<憑依>歪んだ天使②~親友~

彼女が憑依されていた影響で
自分のことを”男”だと思い込むようになってしまったー。

そんな彼女になんとか状況を説明しようと
するもののー…?

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隆文は、元々”冷めた感じ”の男子だったー。

友達はそれなりにいたし、
趣味あると言えばあったー。

が、何事にも心の底から真剣になるようなことはなく
どこか冷めたー、そんな性格の男子生徒だったー。

人のことを本当に好きになったこともなくー、
何かに心の底から夢中になったこともないー。

人生が楽しいか、つまらないか、と問われれば
特に悩みごとはないけれど、特別楽しい、と感じることもない、
そんな日々を送っていたー。

しかしー、
美咲と出会ってそれが変わったー。

最初は、何とも思っていなかったけれどー、
1年の時の生徒会の選挙管理委員の仕事で一緒になったことから
親しくなりー、
始めて心の底から人を好きになったー。

そして、美咲と付き合い始めてからは
本当に幸せな日々だったし、
人生で初めて心の底から楽しいと、心の底から幸せだと、
そして心の底からこの人のことを守りたいと、そう思えたー

ずっとずっと、火のついていない蝋燭のような人生だった彼に
始めて火がついたー
そんな感じだったのかもしれないー。

隆文の人生の”色”が変わったー。
そんな希望の光をもたらしてくれた美咲は、
彼にとっては”天使”のような存在だったー。

しかし、今ー
その天使は”歪んで”しまったー

「ーーだ~か~ら、これはその憑依されていた時に、
 ”女”になっちまったんだろ!?

 俺だって、こんな胸、どうにかできるならしてぇよ!」

美咲が苛立った様子で自分の胸を引っ込めようとするかの如く、
手で押しているー。

「ーーーで、でも!ほら、昔の写真だって、美咲はー」
隆文が、”最初のデート”の時の遊園地の写真を美咲に見せるー。

「ーみ、美咲だって、覚えてくれてるよな!?この遊園地の時のことー!」
隆文が言うと、美咲は
「あぁ、俺たちの初めてのーー」と、言いかけて表情を歪めたー。

「ーーーと、友達になってから初めて遊びに行った場所だもんな」
美咲がそう言うと、
そのまま「あっち~な…」と、シャツを少しぱたぱたとさせるー。

「ーーーお、おいーここでそういうー」
普通に服の下も見えそうになって、隆文がそう言うと、
美咲は「ーーはは、男同士なんだからいいだろ」と、笑うー。

「ーみ、美咲がどう思ってても、身体は女だろ!」
と、隆文が恥ずかしそうに言うと、美咲は
「はっは~友達の俺に興奮してるのか~?」と、ニヤニヤしながら言うー。

声も身体も完全に女なのにー、
と、隆文はそう思いながら「ーでも、ほら、服選びにすごく悩んだって言ってたじゃないか」と、
なおも説得を続けるー。

「ー美咲が”自分のことを男”だと思ってるのは
 憑依の影響なんだー。
 だから、絶対に治ると思うし、ちゃんと治療しよう」

美咲は、憑依から解放されたあと、何度か診察を受けたあとに
”女扱い”されることに怒りを覚えて
そのまま病院にも行かなくなってしまったー。

「ーーー嫌だよ、あの病院の先生、俺を女扱いするしー」
不満そうに顔を背ける美咲ー。

「ーー美咲の気持ちは分かるよー
 でも、でも、このままじゃいけないだろ?」

隆文が必死に言うと、
美咲は「ーーなぁ」と、言葉を口にするー

「ー俺がさ、”やっぱわたしは女の子だった~!”とか言えば満足かよ?」
美咲の不満そうな言葉に、隆文は
「そ、そういうんじゃなくてー」と、慌てた様子で言うー。

「ーーーくそっー、どいつもこいつも女扱いしやがってー
 ーーもういいー」

美咲はそう言うと、突然ハサミを手に、
自分の長い髪を切ろうとし始めたー

「ーちょ!み、美咲!」
隆文が慌てて止めようとするー。

以前、美咲は”大変だけど、長い髪の方が好き”と自分で言っていたのを
覚えているー。

それを自ら切ろうとしている状況に、隆文は慌ててそれを阻止しようとするー。

「ーうるさい!お前に女扱いされるぐらいなら、こんな髪、いらねぇよ!」
今までは”長い髪が好き”という自分の意思も残っていたからか、
ジャマそうにしながらも美咲が髪を切ることはなかったー。

