もしも人生を”その場から”
コンティニューすることができたのならー?
これは、不慮の事故で命を落とした男が
”他人の身体”で人生をコンティニューする物語ー。
・・・・・・・・・・・・・・・・
「♪~~~」
彼はご機嫌だったー。
岡崎 照康(おかざき てるやす)は、
社会人2年目のサラリーマン。
入社当初の”不安な日々”も、今は遠い過去のことー。
今ではすっかり会社での仕事にも慣れて、
順調な生活を送っているー。
幸いー…
就職先の会社はブラック企業ではなく、
プライベートの時間も確保することが出来ているー。
その上、元々照康自身、興味を持っていた分野の
業種に就職したため仕事自体もそれなりに楽しいー。
人生、仕事ばかりになってしまうのはよくないとは思うけれどー、
どうせ、働かないといけないのであれば
”仕事をしている時間”を楽しむことができる、というのは
良いことだと思うー。
そして、人間関係にも恵まれ、
上司・先輩・同僚ー、いずれにも”嫌な感じの人”はいない、
最高の職場だったー。
「ーーそういや、明日だったっけ?」
職場の先輩・城嶋(じょうしま)にそう声を掛けられた
照康は、照れくさそうに「あ、はいー!」と、そう答えるー。
「ーーははは、
一生に一度しかない機会かもしれないしー、
楽しんでこいよ」
城嶋先輩の言葉に、照康は「ありがとうございますー」と、
そう頭を下げると、
「ーすみませんー忙しい時期と重なってしまってー」
と、申し訳なさそうに言葉を口にしたー。
”忙しい時期ー”
元々、照康は明日からの有給を、”仕事が比較的暇になるタイミング”を
選んだつもりだったものの、
社員が一人急病でしばらく休みになってしまったことと、
風邪が流行っているようで、数名が体調不良で休んでいることなどから、
少し人員不足気味になっていたー。
その状況で自分だけ”幸せいっぱいのイベント”のために休むー、
ということに照康は少し気が引けていたー。
職場の人たちが、部長も含め、良い人ばかりだから尚更だー。
がー、
近くにいた別の男性社員・久保井(くぼい)が笑いながら口を挟むー
「僕みたいに、人生、そのイベント1回もない人間もいるんだからー
そんなこと気にするなって!
職場のことは、僕たちに任せておけばいいからさー」
久保井の言葉に、
照康は「久保井さんー」と、嬉しそうに言葉を口にすると、
「ありがとうございますー」と、今一度頭を下げたー。
明日はー
大学時代に出会った彼女・美智香(みちか)との結婚式ー…
そして、同時に入籍する予定の日だー。
それを、職場の人間は祝福してくれているー。
「ははは、久保井さんだって、まだまだ分かりませんよ?」
おしゃべりな城嶋先輩が笑いながら、久保井のほうを向くと、
「ー僕は40代後半の恋愛経験なし!ついでに童貞だぞー?
僕と付き合いたい子がいるなら紹介してくれよー、城嶋くんー」と、
笑いながら久保井が言うー。
彼は”恋愛経験ナシ”を自分からネタにして笑いを誘ってるような
タイプの男性社員で、本人は心の底から全く気にしていないため、
本人も、周囲もよくそれをネタにしているー。
「ーはっはっは、画面の向こうの子で良ければ紹介しますよ?」
城嶋先輩の言葉に、久保井は「ーほ~ぅ、それもいいかもなぁ~」と、
冗談めいた口調で笑うー。
そんな二人を見ながら、照康は笑うと
「二人とも、本当にありがとうございますー」と、そう頭を下げたー。
「じゃあ、明日、朝にそっちに行くよー」
会社から出て、照康が”今日まで”は、彼女の美智香と
電話で話すー。
明日からは”彼女”ではなく”妻”になるー。
そのため、今日が”美智香の彼氏”としての最後の1日になるー。
”うんー。ありがとう!
