軽い気持ちで彼女に憑依した彼氏…
しかし、彼女は”憑依薬の副作用”によって
命を落としてしまうー…
絶望する彼…。
しかし、彼は自分自身が彼女に憑依する直前に
タイムスリップしー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・
18:30-
”お、おい…う、嘘だろー!?な、なんでこんなことにー!?”
男は、”霊体”の状態で狼狽えていたー。
たった今まで、”憑依”していた相手である彼女が、
意識を取り戻した直後、突然体調が急変し、
そのまま気絶、泡を吹きながら痙攣しているー。
”ーーー…あ、朱音(あかね)ー!…う、嘘だろー…そ、そんなー”
彼氏の倉木 幸治(くらき ゆきはる)は、戸惑いながら、
そんな言葉を口にするー。
”憑依”ー
数日前、ネットで手に入れた”憑依薬”を使い、
好奇心から朱音に憑依した幸治ー。
朱音への影響を考えて、
”短時間だけ”と自分の中で固く決意して、
憑依したあとに、胸を揉んだり、鏡にキスをしたり、
”わたしは朱音♡”と、可愛らしく自己紹介してみたりー、
そんなお楽しみをして、満足ー
予定通り1時間で朱音の身体から抜けた幸治ー。
しかしー…
幸治が抜けて、意識を取り戻した朱音が
その直後に急変ー、
今、この状況に陥っているー。
朱音の様子がみるみると悪化していくー
幸治はすぐに朱音にもう一度憑依しようとするも、
憑依できずにそのままはじき出されてしまうー
「く、くそっー!」
幸治はすぐに自分の身体に戻るため、
霊体の状態のまま、自分の家に向かい、
自分の身体に戻るー。
そして、10秒もしないうちに家を飛び出すと、
そのまま朱音の家に向かって走ったー。
朱音の部屋のインターホンを鳴らすー。
同じ大学に通う朱音は、自分と同じく一人暮らしー。
同居の家族がいれば、その家族に連絡して、
朱音の様子を確認しに行ってもらうようなことも
できたかもしれないけれどー、
朱音は一人暮らしである以上、幸治自身が
駆け付けるしかないー。
そう思いながら、朱音の無事を祈りながら、
朱音から以前、預かっていた合鍵を使って中に入るとー、
そこにはーーー
「ーーう…嘘だー……どうして、こんなー…」
幸治は、呆然としながらその場で膝を折るー。
朱音は既に、呼吸をしておらずー、
幸治がたどり着いた時には、息を引き取っていたー。
「ーーなんで…どうしてー…」
朱音の亡骸を前に、慌てて救急車を呼ぶ幸春ー。
もう、朱音は生きていないー。
それは明らかだー。
でも、救急車を呼ばずにはいられなかったー。
駆け付けた救急隊員により、その場で死亡が確認されたー。
死因は”多臓器不全”ー。
原因は”不明”とのことだったー。
「ーーーーー」
原因不明の突然死ー。
しかし、幸治には、その原因が分かっているー。
”憑依”だー。
あれしかないー。
あれが引き金になったんだー。
幸治は、数日前、ネットで偶然見かけた”憑依薬”なるものを
購入したー。
別に、悪事に使うつもりではなく、
昔から幸治は好奇心旺盛な性格で、
未知のものや、新しいものには積極的に挑戦するタイプだったー。
それ故に、周囲が見えなくなることもあって、
その点は、彼女の朱音からも、友人の勲(いさお)からも
よく苦言を呈されていたー。
そんな憑依薬を手にした幸治は、
軽い気持ちで朱音に憑依したー。
朱音の身体を傷つけたりはしないことや、
朱音本人が不安に思わないように、憑依は短時間で済ませることなど、
自分自身で決めたルールで1時間だけ憑依することに決めたー。
もちろん、朱音本人に許可を取ったわけではなく、
