<皮>過酷な30分②~失われた人生~(完)

1日30分ー

その時間は最低でも”皮”を脱いでいないと
自分の身体が腐ってしまうー。

そんな条件の中でも、他人の人生を乗っ取り、
新たな人生を満喫していた男の運命は…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーーー」

今日は、姉の美紀がサークル活動で夜、遅いー。
帰宅した萌は、自分の頭に手を掛けると、
そのまま”皮”を脱ぐー。

ペリッとめくれて、皮を脱いだ瞬間の表情のまま
固まった萌の表情ー。

それを、英二は見つめながらため息をつくー。

”いっそのこと、本当にこの子になりたかったー”
そんな風に思うー。

もちろん、萌を皮にして乗っ取り、
その人生を楽しんでいる栄三は、
もう”萌”になったようなものだー。
萌として楽しい女子高生ライフを送っているー。

しかしー人間はひとつのものを手にすると、新たな欲が
膨らむー。

”1日30分”
萌の皮を脱ぎ、栄三の姿でいなければいけないこの時間をー、
今の栄三は苦痛に感じていたー。

毎日毎日、
”お前は本物の萌じゃない”と、思い知らされるからだー。

「ーーーー」
部屋に置かれている姿見を見つめるー。
可愛らしい部屋に、おっさんー。

それを見ただけで、吐き気がするー。

30分が経過すると、慌てて”萌”の皮を着て
萌になると、大きくため息をついたー。

「ーーわたしは萌だもんー」
萌になった栄三は自分に言い聞かせるように
そう言葉を口にするー。

もうー、この人生を手放すことは出来ないー。
もしも、今、萌としての人生を失って
自分の人生に戻らないといけないようなことになったら、
気が狂ってしまうー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「おはよ~!」
友達の真美(まみ)がいつものように、萌に
声をかけて来るー。

萌は今日も楽しそうに雑談を交わすー。

「ーーーーーー」
そんな萌の様子をチラッと見つめる太志ー。

自分の描いている”誰にも読まれないはずだった”漫画に
興味を持ってくれて、その上で
萌に優しくしてもらった太志は
萌に歪んだ好意を抱き始めてストーカー化していたー。

そのことに気付かないままの萌が
”皮を脱いで30分を過ごす”光景を、太志は先日
目撃してしまっていたー。

「ーーーー」
太志は、萌の方をじーっと見つめるー。

「ーねぇ…萌ー
 ”アイツ”萌のことさっきから見てるよ」
小声で友達の真美がそう言葉を口にするー。

太志は、クラスで孤立していて
特に女子からは気持ち悪がられているー。

「ーーえ?」
萌が太志の方を見るー。
確かにこっちを見ているー。

「どうしたの?小久保くんー」
萌はいつものようにニコニコしながらそう言葉を口にすると、
太志は「あ… い、な、何でもありません」と、
顔を赤らめながら目を逸らすー。

「ふふっ 漫画はできた?」
”萌として”
元々の自分のような男子に優しくしているー

そんな状況は栄三にとって、快感だったー。
別に太志をどうこうするつもりはないがー、
今では”自分が” ”こっち側”にいることに
強い快感を感じると共に、
かつての自分と重ねてしまう太志に
少しでもいい思い出を作ってあげたいという
そんな気持ちもあったー。

「ーーーあ…いえ、まだですー」
太志はそう言うと、萌は「次のお話が出来たら見せてね!」と、
そう言いながら、真美のいる方に戻って行くー。

「ーあいつ、キモくない?」
真美が戸惑いながら言うー。
しかし、萌は「え~?そんなことないよ~」と、
そう言葉を口にすると、太志は萌から見えないように
ニヤニヤと笑みを浮かべたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーそういえば萌ってさ~、高校デビューしてから
 明るくなったというか、何か、ちょっと変わったよね~」

姉の美紀が笑いながら言うー。

ギクッとしながらも、萌は「えへへーそうかなぁ~」と、
そう言葉を口にするー。

「ーあ、悪い意味じゃないよ!
 なんだかほら、前は真面目過ぎた感じだったし」
美紀のそんな言葉に、萌は安心した様子で笑うー。

萌を乗っ取った直後、一生懸命、萌に成りすませるように
スマホから、あらゆるものを確認して、
萌に成りすましたー。

最初は「え?」という顔をされることも多かったものの、
ちょうど、萌を乗っ取ったのは、高校入学後
そう時間が経っていないタイミングだったため、
学校の方では”萌の変化”に驚く人は少なく、
また、”高校に慣れてきて本来の萌が出て来た”というような
そんな感じに思われたために、あまり大きな問題にはならなかったー。

