憑依されてしまった彼女ー。
何とか救出することには成功したものの、
彼女の精神は完全に”男”になってしまっていたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーみ、美咲(みさき)ーー!ま、待ってくれ!」
彼女の霧島 美咲(きりしま みさき)に対して
そう叫ぶのは、
美咲の彼氏・篠塚 隆文(しのづか たかふみ)ー。
二人はとても仲良しなカップルだったー。
だがー…しかしーー
「ーーうるせぇ!”俺”を女扱いしやがって!」
美咲が、その容姿とは真逆の信じられない口調で
そう叫びながら振り返るー。
「ーで…で、でもー…!」
隆文がそう言いながら、美咲のほうを指さすー。
綺麗な長い髪に、
女子の制服ー、
それに、胸の膨らみもあるー。
どう見ても、彼女は女子に見えるし、
その身体は正真正銘”女性”だー。
そして、今まで自分の性別のことで悩んでいたり、
そういった経験も全くなかったー。
それなのにー
「ーーチッーーー」
自分のスカートを見つめた美咲はとても不愉快そうに、
「ーーとにかく!!俺は男なんだよ!!」と、声を荒げるー。
そのまま立ち去っていく美咲ー。
どうしてー…?
どうしてこんなことにー!?
隆文は、表情を歪めながら”こんなこと”になるまでの
ことを思い出し始めたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1か月前ー
「ーあ、隆文おはよ~!」
”まだ”異変が起きる前の美咲は
いつも通り、隆文の姿を見つけると笑いながら手を振ったー。
隆文も穏やかに笑いながら「おはようー」と
返事を返すと、二人とも楽しそうに雑談を始めるー。
美咲と隆文は、恋人同士ー。
去年ー、高校1年の2学期の頃から付き合い始めて
今に至っているー。
美咲はとても可愛らしい見た目の持ち主でー、
周囲に友達も多いタイプー。
”見た目だけで”性格が悪いタイプでもなく、
性格もごく普通な感じー。周囲への気配りも上手だー。
この時の美咲は、
少なくとも”俺は男だ!”なんて言ってなかったしー、
心は男、というようなこともなかったー。
だがー、
”悲劇”の始まりはそのあとだったー。
「ーーー待ってたぜー」
「ーー!?」
バイト帰りー。
美咲は、バイト先の書店から出た直後に、
”男”に声を掛けられたー。
この書店を何度か利用した際に美咲に勝手に一目ぼれした男だー。
その男は、憑依薬を手に、
美咲の身体を奪おうとこの日、この場所にやってきていたのだー。
書店の建物の裏側の事務所の扉から出て来た美咲に声をかけて、
美咲にキスをする男ー。
「ーーー…ぁ…」
ビクッと震えた美咲は、ニヤリと笑みを浮かべると、
「ーー美咲ちゃんの身体、げ~っと」と、ペロリと唇を舐めて
そのまま歩き始めたー。
その日以降ー、
美咲は欲望のままに自分の身体を弄んだー。
部屋で喘ぎ狂いー、
学校を数日間休んだー
しかしー、
彼氏の隆文をはじめー、
クラスメイトたちは美咲の異変に気付くことはできなかったー。
それもそのはずー
学校には”体調不良”と伝わっていてー、
連絡をしても返事がそっけなかったり、返事がなかったりするのも
”調子が悪いのだろう”と、みんな判断してしまったのだー。
「ーーこの身体、ホントたまんねぇな!あっははははは♡」
美咲の部屋から、そんな声が響き渡るー。
見かねた親は、
美咲に事情を聞き、学校に行くように促すー。
美咲は面倒臭そうに反抗的な態度を取っていたもののー
その翌日は、嫌々学校へと向かったー。
そこでーー
隆文が異変に気付き、美咲を空き教室に呼び出すー。
すると、美咲は「うるせぇなぁ」と、
髪を掻きむしったあとー、
「ーお前の彼女は、俺が乗っ取ってるんだよー」と、
笑みを浮かべたー。
得意気に憑依のことを話しー、
「ーいつでもいい思いさせてやるからよー」
と、胸を揉みながら隆文を誘惑した美咲ー。
美咲に憑依した男は、隆文を誘惑して
共に美咲の身体で楽しめると考えたのだろうかー。
だが、隆文はドキッとしながらもその誘惑には乗らなかったー
「ふざけるな!美咲から出て行け!」
とー。
「ーーんだよ、ノリが悪いなー」
美咲は不機嫌そうにそう言うと、
「ーこの女は俺のものだってことを忘れるなよ」と
