”だいじょうぶー?”
いじめを受けていることを心配してくれる幼馴染ー。
けれどー…
”言えないー”
だって、いじめの犯人は”もう一人のきみ”なのだからー…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーー」
彼は”いじめ”を受けていたー。
「ーーーーはぁ」
放課後ー
”ようやく”それは終わり、深々とため息をつく
黒田 克樹(くろだ かつき)ー。
「いててててて…」
今日も、そのいじめは壮絶だったー。
しかもー
”いじめっ子”は計算高くー、
”周囲からは気付かれないような”方法で、
克樹にダメージを与えて来るー。
例えば、克樹の顔を殴ったりすれば、
当然、克樹の顔は腫れるし、周囲も異変に気付くー。
だから”いじめっ子”は、周囲から見えないところを
傷めつけるー。
周囲から気付かれないように”いじめ”を行うー。
しかもーー
”誰かに助けを求めたら、どうなるか分かってるよね?”
そんな、悪魔のような言葉を”ヤツ”は囁くー。
そうー
言えないのだー。
言えばーーーー
「ーーーー…大丈夫?」
「ー!」
克樹が、ハッとして声を上げると、
いじめが終わり、廊下でひと息ついていた克樹を心配して、
幼馴染の北森 梨々花(きたもり りりか)が声を掛けて来たー。
小さい頃からの知り合いで、困っている人を見ると
放っておけないような、とても優しい子だー。
小学校の間はずっと一緒で、中学生の頃は別々、
そして、この高校で再会したー。
「ーーー…う、うんー」
克樹が暗い表情でそう言うと、
梨々花は心配そうに「”また”嫌なことされたの…?」と、言葉を口にするー。
「うー、うん…だ、大丈夫大丈夫ー」
克樹は無理に元気に振る舞って見せると、
梨々花は「ーやっぱり、先生にも相談した方がいいんじゃない?」と、
心底心配そうに言葉を口にしたー。
「ーで、でもー」
克樹が表情を歪めるー。
”克樹をいじめている人物”は、周囲から気付かれないような場所ばかりを
傷めつけたり、精神的ないじめを繰り返しているー。
けれど、この梨々花には気付かれてしまったー。
克樹が無理に元気に振る舞っていることにも気づいていたようだし、
克樹がある日、”いじめっ子”からノートに悲惨な落書きをされて、
それを処分している時に、梨々花に見られてしまって、
”いじめられている”ことを知られてしまったのだー。
「ーーー…わたしも、黒田くんと一緒に先生の所に行くからー」
梨々花が、克樹に対してそんな言葉を口にするー。
「だ、大丈夫だよ!ホントにそんな、酷いことじゃないんだって!
あっちもほら、僕を揶揄ってるような感じだから!」
克樹は再び無理にそんな言葉を口にするー。
「ーく、黒田くん!…無理しちゃだめだってばー…」
悲しそうに梨々花が言うー。
「ーーわたし、本当に心配してるんだからー…
無理しちゃ、だめー」
涙目でそう言い放つ梨々花に対して、
克樹は「ご、ごめんー…北森さんー…」と、申し訳なさそうに言葉を口にするー。
けれど、克樹は今日も、
梨々花に対して”いじめっ子”の名前も伏せたままー、
何も具体的なことは話さず、そのまま帰路についたー
”ごめんー…北森さんー
北森さんが、本当に僕のことを思ってくれてるのは分かってるー
でもー…”
克樹は、そんなことを思いながら、
”でもー”と、今一度言葉を口にするー
「ー言えないよー…
だってー…」
”いじめっ子”の正体はーーーー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーー”僕を揶揄ってるような感じだから大丈夫~~~”
って、言ってたよね?」
翌日ーー
”いじめっ子”から、再び放課後に呼び出された克樹は、
また”いじめ”を受けていたー。
「ーーーあはははは~
マジで笑えるぅ~」
そう言いながら、克樹をいじめる女ー。
そう、克樹をいじめている”いじめっ子”は、女子生徒ー。
「ーでもさ、そういうのマジでむかつくんだけどー」
その女子の睨む視線に、克樹は思わず目を逸らすー。
「ーーほらほらそういう態度!」
女子生徒はそう叫ぶと、克樹の鞄を無理やり取り上げて、
中身をバラバラに空き教室の床にぶちまけたー。
「ーー…ちょ…!やめてよ!」
克樹がそう叫ぶもー、女は止まらないー。
