”幼馴染の別人格”から、
執拗ないじめを受ける彼ー。
しかし、彼女を傷つけることは出来ず、
彼の耐える日々は続くー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーー全く、ドジだねぇ…」
克樹の母親が呆れ顔でそう呟くー
「ーご、ごめんなさいー…」
克樹が”スマホを割ってしまった”ことを、親に謝罪するー。
「ーーすぐには買い替えもできないし、しばらくはそのまま我慢するか、
修理に出すかするしかないね」
母親の言葉に、克樹は申し訳なさそうにしながら
自分の部屋へと戻っていくー。
”「あ、ごめ~ん、手が滑っちゃったぁ!
梨々花ってばうっかりさん」”
スマホの画面を割ったのは、
”北森 梨々花”だー。
いや、性格には梨々花の中に潜む、もう一人の梨々花ー。
けれどー、
それを言うことはできないー。
それを言えばーーーー
「ーー昨日、うっかり落としちゃってー」
翌日ー
ヒビ割れたスマホを手に、友達に”それどうしたんだよ?”と言われた克樹は
そんな風に答えていたー。
”北森さんに割られた”と言えば、
梨々花が悪者にされてしまうー。
人のスマホを床にたたきつける、などという行為は
最悪の場合、停学などの処分もあり得ることだー。
だから、言えないー。
”北森 梨々花”が、二重人格だということは、
本人すら気付いていないし、知るものは少ないー。
仮に説明しても、周囲が信じてくれるとは限らないし、
何よりも、もう一人の梨々花ー”黒・梨々花”が、
何をするかも分からないー。
克樹が騒げば、”わざと”梨々花に罪を被せるようなことも
するかもしれないー。
それ故に”僕がドジだから割っちゃったんだ”という風を
装うしかなかったー
「ーーー…ねぇ…それー」
昼休みー。
梨々花が、心配そうに近付いてくるー。
「ーー…え?あぁ、僕ってば、ドジだよねー」
克樹が自虐的にそう笑うと、
梨々花は「ーーやられたのー?」と、心配そうに言うー。
「い、いやいやー、僕がドジだからー」
克樹は咄嗟に誤魔化そうとするも、
誤魔化しきれずに、梨々花に見破られてしまうー。
「ひどいー…こんなことまでするなんてー」
梨々花が心底悔しそうに涙目で、克樹のスマホを見つめると、
「ー誰?クラスの子?それとも他のクラスの子ー?」
と、”誰にいじめられているのか”を聞いてくるー。
「ーーーそれはーー…」
克樹は口を閉ざすー。
真面目で優しい梨々花に、”事実”を伝えたらー、
梨々花は壊れてしまうかもしれないー。
原因は分からないが、そういう状況にある、ということは
何らかのトラウマや、そうせざるを得なかった”引き金”となった
出来事があったのかもしれないー。
そんな梨々花に”北森さんのもう一つの人格がー”などとは、言えないー。
「ーーどんなに怖い子が相手でも、わたしも力になるからー」
梨々花のそんな言葉に、
”自分のことを”梨々花”と言いながら嫌がらせをしてくるあの悪魔”を
思い出しながら克樹は首を横に振るー
「ーー北森さんを、巻き込むことはできないよー」
とー。
「ーーーー」
寂しそうな表情を浮かべる梨々花ー
「ーーーわたしじゃ、頼りないー?」
梨々花のそんな言葉に、
克樹は「ち、違う違うー。そういうことじゃないよーでもー」と、
戸惑いの言葉を口にすると、
梨々花は「ーー…言えない理由があるの?」と、心配そうに尋ねて来るー。
「ーーー……北森さんが巻き込まれちゃうとーーーダメだからー」
克樹は、”言えない”けれど、梨々花を守るためだと、そんな意味で
そう言葉を口にすると、梨々花は
複雑そうな表情を浮かべながらも「ーー…ホントに無理だと感じたらー」
と、言葉を口にするー。
「ホントに無理だと感じたらー、わたしに相談してねー…」
梨々花の言葉に、克樹は「うんーごめんー」と、
梨々花の配慮に感謝しながら、そう言葉を口にしたー。
立ち去っていく克樹ー。
そんな克樹の後ろ姿を見ながら、
梨々花は舌打ちするー。
克樹が去ったと同時に、別人格に乗っ取られてしまった梨々花は
不愉快そうに言葉を口にするー
「梨々花、ああいうやつ、大っ嫌いー」
そう言葉を口にした梨々花は「滅茶苦茶にしてやろっとー」と、
邪悪な笑みを浮かべたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
克樹は、その日から”梨々花のこと”を調べ始めたー。
今まではずっと耐えればいい、とそう思っていたー。