吐き捨てて、そのまま学校を早退してしまったー。
がーーーー
帰宅した美咲は、親に学校をサボって来たことを叱られ、
舌打ちをするー。
その後も数日間、学校に行かずに引きこもっていたものの、
美咲に憑依していた男は、
彼氏の隆文から連絡が入ったのを見て、
うんざりした様子でスマホを手に、
”こんな面倒臭い身体にいられるか!”と、叫んだー。
”いいさいいさ、お前の彼女の身体から出てってやるよー
代わりなんていくらでもいるし、
実家暮らしだとうるさくてたまんねぇー
邪魔して悪かったな”
男は、美咲の声でそう叫ぶと、
戸惑う隆文を他所に、美咲の身体を放棄ー、
部屋にぐったりと倒れ込んだ美咲を無視して、
そのまま美咲の身体から抜け出して姿を消したー。
”次は一人暮らしの女子大生かOLにしようー
親がいると面倒臭くてやってらんねぇ”
彼は、そんな風に思い、美咲を解放したのだったー。
こうして、美咲は
男が”美咲の立場”にうんざりしたことで、解放されたー。
今頃は別の誰かが被害に遭っているのだとは思うー。
だが、隆文にそれはどうすることもできずー、
ひとまず、美咲の無事を祈るばかりだったー。
そしてーー
1か月後の現在ー。
結果が”これ”だー。
「ーーき、霧島さんーそっち、男子トイレー」
女子が心配そうに言うと、
美咲は「俺は男だっての!」と、うんざりした様子で
叫びながらそのままトイレに向かうー。
「ーーー……」
戸惑う周囲ー。
隆文も同じだー。
美咲は”憑依されていた影響”で、
自分のことを男だと思い込んでしまっていたー。
もちろん、身体はそのまま”女”のままー。
しかし、そのことを指摘しても
”朝目が覚めたら女になっていたんだ!”だとか、
そんなことを繰り返すばかりー。
”今までの記憶”はあるようだし、
そのことを指摘したこともあるが、
記憶が混乱しているのか、激しく動揺したり、
一度は過呼吸を起こしてしまったため、
うかつに指摘することもできない状態だったー。
「ーーーー美咲ー…
頼む、俺の話をもう一度聞いてくれー」
隆文はこの日、意を決して
美咲にもう一度ハッキリと話をしようとしていたー。
憑依のこともそうー。
今までのこともそうー。
美咲がパニックを起こさないように、
色々な資料も作って、美咲にしっかりと話をしようとしていたー。
美咲は舌打ちをしながらも
「また俺が女とか言い出すんだろ?」と、
不満をあらわにするー。
長い髪を「あぁ!くそっ!」と、手でどけながら
隆文のほうを見つめるー。
「ーーと、とにかく話を聞いてほしいー頼むよー」
隆文がそう言うと、
美咲はため息をつきながらも
「まぁ、隆文の話だからなー」と、呟くー。
”隆文と恋人同士”だったためかー、
”俺は男だ!”となっているだけで、
隆文のことを敵視するようになっていたりだとか、
そういうことではないー。
”男の友達”として接して煽てればとても上機嫌だし、
嫌われているわけではないのだー。
「ーーー美咲の家でいいか?」
「ーーーまぁ…別にいいけど」
美咲のそんな言葉に、隆文は「ありがとう」と、
安堵の表情を浮かべー、
そのまま放課後、一旦帰宅して荷物を置いてから、
美咲の家へと足を運んだー。
美咲の部屋は以前は
”可愛い小物”が置かれていたり、色合いもなんとなく女子っぽい感じの
部屋だったものの、
今では、荒々しい感じになって、
カッコイイ感じのエアガンのようなものが多数並べられているー。
憑依していた男の趣味だろうかー、
それともー…
「ーーで、話ってー?」
美咲はそう言うと、ラフなシャツ姿でイスに座るー。
自分のことを完全に男だと思っていて、
学校では親や周囲から言われて”仕方がなく”今までの制服を
着ているものの、男子の制服を着ることが出来ない状況に
苛立っているのを何度か見かけたこともあるー。
「ーー今の美咲のこと、もう一度ちゃんと話をしておきたいんだー」
隆文がそう言い放つー。
”娘の状況”に困り果てた美咲の両親とも相談をして、
今日、こうして美咲に色々話をすることは、美咲の親の許可も取っているー。
「ーーーっ…またどうせ”美咲は男じゃない”とか言い出すんだろ?」
美咲はそう言いながら、うんざりとした様子で、
「大体、”美咲”って名前も気に入らねぇんだからー 俺は男だぞ?」と
美咲は可愛らしい声で言うー。
