＜憑依＞彼女に憑依しようとする俺を止めないと!③～想い～（完）

”憑依”で彼女の命を奪ってしまったー…

そのことに罪悪感を感じ、自ら命を絶ったはずの彼。

しかし、彼女に憑依する50分前に飛ばされた彼は
なんとか、彼女への憑依を阻止しようと奔走するー。

その果てに待つ結末は…？

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

インターホンを鳴らす幸治ー。

”え……ど、どちらさまですか？”
部屋の中からはすぐに”過去の幸治”の声が聞こえて来たー。

「ーーし、信じられないと思うけど聞いてくれー。
　俺は…未来からやってきた自分自身なんだー」

幸治がそう言うと、”え…？いやいやー…え？？？”と、
混乱する過去の幸治の声が聞こえたー。

すぐに話を始めようとする幸治ー。
がー、過去の幸治は”ちょっと待ってくれるか…？”と、
だけ言葉を口にすると、
玄関から顔を出してしまったー。

「ーーーあ…」
幸治が戸惑うー。

「ーーえ？」
過去の幸治も戸惑うー。

”過去の自分”と顔を合わせてしまったー。
仕方がなく、ダメもとで姫梨への憑依のことを説明するもー…
すぐに周囲が歪み始めてー…

”また”21日16時30分ー…
大学のラウンジに戻されてしまったー。

「ーくそっ…ま、まぁ…次こそはー」
幸治はそう呟くと、
近付いてきた親友の喜平を無視して、
そのまま自分の家にまた向かうー。

今度は、インターホン越しに会話することに
成功すした幸治ー

「ー頼む！姫梨に憑依したら、姫梨は死ぬんだ！
　憑依薬の副作用で！」

幸治が必死にそう叫ぶと、
過去の幸治も”ーそ、それなら…”と、納得してくれた様子だったー。

がー

「ーー！？！？」
幸治は周囲を見渡すー。

空間が歪み始めているー。

「くそっ…！”過去の俺”と会話もダメなのか！」
幸治が舌打ちをするー

”え？？なに？”
過去の幸治がそう言い放ったのを最後にー、

幸治はまた”大学のラウンジ”で目を覚ましたー。

「ーーお、今日は用事があるから早く帰るんじゃなかったのか？」
親友の喜平がそう言いながら近づいてくるー。

「そのセリフ、何度目だよ」
幸治がそう言うと、喜平は「は？」と、首を傾げるー。

”過去の自分”との接触は声であってもダメー。
姫梨に憑依した状態の”過去の自分”との接触は、
身体も声も、姫梨のものだから”許された”のだろうー。
それ以外は、過去に戻されてしまうー。

「ーーなら！」
幸治は、”文章”で過去の自分との連絡を試みるー。

”文字”のやり取りなら大丈夫なはずだー。
しかし、メールやLINEは”同じスマホが2個”になってしまっている状況で
電話同様に上手く機能しないー。

が、幸治はSNSをやっているー。
姫梨に憑依する前の時間に、SNSを眺めた…ような気がするー。
すぐに新規アカウントを作り、”自分”のSNSにメッセージを送る幸治ー。

