<皮>過酷な30分①~新たな人生~

人を皮にする力を手に入れて
他人の人生を乗っ取った男ー。

しかし、最低でも
”1日30分”は、皮を脱いでいないと自分の身体が腐ってしまうために、
彼は過酷な日常生活を送っていたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

”ーーー”
高校帰りの船本 萌(ふなもと もえ)は、
険しい表情を浮かべながら、周囲を見渡したー。

「ーー…」
可愛らしいスマホを手に、時間を見つめる萌ー。

「ーよし…5時15分まで”脱ぐ”かー」
萌はそう言葉を口にすると、突然”脱ぎ”始めたー。

服を脱ぎ始めたのではないー。
”萌自身”を脱ぎ始めたのだー。

ベリッとめくれていく萌ー。
その中から、細い目つきのやせ型の男が姿を現すー。

その風貌からすると、40代ぐらいだろうかー。

脱がれた”萌”は、
ペラペラになってまるで着ぐるみのように路地に横たわっているー。

「ふ~~~~…」
その場で時間を潰し始める男ー。

彼はー、”人を皮にして着る”力を持っていたー。
今からちょうど1年ほど前に、会社の海外出張で訪れた
謎の集落の老婆から授かった力だー。

大滝 栄三(おおたき えいぞう)ー。
彼は、小さい頃から容姿に悩み、
嫌な思いばかりをしてきたー。
それでも必死に勉強して、それなりの企業に就職ー。
一生懸命働き続けて来たー。

しかし、彼には友達も、恋人もおらず、
そんな中、高齢だった両親も立て続けに亡くなったー。

両親がいなくなった栄三は気づくー。

”俺は、何のために働いているのだ?”
とー。

大した趣味もなく、ただただ生きるために
働き続ける日々に、絶望を見出した。

そんな中、海外出張の際に
偶然訪れた集落で、”人を皮にする力”を手に入れたのだー。

戸惑いながらも、栄三はこの力を使うことを決意ー。

”一番自分好みの子”を自分なりに探してー、
この”萌”を乗っ取ったのだー。

「ーーーやめてー…助けて…!」
皮にされる直前、萌はそう言ったー。

その時に、強く心が痛んだもののー、
それでも、栄三は”俺の新たな人生を手にするんだ”と、
萌を乗っ取り、現在に至るー。

「ーーーー」
栄三には不釣り合いな可愛らしいスマホー…
”萌のスマホ”を手にしながら時計を確認するー。

「あと5分かー」
栄三はそう言葉を口にするー。

”萌”の身体と人生を乗っ取り、
今は”女子高生”として楽しい生活を送っているー。

両親や、萌の姉である美紀(みき)との関係も良好でー、
自分自身の人生とはまるで異なる
”充実した”人生だー。

しかしーーーー…

”今、この時間”が、栄三にとっては苦痛だったー。

栄三の使う”人を皮にする力”には欠点があったー。

それはーー
”ずっと皮を着たままだと”自分自身の身体が腐敗ー
つまり、腐ってしまうのだー。

力を授かった際に、老婆が言っていたー。

”1日に最低30分は自分の身体を外気に触れさせてやらないと、
 あんたの身体が腐ってしまうからねー”

とー。

最初は、”少しぐらい大丈夫だろ”と思って
甘く見ていたものの、
”萌”として家族で旅行に行った際に、
ずっと皮を着たままにしていたところ、”異臭”がして、
慌てて部屋を飛び出して、宿泊先の旅館の外で皮を脱いだところ、
左腕~左肩の部分が”腐って”しまっていたのだー。

幸い、死ぬ…まではいかなかったものの、
今も栄三自身の左腕と左肩のあたりは黒ずんでいて、
もう、元には戻らないー。

それ以降、英二は”絶対に”1日30分は萌の皮を脱ぎながら
生活しているー。

「ーーー5時15分ー。よし」
栄三はスマホで時間を確認すると、満足そうにうなずいてから
”萌”の皮を着るー。

「ふ~~~~~…」
”萌”になった栄三は”皮”をちゃんと着ることができたかどうかを
確かめるかのように、頬を引っ張ったり、
後頭部のあたりを触ると、「これでよし」と
満足そうに微笑むー。

