<皮>異世界オフィス②~恐怖~

とある会社のオフィスが異世界に飛ばされてしまったー。

しかも、その異世界には
人を皮にして乗っ取る化け物が徘徊していたー…

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北川 啓次郎(きたがわ けいじろう) 
部長

三田村 聡介(みたむら そうすけ)
部長の同期。やる気がないおじさん

中里 美雪(なかざと みゆき)
入社2年目の若手女性社員

高坂 香苗(こうさか かなえ)
20代後半の頼れる女性社員。誰にでも優しい

倉木 泰明(くらき やすあき)
どこか影のある30代後半男性社員。現在行方不明。

大久保 涼子(おおくぼ りょうこ)
眼鏡をかけた無表情の女性社員

鹿島 武三(かじま たけぞう)
やる気のない無気力な若手男性社員

茂木 文江(もぎ ふみえ)
気さくなおばさん社員。化け物に皮にされて乗っ取られてしまった

西森 恵美(にしもり めぐみ)
入社3年目の社員。ギャルのような風貌と言動の持ち主。現在行方不明

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「ーーも、茂木さん!と、止まるんだ!」

北川部長が叫ぶー

だがー片目が赤く光りー、
指を1本が植物のツタのような状態に変形している文江は、
とても”正気”とは思えないー

「ーーうふふふふふふふふー
 わたし、今まで生きて来てこんなに気持ちイイと感じたのは
 はじめてよぉ♡」

おばさん社員・文江がうっとりとした様子で叫ぶー

普段の喋り方とはまるで違うー。

その”言葉”からは、
文江が自分の意志で発言しているのかー
それとも”文江を着た”人型の化け物の言葉なのかー
それも、判断がつかなかったー

「ーーみんなも、仲間にしてあげるぅぅぅぅ」
文江はそう言うと、ツタのようなものを伸ばして、
美雪ら6人に襲い掛かるー

「オフィスの方に戻れ!早く!」
瞬時に北川部長がそう判断をして叫ぶと、
三田村、美雪、香苗、武三、涼子の5人がオフィスに向かって走り出すー。

北川部長含む6人は、
オフィスのすぐ側にいるー。

引き返して、窓の部分からオフィスの中に戻ることはたやすいー

「あらあらあらあらァ」
狂った声を出しながら文江が走って追いかけて来るー

「ひぃっ!?」
無気力な男性社員・武三が悲鳴を上げるー。

北川部長の同期、三田村が最初にオフィスに入るー

「ー窓を閉めて、鍵をかけろ!」
三田村が叫ぶと、2番目に飛び込んだ涼子が、窓の一つを閉めて
鍵をかけるー。

窓は3か所ー
社員たちが順番に窓枠を超えてオフィス内に入っていくー

全員がオフィス内に戻ったらひとまず窓を閉めて、
状況を整理しよう、とそういう判断だー

北川部長が、美雪がオフィスに無事にたどり着くー

そして、5番目に頼れる先輩女性・香苗もたどり着くー

残り1か所の窓を除き、戸締りをして鍵をかけるー。

北川部長が「鹿島!急げ!」
と、あと一人ー
無気力な若手男性社員・武三に向かって叫ぶー

だがー
武三の背後には、乗っ取られた文江が迫っているー

しかしー
何とか武三はオフィスの窓のすぐ側まで
たどり着きー
危機一髪ー間に合いそうになったその時だったー

「ーーーもう無理!」
頼れる先輩女性の香苗が、窓枠に手をついた武三を押し飛ばして
そのまま窓を閉め、鍵を閉めるー

「え…せ、先輩!?鹿島さんが!」
美雪が慌てて叫ぶー

だがー
香苗は美雪の言葉を聞かずー
鍵を閉めて窓を押さえたままー

「おい!高坂!何やってんだ!」
やる気のないおじさん社員・三田村が叫び、
別の窓を開けようとするもー
外に突き飛ばされた若手男性社員・武三は、
乗っ取られた文江に押し倒されてー
文江にツタのようなものをぶすっと、刺されてしまうー