でも、ドキドキするなぁ…”
普段は真面目で穏やかな感じの美智香ー。
ただ、緊張すると急に爆弾発言をしたり、変な行動をしたりする、
不思議な子だー。
そんな美智香の言葉に、
照康は「ははー、いきなりハプニング起こしちゃダメだぞ?」と、
笑いながら言うと、
美智香は”も~!大丈夫だってば”と、そんな言葉を返して来たー。
「ーじゃあ、また明日」
しばらく雑談をした後に、電話を終えると、
そのままゆっくりと道を歩き出すー。
”今日は風が強いなー”
そんな風に思いながら、照康は家への道を目指すー。
幸せな人生ー。
それは、この先も続くはずだったー。
だがーー
”それ”は、突然訪れたー。
「ーーーー…!」
照康が、気付いた時には、もう手遅れだったー。
何を思う暇も、何も考える暇もなかったー。
走馬灯なんて、なかったー。
人間の死は、あまりにも一瞬で、
あまりにもあっけないー。
強風で、建設中だった建物から、突然鉄骨が落下ー、
それが、もう照康の目前に迫っていたー。
”あ”
最後に思ったことは、本当にそれだけだったー。
怖いとも、死にたくないとも、家族のことも、彼女のことも、
何も浮かべる時間はなかったのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーー!!!」
気付けば、照康は”真っ白な部屋”の中にいたー。
いや、部屋ではないのかもしれないー。
照康は「えっ!?」と、思いながら
自分の身体を確認するー。
だが、どこも怪我をしている様子はなく、
安堵するー。
てっきり、落下してきた鉄骨にぶつかって大けがをしたのかとー…
そんな風に思っていると、
背後から「ーお疲れ様でした」と、そんな声が聞こえたー。
驚いて振り返る照康ー。
そこには、白いスーツ姿の優しそうな雰囲気の男が立っていたー。
「ーど、どうもー…
あの、ここはー?」
照康が、とりあえず礼儀正しく返事をすると、
スーツの男は言ったー。
「ここはー、そうですね。あの世ですー。」
とー。
「ーーは?」
照康が首を傾げるー。
「ーあなたは先ほど、死にましたー。
工事現場からの落下物で頭部を強打ー。
ほぼ、即死でした」
スーツの男は、そう説明すると、手を青く光らせながら
何もない空間に”立体映像”を表示させたー。
鉄骨が照康に直撃するー。
照康が血を流してその場に倒れ込み、
痙攣ー、すぐに通行人が駆け付けて救急車が駆け付けるもー、
その場で死亡が確認されるー。
そんな、映像だったー。
「ーはは、冗談きついですよー。
俺はちゃんと、ここにー」
照康がそう言うと、
スーツの男は「ええ。死後はみんな、こうして魂がここに来るのです」と、
そう言い放ったー。
「ーーー…」
呆然とする照康ー。
だが、次の瞬間ー
”自分が死んだ”という現実を受け止めざるを得なくなり、叫んだー
「ま、ま、待ってくれ!俺は今、死ぬわけにはいかないんです!」
気付いた時には、そう叫んでいたー。
「ーーお、俺、明日が結婚式でー…
そ、それにまだやりたいことがたくさんー!」
涙目でそう叫ぶ照康ー。
しかし、スーツ姿の男は首を横に振ったー。
「ー”死にたくない時に死んだ人”は、たくさんいますよー。
あなたよりも、もっと、苦しいタイミングで死んだ人間も、ねー」
とー。
「ー人間は”死にたくない”時に死ぬ人間の方が多いんです。統計上ね」
白いスーツの男はそれだけ言うと、
「さぁ、あなたは”上”に上がれますから、ご案内します」と、
長い階段のほうを指さすー。
”上”とは天国のことだろうかー。
それでも、照康は「お願いします!もう一度、もう一度人生をー!」と、
そう叫ぶと、
白いスーツの男は笑ったー。
「大丈夫です。”上”に行けば、そこでしばらく休むこともできますし、
”次の人生”を始めることもできますー
まぁ、次の人生を始めれば、今世の記憶は消えますが」
そんな説明をする男ー。
だが、照康は”照康として生き返りたい”と、必死に叫ぶー。
”美智香”には家族がいないー。
美智香の家族は、美智香が中学生の時に事故死しており、
照康までいなくなってしまったらー、
美智香はきっと、とても悲しむと思うー
何も伝えないまま、照康がこのまま”事故で即死”という
結末を迎えたらー…
美智香はー。
そう思った照康は、必死に必死にお願いを続けるー。
「ーー岡崎さんー落ち着いて。
気持ちは分かります。
ですがー、”死”は誰にでも訪れるものー。
受け入れて、前に進むしかありません」
白いスーツの案内人は、そう言い放つと、
そのまま照康のほうを見つめるー。
こういう人間は、これまでにも何人も見て来たー。
”例外”はないー。
だが、照康は”上”に行く人間ー。
”下”に落ちる人間ー
つまり、地獄に落ちる人間には、強制的に地獄に行ってもらうが、
”上”…天国に行く人間に対しては、そういう力づくなことはしないー。
「ーーまぁ、気持ちの整理をつける時間も必要でしょうー。
私は待ちますー」
それだけ言うと、白いスーツの男は謎の立体画面のようなものを表示して、
何か事務作業のようなことを始めたー
「お願いしますー…お願いしますー」
それでも、お願いを続ける照康ー。
”生きている世界”での1日ー、2日、3日ー、
どんなに時間が経過しても、照康はお願いし続けたー。
