、
皐月(イプシロン)がいそうな場所を探っていくー。
「ーーー」
”今の元自分”だと言う写真を見つめるイプシロン(皐月)ー
そこには、もはやかつての面影などまるで存在しておらずー、
”これが元々のわたしの身体”だと言われても
絶対に気付けないようなー、そんな風貌に変わっていたー。
でも、だからこそーーー
”殺りやすい”ー
相手が元・自分だと思ってしまえばー
もしかしたら、ほんのわずかだとしても”迷い”が
生じてしまうかもしれないからー
「ーーーあはははははは!マジで?
そいつも殺しちゃえばいいじゃんー」
過激な発言をする女の声が聞えて来るー。
「ーー!」
イプシロン(皐月)は、その声を聞いて足を止めたー。
忘れもしないー
口調は違うし、発言内容は過激だけどー
間違いなく”自分”の声だー。
イプシロン(皐月)がその女の声ー
”元々のわたしの声”がした方向を向くと、
そこには、”皐月(イプシロン)”の姿があったー。
真っ赤な赤い髪に、ド派手な服装ー、
悪趣味なネックレスの数々ー
とても”わたし”には見えなかったー。
「ーーはははー皐月はホント、悪い女だよなぁ~」
隣にいる金髪の男が笑うー。
あの男は確か、このあたりを中心に活動している、
”銀狼(ぎんろう)”の構成員ー。
不良やワルなどを中心に構成されたグループの一員だー。
「ーーーチンピラと付き合ってー、
楽しそうねー」
イプシロン(皐月)は小声でそう言葉を口にすると、
静かに二人を尾行し始めるー
”これ以上”、元・自分の身体が悪用されないようにー、
元・自分の身体が辛い目に遭わないように
”引導”を渡してあげようー
イプシロン(皐月)が、そんなことを思いながら
2人の尾行を続けると、
やがて、銀狼に所属する男の方が、
「じゃ、俺は兄貴に呼ばれてるからー。またな」と、
分かれ道で別の方向を指差して
そのまま立ち去って行ったー。
人通りのない方向に向かって
鼻歌を歌いながら歩いていく皐月(イプシロン)ー
”下手糞な歌ー”
イプシロン(皐月)は不快そうに表情を歪めながら
尾行をさらに続けると、
やがて、皐月(イプシロン)は立ち止まったー。
「ーーーさっきから、わたしについて来てるのは、誰?」
とー、そう言葉を口にしながらー。
皐月になってから既に5年ー。
皐月として過ごす時間が長くなったとは言え、
中身は裏社会として暗躍していた殺し屋・イプシロンー。
自分が尾行されていることを察知することぐらいは
簡単なことだったー。
「ーーーー」
イプシロン(皐月)は一瞬、表情を曇らせるも、
観念して、そのまま物陰から姿を現すー。
すると、皐月(イプシロン)はニヤリと笑ったー
「ーーへ~~~~”元”わたしじゃんー
久しぶり」
皐月(イプシロン)が笑みを浮かべながら言うー。
イプシロン(皐月)は、そんな皐月(イプシロン)を見て
「ーー”人の身体”で随分好き放題してくれたようだな」と、
不満そうに呟くー。
「ーーふふふー
”自分の身体”をどうしようと人の勝手でしょ?
別に入れ替わりはこっちが仕組んだわけじゃなくて
偶然起きたんだから仕方ないしー
不可抗力ってやつよー」
皐月(イプシロン)が笑うー。
そしてー、笑みを浮かべながら言葉を続けるー。
「ーで?身体、取り戻しに来たんでしょ?」
挑発的な笑みを浮かべる皐月(イプシロン)ー。
しかし、イプシロン(皐月)は「いやー」と、
言葉を口にするー。
「5年間汚され続けた身体なんて、もういらないしー
元に戻る方法も分からないから、別にその身体はもういらない」
とー。
「ーーー…じゃあ、何でここにー?」
皐月(イプシロン)は表情を歪めると、
イプシロン(皐月)は”銃”を取り出したー。
「ーーー!!!」
皐月(イプシロン)が驚くー。
「ーーーー”仕事”だよー」
イプシロン(皐月)がそう言葉を口にすると、
皐月(イプシロン)は、困惑した様子のまま、
銃の方を見つめたー。
<後編>へ続く
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コメント
私のネタストック(非公開)の中に、
長い間眠っていたネタデス~!!
今回、ようやくこうして実際に書いて、皆様の目に届くところに
登場させることができました~!☆
後編は、毎週火曜日は予約投稿している都合上、
また来週になりますが、楽しみにしていて下さいネ~!

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