憑依されていた影響で自分を男だと思い込んでしまった彼女。
すっかり男として振る舞う彼女とも
何とかうまく過ごしていたものの、
”文化祭”の日に、それは起きたー…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
体育倉庫ー。
「ーーえへへへ…やっぱ女じゃんー」
美咲の制服のボタンを外した二人組の男は
ニヤニヤしながら美咲の下着を見つめるー。
「ーーへへへーこれは何だよ」
下着の上から胸をつつきながら、美咲にそう尋ねる男ー
「ーう…うるさい!俺は、俺は男なんだよ!」
美咲がそう叫び返すと、
「ーこんな立派なもんつけてて、男なのかぁ~?」と、
美咲の胸を揉み始めるー。
必死に抵抗しようとする美咲ー。
だが、力で男二人に敵うはずもなく、されるがままにされてしまうー
やがて、気持ちよさそうな声が口から出てしまいー、
美咲は屈辱と、怒りと、恐怖に震えながら
「や、やめて!」と叫ぶー。
「ーえへへへへ…男なんだろ~?いいじゃねぇか。男同士ー」
不良二人組の一人がそう言い放つー。
だがーー
その時だったー
「ーお前ら!な、なにをやってるんだ!」
クラスメイトから、美咲が連れ去られたと聞いた隆文が、
体育館の倉庫に駆け付けたのだったー。
「ーーー…あん?」
不良の一人が振り返るー。
美咲はガクガク震えて、怯えた様子を見せているー。
そんな美咲のほうを心配しながらも、
隆文は”まずはこいつらを”と、
二人のほうを見つめるー
「ーこいつ、”男”だって言うからさー
男同士遊んでいただけだぜ」
二人組の一人がそんな言葉を口にすると、
隆文は呆れ顔で首を横に振ったー。
「ーー男同士だって、相手が嫌がってりゃ、ダメだろ」
とー。
その言葉に、「ごちゃごちゃうるせぇやつだなー」
と、不良の一人が言うー。
隆文は表情を歪めるー。
正直なところ、隆文は正義のヒーローでも何でもないしー、
別に強くもないと思うー。
強いか、弱いかで言われれば、どっちとも言えないー。
”普通”ぐらいだろうー。
こんないかにもガラの悪い二人組を相手にするのは、
隆文にとっても”恐怖”はあるー。
けれどー
「ーーおい!何をしてるんだ!」
背後から、もう一人別の男が入って来るー。
ここに来る前に、隆文は先生にも声を掛けておいたのだー。
先生の出現に二人組の不良が驚くー。
「ーおい!警察を呼べ!」
体育の先生がそう叫ぶと、別の先生が「わかりました!」と
警察に通報ー、
”女子を体育倉庫に連れ込んだ”二人組の男は
そのまま警察に連行されていったー。
「ーーーごめんー…ごめんーー」
ガクガクと震えながら目に涙を浮かべた美咲が
そう言葉を振り絞るー。
「ーー大丈夫ー。
”親友”を助けるのは、当然だろ」
隆文が美咲を安心させようとそう言い放つと、
美咲は泣きながら隆文に抱き着いて来たー。
ドキッとしてしまいながらも、
隆文はとにかく、美咲を撫でながら、
安心させようと言葉を掛けるのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その日を境にー、
美咲は”俺は男だ”とは言わなくなったー。
男子の制服を着るのをやめて、
元々自分が着ていた女子の制服を着始めてー、
トイレも、先生に申し出て、また女子トイレを使うようになって、
体育の授業も女子の方で受けるようになったー。
「ーー迷惑かけてごめんね」
と、美咲に言われた隆文は、「いや、そんなことないよ」と笑うー。
「ーー俺ー…ううん、わたし、やっぱ女だったー」
美咲が悲しそうに笑うー。
「ーイヤと言うほど、思い知らされちゃったー」
美咲はそれだけ言うと、
他の男子が笑う声に、一瞬ビクッとした様子で振り返って、
自分とは関係のない笑い声であることを確認すると、
すぐに安心した様子でため息をついたー。
「ーー助けてくれて、本当にありがとうー。」
美咲はそう言うと、頭を下げて、隆文に再びお礼の言葉を口にしたー。
すっかり”女子”な振る舞いに戻った美咲ー。
バッサリと切った髪も、だんだんとまた伸び始めて来て、
単発だった美咲は、ボブぐらいの長さになったー。
また、元のロングの髪型に戻すつもりなのかもしれないー。
隆文との間柄は変わらずー。
”親友”としてあの一件のあとも、引き続き
仲良く過ごしてはいるー。
だがー
ある日ー。
放課後に一緒に帰る約束をしていた隆文は、
美咲の部活ー…美術部の部屋の片づけをしながら、ふと呟いたー
「ーなぁ、美咲ー…
”無理”してないか?」
とー。
「ーーーえ?」
美咲が少しだけ笑うような感じで振り返るー。
