妹の身体で人生をコンティニューした彼は、
彼女に、そのことを言いだすことができずにいた。
しかしある日、彼女から突然、信じられない言葉を
投げかけられてー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「照康、だったりしないよねー…?」
「ーー!?!?!?」
彼女・美智香からの言葉に、
雪菜に憑依している照康は驚きの表情を浮かべるー。
「ーーーーー
もしも違ったら、
これから結婚する人が死んじゃって、おかしくなっちゃった人の
戯言だと思ってくれればいいんだけどー…」
美智香は、それだけ言うと
言葉を続けたー
「ー照康が死んでから、雪菜ちゃん、すっごくわたしに親切に
してくれたよね?
確かに、元々雪菜ちゃんとわたしは色々お話もしたし、
一緒に買い物に行ったりもしたけど、
でも、何だか照康が死んじゃったあとの雪菜ちゃんは、
”いつもと違う”気がずっとしてたのー。
もちろん、照康が死んじゃって気を遣ってくれてるんだと
最初は思ってたけどー、
でも、時間が経てば経つほど、雪菜ちゃんが
だんだん照康に見えて来たっていうかー…
…振る舞いとか、仕草とか、言葉の中に
照康らしさを感じるというかー、
そんな気がしてー」
そこまで言い終えると、
美智香は雪菜のほうを見つめたー。
「ーーーーー…ふふ…急にごめんねー。
そう見えるのはきっと、
わたしがまだ照康の死を受け入れ切れてなくて、
そんな、哀れな妄想をしちゃってるだけなんだとは思ってるんだけどー
でも、もしかしたらって思ってー」
美智香は涙目で、そこまで言葉を口にしたー。
そしてー。
その続きは、聞かなかったー。
雪菜に憑依している照康は、たまらず、
美智香を抱きしめたー。
妹の身体でこんなことをしちゃいけないような気はしたけれどー、
傍から見れば、女同士で抱き合っているように見えると思うけれどー、
そんなことを考えるよりも、
目の前の美智香を見て、それ以外の行動は思いつかなかったー。
「ーーー…黙っててごめんー…」
雪菜が、美智香を抱きしめながらそう言うと、
美智香は「ほ、本当にー…本当に照康なのー?」と、
驚いた様子で言うー。
自分から”照康じゃないよね?”と言っておきながらも、
心のどこかで”そんな非現実的なこと、絶対にあり得ない”と、
そう思っていた美智香ー。
が、雪菜の口から”黙っててごめん”という言葉を聞いて、
美智香の目からは大粒の涙があふれ出していたー。
「ーーー…信じられないと思うけど、美智香の言う通りー…
俺、照康なんだー」
と、雪菜の身体でそう言葉を口にすると、
美智香は震えながら「照康ー」と、嬉しそうに微笑んだー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
事情を隠さずに、全て説明する雪菜ー。
「ーー雪菜の身体を奪っちゃったことは
本当に、申し訳ないと思ってるしー、
正直、死んだあとはそこまで頭が回らなかったー…。
だって、急に変な白い空間で、変な白いスーツの人が出て来て、
”あなたは死にました”なんて言われたらー…誰だってー」
雪菜がそう言うと、
美智香は複雑そうな表情を浮かべながらも
「うんーー…確かにびっくりしちゃうよねー」と、
そんな言葉を口にしたー。
「ーー…」
やはり、美智香は”妹のように可愛がっていた”雪菜の身体を
照康が奪ったことには少し思う所がある様子だったー。
しかしー
「ーーーでも…わたしのことをそんなに考えてくれてー
こんな風に会いに来てくれて、ありがとうー…」
美智香は、そう言葉を口にしたー。
雪菜に憑依した照康が危惧したような、
”雪菜ちゃんの身体を奪うなんてひどい!”と、嫌われるような
展開にはならなかったのだー。
「ーーー……でも…」
美智香は少し間を置いてから、雪菜のほうを見つめると、
「ーーでも、雪菜ちゃんにはちゃんと謝らないとダメだよ」
と、少しお姉ちゃん口調になって言葉を続けるー。
”怒っている”という感じでも
”失望している”という感じでもなく、
諭すような雰囲気だー。
「ーーあぁ…もちろんー」
雪菜はそう頷くー。
自分は、いつまで”この身体”にいることができるのかー、
雪菜の意識は今、どこにいるのかー、
いつか謝る機会が訪れるのか、それは分からないー。
けれど、照康は”死後の世界”を体験したー。
それはつまり、人間は”死んだらおわり”ではないということを
示しているー。
で、あれば、この先ずっと雪菜の身体で生きて行くことになったとしても、
死んだ後に、雪菜に謝る機会は必ず訪れるはずだー。
「ーー…わたしも、一緒に雪菜ちゃんに謝るからー
だから、謝れる時が来たら、ちゃんとしっかり謝ろうねー」
美智香のそんな言葉に、
雪菜の身体で頷く照康ー。
久しぶりの再会を喜びー、
お互い、1か月ちょっとの期間の辛い思いを吐き出しー、
久しぶりのキスもしたー。
キスが終わると、美智香は少し恥ずかしそうに
「な、何だか女の子同士って恥ずかしいねー」と、笑うと、
雪菜は「ご、ごめんー」と、照れくさそうに目を逸らしたー。
「ーでも、ごめんなー…
そういえば、雪菜の身体じゃ、美智香と結婚することは
できないけどー」
雪菜がそう言うと、美智香は「ううんー」と、首を横に振るー。
「照康と一緒にいられれば、
結婚してる・してないは問題じゃないし、気にしないで」
美智香はそう言いながら、キッチンの方に向かうー。
「ーあ、そうだ。お腹空いたでしょ?
