”人生のコンティニュー”
あの世の案内人からの提案を受け入れ、
妹に憑依した彼ー。
人生をその場からコンティニューした彼の起こした行動はー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”って、俺が死んだ次の日かー”
妹・雪菜に憑依した照康は、
スマホを見つめながら表情を歪めたー。
死んだのは昨日の夜ー。
幸い、妹のスマホは指紋認証だったため、
スマホのロックを解除することに成功し、
そのままニュースを確認するー。
”美智香は、既に俺の死を知っているだろうかー”
そう思いながら、ニュースの記事を見つめていると、
”建設現場で事故 20代男性死亡”の記事を発見したー。
”照康が死んだ”件だ。
どうやら、既にニュースになっているようだー。
”昨夜20時頃、建設現場から鉄骨が落下する事故が発生した。
落下した鉄骨は通行人の男性に直撃し、
間もなく男性の死亡が確認された。
男性は、近くの会社に勤務する岡崎 照康さんで、
事故当時は、会社からの帰宅中だったという。
警察は、事故当時は強い強風が吹き荒れていて、
強風により、鉄骨が落下したものとみており、
建設中の安全性などに問題はなかったのかどうかも併せて調べを進めている”
そんな記事だったー。
「ーーーー……は~~~~」
雪菜は胡坐をかいたまま思わずため息をつくー。
「ー”俺が死んだニュース”を見るなんて、変な気分だなー」
雪菜の声で、そう呟くと、
今一度そのニュースを見つめるー。
通常、人間は事件や事故に巻き込まれて死亡し、
ニュースになったとしても、
そのニュースを自分自身が読むことはないー。
が、照康は今、”自分が死んだ事故”のニュースを
見つめているー。
「ーーー!」
自分が死んだニュースを見ていた雪菜に憑依した照康は
雪菜のスマホにLINEやメッセージがたくさん届いているのに気づくー。
そのメッセージの大半は実家の両親からー。
照康の死を伝える、そんなメッセージだったー。
両親のメッセージは、とても動揺している様子で、
”俺のせいで、こんなに悲しませてごめん”と、謝罪したくなるような、
そんな様子だったー。
「ーー…返事してないってことはー…
雪菜はもう寝たあとだったんだなー」
そう呟く雪菜ー。
事故が起きたのは昨日の夜ー。
その知らせが両親に届いたのは、事故から少し時間が
経過してからだろうし、
雪菜はもう寝ていたのだろうー。
「ーーー…そういやー……俺…」
ふと、鏡を見つめる雪菜ー。
突然、自分が死んだと告げられて、動揺していたし、
生き返ることに必死で、つい軽い気持ちで妹・雪菜に憑依してしまったー。
あの世の案内人に聞かれた時に、
覚悟したつもりではあったけれどー、
こうして、他人の身体とは言え、生き返って少しひと息つくと、
”雪菜の身体を奪ってしまった罪悪感”に襲われたー。
「ーー…ご、ごめんなー…雪菜ー」
雪菜の身体で、鏡の中の雪菜に謝るー。
「ーーって…許してもらえるわけ、ないかー」
寂しそうにそう呟くと、
そのまま罪悪感に溺れそうになってしまうー。
照康は、妹の雪菜との関係も”良好”だったー。
そんな雪菜に憑依してしまい、雪菜の人生を奪ってしまったー。
それは、言い換えれば”雪菜を殺した”のと同じようなものだー。
けれどー…
それでも、どうしてももう一度、この世界に戻って来たかったー。
戻って来なくてはならなかったー。
「ーー……ーーー」
しばらくの間、激しい罪悪感に襲われていたものの、
やがて、雪菜はもう一度大きくため息をついたー。
”もう、後戻りはできないー”
このまま、雪菜の身体で”雪菜、ごめんー”を繰り返していても、
何も解決しないし、それこそ、身体を奪った意味すらなくなるー。
心を鬼にして、雪菜の身体で立ち上がった照康は、
彼女である美智香の身を案じるー。
「俺のことをもう知ってるかどうかー…」
そう思いながら、雪菜のスマホを操作して、
美智香に連絡を入れようとするー。
彼女の美智香と、妹の雪菜には面識があるー。
雪菜は”美智香お姉ちゃん!”などと懐いていたし、
美智香も、”雪菜ちゃん、可愛くて癒される”などと
言っていて、互いの関係も良好だー。
お互いに連絡先も交換していたはずだし、
雪菜のスマホで連絡すれば、美智香は電話に出てくれるはずだー。