本人も罪悪感は感じていたものの、
好奇心と欲望に勝つことはできずに、憑依薬を使ってしまったー
「ーーーぁっ…」
朱音に憑依した幸治ー。
朱音が憑依された瞬間に出したうめき声に興奮して、
ドキドキしながらも、
「や…やば…本当に憑依できたー」と、
嬉しそうに朱音自身の手を見つめるー。
自分の口から”朱音の声”が出たことにも
ドキドキを覚えながら、
朱音に憑依した幸治は、その場で色々なことを試していくー。
朱音の胸を揉んだりー、
鏡の前で色々な表情を浮かべたり、
鏡の前で”わたしは朱音”と名乗って見たりー、
鏡の中の朱音とキスをしたりー、
モデルきどりで歩いて見たり、
普段、朱音がしないようなセクシーなポーズを繰り返して見たり、
色々、楽しんだー。
しかし、朱音のことを傷つけるつもりはない幸治は、
そのまま外に出たり、
朱音の身体で胸を触る以上のHなことをしたりー、
そういったことまではせずに、
純粋に”普段見れない朱音の一面”を、
それぞれ楽しんだー。
もちろん、どんなに配慮してようと、
相手の同意を得ていない以上、
これが悪いことだということは幸治も理解しているー。
ただ、”憑依したい”なんて言われれば驚くだろうし、
何も言わずに憑依して”寝落ちしてたんじゃないか?”ということに
した方が、朱音が不安に感じないー、
と、そう考えて”寝落ちしたとしてもおかしくないタイミング”を慎重に
選んだうえで、憑依したー。
ーーーとは言え、朱音本人に確認せずに憑依したのは
自己保身であることも事実ではあるー。
「ーー楽しかったよー朱音ー」
1時間の憑依を終えると、そのまま朱音の身なりを整えて
部屋を片付けー、
そしてー、”寝落ちしたかのような姿勢”を作るー。
「ーこの埋め合わせはー、今度の誕生日プレゼントでー」
と、そう呟く朱音ー。
”買おうと思っていたもの”よりも、本人には言わないけれど、
さらに高額かつ、朱音が喜びそうなものを買うことを決意する幸治ー。
そうして、”憑依”から抜け出したはずだったー。
がーー
「ーーー…あ、あれ…?わたしー?」
幸治が憑依から抜け出して、すぐに意識を取り戻した朱音ー。
不思議そうに周囲をキョロキョロしながら、朱音が立ち上がるー。
幸治も、”朱音が意識を取り戻すまで念のため心配だから見て居よう”と、
霊体のままそこに留まっていて、そんな朱音の様子を見つめていたー。
朱音が無事に意識を取り戻し、
安堵したその時ー
”異変”は起きたー
「ーーあれ…鼻血ー?」
朱音がそんな言葉を口にしたー。
霊体のまま立ち去ろうとしていた幸治が振り返るー。
すると、立ち上がった朱音の足元に血が垂れていたー。
「ーー鼻血なんてー珍しいなぁ…」
朱音がそんなことを呟いて、ティッシュを取りに行こうとしたその時ー、
さらに鼻血が零れ落ちるー。
「ーーえっ…」
鼻血の勢いが普通じゃないぐらいに酷くなり、
朱音は慌てた表情を浮かべるー。
がー、すぐに耳からも血が流れ始めて
「あれ… なにこれ…」と、虚ろな表情で呟いた朱音は
そのままその場に倒れ込んでしまうー。
「ーーえ…あ、朱音…!おいっ!」
幸治は叫ぶー。
しかし、既に朱音に意識はなく、
朱音はピクピクと痙攣しながら、口から泡を噴き出しているー。
そしてーーー
今の状況に至るー。
「ーーーごめんー…俺のせいだー…ごめんー」
幸治は悔しそうに歯ぎしりをするー。
全てが終わりー、
呆然とした表情のまま帰宅しー、
”憑依薬の説明書”に目を通す幸治ー。
そこにはーーー
”ごく稀に、被憑依者の身体が拒絶反応を起こすことがある。
ショック、湿疹、意識喪失、出血などが確認されている。