ゆっくりと歩き出す萌ー。

”萌”の人生を奪った栄三はー
”1日30分だけ”自分自身に戻るーーということを
繰り返しながら日々の生活を送っていたー。

「ーーあ、萌、おかえり~!」
家に帰ると、姉の美紀がいつものように声をかけてきたー。

「お姉ちゃんただいま~!」
美紀の方を見ながら微笑む萌ー。

最初ー…
萌を乗っ取った直後は
”こんな綺麗なお姉ちゃんがいるなんて”と、
下心丸出しで姉・美紀のことを見ていたー。

しかし、不思議なもので、萌になりきって
生活を続けていると、
だんだんと、姉・美紀をそういう目で
見ることはできなくなっていったー。

”家族をそういう目で見れない”という気持ちと
同じだろうかー。
いつの間にか、美紀のことを本当に”お姉ちゃん”であるかのように
萌は大切に想い始めていたー。

部屋に戻り、鏡を見つめると、
萌はため息をつくー。

栄三は”自分”が好きじゃないー。
そんな”自分に戻らないといけない”毎日の30分は苦痛だー。

自分の姿も、中身も嫌いー。

がー、萌の皮を着ているときは、
姿も、振る舞いも好きだー。

「ーーあ~~~…今日も”わたし”かわいいなぁ」
鏡で自分の姿を見つめながら萌は嬉しそうに笑うー。

”見た目”が違うだけで、同じ仕草をしていても、
”見え方”が違うー。

”萌”を着ている時に
可愛らしいポーズをすればー、
とてもかわいいー。

けれどー…栄三自身が”同じこと”すれば
気持ち悪いだけだー。

”萌”を着ている時に何かを頑張れば
周囲は褒めてくれるし、
何なら心配してくれたり、色々な反応を示してくれるー。

けれど、栄三が同じことをすれば
”キモい”とか”おっさんが何必死こいてるんだ?”とか
そういう反応が返って来るー。

この世は、無情だー。

「ーーー絶対にバレるわけにはいかないー」
萌は自分の身体を触りながら微笑むー。

「ーーこの最高の身体と人生を手放すわけにはいかないー」
萌はそう言葉を口にすると、改めて
”この生活”を手放してたまるものかと、そんな言葉を口にしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー。

「ーーーおはよ~!」
登校してきた友達が、萌に声をかけて来るー。

「あ!おはよ~!」
今ではすっかり女子高生モードの、”萌を着た栄三”は、
挨拶を交わすと、早速いつものように楽しそうに雑談を始めるー。

”えへへー俺がこんな風にJKに囲まれることになるなんてー
 この子を着るまでは夢にも思わなかったなぁー…

 …って、今は俺もJKかー”

そんなことを思いながらも、
それを一切表情や仕草に出すことなく、
楽しそうに会話を続けていく萌ー。

そんな中、
萌はチラッと窓際にいる男子生徒の方を見つめるー。

彼の名は小久保 太志(こくぼ ふとし)ー。
容姿に恵まれず、友達もいないー。
そんな感じの男子だー。

萌はーー
彼のことを何かと気にかけていたー。

「ー小久保くんー」
”萌”として太志に声をかけると、
太志は照れ臭そうに「あ…船本さんー」と、
そう言葉を口にするー。

太志は、一人でよくマンガを描いているー。

実はー栄三も昔、同じようなことをしていたー。

”誰にも読まれないー・誰にも見せない”
そんな漫画をこっそりと描いていたー。

最初に太志が漫画を描いているのに気づいた時に、
萌になって栄三はかつての自分を重ねて、
太志に声をかけたのだったー。

「ーー新しいのできた?」
萌が笑いながら言うと、
太志は嬉しそうに「で…できましたー」と、そう言葉を口にするー。

「ーあはは、敬語なんかじゃなくていいのにー」
萌はそう言いながら、太志の漫画を読むー。

漫画自体はとても面白く、萌はいつもこれを
読むのを楽しみにしていたー。

「ーーーー」
太志の視線が、萌のスカートや胸の方に向くー。

が、萌はそれに気づいていないのか、
あるいは気付かないふりをしているのか、
漫画を読むのに夢中で、特に反応を示さないー。

「ーーーあははっ!こうなっちゃうんだ~!
 やっぱり面白いなぁ~」

萌は心底楽しそうに笑いながら、太志の描いた漫画を読んでいくー。

やがて、最新話を読み終えると、萌は「はい!ありがとっ!」と、
そう言葉を口にして、それを太志の手に返すー。

太志は、自分の漫画がまさか、
萌のような可愛い子に興味を持ってもらえるとは
夢にも思っていなかったのか、
嬉しそうにニヤニヤすると、
「え…えへ…ま、ま、また、作るからー」と、
それだけ言葉を口にしたー。