「ーーーと、とにかく、話を聞いてほしいー」
隆文がそう言うと、美咲は「わかったわかったー聞けばいいんだろ?」と
言いながら、話を聞く姿勢に入ったー。
少し間を置いて、隆文は持ってきた色々な資料を見せるー。
「ーーまず、今の美咲が自分のことを男だって思ってるのは
分かってるけどー…
美咲にも、当然、”今までの記憶”はあるだろ?」
隆文がそう言うと、美咲は「あぁ、生まれてから今までのことはちゃんと覚えてる」と
静かに頷くー。
「ーだったら、”自分が憑依されるまで”どう過ごして来たかも、
分かってるよな?」
既に、こういうことは今までにも何度か聞いてはいるー。
しかし、今日はあえて、改めてそれを聞いたー
「ーーーーーー……っっ…」
美咲は表情を歪めながら、少し動揺を見せるー。
”過去の自分”との整合性が合わずに混乱しているのか、
過去のことを聞くと、いつも様子がおかしくなるー。
「ーーーそ、その”憑依”された時に、身体が女になったんだろ!」
美咲はそう決めつけるようにして叫んだー。
”憑依されている最中”に”男に使われ続けていた脳”は、
何らかの異常を起こしてしまったのだろうー。
通常、”お前は男だ”なんて美咲が言われたとしても、
美咲自身、すぐに”何言ってるの?”と、否定するだろうし、
美咲の脳も、それを否定するー。
しかし、憑依されて美咲の脳が無防備な状態で、
美咲に憑依した男が色々”美咲の脳”で思考したことによって、
その男の考えが、美咲の脳に直接影響を与えてしまったー…
の、かもしれない、と美咲の診察をした医師は言ったのだと言うー。
「ーーー…そ、そう思う気持ちも分かるー
でも、ほらー。
これは憑依される前の美咲の写真ー」
高校の入学時の写真や、
デート時の写真を見せると、
美咲はそれを見つめながら表情を歪めるー
「ーーー」
不満そうにそれを見つめる美咲ー。
美咲の両親から借りた、美咲の小さい頃から
今に至るまでの身分を証明するような書類ー、
中学校までの卒業アルバムなども見せるー。
「ーーふざけんな!俺は男だぞ!」
それを見た美咲が声を荒げるー。
「ー美咲!落ち着いてくれー!
みんな、美咲のことを心配してるんだー!
揶揄ったり、嫌がらせ目的で、
男に”お前は女だ!”なんて言うために
こんなわざわざ放課後の時間をかけて
俺に何のメリットがあるー?
俺は、美咲のことを、助けたいんだー!
だから、取り乱す気持ちは分かるけどー
一回落ち着いてくれー!」
隆文が嘆願するようにして言うと、
美咲はイライラした様子で髪を掻きむしりながらー、
「分かってるよー。隆文はそんなことするやつじゃないって」
と、言葉を口にするー。
「ーでもさ、今の俺は、自分を”男”だと思ってるんだよー。
俺の気持ちも分かってくれよー」
美咲が少し冷静にそう言うと、
「ー隆文だって、もしも急に”隆文は女なんだ!”って言われたら困るだろ?」
と、言葉を口にするー。
隆文は「それも分かってるー。でも、とにかく冷静に話し合おうー」と
言葉を口にすると、美咲は「分かったよー」と、不満そうに頬を膨らませながら
目を逸らしたー。
”確かに、俺がいきなり”お前は女だ!”って言われたら困惑するけどー
…それとはちょっと違うんだよなー”
隆文の場合、元々男だからそう言われれば確かに困るー。
が、美咲の場合は、事情が違うー。美咲の場合は本当に女だし、
もともと自分が男になりたかったとか、男だと思っているとか
そういう感じならともかく、
今の美咲の状態は憑依の影響ー。
美咲の意思とは無関係に捻じ曲げられた状態だー。
隆文は内心でそう思いながらも、美咲も好きでこうなってるわけじゃないだろうしー、と
それ以上は指摘しなかったー。
「ーーーーーー」
少し深呼吸をすると、隆文は再び”俺は男だ”と思い込んでしまった
美咲のほうを見つめ、言葉を続けたー
②へ続く
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”憑依されていた影響”で
自分を男だと思い込んでしまった状態の彼女ー…
どうなっていくのかは、また明日のお楽しみデス~!
今日もありがとうございました~!
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