そしてー、”現世”であれば、半月の時間が経過してもなお、
照康はお願いを続けて居たー。
「ーーーーー…(ここまでとはー)」
案内人は、”ここまで必死にお願いを続ける人間”を始めて見たー。
そんな照康の熱意に負けたのか、大きくため息をつくと、
「ーー”人生のコンティニュー”…それは、不可能ではありません」
と、そう言葉を口にするー。
「ーーえ…」
涙目の照康が顔を上げると、
案内人は言葉を続けるー。
「ー生まれ変わるのではなく、あなたの記憶を保ったまま、
あなたが死んだ時点から人生を再開できるー。
その方法は、確かにあるにはあります。
ここと、現世では時間の流れが違います。
今、あなたがその方法を使えば、あなたは死んだ直後に戻り、
そうー、言わば”人生のコンティニュー”をすることができます」
案内人の言葉に、希望に満ちた表情を浮かべる照康ー。
「そ、その方法はー!?」
照康が言うと、
案内人は「”憑依”です」と、そう答えたー。
「ひ、憑依!?幽霊が、人間の身体に入るみたいなー、アレですか?」
照康が食いつくようにそう言うと、
案内人は頷いたー
「ーあ、ありがとうございますー。ありがとうございますー」
照康はそんな感謝の言葉を何度も何度も繰り返す。
しかしー、”案内人”は「ただし」と、言葉を続けるー。
「ーあなたの身体は既に”死亡”していて、使えませんー。
死んだ身体に憑依しても、身体は動かないー」
案内人の言葉に、照康の表情から笑顔が消えるー。
「よって、あなたは”他人”の身体に憑依して人生をコンティニュー
することになりますー。
生まれ変わりとは違い”記憶”は失いませんが、
あなたの身体のまま、生き返ることはできないー」
案内人がそう言うと、照康は少し複雑そうな表情を浮かべてから、
「ーー…わ、分かりましたー…それでも!」と、叫ぶー。
案内人はその言葉に頷くと、
「では、こちらへー」と、別の空間に照康共々ワープするー。
そこには、不気味な色に輝くパソコンのようなものが
置かれていたー。
その画面に、案内人は”三人”の写真を表示するー。
一人は、彼女の美智香ー、
もう一人は、別の場所で一人暮らしをしている現在大学生の妹・雪菜(ゆきな)ー。
そして、最後の一人は現在介護中の祖母・伊沙子(いさこ)
その三人だー。
「これはー…?」
照康が困惑しながら確認すると、
案内人は言ったー。
「あなたが人生をコンティニューする身体ー
憑依対象の三人ですー。
”憑依”をするには、相手の好感度が高い必要がありますー。
好感度が低い相手に憑依すれば、拒絶反応が起こり、
最悪、憑依した側は拒絶反応により完全に消滅、
肉体も腐敗するという事故が起こります。
そのため、あなたに対する好感度が高い順に三人、候補を選定しました」
案内人の言葉に、画面を再び見つめる照康ー。
彼女の美智香が一番上に表示されていることが、何となく嬉しかったー。
だがー、美智香に憑依してしまっては、そもそもの目的を果たせないー。
それに、”おばあちゃん”の伊沙子は、もう病院で動くことのできない状態のはずだー。
そうなると、残るは妹の雪菜しかいないー。
しかしー
「ーーゆ、雪菜はどうなんですかー?」
照康は、まさか”自分の大切な人”に憑依することになるとは思っておらず、
困惑の表情を浮かべるー。
「あなたに意識と身体を奪われて、眠りにつきますー
あなたは他人の人生を奪い、”コンティニュー”することになるー。」
案内人はそこまで言うと、
さらに言葉を続けるー。
「ーそれとー、”コンティニュー”は禁断の選択ですー
それをすれば、次にあなたがここに来るときには”下”に行くことになります。
他人の人生を奪い、下に行く覚悟ー。
それは、できていますか?
今ならまだ、引き返すこともできますよ?」
白いスーツの案内人のそんな言葉に、
照康は表情を歪めるー。
”妹の人生を奪うー”
”次にここに来た時に”下”ー、つまり地獄に行く”
そんな2つの決断を迫られた照康ー。
がー、照康は決断したー
「ーーー行きます」
とー。
案内人は、そんな言葉に静かに微笑んだー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーー!!!」
気がついた時には妹の雪菜になっていたー
日付は”死んだ翌日”ー
「ーー…ほ、ホントに雪菜になってるー…」
驚いた様子で鏡を見つめる雪菜の姿が、鏡に映っているー
「ーーー…い…意外とかわいいなー…」
妹のことを”そういう目”で見たことはなかったが
改めて自分が雪菜になってみると、なんだかドキドキするー。
そんなことを思いながらも、
雪菜に憑依し、”人生をコンティニュー”した照康は、早速行動を始めるのだったー…
②へ続く
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コメント
死んだ人間が、”憑依”で人生をコンティニューするお話デス~!
今日は、憑依するところまでが中心でした~!
前に書いた”強くてニューゲーム”とは全然違うお話になるので、
楽しんでくださいネ~!★
続きはまた明日デス~!
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