だが、この状況がずっと続けば
梨々花を誤魔化し続けることは難しいし、
梨々花をもっともっと心配させてしまうー。
当然、自分自身も辛いー。
そんな状況を打開するために、
”僕にできること”ー
それはーー
「ーー初めましてー
今日は、ありがとうございますー」
克樹がそう言うと、
相手の女子生徒は「ーそんなそんなー。同い年でしょ?もっと気楽に」と、
呆れ顔で笑ったー。
「ーーあ、はいー」
緊張した様子の克樹ー。
そもそも女子にあまり耐性がないし、
この子は別の高校に通う初対面の子だー。
”梨々花と同じ中学出身の子”に、中学時代の梨々花のことを聞き出そうと、
色々探した結果ー、クラスの友達の男子の”元カノ”が、
梨々花と同じ中学出身であったことを聞かされ、
なんとか頼み込んで、こうして話をする機会を作って貰ったのだー。
「ーそれで、中学時代の梨々花のことだっけー?」
と、その子、宮濱 紗友里(みやはま さゆり)は、そう呟いたー。
「ーあ、はいー」
克樹からすれば、”他校の女子と会う”なんてことは
緊張で心臓が張り裂けそうになるー。
しかし、これもこの状況を打開するためー。
震えながらも、克樹は紗友里との話を続けるー。
「ーわたし、梨々花とはずっと仲良かったんだけどー…
梨々花、途中からちょっと変わっちゃってねー」
紗友里がそう言うと、
克樹は「変わった?」と確認するー。
「ーうん。2年の始まりぐらいだったかなぁ…
クラスの子が一人、同じクラスの派手な女子たちにいじめられててー
梨々花、その子を助けようとしてたんだけどー…」
紗友里が思い出すようにしながらそう言葉を口にするー
「ーた、確かに北森さんのしそうなことだなぁ…」
”今の僕”にも心配そうに声を掛けてくれているし、
いじめられっ子を放っておけない彼女の性格はよく分かるー。
「ーーでもー、梨々花がその子を助けようとしたせいで、
いじめのターゲットが梨々花に変わっちゃったのー」
紗友里はそこまで言うと”まぁ、よくある話よね”と、
赤渕の眼鏡をかけ直しながら、
「ーわたしも、先生に相談して梨々花を助けようとはしたんだけど」と
付け加えるー。
”直接助ければ、梨々花の二の舞になるだけー”と、
この子は、先生に相談することで、梨々花を助けようとしたようだー。
「ーーそれでもーいじめは止まらなくて、梨々花、すっごくいじめられてー」
紗友里は、悲しそうにそう言うと、
克樹も悲しそうな表情を浮かべるー
「でもーーー」
紗友里が、”その続き”を話す前に少しだけ躊躇うー。
「ーいつの間にか、梨々花といじめっ子たちの立場が逆転したのー」
「ーえ?」
克樹が首を傾げると、
紗友里が言うー。
梨々花がある日から急に、その子たちと仲良くなってー、
いじめをしていた派手な女子たちとつるむようになったのだとー。
しかも、元のリーダー格だった子が”逆にいじめの対象”になって、
リーダーがその子から梨々花に変わりー、
梨々花の性格も変わってしまったのだとー。
「ーその頃からー、梨々花、変わっちゃってー
わたしも接点があまりなくなっちゃったんだけどー」
紗友里がそこまで言うと、
克樹は「そ…そうですかー」と、頷くー。
「ーーーー」
克樹は、さらに踏み入った質問をするー。
「ーーー…北森さん、”急に”態度が変わったりすること、ありませんでしたか?」
克樹がそう言うと、紗友里は「敬語じゃなくていいってばー」と、
苦笑いしながら、”同い年でしょ?”と、付け加えるー。
照れくさそうに克樹が困っているのを見て、
紗友里はそれ以上は言わずに、
「ーーーそういうことは、なかったかなぁ…」と、言葉を口にするー。
いじめっ子たちと仲良くなった時にガラリと変わって以降は
特にそういう”急に態度が変わる”というような覚えは
少なくとも紗友里の中にはないのだと言うー。
「ーー…ありがとうございますー」
翌日ー
克樹は、紗友里から教えてもらった情報と、
これまでに自分で得た、二重人格と呼ばれる状態について
頭の中で整理していくー。
恐らくー、梨々花が”二重人格”と呼ばれる状態に
なってしまったのは、
中学時代のそのいじめが原因なのだろうー。
総合すると、”いじめられっ子を守った梨々花自身がターゲットになってしまい”、
自分がいじめられる状態から、”自分自身を守るために”、
狂暴な性格の別人格を自分の中に生み出してしまったー
…そういうことなのだろう、と、克樹は思ったー。