「ーーーー”無理”してるだろ?」
今度は断定するような口調で言い放ったー。
一見すると”美咲は文化祭の時以降、
”俺は男だ”と言わなくなったし、
”元の美咲”にかなり近い状態に戻ったように見えるー。
しかし、彼氏ー…今は”親友”となった隆文から見ると
”以前の美咲との違い”が、それなりに目につくしー、
”元に戻った”のではなく、
”無理に女子に戻った”ような、そんな感じに見えるー。
”文化祭で不良たちに襲われた”ことがきっかけで
元に戻る可能性も0ではないけれどー、
それでも、隆文には、美咲が”無理”をしているようにー、
そんな風に見えていたー。
「ーーーーわたしは、女だしー」
美咲が笑いながらそう言うと、
隆文は「ーーー俺の前では、無理しなくていいよー。親友なんだし」
と、言葉を口にするー。
「ーーーー」
美咲は少しだけ表情を曇らせてからー、
周囲に誰もいないことを確認するとー、
「ーーー無理、してるよ」と、言葉を口にするー。
「ー今でもー…
自分のこと、男としか思えないしー、
何で、こんな女みたいなことしてるんだろうって
ずっと思ってるー」
美咲は悲しそうにそう言うと、
隆文は「美咲ー…」と、戸惑いの言葉を口にするー。
「ースカートだって、落ち着かないし、気持ち悪いしー。
髪だってー、また伸ばしてるけど、邪魔だし」
美咲は愚痴るようにそう言うと、
「ーでも」と、言葉を続けたー。
「ーー”理解”はしたー」
とー。
「理解?」
隆文が聞き返すと、美咲は頷くー。
「ー文化祭の時、あいつらに襲われてー、
”現実”を突きつけられてー、
自分が、”男じゃない”ってことは、”理解”したー」
美咲はそう言うと、
「”憑依”されてたせいで、こうなってるって言うのを
受け入れたって感じかな」と、ため息をつきながら笑ったー。
憑依されたあとの美咲は
”俺は男だ”と思い込み、自分が元々女であったことも否定していたー。
過去の写真を見せたりしても、話を逸らしたり、
混乱する様子を見せただけー。
”自分は女体化した元男”だと、本気でそんなことを言っていたー。
けれど、あの日、文化祭で
不良たちに色々された時に、イヤでも自分が女であると
自覚させられたー。
助けられたあとに、冷静に”過去の自分”のことを振り返って、
自分は”元男”ではなく、女であることを受け入れー、
隆文の言う通り、憑依されていた影響によるものなのだと、
それを受け入れたことで、美咲の心境に少し、変化が生じたのだー。
「ーまぁ、今でも”俺は男”だって思ってるけどさー。
でも、自分がどうしてそう思ってるのかは
受け入れて生きてくことにしたからー。
だから、無理はしてるけど、
それで、いいの」
”俺は男だ”という思いは変わらないー。
でも、美咲の考えは文化祭をきっかけに変わったー
「ーでもまぁ、隆文がそう言ってくれるならー
隆文の前では”素”の俺でいようかなぁ」
美咲が笑いながら言うと、
隆文は「それでいいよー」と、笑いながらー、
「俺はどんな美咲でも好きだからー」と、言葉を口にするー
美咲は少し照れくさそうに
「今、ドキッとしたぞー。 男にそんなこと言うなよー」と
目を逸らすと、
隆文は「はははー」と、笑いながら、
「ー美咲が望むなら、親友でも、彼氏でも、お兄ちゃんでも、彼女にでも
なんにでもなってやるからー」と、
そう言葉を口にすると、美咲は「俺の”彼女”になるのは無理だろー。隆文、女装でもするのか?」と、
笑いながら言葉を口にしたー。
明るい美咲の笑顔に安心した様子で、
「ーーあ、ごめんごめんー美術室の片づけ、早く終わらせないとなー」
と、美術室の片づけを再開するー。
「ーーーー」
そんな隆文を見つめながら、美咲は少しだけ考えてから
言葉を口にしたー。
「ーーあのさー」
美咲のそんな言葉に、振り返った隆文ー。
「ーーーーーあの……隆文さえ良ければだけどー」
少し気まずそうに言う美咲に対して、
隆文は少しだけ首を傾げながら、言葉の続きを待つ。
「ーーやっぱりまたー…そのー何というかー」
美咲はそう言いながら、
「ーこんな…自分のことを男だと思ってる女なんてイヤかもだけどー」
と、そこまで言うと、
「ーまた、おーー…、いや…わ、わたしのこと、彼女にしてくれたりー
し…しないかな?」
と、気まずそうに目を逸らしながら言葉を口にしたー。
「ーーえ…?? え??」
隆文は突然の言葉に戸惑うー。
「ーー…あ、いやー、お、俺から親友になろう、なんて
言っておいて、都合がいい奴だってことは分かってるんだけどー」
美咲はそれだけ言うと、
「ーあ、や、やっぱ今の無しー!