しかしー、ついに美咲は自分の髪にまで敵意を向けて、
それを切り始めたー。

普通のハサミだったためにあまり切れずー、
隆文がそれを阻止すると、
美咲は「もういい!帰ってくれ!」と、叫ぶー。

「ーーーみ、美咲ー、俺はー」
隆文がそう言いかけると「俺は男なんだよ!もう帰ってくれ!」と、
美咲が再び声を荒げたのを見て、
隆文は”これ以上はダメかー”と、判断して、
「ごめん」とだけ頭を下げて、そのまま美咲の部屋を後にしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

それから数日ー
美咲は学校にやってこなかったー。

心配して連絡を送ると”来週から行く”の繰り返しー。

しかし、そう言っている以上、”来週”までは待とう、と
隆文は様子を見ることにするー。

美咲だって辛いのだからー、
あまり”押す”ばかりではいけない。
こちらも”引く”部分は引かなくてはいけないー。

そしてー、翌週ー。
美咲はLINEで返事をくれた通り、
ちゃんと学校にやってきたー。

がー

その姿はーーー

髪を短く切りー、
男子の制服を着て、
完全に”男装”したような風貌に変わっていたー。

どよめく教室ー。
そんな様子を見て、美咲は
「ーほら、俺は男だし」と、笑うと、
そのまま座席に着席したー。

「この方が、みんなも戸惑わないだろ?」
そう言い放つ美咲に、美咲の友達の女子は困惑したような様子を
浮かべながら、美咲のほうを見つめたー。

その日からー、美咲は”完全に男子”として生活を始めたー。

男子トイレを普通に使うし、
体育の授業も男子と混じって受けるしー、
先生にも”霧島くんと呼んでほしい”と、言い放っていたー。

学校側も美咲の事情を承知しているために、
困惑しながらも、他の生徒たちに協力をお願いし、
ひとまず、美咲を”男子”として扱うことを決めるー。

とは言えー、
トイレでは、立ったまますることは基本的にできないし、
体育の授業では胸を隠すことができていないしー、
やっぱり声は女声だしで、周囲は戸惑っていたー。

そしてー、
ついにー。

隆文は”美咲”から別れを告げられたー。

「ーー隆文のこと嫌いになったとかじゃなくてー
 何で”恋人同士”ってことになってるかイマイチ分からねぇし、
 俺さー…その、男は恋愛対象じゃないんだよなー

 だから、今日から親友ってことでー」

美咲のその言葉に、
隆文は、振られるよりも残酷だとそう感じたー。
振られたなら、諦めはつくー。
しかしー、今の美咲は、本当に隆文のことを嫌いになったわけではないのだろうー。

それ故に、余計につらい気持ちになるー。

がーー
隆文は、あのあと美咲の家族や医師とも相談して、
”強引に元に戻すのは難しい”と判断、
”今の美咲を受け入れつつ、少しずつ”と、そう考え始めていたー。

「ーわかった。じゃあ、親友で」
隆文がそう言うと、美咲は「おぅ!さすが隆文!」と、
嬉しそうに握手を求めて来たー。

それからはー
”親友”として美咲と接する日々ー。
自分のことを男だと思っているからか、平気でスキンシップも
してきて、男装状態とは言え、やはりドキドキしてしまうー。

そんなある日ー、

「ーーーーーなぁなぁ隆文ー、明日の文化祭ー」

短い髪の美咲に呼び止められた隆文は
「ーーあぁ、美咲ー」と、立ち止まるー。

美咲の変化に戸惑いながらも、
何となく上手くは出来ているー。
関係も”恋人”から”親友”になっただけで、良好な状況は続いているー。

”何か用か?”と、
隆文がそう返すと、美咲は「いや、ほら、明日の文化祭、
特に誰かと回る予定がなければ、俺と一緒に回ろうぜって思ってさー」
と、笑いながら言葉を口にしたー。

「ーーーはは、ちょうど誰とも約束してないよ」
隆文はそう言うと、美咲は「よっしゃ」と嬉しそうに笑うー。

その笑顔だけはー
”前の美咲と同じ”ー、
とても可愛らしい笑みー。

でも、それを言うと今の美咲は怒るー。

だから、そんな素振りは見せずに、
そのまま話を続けるー。

完全に”男”になってしまったー。
そんな美咲を見るたびに、隆文の心は痛むー。

けれどー、
一番の優先事項は”美咲が幸せなこと”だー。
開き直って、男として振る舞うようになってからの美咲は、
辛そうな素振りを見せたりすることもなくなりー、
笑顔が増えたー。