何か食べて行かない?」
そんな申し出に、雪菜は「あ、そういえばー…そうだなー」と頷くー。
本来であれば、結婚式を終え、入籍した後に
お互い、準備が整い次第、同棲を始める予定だった。
が、雪菜は今”大学生”ー。
なかなかそういうわけにもいかないー。
そんなことを考えながら、雪菜は、
心底、嬉しそうな表情を浮かべたー。
まさか、美智香の方から”気づいてくれる”なんて
夢にも思わなかったー。
これからー、どうなるかは分からないけれどー、
人生をコンティニューさせてくれたあの白いスーツの男にも
感謝しなくてはならないー
”ーーーーー”
美智香は、簡単なご飯を用意しつつ、
少しだけ寂しそうな表情を浮かべたー。
照康の気持ちは分かったー。
再会できたことも、本当にうれしいー
けれど、照康の妹である雪菜の身体を乗っ取ってー…というところは
引っかかっていたー。
照康を責める気持ちは微塵もないー。
ただ、雪菜が可哀想という気持ちや、
申し訳ないという気持ちが、美智香の中で駆け巡っていたー。
”ーーー…雪菜ちゃんー…”
美智香は、心の中でそんな言葉を呟くー。
がーーー
その時だったー
「ーーーーーーひっ!?」
ビクッと震える美智香ー。
「ーーーー…」
途端に、美智香の表情から、憂うような雰囲気が消えるー。
「ーーーー…お兄ちゃんー…」
ボソッと呟く美智香ー。
居間の方にいる”雪菜に憑依した照康”のほうをチラッと確認した
美智香はーー
いいや、”雪菜に憑依された美智香”は、
「ーーひどいー…許さないー」と、静かに言葉を口にしたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
少し前ー。
”あの世の案内人”から、
”人生のコンティニュー”を提案された雪菜は
兄・照康の時と同じように
”憑依先”として相手から雪菜に対する好感度の高い順に、
三人の顔写真を見せられていたー。
その三人は、
雪菜の大学の親友である女子生徒ー、
母親ー、
そして、雪菜の兄・照康の彼女のである美智香の三人だったー。
兄の照康は既に”死亡”しているため候補としては表示されず、
父親とは良好な間柄であるものの、
候補に挙がった三人の方がさらに”好感度”が高かったため
この三人が表示されたー。
「ーーーー」
それを見た雪菜は呟くー。
「ー美智香お姉ちゃんでー」
とー。
「ーーーお兄さんの彼女さんで、よろしいですか?」
案内人は言うー。
「ーーーはい」
雪菜のそんな言葉に、案内人は、
「ーお兄さんと結婚でもするおつもりですか?」と、
少しだけ冗談めいた口調で言うー。
しかしー、雪菜は
「そんなことするわけないー」と、
険しい表情で答えるー。
「では、何をー?」
案内人は、そう言葉をすると、
雪菜は答えたー
「ーずっとお兄ちゃんと上手くやって来れたと思ってたのにー
わたしは、裏切られたからー…!」
悲しそうに、涙を流しながら雪菜はそう言い放つー。
「ーーそれにーーー」
その言葉に、案内人は少しだけ表情を曇らせながら言うー。
「ーー先ほども説明した通り、”人生をコンティニュー”するというのは、
本来、禁断の選択肢ー…
あなたは次、ここに来るとき”上”ではなく”下”ー
つまり、地獄に落ちることになりますー。
そして、”コンティニューした人生”で罪を犯すということは、
地獄の中でも、より過酷な地獄ー…
”炎獄”に飛ばされますー。
その、覚悟は出来ていますか?