「ーーーーー」
”俺が死んだことを、もう美智香は知ってるかなー…”
そう思いながら、緊張した様子で美智香に電話を掛けるー。
「ーーーーーー」
呼び出し音が、とても長く感じるー。
これほどまでに誰かに電話を掛けることに対して
緊張したことは、今までの人生において、なかったと思うー。
「ーーーーー」
やがてー…
美智香は、電話に出たー。
”ーーもしもしー…”
その声は、明らかに沈んでいたー。
それだけで”俺が死んだことを既に知っている”と、理解したー。
「ーーーあ…」
”俺だけどー”と言おうとして、自分の口から雪菜の声が出ていることを
改めて実感すると、
何故かそれを躊躇ってしまうー。
「ーーー…あ、あの…み、美智香…お姉ちゃんー?」
戸惑ったような感じの声になってしまった雪菜ー。
そんな言葉に、美智香は悲しそうな声で
”ーーー…照康のことー…だよねー”と、そう呟いたー。
「ーーえ…あ、うんー…いや、はいー」
”俺が照康だ”と、そう伝えたかったー
だが、何故かその言葉が口から出ないー。
言いたいけれどー
言えないー。
ここに来て、”言って信じてもらえるのだろうかー”と言う思いや
”美智香は喜んでくれるのか?”という思いが膨らんでくるー。
”人生をコンティニュー”するまでは、そんなこと考える余裕もなくて、
とにかく”生き返りたい”その一心しかなかったー。
けれどー…
”ーー雪菜ちゃんはどうなるの!?”
”雪菜ちゃんに憑依したってどういうことー!?”
”照康ー、そんな人だったんだー”
美智香から”そんな反応”をされるのではないかと、
不安になってしまうー。
そう思ったら、言えなくなってしまったー
「ーーお、お兄ちゃんのこと、も、もう、ご存じですかー?」
つい、”雪菜”として振る舞ってしまう照康ー。
”ーうんー…雪菜ちゃんもー………そのー”
そこまで言葉を口にした美智香は、
そのまま電話の向こうで泣き出してしまい、会話が
続かなくなってしまうー。
”明日結婚するはずだった”彼女ー。
つまり、本当は今日結婚するはずだった彼女が、
そんな風に涙を流してくれているー。
そのことに、雪菜に憑依した照康も涙を流しそうに
なりながら、言葉を続けるー。
「ーーその、ごめんなさいー」
”照康”として、まずは謝罪の言葉を伝えたかったー。
せっかく、美智香を幸せにしてあげられると
そう思っていたのにー、
希望から絶望へと、美智香を突き落としてしまったー。
別に赤信号を渡ったわけでもないし、
車でスピード違反をして爆走したわけでもないし、
避けられない事故だったー。
自分に、非はないと思うー。
でもー、それでも、照康は、雪菜の身体で何度も何度も
謝罪の言葉を口にしたー。
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”女って、色々大変だよなー”
雪菜の身体に憑依して、人生をコンティニューしてから数日、
そんなことを思いながら、
照康は雪菜の身体で”自分の葬式”にやってきていたー。
”まさかー、自分の葬式を見ることになるなんてなー”
そんなことを思いながら、
両親がー、美智香がー、そして友達や会社の同僚まで
涙を流してくれているのを見て、雪菜に憑依している照康は、
”死んでしまった”ことを改めて実感するー。
「岡崎ー…お前はすごいやる気もあったし、物覚えも良かったし、
先輩として、すごくお前に期待してたよー。
お前に不満を感じたこともなかったー
でもなー、岡崎。
俺は今、お前に初めて強い不満を感じてるー。」
会社の先輩・城嶋がそう言葉を口にすると、
「死ぬのーー…早すぎるだろー」と、
目に涙を浮かべながら歯ぎしりをするー。
会社からは、40代独身の社員・久保井や、
同期の社員が、葬式に顔を出してくれていたー。
「ーー”先輩ー…すみません”」
心の中でそう思いながら、雪菜は寂しそうに
”城嶋先輩”のほうを見つめるー。
「ーーーーー」
美智香をはじめ、色々な人たちが”自分の死”を
悲しんでくれているー。
そんな光景を見て、
”自分の死”を照康は深く深く悲しんだー。
自分が死んだことよりもー、
自分が死んでしまったことで、
周囲が悲しんでいることが、とても辛かったー。
「ーーあの…」
ようやく一段落して、会場の外にいた彼女の美智香に声を掛ける雪菜ー。