”頼むー…反応してくれー”
そう思いながらメッセージを送った幸治だったもののー
”過去の自分”にイタズラのメッセージだと判断されたのか”無視”されてしまうー。

”姫梨に憑依しちゃだめだ！”
そんなメッセージを送るも、反応はないー。

「そ、そうだー…俺、知らないアカウントからの
　メッセージは見ないんだったー」

そうこうしているうちに時間が来てしまいー、
”姫梨”は憑依されたー。

「こうなったらー」
幸治は走るー。

姫梨の家にたどり着くと、インターホンを鳴らし、
事情を必死に説明して中へと入るー

姫梨の身体でセクシーなポーズを楽しんでいた過去の幸治は
不満そうに「せっかくの憑依なのにー」と、そう呟くー。

「ーー姫梨から抜けちゃだめだー」
幸治は”姫梨の身体から出ないように”過去の幸治に促したー。

「ーーなんで？未来の俺が言うことが本当なら、
　このあと、姫梨…死んじゃうんだろ？
　だったら一刻も早く憑依から抜けないと、姫梨…まずいんじゃないのか？」

憑依されている姫梨が、男っぽい座り方をしながらそう言葉を口にすると、
「ーいや、それはダメだ」と、幸治は呟くー。

「ー10分ちょっとで”俺”が憑依から抜けたこともあったけど、
　その時も姫梨は死んだー」

幸治が悲しそうに言うと、
憑依されている姫梨は青ざめながら「じ、じゃあ…ど、どうすればいいんだよ！」と
焦った様子で叫ぶー。

「ーーとりあえず、姫梨から抜けないでくれー。
　その間に、どうにか”憑依薬の副作用”を防ぐ方法がないか、
　色々調べて見るー」

幸治はそう言い放つー。
”姫梨に俺が憑依したまま”なら、とりあえず姫梨は死なないのではないかと
そう考えたのだー。

「ーー方法って言っても、どうやってー」
憑依されている姫梨が不満そうに呟くー。

「ーーわ、分からないー。でも、憑依薬の販売者に問い合わせもできるしー、
　とにかくできることは何でもやってみよう」

幸治がそう言い放つー。

時計をチラッと確認する幸治ー。
最初に姫梨が死んだ時間は超えたー。

やはり、憑依している状態ならー

そう思いながら、憑依薬の販売元のサイトを見つめる幸治ー。

がーその時だったー

「ーー悪い　ちょっと鼻血がー」
背後にいた”憑依された姫梨”がそう言葉を口にしたー

「え…？」
幸治が青ざめながら振り返ると、
鼻血を垂らしている姫梨の姿が見えたー。

「ーー姫梨の身体で興奮しちゃったのかなー」
そんな風に苦笑いする姫梨に憑依している過去の幸治ー。

しかし、次の瞬間ー

「ーーあれ…なんか、身体がー…」
姫梨はそう言い放つと同時に、身体中が痙攣し始めて
その場に倒れ込むー

「えっ…ちょっ！？おいっ！」
幸治は、倒れ込んで泡を口から吐き出す姫梨を見つめるー。

姫梨はすぐに動かなくなりー、
死んだ姫梨の身体から”過去の幸治”の霊体が飛び出すー。

「ーそ、そんなー…」
呆然とする幸治ー。

”憑依したまま”でも、姫梨は死ぬー。

憑依から抜け出すと”すぐに”副作用が起きるのは
”憑依された瞬間”と”憑依から抜ける瞬間”に
身体により強い負担がかかるため、”死”が早まるだけー

しかし、憑依した状態のままでも、憑依した際や
されている最中に”負担”は蓄積していて
結局、少し時間が伸びるだけで、姫梨は死ぬー。

「ーーーくっそおおおおおおお！！！」
幸治は怒りの形相で壁を殴りつけるーー。

”過去の自分”と再び合流して、
あえて過去に戻る幸治ー。

なんとかー
何とかしないとー。

親友・喜平のSNSアカウントを借りて、
過去の自分と連絡を取る幸治ー。

がー、憑依前の50分にSNSを眺めた気がするのは
残念ながら気のせいだったようで反応はなかったー

「直接、電話してくれ」
喜平に伝言を頼む幸治ー。

しかしー、”自分”が持つ方の幸治のスマホが反応してしまいー、
この時代のー”過去の幸治”に連絡を取ることはできなかったー

「ーあぁ！くそっ！」

幸治は”俺の持つ方のスマホ”が完全に破壊されれば、
”この時代の俺”のスマホの方に繋がるのでは、と考え
自らスマホを破壊したものの、それもダメだったー。

親友の喜平に事情を説明し、幸治の家にまで行ってもらい、
過去の幸治を説得して貰おうとしたものの
「悪いー、俺、今日は予定があるしー…」と、断られてしまったー。

電話まではやってくれたがー、
やはり”未来から来た”などと半信半疑のようで、
”喜平自身の予定を放り出して、幸治の家まで来てくれる”なんてことまでは
してくれなかったー。

姫梨を連れ出して、ずっと逃げ回るのも試してみたー。

けれどー、
途中で姫梨は「ね、ねぇ…大学にも行かないとだしー…」と言い出してしまい
”ずっと連れ回す”ことはできず、結局憑依されてしまう運命が待っていたー。

姫梨に事情を説明し、一緒に避難する道も選ぼうとしたー。

だがー、未来で起きたことを姫梨に説明すると
「ひ…憑依…？」と、姫梨はショックを受けてしまい、
その間に、結局は過去の幸治に憑依されてしまって死ぬ運命が待っていたー。

過去の自分に速攻で事情を説明し、
空間が歪んで大学のラウンジに戻される前に
”過去の自分”の前からダッシュで避難することも試してみたー。
が、”一度でも過去の自分と対面、あるいは直接会話する”と、
その場を離れても、数分後には空間が歪み、大学のラウンジに戻されることも分かったー。
つまり、”過去の自分との接触”＝”21日16時30分の大学のラウンジに戻される”ということは、
たとえ、戻される前に過去の自分の前から立ち去っても変わらない。

「ーーね、寝ろ！姫梨の身体に負担を掛けないようにすればもしかしたら！」
”姫梨に憑依した自分”に、姫梨の身体のまま寝るように促す幸治ー。

「ーーね、寝る？姫梨の身体でー！？」
姫梨に憑依している過去の幸治が言うー。

「姫梨の身体のまま寝るって変な気分だなぁ」
姫梨が笑いながら呟くと、そのまま寝静まるー。

がー…
寝かせても結果は同じー。
寝ている間に姫梨は急に血を流し始めてー、
痙攣を起こし、そのまま死んでしまったー。

絶対に意味がないと感じるようなるパターンも含めて、
あらゆることを試してみたー。

けれどーーー

何をしてもー、
”姫梨が憑依されてしまって、姫梨が死ぬ”

あるいはー

”過去の自分と接触して、21日16時30分の大学のラウンジに戻される”

