<皮>異世界オフィス③~真相~

異世界にオフィスごと飛ばされてしまった社員たち。

異世界を徘徊する人型の化け物たちに
社員が次々と”皮”にされて乗っ取られていく中、
残されたメンバーたちは…?

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北川 啓次郎(きたがわ けいじろう) 
部長。

三田村 聡介(みたむら そうすけ)
部長の同期。やる気がないおじさん。

中里 美雪(なかざと みゆき)
入社2年目の若手女性社員。

高坂 香苗(こうさか かなえ)
20代後半の頼れる女性社員。誰にでも優しい性格だったものの
パニックを起こして正気を失う。

倉木 泰明(くらき やすあき)
どこか影のある30代後半男性社員。単独行動中。

大久保 涼子(おおくぼ りょうこ)
眼鏡をかけた無表情の女性社員。
パニックを起こした香苗に命を奪われた。

鹿島 武三(かじま たけぞう)
やる気のない無気力な若手男性社員。化け物に乗っ取られてしまった。

茂木 文江(もぎ ふみえ)
気さくなおばさん社員。化け物に皮にされて乗っ取られてしまった

西森 恵美(にしもり めぐみ)
入社3年目の社員。ギャルのような風貌と言動の持ち主。
化け物に乗っ取られてしまった。

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異世界に飛ばされたオフィスの4階部分が、炎上するー

”4階”と言っても、この世界に飛ばされたのは
オフィスの4階部分だけのため、
4階部分は地面の上に存在するー
そんな状態だー

「ーあはははっ!どうせ死ぬなら!みんなで死のうよ!あははははっ!」

優しかった先輩社員・香苗は
恐怖と不安から狂ってしまったー。

先輩からも後輩からも慕われていた香苗ー。
しかし、彼女自身は、”自分の不安やストレスを全部自分で抱え込んでしまう”タイプで、
この異常事態を前に、それが爆発しておかしくなってしまったー。

”こんなこと”が起きなければ香苗はずっと”優しい先輩”だったのかもしれないー

けれどー

「ーくそっ!ふざけやがって!」
北川部長の同期・三田村が悪態をつきながら窓ガラスを開けて
脱出しようとするー

「先輩!先輩!」
香苗を慕っていた入社2年目の美雪は、”それでも”香苗を助けに引き返そうとするー

北川部長が窓ガラスを破壊しー、三田村は舌打ちをしながら
美雪の方に向かうー

炎に包まれたオフィスの中から香苗を救いに引き返そうとする
美雪を見て、三田村は「馬鹿野郎!お前も死ぬぞ!」と、叫ぶー。

美雪は泣きながら「でも!先輩が!」と、必死に叫び返すー。

「もう助からない!」
さらに大声で叫ぶ三田村ー

しかし、それでも美雪は香苗を助けに行く、と言ってきかないー。

「ーあぁ、くそっ!」
三田村は舌打ちをするとー、突然美雪にパンチを繰り出しー、
美雪はそのまま意識を失ったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーーーーー」

「ーーーーぁ…」

美雪が目を覚ますと、
そこは、”異世界の森の中”だったー。

「ー目、覚めたか」
北村部長の同期のおじさんー、三田村の声が響くー

「ーわ、わたしはー…」
美雪が戸惑いながら言うと、
三田村は「ーあのままじゃお前も死ぬところだった。
だから手荒な真似をした。悪いな」と、だけ呟いて、
オフィスから持ち出した煙草を手に、ため息をついたー。

「ーーーす…すみません」
美雪は表情を曇らせるー。

確かに、あの状況で先輩を助け出すことはもうできなかったー。
ここは、いつもはいい加減な三田村さんに感謝しなければならないー。

いつもやる気がなく、皮肉を口にしたり、不真面目な行動が目立つー
そんな感じのおじさんだが、今は何となく、頼りになるー、
そんな気がしたー

「ーしかし、ここはどこなんだー」
周辺の様子を見に行っていた北川部長が戻ってくると、
美雪が目を覚ましたことに気付き、
「お、中里ーよかった」と、笑みを浮かべたー。

「ーー…ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
美雪が、オフィスの中に残ろうとしたことを詫びると、
北川部長は優しい口調で
「誰だって、混乱するさー。気にするな」と、だけ呟いたー。