「いや…いやだ…たすけて…!たすけて!」
オフィスの方に向かって叫ぶ武三ー

だが、武三がもがくのもむなしくー
武三は文江によって”皮”にされてしまったー

そこにー
先程、おばさん社員の文江を乗っ取った
”人型の化け物”の仲間がやってくるー

同じような姿をしたその化け物が、
皮になった武三を”着る”と、武三も不気味な笑みを浮かべたー

オフィスのほうを見つめる文江と武三ー。

二人はー
”謎の化け物”に乗っ取られてしまったー

呆然とするオフィス内に逃げ込んだ5人ー

「ーせ、先輩ー…どうして!」
いつも頼れる先輩ー…そう思っていた香苗が
突然、仲間を突き飛ばして見捨てるような行為に出たことに
美雪は驚き、問い詰めるー

「わたしだって、あんな風になりたくないの!
 鹿島くんが、のろのろしてたからいけないの!」

香苗が声を荒げたのを始めて聞いたー。

不安に思いながら美雪が「せ、先輩ー…でも!」と言うと
「ーーーわたしが間違ってるって言いたいの?」と、
睨みつけるようにして香苗が美雪に迫って来るー

「ーーえ…ち、違いますーで、でもー…」
美雪は困惑するー

香苗はいつも、誰にでも優しく、誰の相談も聞いてくれて
気配りもできてーー
そんな、理想的な先輩だったー

けれど、今はー

「ーーーでも???
 ”でも”
 何だって言うの?

 文句があるなら言えばいいじゃん!」

香苗が声を荒げるー

「せ、先輩ー」
美雪は、そんな”先輩”の取り乱し方に、思わず泣きそうになってしまうー

「ーーー何なの!?文句があるなら言えよ!!ねぇ!」
香苗が美雪を怒鳴りつけるー

「おい!やめろ!」
おじさん社員の三田村が叫ぶと、香苗は急に泣き出して何かを
喚きながらオフィスの奥の方に行ってしまうー。

”恐怖”が、香苗を狂わせてしまったー
異常事態では、
”それ”そのものだけではなく、”理性を失った人間”も脅威となるー

「ーーみんな、ピリピリする気持ちは分かるー
 でも、落ち着くんだー」

北川部長がそう言うと、三田村は「悪い」と、頭を下げたものの
香苗は、何も答えなかったー。

「ーーーー」
いつも無表情で仕事をすばやくこなす女性社員・涼子は
そんな争いには関わらずに、スマホを操作しているー

”異世界”に飛ばされたオフィス4階には
電気も通っていないが
少なくともスマホは、充電がなくなるまでは
利用することが出来るー。

残りの充電を使って、外部に連絡を取ろうとしている様子だったー。

「ーー何かできそうか?」
北川部長がそんな涼子に確認するー

しかし、涼子は表情一つ変えずに、
「いえ…何も」と、言葉を口にしたー。

美雪は、不安そうに思いながら
窓の外ー…

”異界の森”を見つめるー

するとー
乗っ取られた文江と武三が
ニヤニヤしながら”オフィスから離れていく”のが
見えたー。

「ーーーー」
美雪は”早く帰りたいよ…”と、思いながらも、北川部長たちの方に向かい、
”わたしに何かできることはありませんか?”と、声をかけたー

仲間たちの力になりたいー、という想いももちろんあったー。
だが、それ以上にー
”何かをしていないと”先輩の香苗のように
狂ってしまいそうだったからー…

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「ーーーー…くそっ」

どこか影のある30代後半の男性社員・倉木 泰明は
表情を歪めながら、異世界の森の中を歩いていたー。

異世界に飛ばされたあと、泰明は一番早く目を覚ましー、
残りの8人が目を覚ますよりも前に、
オフィスの外に出て、”探索”を始めていたー。

この世界に飛ばされる直前ー

「それでは、俺は失礼しますよ」

とー、泰明はいち早くオフィスから立ち去ろうとしていたー。

だが、結果はー
”泰明も”この世界に飛ばされてしまったー

「ーーくそっ…”話”が違うじゃないかー」
泰明は、困惑の表情を浮かべるー。

会社内の別の部署ー
”新技術開発”などを担う”開発部”の部長・桑島(くわしま)とのやり取りを思い出すー。

「ーーふざけやがってー…最初から”俺ごと”こうするつもりだったのかー」
泰明はそう呟くと、
「ーー必ずそっちに戻って代償を払わせてやるー」と、
不満そうに呟きながら森を歩き続けるー