永遠の苦しみよりもさらに深い、悪夢のような苦しみを味わい続ける、覚悟はー」
案内人はそこまで言うと、
「ー今ならまだ、取り消しできますー。
雪菜さん、あなたの行先は”上”になっていますー
上に行けば、”また次の人生”を始めることもできますし、
次の人生を始めず、満足するまで、のんびりと休むこともできますー」
と、そんな言葉を付け加えたー。
「ーーーー…必要ない」
”地獄”に行けば、もう”次の人生”を始めることもできないー。
それでも、そうだとしてもー…
「ーわたしは、お兄ちゃんが許せないー…!」
雪菜は悔しそうにそれだけ言うと、
案内人は少しだけため息をついてから、言葉を続けたー。
「ー…そこまで仰るのであれば、分かりましたー。
もう、私に止めることはできません」
案内人はそう呟くと、
雪菜の”人生コンティニュー”を許可したー。
兄・照康の彼女である美智香に対する憑依をー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーー」
たった今、彼女の美智香が憑依されてしまったことを
知らず、照康は雪菜の身体で、穏やかな表情を浮かべていたー。
”美智香に、雪菜の身体にいることを信じてもらうことができたー”
その、喜びを噛みしめながらー。
「ーーーーー」
そんな雪菜の前に、美智香が戻って来るー。
「ーーー…」
美智香は、雪菜のほうを冷たい目で睨みつけているー。
「ーーー…ん? あ、ごめんー。
俺も手伝うよー」
雪菜に憑依している照康は、
”美智香一人に準備を任せてしまって申し訳ない”と
思いながら立ち上がるー。
がー、
その時だったー。
「ーーえっ…?」
雪菜は表情を歪めて、”信じられない”と言う様子で、
美智香を見つめるー。
「ーーーえ…?美智香…?」
自分に包丁が刺さっていることを確認した雪菜は、
震えるー。
そんな、視線を受け止めながら、
”雪菜に憑依された美智香”は、涙を流すー。
「ー酷いよ、お兄ちゃんー。
わたしの身体を奪うなんてー」
そう、言葉を口にしながらー。
「ーーーえ… え……? ゆ、雪菜ー?」
雪菜に憑依している照康は、驚いた様子で美智香を見つめるー。
「そうだよ。わたしだよーお兄ちゃんー。
お兄ちゃんと同じように、”人生”コンティニューしたの。
美智香お姉ちゃんの身体でー」
美智香の言葉に、雪菜に憑依している照康はその場に倒れ込むー。
「ーーー勝手に身体を奪われて、人生を奪われてー、
それなのに、お兄ちゃんも、美智香お姉ちゃんもー、
二人で勝手に幸せそうにしてるー。
酷いよー。
信じてたお兄ちゃんに裏切られて、いきなり天国みたいなところで
目を覚ましたわたしの気持ち、わかるー?」
憑依された美智香の言葉に、雪菜に憑依している照康は震えるー
「ーーま、待ってくれー…じ、じゃあ、美智香はー…?
そ、それにー……ゆ、雪菜ー
コンティニューしたってことはー…!」
照康は震えたー。
”人生をコンティニュー”すれば、代償として地獄行きになるー。
と、いうことは雪菜はーー
「ーゆ、雪菜ー…なんてことを…!
ごめんーーー 俺のせいでー」
雪菜の身体で泣きながらそう叫ぶ照康ー。
「ーーーもういいよー。さよなら」
憑依された美智香は、悲しそうにそれだけ呟くと、
”奪われた自分の身体”の息の根を止めたー。
「ーーーーー」
動かなくなった”奪われた自分の身体”を見つめながら
美智香に憑依した雪菜は一人、涙をこぼすと、包丁を再び手にするー。
「ーーーー…お姉ちゃんのことも、信じてたのにー。」
”美智香お姉ちゃん”に懐いていた雪菜からすればー、
”照康が雪菜に憑依している”と知った時の美智香の反応にも
大きなショックを受けたー。
”わたしの身体が奪われているのに、平気そうにしている”ということに、
強く、強くショックを受けたー。
実際には、美智香は”雪菜ちゃんが憑依されてしまった”ことには
強く、複雑な感情を抱いていたものの、
照康に気を遣って、あまりそれを口には出さずにいたー。
それが、雪菜の誤解を招いてしまったー
「ーーお姉ちゃんも、許せないー」
美智香の身体で、雪菜はそう呟くと、自分に包丁を突き立てて、
悔しそうに涙を流したー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”ーーー最悪の結末になってしまいましたか”
案内人は、その様子を見つめながら呟くー。
照康と、雪菜は”人生をコンティニュー”したことで地獄行きー、
美智香は”上”には行けるものの、結局、
本来死ぬはずではなかったタイミングで死んでしまったー。
照康の”彼女を悲しませたくない”という思いが、
逆に彼女の死を何十年も早め、さらに妹の雪菜の人生も終わらせて
地獄行きにしてしまったー。
「ーーー…人生のコンティニュー…
やはり、あまり例外を認めるべきではありませんねー…」
案内人は、自分が照康にコンティニューの許可を出したことが
この結果を招いたことに少し責任を感じながら、
それ以降は、どんなにお願いされても”許可”を出すことは、なかったのだというー。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
最終回でした~!
残された家族も、余計に悲しむ結果になり、
最悪の結末になってしまいましたネ~…!
最初から悪意を持っている登場人物はいなかっただけに、
何か少しでも違えば、良い方向に転がったかもしれないのデス…!
お読み下さりありがとうございました~!
コメント
誰も救われない最悪のバッドエンドですね。
それにしても、妹に兄が憑依するタイプの話はこういうダークな結末の物が多いのは気のせいですかね?
あんまりハッピーエンドの物はなかったような気がします。
コメントありがとうございます~!★
今回は最悪のパターンになってしまいましたネ~!
特に意識はしていませんが、確かに兄⇒妹は
ダークが多いような気も…★笑
いつも、死後の世界がある系のお話は
意外とハッピー気味なことが多いので、
今回はそれをあえてバッドにすることは意識してました~★!