髪が短くなってもー、
言葉遣いが変わってもー、
男子の制服を着ていてもー、
やっぱり、それでも美咲は美咲だったし、
美咲が笑っていると、こっちまで嬉しくなるのも事実だったー。

ただー、隆文は
今でも”美咲を元に戻す方法”がないのかどうか、
美咲の担当医だった医師の元にも足を運んで、
話をしたり、色々調べたりしているー。

”本当に美咲がそれを望まない”のであれば話は別だー。

しかし、”憑依される前の美咲”に、仮に聞くことができればー
”元に戻りたい”と言うと思うー。

だから、隆文は0.1%でも可能性がある限りー
美咲を元の状態に戻す方法はないのかどうかを、調べることをやめるつもりはなかったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

文化祭当日ー。

「ーーー」
美咲と隆文は雑談しながら
”男同士”として文化祭を回るー。

”俺は男だ”と、なってしまっただけで、
本質的な性格や趣味趣向はそれほど変わっていない感じの美咲ー。

今までと同じで、”話していれば楽しい”のも事実ー。

「ーあ、ちょっとトイレ行ってくるー」
美咲と文化祭を回っていた隆文がそう言うと、
「ーおぅ、じゃ、俺はここで待ってる」と、美咲は
手を上げながらそんな返事をしたー。

トイレに向かう隆文ー。

だが、その時だったー。

「あの子、女子じゃね?」
「お!マジだー、なんで男子の制服着てんだ?」
「ってかかわいいー」

そんな声が聞こえて来たー。

美咲は自分のことだと思わず、無視をしていたがー、
やがて、柄の悪い男二人が近付いて来たー。

大学生かー、あるいは遊び歩いている若者だろうかー。

女かと問われた美咲はすぐに苦笑いしながら
「いやいや、俺は男ですー」と、そう返事をするー。

がーーー

「ーーへへへへー
 じゃ、これは何かな?」
男の一人が、美咲の胸に手を触れるとー、
美咲は表情を歪めるー

「ーこのおっぱいー
 男のおっぱいじゃねぇよなぁ」
美咲の胸に手を触れた男がそう言うと、
隣にいたチャラそうなもう一人の男も、
美咲の胸に勝手に手を触れて笑うー。

「ーうほっ!これは女だな」
とー。

「ーー…ーーやめろよ!男だって言ってんだろ」
美咲が二人組の男の手を振り払うと、男たちは
ニヤリと笑みを浮かべるー。

「ーへへへへー
 いいねぇー、そういうの、可愛い」
男はそう言うと、美咲のほうをじっと見つめるー。

「ーー男だってんならー
 ”男同士”、ちょっと仲良く遊ぼうじゃねぇかー」

その言葉に、美咲は表情を歪めるー。

「ーー俺たちもさ、”女の子”に悪さしたりはしないけどさー
 お前”男”なんだろ?」

もう一人の男がそう言うと、
美咲はカチンとして、
「あぁ、そうだよ!俺は男だよ!」と、
男二人の挑発に乗ってしまい、そのまま二人と共に移動し始めたー

”自分が男”
そう思い込んでいる美咲は、
あまりそういう危機感のようなものも失われてしまっていたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ふ~…ごめん、お待たせ」

トイレから出て来た隆文がそんな言葉を口にしながら
美咲が待っていた場所にやってくるー。

だがー
そこに美咲の姿はなかったー

「あ…あれ?美咲ー?」
周囲を探す隆文ー。

そんな隆文を見て、クラスメイトの女子の一人が
心配そうに駆け寄って来るー。

「あ!篠塚くん!」
隆文の名を呼びながら、その女子生徒はすぐに言葉を口にするー

「み、美咲が、変な二人組に連れて行かれちゃってー…」
その言葉に、隆文は表情を歪めると、
すぐに「どっちに向かった!?」と、その女子生徒に確認して
慌てて廊下を走り始めたー。

③へ続く

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コメント

次回が最終回デス~!

”俺は男だ!”になってしまった彼女との
結末をぜひ見届けて下さいネ~!

お読み下さりありがとうございました~~~!

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