”歪み”を見つけなくてはならないー

”それ”が閉じられてしまう前にー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「えへへへへー…人間ってなんかウケるんだけどぉ~♡」
おばさん社員・文江と一緒に一足先にオフィスで目覚めー、
文江と共に”外”の森を探索していたギャルな社員の恵美ー。

恵美も既に異世界の森の化け物に”皮”にされて
乗っ取られてしまっていたー

文江と共に、化け物に襲撃されて散開ー、
文江は、オフィスまでたどり着き、美雪らの前で乗っ取られー、
恵美は別の場所で、それぞれ化け物に乗っ取られてしまったー

恵美の記憶をなぞっているのかー、
それとも影響を受けているのか
ギャルのような口調で喋りながら
恵美は自分の胸を揉みー、そして、服を雑に脱いで下着を
興味深そうに見つめているー

「何なんだろ~?この膨らんでるのーうふふふふふ♡」
恵美は、胸を指でつついたりして、
気持ち良さそうに笑みを浮かべるー

やがて、夢中になって胸を揉みながらー
ゾクゾクする身体に、さらに好奇心を抱きー
あまりの興奮にアソコが濡れると、
その様子を見つめながら
「ーーうわぁ♡ なにこれ♡ すっごぉ~い♡」と、
嬉しそうに笑みを浮かべたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

オフィスに”籠城”状態で、
美雪、香苗、北川部長、三田村、涼子の5人は
生活を続けていたー。

外部への連絡を試みる涼子ー。
だが、やはり外部に連絡は取ることが出来ず
無表情で「ダメですね。完全に外界から隔離された状態です」と呟いたー

「ーはぁ~~~~」
ため息をつきながら、おじさん社員の三田村が
頭を掻きむしるー。

「ーーー…死にたくない!」
そんなため息をかき消すようにー
頭を抱えながら、美雪にとって”頼れる先輩社員”の香苗が
いつもの香苗とはまるで別人のように
ヒステリックな声を出すー

「死にたくないー!わたし、死にたくない!」
香苗が泣きながら身体を震わせるー

”乗っ取られた文江”の姿を思い出して
香苗は「冗談じゃないー」と、何度も何度も言葉を口にするー。

「ー早く何とかしなさいよ!」
涼子に八つ当たりを始める香苗ー

「先輩ー……お願いですからー落ち着いてー」
美雪がたまらず、嘆願するようにして香苗に言い放つー

「あんたは黙ってて!
 この役立たず!」

香苗のそんな言葉が、美雪に突き刺さるー

”いつも優しい先輩の姿”

あれは、偽りだったのだろうかー

”この”姿が、香苗の本性なのだろうかー。
人は有事の際に”本当の素顔が見える”とも言うー。

香苗は、本来こんな人なのだろうかー。
そんな風にも思ってしまうー。

「ーーーーー哀れね」
涼子がふっと、笑ったー

「ーーあ?」
香苗が不愉快そうに表情を歪めるー。

「ーー今、何て言ったの?」
先輩である涼子に対して突っかかる香苗ー。
普段は敬語なのだが、それすらも忘れているー。

「ーーこういう事態で、あなたみたいのがいると
 全員にパニックが伝染するしー
 そもそも迷惑なの。

 みんな怖いのは同じー。
 それなのに一人でキーキー喚いて、
 周りのことを少しは考えたらどう?