いじめっ子側の性質を持つ狂暴な自分…克樹の言う”黒い梨々花”を作り出すことにより、
梨々花は、結果的にいじめっ子たちのリーダーを追放するような形で、
自分がそのグループに入り込み、”自分がいじめられる”状況を抜け出しているー。
しかし、紗友里によれば
”中学時代の梨々花は変わって以降、急に態度が変わることはなかった”というー。
そうとなれば、中学時代はずっと”黒”の方の人格が表に出ていたということだろうかー。
でも、高校生になった今の梨々花は、
普段は”普通の梨々花”が表に出て来ていて、黒い梨々花は時々出て来るのみー。
帰宅後はどっちが表に出ているのか分からないけれど、
中学時代とは違い、学校では”普通の梨々花”が表に出ているー。
「ーーーー…」
克樹は色々考えながら
「そうかー…中学を卒業して、北森さんをいじめてたやつらはいなくなったからー…
”黒いほう”が、表に出ている必要がなくなったのかー…」
と、そんな結論に達するー。
だが、一度誕生した別人格は完全には消えずに、
克樹を目の仇にしているー。
そういうことなのだと思うー。
色々考えながら、昼休みを迎えた克樹ー。
たまたま近くにいた梨々花と雑談をしながら
昼休みを過ごしていた彼は、
ふと時計を見つめるー。
「あ、そうだー。先生にノートを提出しないといけないんだったー」
そんなことを思い出す克樹ー。
「ーあ、明日までに提出のやつ?」
梨々花が笑いながら言うー。
「うんー」
克樹はそう言いながら、ノートを机から取り出すと、
そこにはー”死ね” ”バカ” ”くたばれ”などと、
乱暴な字で、文字が書き連ねられていたー
「ーー!」
克樹は慌ててそのノートを隠すー。
朝は普通だったー
恐らく、登校してから今までのうちに、
”黒い梨々花”にやられたのだろうー
「ーーえ…」
梨々花が心配そうに克樹のほうを見つめるー
「だ、だ、大丈夫大丈夫ーこんなこと、よくあることだからー」
克樹はそう言い放つと、
梨々花は「ーーち、ちょっと、今のノート」と、克樹が隠したノートを
もう一度見ようと手を伸ばしてくるー。
「ーーーあ」
克樹の机から、”黒い梨々花”に落書きされたノートを、梨々花が手にするー
「ーーーーーー」
そのノートを見つめながら、梨々花が表情を歪めるー。
”落書きに使われた”ペンは、あまり見ない感じの、
ちょっと太字なボールペンだったー。
「ーーーー……」
梨々花は、戸惑いながら自分の座席に戻っていくー。
そして、自分の筆箱にあったボールペンを手にして、
別の紙にボールペンで線を引くー。
「ーーーーーー…」
梨々花は、克樹のノートに書かれた線と、
今、紙に書いた線を見比べると
困惑の表情を浮かべながら、克樹のほうを見たー。
「ーーーー……え…」
克樹が、戸惑いながら梨々花を見返すと、
梨々花は不安そうに言葉を口にしたー
「ーーー……く、黒田くんをいじめてるのってーーー
もしかしてーーー…わたし?」
梨々花のそんな言葉に、
克樹は慌てて「そ、そ、そ、そんなことないよ!
たまたま同じボールペン持ってる子がいるのかもしれないし、
そもそも、北森さんのペンを勝手に誰かが使ったのかもー」
と、そう言葉を言いかけるー。
がー
梨々花の人差し指の部分に、
ボールペンが付着したと思われる黒いあとが
少し残っていたー
ボールペンを使った時に、時々ついてしまうアレだー。
「ーーー!」
「ーわたし、今日、ボールペン使った記憶ないのにー…」
梨々花が、指を見つめながら言うー。
「ーーねぇ…黒田くんーー
いったい…誰にいじめられてるのー…?
何が起きてるのー?」
不安そうにそう尋ねて来る梨々花にー、
克樹は困惑しながら周囲を見渡すー。
昼休み中の教室には、
別の生徒もたくさんいるー。
克樹は意を決すると
「ーー…放課後、ちゃんと説明するからー」
と、困惑の表情のまま、言葉を口にしたー。
③へ続く
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コメント
8月に予定していたお話(月初めにお知らせしている分)が
全部終わったので、
レア(?)な二重人格モノにチャレンジしてます~笑
融合モノと同じく、頻繁に書くことはありませんが、
ごく稀に、チャレンジするのデス…!
(二重人格は今回が2回目ですネ~!)
明日が最終回デス~!
今日もありがとうございました~!
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