”へへー、こんな可愛い子に漫画を読んでもらえたらー
 まぁ、そういう反応になるよなー
 分かるぜ、その気持ちー”

萌の中にいる栄三は心の中でそう言葉を口にすると、
「うん!楽しみ!」と、嬉しそうに笑顔を振りまいて
そのまま座席に戻って行ったー。

今ではすっかり明るい女子高生ー。

元々、栄三は友達がいなかったものの、
本来は暗い性格ではないー。

だが、その容姿や協調性のなさから、
孤立していただけー。

それが、美貌を手に入れて、
今ではすっかり性格も明るくなり、
協調性の無さは時々表に出てしまうものの
”可愛いは正義”なのだろうかー。
何となく、それが許されてしまうような空気の中で過ごしていたー。

「ーーーーえへへーーー…」
漫画を萌に読んでもらった太志は、
ニヤニヤと笑みを浮かべるー。

過去の自分を太志に重ねて、萌の身体で
優しく接している栄三ー。

がーーー…
”太志”は”栄三”ではないー。
過去の自分と共通点はあれどー、
太志は”過去の自分”ではないのだー。

「ーーーーー…えへ」
太志は、友達と楽しそうに話している萌の方を見つめながら、
次第に心の中に膨れ上がる感情を抑えきれなくなりつつあったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

”ーーーー”
放課後ー。

萌はいつも”皮”を脱ぐために使っている場所の一つである
廃工場にやって来るー。

”皮を脱いで30分を過ごす場所”は、複数の候補があるー。
栄三はいつも、”その日の状況によって”
その場所を使い分けているー。

何年か前まで使われていた工場だが、
会社が倒産か何かで、今も手つかずのまま
そのまま放置されているー。

その際に、倒産した会社の社長が自殺しており、
この場所には呪いがあるとか何とかで、
誰も近寄ろうとしない場所になっているー。

がー、そんな状況は
1日30分、”脱ぐ”必要がある萌にとっては
好都合な場所であると言えたー。

「ーーーーふ~~~」
そこにやってきた萌は、いつものように周囲を確認するー。

「ーーーーよし」
萌はそう言葉を口にすると、後頭部に手を掛けるー

ペリッと音がして、
”萌”の頭が垂れ下がりー、
中から栄三が出て来るー。

栄三は不愉快そうにため息をつくと、
萌の皮を全部脱いで、
その場にこっそりと持ち込んでいた折り畳みチェアーに座るー。

「ーーーー」
栄三は、自分自身が嫌いだー。

以前のミスで”腐食”しかけた腕を見つめながら
大きくため息をつくー。

こんなことにならないのであれば
”永遠に”萌の皮を着て、人生の100パーセントを
萌として過ごしたいー。

けれどー
残念ながらそれは出来ない。

萌の皮を着続けていれば自分の身体が腐食してしまうー。
中身が死ねば、当然、”萌”の身体を動かすこともできなくなるだろうし、
萌がどうなるのかは分からないが、
とにかく自分自身の人生はそこで終わってしまうー。

だから、嫌でもこうして1日30分、皮を脱がないといけないー。

”家が一番安全だけど、お姉ちゃんが急に部屋を開けるからなー”
そう思いつつ、栄三は持ち込んだ煙草を吸い始めるー。

萌の皮を着ている時は、”萌の身体”では吸いたくないという気持ちもあって、
栄三が元々好きだった煙草は”皮を脱いでいるとき”にしか吸わないー。

「ーーー」
時計を見つめる栄三ー。

一刻も早く、萌に戻りたいー。
そう思いつつ、ようやく30分が過ぎたのを確認すると、
廃工場内に放置されている灰皿に煙草を捨てて
そのまま、萌の皮を着始めたー。

だがーーーー
その様子をーーーーー

”彼”は見ていたー。

「ーーーーーー」
”萌の皮を脱いで、着る”ーーー
そんな、一連の出来事を全て見てしまった”太志”は、
表情を歪めていたー。

彼はー、萌のことが好きになってしまい、
ストーカー化していたー。

しかし、それに気づいていない栄三は、
まさかここまで尾行されているとは夢にも思わず、
太志に見られている状態で”脱いで”そして、”着て”しまったー

「ーーーなんだ…あれー」
太志は震えながらそう言葉を口にすると、
「すっげぇ…」と、不気味な笑みを浮かべたー。

②へ続く

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コメント

毎日30分、皮を脱がないと中身が腐っちゃう…
そんな制限付きの皮モノデス~!

早速……
良くないことが起きそうな気配ですネ~笑

続きはまた明日デス~!

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皮<過酷な30分>

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