前の”美咲”とは違うもんなー」
と、美咲は自分から言葉を撤回して、
「さ、美術室の戸締り戸締り」と、笑うー。
しかし、
立ち去ろうとした美咲の手を、隆文は優しく掴んだー。
「ー!?」
美咲が少し驚いて振り返ると、
「だから、俺の前では無理しなくていいってー
さっき言っただろ?」と、隆文はそう言葉を口にしながら、
美咲の返事を待たずに言葉を続けた。
「ー美咲がまた彼女になってくれるなら、
俺に断る理由なんてないよー。」
隆文は、美咲の告白を受け入れて、そう笑うー。
むしろ、隆文からしても嬉しい申し出だったー。
「ーーーははー」
美咲は少し照れくさそうに笑うと、
「で、でも、俺は男でもあるから!親友兼彼女な!」
と、言い放つと、
隆文も「親友兼彼女かー。お得じゃないか!」と、
冗談を返すー。
「ーははは。そうそう、俺はお得!
可愛いし、男の気持ちも分かるし!」
と、美咲も冗談を口にすると、
隆文は「美咲は最強だな!」と、笑いながら言葉を口にしたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それからは、
美咲が悩む様子はなくなったー。
今でも自分のことを”男”だと思ってはいるようだったけれどー、
それでも普段は普通に女子として生活しているー。
”男”としての振る舞いをするのは
隆文と一緒に居る時だけー。
ただ、どんな振る舞いであっても、
やっぱり美咲は美咲でー、
本質的な優しい性格もそうだし、
気配りができるような部分も、
時々悪戯をしたり、冗談に乗ってくれたりする部分も、
同じだったー。
親友として、彼氏として、
隆文も美咲の側にいられることが嬉しかったー。
やがてー
二人は高校生活を終えて、大学へと進むー。
それでも、親友であり彼女である美咲との関係は変わらず、
通う大学は違えども、頻繁に連絡を取り合い、
よく会っていたー。
「ー”女子大生ごっこ”楽しいぜー?」
美咲は二人きりの時、そんな風に言っていたー。
「ーはははー、友達のこと、変な目で見るなよ?」
隆文がそう忠告すると、
美咲は「みないみない」と、笑いながら首を横に振ったー。
「ーでもさー、最近なんだかー、
だんだん、心も女子になって来てる気がするよー。
まぁ、隆文といる時以外、女の子してるからかもしれないけどさ」
美咲のそんな言葉に、隆文は思うー
”だんだん、憑依の影響が抜けて来ているのか”
それとも、”美咲の言う通り、隆文の前以外では女子として振る舞っているからなのか”
それは分からないー。
けれど、年数が経過するにつれて、美咲にあまり
強い違和感を感じることはなくなったー、ような気もするー。
さらに時は流れてー、
大学を卒業後、社会人2年目に突入したタイミングで、
二人は結婚し、その後、子供も生まれたー。
そしてー、
”お母さん”になってからは、美咲は”俺は男だ”とは
一切言わなくなったー。
隆文の前でもー。
「ーあ、ほら、パパが来たよ~!」
美咲が、子供に向かってそう言い放つー。
今日は家族三人で、休日の公園に遊びに来ているー
楽しそうに笑う美咲と息子の恭太(きょうた)ー。
駆け寄ってくる恭太を抱きかかえると、
横で微笑んでいる美咲のほうを見つめるー。
美咲は、完全に”元”に戻ったのかー、
それとも、母親になったから自分の中で気持ちを切り替えたのかー
それは、分からないー
けれどー、
美咲は、歪んでなどいなかったー。
”俺は男だ”と思い込むようになっても、美咲は、ちゃんと美咲だった。
隆文にとっての”天使”は、
今までも、そしてこれからも、ずっとずっと、天使のような存在だー。
だからこそー、そんな天使のような存在をー、
大切な美咲を、
彼女がこれからどんな風になったとしてもー
美咲を、そして授かった息子・恭太を
支えて行こうと、隆文は心の中で改めて誓うのだったー
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
”憑依されたあとの影響の部分”を描いた作品でした~!
”後の影響”を描いた作品はたまに書きますが
今回は”男だと思い込んでしまう”をテーマにして
書いてみました!★
ここまでお読み下さりありがとうございました~!
コメント