「ーーで、どうする?」
三田村が、口を挟むー。

「ーー……どうするって言われてもな…
 安全地帯も無くなってしまったしー、
 ”ここ”がどこなのかも分からないー。

 他に人間がいないかどうか、と思って
 周囲を見渡してみたが、木々がどこまでも生い茂ってて
 全体がまるで山のような感じだー」

北川部長がそこまで言うと、
「ーまだ倉木と西森ちゃんは無事かもしれない」と、
三田村が言葉を口にするー。

倉木泰明と
西森恵美ー。

二人は北川部長たちが目覚める前に、
意識を取り戻し、先にオフィスの外に出た様子で、
その行方を北川部長たち三人は知らないー。

ギャルな女性社員・恵美は既に、北川部長らの知らない場所で
化け物に皮にされて乗っ取られてしまっているものの、
泰明はまだ無事で、別の場所で行動を続けているー。

そんな時だったー。

ガサッ、とオフィスがあった方向の木々が揺れるー

「ー!」
美雪が表情を歪めるー。

北川部長と三田村の二人も気づいた様子だったー。

そしてーー
その奥から出て来たのはーーー

火傷をしたのか、痛々しい様子のーー
美雪が慕う先輩・香苗だったー

「せ、先輩ー!?」
美雪が思わず叫ぶと、香苗はにっこりと笑みを浮かべたー

パニックに陥った香苗が放火して、炎上したオフィスー。
香苗はてっきりそこで死んだー、とばかり思っていたが
どうやら無事だったのだろうかー。

だがーその様子はおかしかったー

「みんな…わたしを、一人にしないでー
 わたしを、一人しないでー
 えへっ…えへっへっへー♡」

少しぎこちない口調で、そう言うと、香苗の後頭部が
ぱっくりと割れてー
中からあの、人型で、植物と怪人が混じったような化け物ー…
おばさん社員の文江や、無気力な男性社員・武三を乗っ取った
あの化け物がー少しだけ顔を見せたのだー

「ーーあらあら… えへへへ」
”脱げた着ぐるみ”をまた着直すかのように、香苗が
自分の後頭部のあたりを触るー

「せ、せ、先輩ー…」
美雪が震えるー。

「ーおい!中里!離れろ!そいつはもうー化け物だ!」
少し離れた場所にいる三田村が叫ぶー。

だがー、美雪は恐怖からか、足がすくんで動かなかったー。

オフィスで死ぬはずだった香苗は、
その場にやってきた”化け物”に皮にされて、
乗っ取られてしまったー

そして今、こうして美雪らの前に姿を現しているー。

どうやら”人間を乗っ取る”この化け物たちはー
生前の人間の人格や行動もある程度模した行動をする様子だったー

もちろん、それは本人ではないし、
本人の本来の行動とは異なる行動をしているのだけれどもー。

「ーーー美雪ちゃぁ~ん♡ えへへへへ…
 いっしょに、なろ~♡」

香苗がニヤニヤしながらそう叫ぶー

その時だったー

「ーうらァ!」
突然、別の木陰から姿を現した人影が、香苗を木の棒で殴りつけたー

「ぁ…」
尻餅をついて、恐怖から動けない状況になっていた美雪が
顔を上げると、
そこには行方不明だった、”少し影のある男性社員”倉木泰明の姿があったー

「行くぞ!」
泰明がそう叫び、美雪の手を掴むと、
北川部長と三田村も「倉木!」と叫びながら
そのまま走り出すー。

頭から血を流してもなお、追って来る香苗は、
もはや”ゾンビ”のようにすら見えたー

「くそっ!」
逃げた先は、崖ー。

崖の下も一面森ばかり。

本当に、ここはどこなのだろうー。

そんな風に思っていると、背後から
香苗が姿を現したー

「どうして、どうしてわたしを一人にするのぉぉぉぉぉぉぉ?」

笑いながら泣いてー、そして怒っているー。

香苗を乗っ取った化け物が、本当にそう思っているかも定かではなくー
単に、香苗の記憶・人格・意識ーそう言ったものを”模した”言葉を
適当に口にしているだけかもしれないー

「あんなに、可愛がってあげたのにぃぃぃ」
香苗が美雪のほうを指さすー

もう、逃げ場もないー

だがーーー
突進してきた香苗の腕を無理やり掴んだ泰明はー
そのまま香苗を、崖下のほうめがけてー
思いっきり投げ飛ばしたー

うなり声をあげながら、崖下の木々の中に消えていく香苗ー。

「ーー先輩…」
美雪はそんな姿を泣きながら見つめるー

泰明は、そんな美雪に特に言葉をかけずー
北川部長と三田村のほうを見つめるとー
「ーーーーここは”異世界”だー」と、言葉を口にしたー

それは何となくわかっているー
だが、こうも”断言する口調”で言われてしまってはー
こう聞くしかなかったー。

北川部長がそれを聞くー。

「ーー倉木ーお前”何か”知ってるのか?」
とー。

泰明は「ーーー…申し訳ない」と、頭を下げると、
こうなるに至った事実を話し始めたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