「ーーでもさ~…
 萌って、実はーーー…」

美紀はそこまで言うと、
「ー女の子のこと、好きだったりしない?」
と、突然、変な言葉を口にしたー。

「ぶっ!」
飲んでいた飲み物を思わず吹き出す美紀ー。

「そ、そ、そ、そ、そんなことないよ!」
萌が必死に反論すると、美紀は笑うー。

「だって~この前、友達連れて来た時もそうだったけど、
 萌、たまにイヤらしい目つきするんだもん~」
揶揄うようにして笑う美紀ー。

もちろん、姉の美紀は妹が皮にされて乗っ取られているなどと
夢にも思っておらず
そう言っているのだとは思うー。

しかし、萌を乗っ取っているという”うしろめたさ”のある
栄三からすれば、驚かせるには十分すぎる言葉だったー。

「ーーき、気のせいだよ~!も~お姉ちゃんってば~」
萌としてそう言いながらも
”俺、嫌らしい目つきなんてしてたか?気を付けないとー”と、
心の中でそう言葉を口にしたー。

自分が元・男であるが故に、
無意識のうちにそういうものが出てしまうのかもしれないー。

この生活を、手に入れた新たな人生を壊すわけにはいかないー。
絶対にー。

「ーーあ、そろそろ行かなくちゃ」
今日は休日ー。
萌は”友達と約束してる”名目で外に出ると、
そのまま”皮を脱ぐ”のによく使っている場所に行き、
その日も栄三にとって”過酷な”30分間を過ごしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

週明けー。

「ーーまた明日~!」
友達の真美と別れて、
そのまま萌は隠れ家の一つである廃工場に向かうー。

いつものように”皮”の脱ぎ、
用意していた折り畳みチェアーに座ると、
ため息をつきながら煙草を吸い始めたー。

「ーーーー…」
廃工場の景色を見つめるー。

この場所は、嫌いではないー。
何となく、心が落ち着くからだー。

”元の自分”に戻る地獄のような30分間の苦痛を
”ほんの少しだけ”和らげてくれるー。
そんな空間がこの場所だー。

「ーーーーはぁ…ーー」
栄三はため息をつくー。

”萌の声”で喋りなれた今となっては
萌を脱いでいる時に喋ることもあまりしたくないー。

自分の声がますます嫌いになったー。

だからー、萌の皮を脱いでいるときは
極力喋らないようにしているー

ガタッー

「ー!?」
ふと、音がしたー。

栄三が振り返ると、そこにはーー
クラスメイトである漫画を描いている男子・太志の姿があったー。

「ーえへへへへーーー」
ニヤニヤと笑う太志ー。

「ー…こ、小久保くーー…」
”萌”のつもりでそこまで言い放った栄三はすぐに、
「だ…だ…誰だ!」と、そう言葉を口にしたー。

しかしー
太志は笑うー。

「うへへへー
 どういうことだか知らないけど、
 ふ、船本さんの中に、お前みたいなおっさんがいるのはー
 もう知ってるんだー…えへへー」

太志の言葉に、栄三は表情を歪めるー。

この前から、萌をストーカーし始めた太志は
この場所で、”萌”の中から栄三が出て来るのを見たー。

そして、また萌を着て、栄三が萌になるのをー。

太志は、”それが何なのか”ハッキリ理解はできていなかったー。
しかしー

「ーーー僕が”これ”を着ればーー…
 僕が”船本 萌”になれるってことかなぁ?」

ニヤァと、笑みを浮かべる太志ー

「ーーなっ…!おい待て!」
栄三が我を忘れてそう叫ぶー。

だがーー
太志はそれを無視して、”萌”を着てしまったー。

”皮にする”ことは、人を皮にする力を受け取った栄三にしかできないー。
しかし、既に皮になっている人間を着ればーーー…

「ーふふっ…えへへへへへ
 すごい~… すごいっ!僕が…僕が船本さんにーー!」

萌になった太志は嬉しそうに自分の手を見つめー、
そして、ゲラゲラ笑いながら両胸を揉み始めるー。

「ーお…お前っ!!
 そ、それを返せ!」

栄三が叫ぶー。

「ーーふひひひひひっ!返すもんか!
 これからは僕がー…僕が船本 萌なんだー
 
 うへっ…うへへへへへっ!」

萌になった太志が、ニヤニヤと笑うー。

「ーーおー、お前、そ、その子に漫画読んでもらうの、好きだっただろ!?
 お前が船本 萌になってしまったら、
 もう漫画を読んでもらうこともできないんだぞ!」

栄三が必死に叫ぶー。

あくまでも”学校での萌”は自分ではないという風な言い方をしながら、
太志に”萌の皮”を返してもらおうと、その一心で叫ぶー。

だがーー

「ーーえへへ…そんなこと、どうでもいい!
 僕が、僕が船本さんになれるならーーー

 い、いつでも船本さんに漫画を読んでもらえるんだ!
 