数学の教科書を手にすると、
それを笑いながら破る女ー。
「ーーあはははは!ごめ~ん!手が滑っちゃった」
挑発的に笑いながら、破った数学の教科書を床に落とすと、
それを踏みつぶしながら、克樹のほうを見つめるー。
これで2冊目ー。
この女に、克樹はこうして私物を破壊されることも
”よくある”ことだー。
「ーーー」
破れた数学の教科書を慌てて拾うのを見て、
楽しそうにしている女ー。
克樹は、そんな彼女のほうを見つめるとー
「なんで…なんでこんな酷いことするんだよ!」
と、声を上げるー。
しかし、その女は悪びれる様子もなく言ったー
「ーだってあんた、うざいんだもんーー」
クスッと笑う女ー。
「ーーそれと~~
あんたをイジメてると、”梨々花”楽しいんだもん!」
嬉しそうに笑いながらそう言い放つその女はー
克樹をいじめている女子生徒はー、
克樹のことを心配してくれている幼馴染の
北森 梨々花 本人だったー。
いつもの梨々花とは違う、自信と悪意に満ちた表情ー。
制服を少し着崩して、いつもの梨々花よりも色気をアピールするかのような
そんな雰囲気にも見えるー。
ニヤニヤしながら、克樹に近付いてきた梨々花は、
そのまま克樹の腕を掴んで、克樹を睨みつけるー。
「ーー”あいつ”に気に入られてるからって、調子に乗らない方がいいよ?」
同じ顔ー
同じ声なのにー、
克樹にとって”こっちの梨々花”は、恐怖の象徴でしかないー。
そうー
高校で再会した梨々花の中には”2つの人格”が存在していたのだー
一つはー、
”普段の梨々花”ー
恐らくは、小さい頃一緒だった梨々花で、梨々花の主人格だー。
再会した時も喜んでくれたし、
昔と同じように、優しいー。
しかし、梨々花の中に
”もう一人の梨々花”がいたー。
こっちの梨々花は、本来の梨々花とは違って
派手で、乱暴で、陰険でー、とにかく正反対の性格だー。
光と闇ー
そんな感じの二人ー。
克樹が心の中で”黒い梨々花”と呼んでいるこっちの人格に、
克樹はいじめられていたのだー。
「ーーあいつも何であんたなんかー」
”黒・梨々花”が、そんな風に不満そうに呟くー。
こっちの梨々花は、普段の梨々花のことを”あいつ”と呼んで
毛嫌いしているー。
「ーー……ーー」
震えながら、そんな梨々花を見つめる克樹ー。
「ーーーーなにその顔」
梨々花が、不満そうに克樹のほうを見つめると、
「なんか梨々花に文句あんの?」と、
梨々花が言い放つー。
普段の梨々花は自分のことを”わたし”ー、
黒・梨々花の方は自分のことを”梨々花”と名前で呼ぶー。
「ーーーーーー……も、文句なんてー…ないよ」
克樹がそう言い放つー。
”満足すれば”
黒・梨々花のいじめは終わるー。
だから、いつも、とにかく耐えて、耐えて、耐えているー。
しかし、今日の梨々花は特に不機嫌な様子で、
克樹が耐えても、なかなかそのいじめは終わらなかったー
「ーーあ、そうだ。スマホ」
梨々花がそう呟くー。
「す、スマホー?」
克樹が不安そうに言い返すと、
梨々花は「あんたのスマホ、梨々花にちょうだい」と、
梨々花が手を伸ばしてくるー。
「ーーあんた、家に帰ってからも
時々、”あいつ”と連絡とってるでしょ?
マジで目障りだから、連絡できないようにしてやろうと思って」
梨々花のそんな言葉に、
克樹は震えながら「ーそ、それは…無理だよ!」と叫ぶー
スマホを壊されたりしたら、たまらないー。
しかしー、
梨々花は強引に克樹からスマホを取り上げようとするー。
抵抗する克樹ー
「ーいった~~~~い…」
梨々花がわざとらしく、痛がるような素振りを見せると、
克樹は、ドキッとして、抵抗をやめてしまうー。
”梨々花を痛がらせてしまったー”
そんな風に思ってしまい、抵抗することができないー。
結局、スマホを奪われてしまった克樹ー。
梨々花は笑いながら、それを床に叩きつけようとするー
「や…やめてよ!やめてってば!」
克樹が涙目でそう叫ぶと、
梨々花は笑みを浮かべながら「じゃあ~梨々花に土下座して謝って」と、
目の前を指差して、土下座するように促して来たー。
「ーーー”梨々花さま 不愉快にさせてごめんなさい 僕はバカですー”
って、土下座しながらー梨々花に謝って」
梨々花の言葉に、克樹は震えながら梨々花のほうを見つめるー。
「なに?梨々花に謝れないの?