 全員で知恵を振り絞らないと、
 こういう状況を生き延びることはできないわよ」

涼子はそれだけ言うと、
「分かったら少しは自分がどれだけ周りに迷惑を
 かけているか、考えなさいー」と、
言葉を付け加えて、
あとは”充電が残りわずか”のスマホに視線を映し、
何も言わなかったー。

北川部長も、三田村も、何も言わなかったー。

言葉にはしなかったものの、
”香苗のパニックを起こした状態”を
苦々しく思っていたのだろうー。

涼子の指摘で、香苗が少しでも良い方向に向かえばー。

そんな風に思っているように、見えたー。

「ーーーー…」
香苗は歯ぎしりをしながらも、反論できずに大人しくなるー。

「ーーー…北川、いつまでもこうしてるわけにはいかねぇぞ?
 どうするんだ?」

北川部長の同期である三田村が小声でそう言うと
「分かってる」と、頷くー。

「ーけど、外は危険だー。
 食料も多くはないが、ある程度はあるー
 しばらくは焦らずに行動した方がいい」

北川部長のそんな言葉に、三田村は少し表情を曇らせながらも
「まぁ……ここにいても打開策は見つかりそうにないがー…
 でも、希望がないわけじゃないしなー」と、
ため息をつきながら、北川部長の考えに賛同したー。

「ーーーーーー」
美雪は不安そうにため息をつくー。

”わたしたちがいた4階ごと、他の場所にー…
 変な世界に飛ばされちゃった”

そんな風に、今の状況を考えているー

だが、もしそうだとすれば
”帰る方法”はーーー

結局、この日も”どうにかする方法”は見つからないままー

夜を迎えたー

「ーーーーーー」
5人の社員が、オフィスのそれぞれの場所で睡眠をとるー。

だがー

「ーーあははははっ!あははははははっ!」

やかましい笑い声が突然聞こえて来たー

美雪がビクッとして身体を起こすー。
一瞬あの化け物に乗っ取られた”誰か”が、このオフィスに
入って来たのではないか、と、そう思ったのだー

だが、すぐにそうではないことに気付くー。

「ーーー…!」
同じく、狂った笑い声を聞いて、オフィスの休憩室で寝ていた三田村が
飛び出してくると、美雪と目を合わせながら首を傾げるー

二人はー、息を潜めて笑い声がする方向に向かうー

するとー
そこではーーー

「ーーちょ…!?」

「ーーお、おい!!!」

美雪も、三田村も思わず叫んだー

「ーーーあははははははっ!
 クールを気取っちゃって!
 どうせ!!どうせ!みんな死ぬのよ!
 あははははははっ!」

そこではー
ついに”恐怖から気が触れた”先輩社員の香苗が、
オフィスにあった鉄の棒を手に、何度も何度も
寝ていた会議スペースで寝ていた無表情の女性社員・涼子を
思いっきり殴りつけていたー

「ーーひっ…」
美雪は思わず泣きそうになりながら尻餅をつくー。

香苗に殴られている涼子は”明らかに”死んでいるー。

「ーー見るな」
普段はやる気のないおじさん社員・三田村が
そう言いながら、美雪の視界を遮るー。

「ーーみんなで、仲良く、死にましょ?
 あはははははっ!」

涼子を無残な姿に変えた香苗はそう言うとー
オフィスにあったマッチを手に、それに火をつけーー

「おい…やめっ!!!」
叫ぶ三田村を無視して、オフィスに火をつけたー

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”元の世界ー”

「ーーー…何なんだよ、こりゃー」

「分かりませんー」

「”4階”だけ消えるなんてー」

オフィスでは、どよめきが起きていたー
”4階”部分だけが謎の光に包まれてー
”消滅”したー

ビルは崩れなかったが4階だけ、
まるで”建設中の建物”のように、何も無くなってしまいー、
4階にいた9人の社員も消息を絶っていたー

「ーーーーー」

そんな様子を見つめながら
開発部の部長・桑島部長は、無言で静かに笑みを浮かべたー

③へ続く

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「異世界オフィス」は憑依空間のお話では珍しく
”全4話”デス~!

あと2話あるので、楽しんでくださいネ~!

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皮<異世界オフィス>

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