 えへっ…えへへへへへっ!」

太志に栄三の言葉は通用しなかったー。

”今までの萌”が何者だったのかー、
”皮になった萌”が何なのかー。
栄三は何者なのかー

太志には、その全てを理解することができていないー。
しかし、どうでもよかったー。

”自分が萌”になれるのならー

「ーーか、返せ!俺の”人生”を返せ!」
栄三は、”萌としての人生”を失うことを恐れて叫びながら突進するー。

「ーー」
ニヤッと笑った萌は、突然そのまま逃げ始めるー。

「ーな、なんとか取り戻さないと」
栄三は、必死に萌を追いかけるー。

それが、罠だとも知らずにー。

廃工場地帯から出た萌は、
栄三が追いかけてきているのを見て、ニヤリと笑うー。

わざと躓いて、栄三に捕まったところで、
萌は叫んだー

「きゃああああああああああああ!たすけて!」
とー。

「ーー!?!?」
”萌”の皮を奪われてパニックになっていた栄三は、
”こうなる”リスクも忘れて、夢中になって萌になった太志を
追いかけてしまったー

そうー
今、この状況は
”おっさんが女子高生を追いかけている”ようにしか見えないのだー。

「ーーーち、ちがっ、俺はー」
近くに交番があったことを思い出して、栄三は慌てた様子で
周囲の通行人に弁明したー

「ーーた、たすけて!この人がわたしを、誘拐しようとして!」
萌を着た太志はわざとらしい演技でそう叫ぶー。

栄三は「お前!ふざけるな!」と思わずカッとなって叫ぶも、
それがさらに逆効果となりー、通行人たちに捕まってしまうー。

「ーーー」
ニヤリと笑う萌ー。

”これで、僕が船本 萌だ”と言いたげに
萌を乗っ取った太志はニヤニヤしているー。

「ーーー…う…嘘だ…… お、俺のー…」
呆然とする栄三ー

彼は、そのまま駆け付けた警察官に捕まりー、
連行されてしまったー。

「ーーーへへへへへ…
 へへへへへへへへへへへ!」

萌になった太志はご機嫌そうに、笑みを浮かべると
そのまま夜の闇へと姿を消したー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーーーーーーー」
牢屋の中で呆然とした表情を浮かべる栄三ー。

そう長く、ここにいることはないだろうー。
しかしー…

”せっかく手に入れた新たな人生”を失ってしまったー。

栄三は、何も考えることができないほどに落ち込みながら、
大きくため息をついたー。

”また”人を皮にする力を使えば、新たな人生は手に入れられるー。

けれどー、
”萌”としての人生を奪われたことは
彼にとって強いショックだったー。

「ーーーーーーーはぁ…」
深くため息をつくと、栄三は体育座りをしたまま、
酷く落ち込んだ様子を見せるのだったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

数日後ー

「ーーう… うぁ… ぁ… ぁぁあああ…」

萌が、自分の部屋で苦しそうにうめいていたー。

萌の目からは黒い涙のようなものが溢れ出ているー。

「うっ…」
やがて、黒い液体を嘔吐して、部屋の中に倒れ込む萌ー。

「ーーーぁ… ぁ」
萌の全身を掻きむしるかのようにして、
なんとか”萌”を脱いだ太志ー。

がーーー
全身が黒く変色しー、身体をガクガク震わせながら
太志はそのまま部屋の外に出ることもできずー、
全身が腐った状態で、その場で絶命したー。

腐った太志と、抜け殻になった萌の皮が部屋に無言で横たわるー。

”1日30分は皮を脱いでいないと中身が腐食する”

それを知らぬまま、萌の皮を着た太志はーー
”腐る”という最期を迎えたのだったー

おわり

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コメント

今月最初のお話は、昨日から続いている皮モノの
最終回でした~!☆

今月も色々なお話を描いていくので
楽しんでくださいネ~!☆!

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皮<過酷な30分>

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