オフィスの4階部分がこうして”異世界”に飛ばされてしまったのは、
北川部長らの部署とは別の部署・開発部が
秘密裏に開発していた”次元転送技術”を用いた転送装置に
よるものなのだと言うー。

以前、北川部長は開発部の”不正”を指摘したことがあったー。
北川部長は真面目な性格で、以前にも他の部署の不正を指摘したり、
例え身内であっても不正をした者に対してはしっかりと処罰を与えたり、
そういったことをこれまでも何度か、行っていたー

開発部の不正を指摘した際には、部長の桑島が誤解だと主張し、
あの手この手を使い、結局うやむやになってはいたものの、
どうやら、”不正”は事実で、桑島部長はそれを指摘した北川部長を
恨んでいる様子だったー

「ーそれで、俺たちをその次元転送装置とやらでここに飛ばした、と?」
北川部長がそう言うと、泰明は静かに頷いたー。

「ー邪魔者がいなくなるー、と、そう言ってましたー。
 また、同期でありながら北川部長の方が成果を上げていることにも
 嫉妬していたそうです」

”異世界に飛ばされる直前”の謎の光や音は、
その転送装置によるものなのだと言うー。

泰明の言葉に、北川部長は表情を歪めるー

「ー桑島は昔から優秀だったがー
 技術をおかしな方向に使おうとするから危険だと思ってたけどー
 まさか、ここまでとはなー」

北川部長らが勤務する会社は、もちろんそんな危険なものを作る会社ではない。
だが、桑島部長の部署は昔から”会社の技術でおかしなものを作っている”という
噂はあったー

「で…ここは、どこなんだ?」

その言葉に、泰明は首を振るー

「分かりませんー
 転送装置はまだ開発の最中で、
 ”行先”についてまでは指定できない、とー。

 ただ、俺たちが住んでいた世界とは異なる
 無数の異世界が膨大な数存在していて、
 そのどこかに飛ばされた、と思われますー。

 ーーまぁ…なので、今、俺たちがいるこの世界が
 ”どういう世界”なのかは知りようがありませんねー」

泰明がそう呟くー。

とは言え、安全な世界でないことは間違いないー。
実際に文江や武三らが乗っ取られてしまったりしているのだからー。

「ーーでもよ、何でお前がそれを知ってるー?」
黙って話を聞いていた三田村が口を開くー
美雪も不安そうに泰明を見つめるー

「ーーーーーー…」
泰明は静かに目を閉じると、観念した様子で呟いたー

「ー俺は、桑島部長のグルですからー」
とー。

「あ?」
三田村が怒りを露わにするー。

少し影のある男性社員・泰明は
開発部の桑島部長と結託、”転送装置”の効力を発揮するための
小型の装置を、北川部長らの部署に取りつけー、
また、北川部長らターゲットが”ちゃんとオフィスの4階にいるかどうか”
合図を出す役割を担っていたー。

「ーー……子供が病気でねー。
 治療費も含めて全て面倒を見てやると言われてー
 ついー…」

泰明の言葉に、三田村が「テメェ!」と叫ぶも、
北川部長は「やめておけ」と、三田村をたしなめたー。

「ーー本当に、申し訳ないー」
泰明はその場に土下座するー。

その上で、さらに言葉を続けたー

桑島部長との”約束”では、泰明が4階から出たあとに
転送装置を起動することになっていたのだが、
桑島部長は泰明を裏切り、泰明が4階から出る前に、
転送装置を起動ー、
泰明ごと、オフィスの4階を別次元に飛ばしたのだと言う。

「ーーーなるほどなー。報酬などハナから払う気はなかったってわけだ」
三田村が言うと、泰明はしょんぼりした様子で頷いたー

「ーーー……元の世界に戻る方法は、あるんですか?」
美雪が不安そうに聞くと、泰明は頷いたー

「ー”時空を引き裂いて”別世界に何かを飛ばす装置ー…
 
 桑島部長によれば、時空を切り裂く際に大きな力を使うため
 しばらくの間、元の世界と通じる”裂け目”が、できると言ってたー。

 その”裂け目”に飛び込めばー…
 ”おそらく”戻れると思うー

 ただー……… 
 ”どのぐらいの時間”でそれが閉じられてしまうのかは分からないー
 もう手遅れかもしれないし、まだ、間に合うかもしれない」

そんな言葉に、北川部長は「ーーじゃあ…早くそれを見つけないと」と、
言葉を口にしたー

頷く泰明ー

”元の世界に戻るための時空の裂け目”

それがまだ、残っていることを信じー、
4人は異世界の森の中を走り始めたー

④へ続く

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コメント

元々スケジュールに記載されている通り、
珍しく④まであるお話デス~!

明日の最終回もぜひ、楽しんでくださいネ~!

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