発症確率は0.1%である”
と、そう書かれていたー。
かなり低い確率かつ、命にまで係わるとは
書かれてはいなかったー。
がー、”副作用がある”と、書かれているのは事実でありー、
タイミング的に、朱音が死亡したのは
”憑依”による副作用であることが明白だったー。
「俺はーーーなんてことをーー」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その数日後ー。
幸治は、”自ら”命を絶とうとしていたー。
”憑依”で彼女を殺してしまったー。
しかし、法律で幸治は裁かれないー。
憑依など、法律はその存在を前提に作られていないからだー。
朱音は”突然死”
幸治は”何の罪にも問われない”
それが、今の法律における、憑依の扱いだー。
しかし、幸治は知っているー。
朱音が死んだのは自分のせいだとー。
例え、法律的に罪にならないとしても、
自分で自分を許すことができなかったー。
「ーーーーーーー」
幸治は、自分自身が最大限苦しみ、
そして、自分自身が最も無様に死ぬであろう方法で
命を絶つことにしたー。
そして選んだのが”首を吊る”という選択肢だったー。
あらゆるものを垂れ流して、最後を迎えるー。
それが、己自身を裁く方法ー。
幸治はそれを実行に移しー、
薄れゆく命の中で思ったー。
”ーー結局これも、俺が罪悪感から逃げたいだけなのかもしれない”
そう、思いながら激しい苦しみに耐えるー。
そしてー…
意識が途切れたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーー!!!!!!!!!!!!!!」
幸治の意識が突然戻るー
「ーーえっ…!?俺…?」
確かに、自ら命を絶ったはずー。
そう思いながら、周囲を見渡すー。
幸治がいたのはー
大学のラウンジー。
「ーーー………じ、地獄ってのはー…
こんな感じなのか?」
一瞬、そんな風に思いながら
周囲をキョロキョロと見つめるとー、
時計が視界に入ったー。
16:30-
「ーーー…???」
幸治は、首を傾げながら
鞄からスマホを取り出すー。
「ーーーーー!?!?」
スマホに表示されているのは”朱音に憑依した日”だったー。
朱音が死んでしまったあと、幸治が自ら命を絶つまでには、
数日間の間があったー。
仮に幸治が首を吊って奇跡的に助かったのであれば
日付が戻っているのはおかしいし、そもそも目覚めるのは
大学ではなく病院のはずー。
やはり、ここは地獄なのだろうかー。
そう思っていると、
「ーーお、今日は用事があるから早く帰るんじゃなかったのか?」と、
幸治の親友である風村 喜平(かざむら きへい)が、声をかけて来たー。
「ーーーえ…あ、いやー」
幸治は戸惑うー。
朱音に憑依した日、確かにこの喜平には”今日は用事があるから早く帰る”と
言ったのを覚えているー
「あ、あのさー…今日って21日?」
幸治が確認すると、喜平は「ははーなんだよ?寝ぼけてるのか?」と笑うー。
「ーーー…ここ、地獄とか天国じゃないよな?」
幸治がさらに確認すると、喜平は「いやいや、俺を勝手に殺すな!」と、笑うー。
「ーーー!!」
幸治は今一度時計を見つめるー。
”じ、時間が戻ったー?”
そう思いつつ、”これは、あれか?走馬灯とか、死んだ後の夢とか?”と、
色々なことを考えながら、
喜平と適当に会話を終えて、朱音に連絡を入れるー。
”ーどうしたの?急に?”
朱音の声を聞いて、幸治は涙が溢れそうになるのを堪えながら
「ーーーごめんー無事でよかった」と、そんな言葉を口にしてしまうー
”えぇ?急にどうしたの?”