それしか、結末はなかったー。

「ーーお、今日は用事があるから早く帰るんじゃなｋー

「言われなくても帰るさ」
幸治は、もう”1000回以上”聞いた親友の喜平の言葉を
途中で遮ると、ゆっくりと歩き出したー。

”大事件を起こせば、過去の自分は憑依を思いとどまるんじゃないか”とか、
”SNS上であえて、”倉木幸治という男子大学生が彼女に憑依しようとしている”と、
　暴露すれば、過去の自分を止められるのではないか”とか、
あらゆる可能性を試したー

でも、ダメだったー。
恐らく、”何をやっても”ダメだー。

絶望して、”諦めようと”したこともあったー。
でも、姫梨が死んで”幸治”が自殺した日になると、空間が歪み
21日16時30分に戻されることが分かったー。
過去の幸治の自殺を止めた場合でも、やはり同じだったー。
諦めることも許されないー。
姫梨を救うこともできないー。

「ーーーー」
終わらない、永遠のループー。

けれどーーー…
”最後の可能性”を、幸治は試そうとしていたー。

本当は試したくなかったー
でもーーーー…

身勝手にも姫梨に憑依して、
その結果、姫梨が死んでしまったー。

姫梨の身体を支配して、
姫梨の声で喋ってー、
姫梨で色々な欲望を満たしてー、
その先に待っていたのは姫梨の死だったー。

そんな結果に絶望して、
自ら命を絶つ道を選んだ幸治ー。

そんな自分がどうして、姫梨に憑依する直前に
タイムスリップしたのかー。

その理由はずっと分からないままだったー。
いや、今も正確な答えは分からない。

けれど、幸治は思うー。

きっとー…
きっと、”こうする”ためだったのだとー。

身勝手な憑依で姫梨の命を奪った自分にできることは、
きっと、こうすることなのだとー。

インターホンを鳴らす幸治ー。

「ーーえーーー…？」
家の中から出て来たのは”過去の幸治”自身ー。

幸治は家の中に入ると、すぐに言い放ったー。

「ーこのあと、俺が姫梨に憑依すると、
　姫梨は憑依された副作用で死ぬんだ！」
幸治が必死にそう叫ぶと、
過去の幸治は「ーーー…そ、それが本当ならー」と、
そう言葉を口にして、憑依をやめようとするー。

がーー
”過去の自分”と対面した以上、
このままであれば、あと2、3分もすれば空間が歪み、
また大学のラウンジに戻されるー。

過去の自分を説得しても、それはなかったことになってしまうー。

しかしーーー

「ーーーーーー」
幸治は、深呼吸してから目を見開いたー

”俺が過去に戻った理由ー”

それはーー

”姫梨を救って、俺が俺自身を裁くためー”

きっと、そうなんだー。

幸治はそう心の中で呟くと、
意を決して隠し持っていたナイフを”過去の自分”の首筋に突き立てたー。

「ーーーえ……　な……なん…で？」
過去の幸治が血を吹き出しながら戸惑うー。

「ーーーごめんー…”俺”ー
　ーーーごめん」

幸治は、何の言い訳もしなかったー。

”過去の自分”と対面してから、21日16時30分に戻されるまでには
数分の時間があるー。
その間に”過去の自分”を殺すー。
そうすればーーー…きっとー。

「ーーー！」
幸治は、自分の手が”薄く”なって行くことに気付くー。

過去の自分が死んだことによって、
”自分”も消えるー。

「ーーーーー」
幸治は、自分の部屋に飾られている
自分と姫梨の写真を見つめるー。

「ーーーーーーーごめん。本当に、ごめんーーー」

事情を知らない姫梨は”急に彼氏が死んだ”ことを悲しむだろうー。

けれどー、それでも、姫梨は死ぬことはないー。

姫梨は、自分なんかよりもずっと強いー。
今は落ち込んでも、きっと前に進んでいけるー。

「ーーー…ーーーー」
幸治は、薄れゆく意識の中、姫梨の幸せだけを祈りながら
そのまま光の雫となってー、消えて行ったー。

・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーー幸治ー」

姫梨は、憑依されなかったー。

時間も、もう、戻らなかったー。

部屋の中で謎の変死を遂げていた彼氏の幸治の死に
姫梨はショックを受けたー。

けれどー…

何故だろうー。
姫梨は、”幸治がわたしを救ってくれた”とー、
そういう気がしてならなかったー。

何故かは分からないー。
きっと、この先も永遠に分からないー。

けれどー
それでも、
死の直前、幸治が願った通りー、
姫梨は幸治の死のショックから立ち直り、
前に進もうとしていたー。

「ーー……わたし、幸治の分も頑張って生きるからねー」
姫梨は、幸治の墓前の前で寂しそうに、
けれども前向きに微笑みながらそう呟くと、
静かに立ち上がって、そのままゆっくりと歩き出したー。

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

憑依をなかったことにして、また二人でハッピーエンド…なんてことには
なりませんでしたが、
最終的に彼女を救うことはできましたネ～！！

もし、皆様が幸治くんのような状況になってしまったら、
どんな方法で解決しようとするのかも、ちょっぴり気になります～笑

お読み下さりありがとうございました～！★！