「ーーーあ…雪菜ちゃんー」
美智香が振り返って寂しそうに微笑むー。
”実は俺、照康なんだー”
と、そう伝えようと思い、声を掛けたー。
けれどー、美智香の反応が怖かったー。
妹の身体をー、いや、人生を奪っておきながら
何て自分勝手なのだろうと思うー。
美智香に”雪菜ちゃんの身体を奪うなんて!”と罵倒されたとしても、
軽蔑されたとしても、それは事実であり、
仕方がないことなのにー、
そう言われてしまうことが、怖かったー。
「ーーーーー…大丈夫、ですかー?」
結局、言いだすことができず、雪菜として
そんな言葉を口にすると、
美智香は悲しそうに微笑みながら
「大丈夫ーー…って言いたいけど、大丈夫なんかじゃないよねー」
と、元気なく呟くー。
「ーーー……ごめんー」
小声でボソッと呟く雪菜ー。
「え?」
美智香は、そんな言葉に不思議そうな表情を浮かべたものの、
それ以上、雪菜は何も言えず、
「ーごめんって、お兄ちゃん、謝ってると思いますー」と、
あくまでも”妹の雪菜”として、そんな言葉を伝えたー。
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それからも、”雪菜”として、
何かと美智香のことを心配し、
美智香と接点を持ち続けたー。
美智香は「わたしのために、そんなに気を遣わなくても大丈夫だよ」
などと言ってくれたものの、
それでも、”雪菜”として、美智香のために出来ることは何でもしよう、と
照康は決意、あくまでも正体を明かさず、
美智香を元気づけようとしたー。
”大学生”である雪菜として、女子大生ライフを送りつつも、
美智香のためになることは何でもする日々を送る
雪菜に憑依した照康ー。
最初は慣れない大学、知らない友人たちに戸惑ったものの、
今ではすっかり雪菜として、女子大生ライフを満喫していて、
だんだんと、おしゃれをする楽しさにも目覚め始めていたー。
そんな、ある日ー。
「ーーーーー…雪菜ちゃんー…
ーーわたしの思い過ごしかもしれないんだけどー…」
美智香の家に”手伝い”と称して上がり込んでいた雪菜に対し、
美智香は少し困惑したような表情で言葉を口にしたー。
「ーーえ…?あ、はいー」
雪菜として、返事をする照康ー。
すると、美智香は信じられない言葉を口にしたー
「ーー照康ー…だったり、しないよねー?」
とー。
「ーー!!!!!!!!」
その言葉に、雪菜は驚きの表情を浮かべたー…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーお願いします…!お願いします…!
そんな死に方なんて、納得できないですー…!
絶対に…!絶対に…!」
その頃ー…
”あの世への案内人”の前では、
一人の女子大生が、土下座をして、
必死に生き返りたいと、何度も何度も言葉を続けて居たー。
「ーーー………全くー。あなたたち兄妹はー」
白いスーツの案内人が呆れ顔で笑うー。
もう、この女子大生は1ヵ月も土下座を続けて居るー。
しかし、まぁ、この子が”ここに来た”のには
自分にも責任があるかもしれないー。
”例外”としてあの男に
人生をコンティニューさせてしまった故の犠牲だー。
流石に少し同情するし、
ここまでしつこくお願いされてしまってはー…
「ー分かりました。ではー…生き返ることをー
人生のコンティニューを許可しましょうー
ただー…
あなたの身体は既に奪われていて、
使えませんー。
”二重憑依”の状態になってしまうと、思わぬ作用が
発生する危険性がありますー
ですのでー
あなたと親しい人間の身体を使って
人生をコンティニューする必要がありますー」
案内人はそう呟くと、
兄・照康に身体を乗っ取られて、
結果、”あの世”に来てしまった妹・雪菜の魂は
「何でも、構いませんー…」と、
怒りの形相でそう言葉を口にしたー。
③へ続く
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コメント
次回が最終回デス!!
ネタバレを口にしてしまいそうなので、
今日の私はお口にチャックしておくのデス~笑
続きはまた明日~!★
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