笑いながらそう呟く朱音ー。
幸治は、朱音が家にいることを確認すると、
安堵した様子で、そのまま家に向かって歩き出したー。
あの日の17:20に、幸治は朱音に憑依したー。
憑依薬を飲んだ時、確かに時計を見たから覚えているー。
が、こうして時間が戻ったのであればー、
幸治が憑依しなければ、朱音は助かるー。
そう思いつつ、家へとのんびり向かう幸治ー。
何故だかは分からないー。
だが、時間画巻き戻ったのだろうかー。
こんな奇跡、あるのだろうかー。
17:30ー
スマホの表示を見つめる幸治ー。
がー、ふと、あることに気付いたー。
”ーーお前は悪くねぇ”
そんな、LINEのトーク履歴が残っていたー。
「ーーー!?!?!?!?」
幸治は表情を歪めるー。
その相手は親友の喜平ー。
だが、”お前は悪くねぇ”というメッセージは
彼女の朱音が憑依薬のせいで死んだ翌日に喜平が、
幸治を慰めようとして送ってくれたメッセージだー。
「ーーー…なんでこれが残ってる…!?」
幸治はそう思いながら、ふと、イヤな予感を覚えるー。
そして、朱音にもう一度連絡する幸治ー。
”時が戻った”なら、スマホに”今日以降の内容”は残っていないはずだと、
幸治はそう思っていたー。
しかしー…この会話履歴が残っているということはー
”時間が巻き戻ったんじゃなくて、
俺が、過去に飛ばされたー…?”
幸治はハッとするー。
”時間”そのものが巻き戻ったのであれば、
この時間に存在する幸治は一人のはずー。
しかし、朱音が死んでしまった数日後から、幸治が
過去に飛ばされてきたのだとするとーー
”この時間ー…”朱音に憑依する日の俺”も別に存在するかもしれない”
そう思った幸治は、慌てて朱音に電話をするー。
しかし、時間は17:30-
朱音に連絡はつかずー…
そしてーーーー
朱音の家に慌てて駆け付けるとーーー…
「ーーそんな…」
幸治は、膝を折るー。
そうー
朱音は、”この日の幸治”に憑依されて、既に死んでいたー。
前と、同じようにー。
茫然としていると玄関から人が飛び込んで来たー
「ーー…!?」
玄関から飛び込んできたのは、”幸治自身”ー。
”21日”の時点の幸治ー。
命を絶った”29日”からやってきた幸治は
過去の自分との対面に表情を歪めるー
「ーお…お前は誰だ!?」
過去の幸治が驚きの表情を浮かべるー。
幸治は「ーーーー朱音は死んだよー。”俺のせいで”」と
悔しそうに言葉を口にすると、
過去の幸治は表情を歪めながら「な…何を言ってるんだー!?」と、
慌てた様子で、朱音の亡骸を見て泣き叫び始めたー。
「ーーー…」
幸治は、過去の幸治を見つめながら改めて思うー。
軽い気持ちで、朱音に憑依した己を改めて呪うー。
がー、その時だったー
「ーー!?!?!?!?」
突然、空間が歪み始めてーーー…
次の瞬間ー
「ーー!?!?!?!?!?」
幸治が目を覚ますと、そこは大学のラウンジだったー…
21日16時30分ー。
幸治が、朱音に憑依するまで、”後50分”のタイミングー。
「ーーー…ま、またー…?」
幸治が戸惑っていると、
さっきと同じように、親友の喜平が現れて
「ーお、今日は用事があるから早く帰るんじゃなかったのか?」と、
同じ言葉を口にしたー
「ーーーーーー!?!?!?」
幸治は戸惑うー。
また、戻ったー?
これは、いったいー…?
だがー
同時に幸治は決意したー。
朱音に憑依しようとする”俺自身”を止めなくてはいけないー、とー。
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
憑依で彼女を失ってしまった彼氏が、
過去の自分を食い止めようとするお話デス~!
次回以降もぜひ楽しんでくださいネ~!☆!
コメント