梨々花、すっご~く、不愉快な気持ちなんだけどなぁ~
あんたのせいで」
敵意を剥き出しにしてくる梨々花ー
”いつもの北森さんに、早く戻ってー”
今までも、何度そう思ったことかー。
けれど、克樹はこの状態の梨々花にー…
”黒い梨々花”が表に出てきている時に、梨々花にそう呼びかけたことはないー。
もしー
この場で、梨々花本人の意識が目覚めたりしたら、
本人はきっと悲しんでしまうからだー。
”僕が耐えればー、僕が耐えればいいんだー”
そう思い、克樹は、”普段の梨々花”に相談することもなく、
”黒い梨々花”の人格が出てきている時に呼びかけることもなく、
ただひたすらに耐えていたー。
「ーーあ~早く梨々花に謝ってくれないと~
梨々花、ムカついてあんたのスマホ地面に叩きつけちゃうよ?」
梨々花の言葉に、克樹は悔しそうにしながら、
言われた通りに土下座するー。
「ーー土下座だけ?」
梨々花が低い声で脅すような言葉を口にするー。
「”ーーー”梨々花さま 不愉快にさせてごめんなさい 僕はバカですー”
って早く言えよ」
梨々花の口から、こんなに怖い口調の言葉が吐き出されるなんてー、
と思ってしまうぐらいに威圧的な口調ー。
克樹は身体を震わせながら
「ーーー”梨々花さま 不愉快にさせてごめんなさい 僕はバカですー”」
と、その通りに言葉を口にしたー。
そしてー
その直後ー
スマホが地面に叩きつけられる音がしたー
「あ、ごめ~ん、手が滑っちゃったぁ!
梨々花ってばうっかりさん」
梨々花が笑いながら言うー。
画面にヒビの入ったスマホを見て、
克樹は悔しそうに梨々花を見つめるー
「なに?文句ある? 梨々花を殴る?
殴っちゃう???
ふふ?ほら、ムカつくなら殴りなよ!
ほらほらほら!」
挑発を繰り返す梨々花を見て、
克樹は目を逸らすと、
「何で、こんなことするんだよ…」と、
悲しそうに呟いたー
「ーふん」
ようやく、”黒い梨々花”は満足してくれたのか、
そのまま立ち去っていくー。
「ーーー…北森さんー…」
梨々花が立ち去っていたあとも、克樹は
自分のことよりも”梨々花のこと”ばかりを心配していたー。
克樹は、優しすぎるー。
このままでは、”ずっとこの状況”が続きー、
何の解決にもならないというのにー。
「ーーー…」
梨々花は、二つの人格を持っているー。
最初は気分屋なのか、だとか、演技しているのか、だとか
そんなことを思っていたけれど、
どうやら、そうではなく、本当に”二つの人格”を持っている様子でー、
ある確証も得ているー。
克樹も、色々と”二重人格”と呼ばれる状態については調べたー。
少なくとも、梨々花は小学生の頃は、二つの人格を持ってなどいなかったからー、
こういう状態になったのは、卒業後、高校で再会するまでの間ー…
中学生の間に”なにか”が、あったのだと克樹は思うー。
けれどー
その”なにか”が分からないー。
「ーーーーーー…僕はー…どうしたらー」
ヒビ割れたスマホを手に、悲しそうな表情を浮かべた克樹は、
そのままよろよろと歩き始めたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
帰宅した梨々花は、
「ーあれ?思ったより遅くなっちゃったー」と、
首を傾げながらも、
穏やかな表情で、学校帰りの後片付けを終えるー。
彼女は、気付いていないー
自分の中にいる”もう一人のわたし”の存在にー。
”黒田くんー…だいじょうぶかなー…”
まさか、自分がその”いじめっ子”だとは夢にも思わない
梨々花は、そんな風に思いながら、
心底、克樹のことを心配するのだったー
②へ続く
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コメント
憑依空間ではとっても珍しい二重人格のお話デス~!
(前に1回だけ書いたことがあるので、これが2個目ですネ~!)
心配してくれる普段の人格と
いじめてくる裏の人格…
どうなってしまうのかは、この先のお楽しみデス~!
今日もありがとうございました~!
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