<皮>異世界オフィス④~次元の裂け目~(完)

オフィスごと異世界に飛ばされた真相を知った
社員たちー。

元の世界に戻るために、社員たちは異世界を
奔走するー。

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北川 啓次郎(きたがわ けいじろう) 
部長。

三田村 聡介(みたむら そうすけ)
部長の同期。やる気がないおじさん。

中里 美雪(なかざと みゆき)
入社2年目の若手女性社員。

高坂 香苗(こうさか かなえ)
20代後半の頼れる女性社員。パニックを起こして発狂、オフィスを放火した。
その後、化け物に乗っ取られてしまう。

倉木 泰明(くらき やすあき)
どこか影のある30代後半男性社員。部長らと合流し、真相を語った。

大久保 涼子(おおくぼ りょうこ)
眼鏡をかけた無表情の女性社員。
パニックを起こした香苗に命を奪われた。

鹿島 武三(かじま たけぞう)
やる気のない無気力な若手男性社員。化け物に乗っ取られてしまった。

茂木 文江(もぎ ふみえ)
気さくなおばさん社員。化け物に皮にされて乗っ取られてしまった

西森 恵美(にしもり めぐみ)
入社3年目の社員。ギャルのような風貌と言動の持ち主。
化け物に乗っ取られてしまった。

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異世界の中を歩き回る4人ー

「きれい~…」
美雪が、綺麗な花を見つけて微笑むー。

「ー触るなよ?どんな花だか分からねぇんだから」
三田村がそう釘を刺すと、美雪は「わ、分かってますよ!」と、
苦笑いしながら返事をするー

この異世界が”どんな世界”なのかは不明だー。
どのぐらいの広さなのかも含め、何もかもが分からないー。

だが、今のところ”意思疎通のできる人間らしき生命体”はいないー。

あの人型の化け物は、人間を乗っ取り、
乗っ取った人間の人格を模して喋っているだけに見えるし、
とても”話し合い”ができるとは思えないー。

もちろんー
”たまたま”オフィスが飛ばされたこの場所が森なだけで、
森から出れば町があるのかもしれないしー、
逆に、この世界全体がこういう森の可能性だってあるー。

だが、それを調べていることはできないー

「ーそもそも、こんな広い場所の中から次元の裂け目ー?
 みたいなやつは見つけることなんてできるのか?」

北川部長が前に進みながら言うと、
「ーーこの世界がどのぐらい広いのかは分かりませんが、
 オフィスがこの辺に飛ばされたということは
 そう離れてない場所にあるはずです」と、泰明は言葉を口にしたー

「もっともー”まだ”裂け目が閉じてなければ、ですが」
泰明のその言葉に、美雪は不安を覚えるー

もしも、”既に”その次元の裂け目とやらが閉じていた場合ー
もう、元の世界にはーー

「ーーみ~~つけた♡」

その時だったー
背後から女の声がしたー

今、行動している4人はー
美雪、北川部長、三田村、そして泰明の4人ー
美雪の他には男しかいないー

が、聞こえたのはー女のー

「ーひっ!?」
振り返った美雪は、悲鳴を上げるー

「ーわたしを一人にしちゃ、イヤですよぉぉお???
 ふふふふふふ」

そう笑うのはー
先程、泰明に崖下に投げ飛ばされた、
”頼れる先輩女性”香苗だったー

頭から血を流しー、ボロボロの状態で笑う香苗ー

「いつもいつもいつもいつもいつもー
 頑張って来たわたしを、おいていくんですかああああああ???」

香苗がヒクヒクと顔を震わせながら言うー

「ー人間ってぇ…薄情だなぁあああああああ!」
香苗はそう言うと、4人に向かって襲い掛かって来たー。

「せ、先輩ー!」
泣きそうになりながら、美雪が叫ぶー

けれど、”やはり”この人はもう”先輩”じゃないー
いくらパニックになっていたとしても、
”人間って薄情”とか、まるで自分が人間じゃないような言い方はしないはずー。

今の香苗は、化け物に完全に支配されていてー
その化け物が香苗の脳にある知識や性格を読み取り、それを模して
喋っているだけー

「ーーーくそっ…!」
三田村が、香苗を蹴り飛ばすー

「逃げるぞ!」
北川部長がそう叫んで、森の奥に進むー

4人とも、必死に走ったー

だがー

「ーあ~~~ 部長ぉ~♡」
おばさん社員・文江と、
その横には、無気力な男性社員・恵三ー

さらにはー

「ーに、西森さんー」
美雪は悲しそうな表情を浮かべるー

ギャルな女性社員・恵美ー。
とっくに彼女も皮にされて支配されていたものの、
美雪たちが”この世界に来てから”恵美を見るのは初めてだったー

既に、恵美の様子も普通じゃないー

下着姿でニヤニヤとよろめく恵美を見てー

”もしかしたら無事かもしれない”という希望は
打ち砕かれたー

「人間って、すっごいよねぇ♡
 だって……あたし、さっきから何度も何度もイってー えへへへ♡」

”化け物”にとっては人間の身体は新鮮でー、
恵美の身体で快感を味わった化け物はその虜に
なってしまったー、ということだろうかー。

「ーーーーおいおいおいー」
三田村は下着姿の恵美から目を逸らすー
もう、恵美の意識は失われているのだろうがー、
それでも何となく気が引けたー。

「おい!」
泰明が声を出すー

背後から植物と融合したような人型の化け物が
ぞろぞろと姿を現すー

10体以上はいるだろうかー。

「ーーあたしが気持ちよくしてるの見たら~
 みんなも、”にんげん”が欲しいってー
 えへへへへー
 マジで気持ちイイからさー
 みんなも、あたしみたいになろっ?」

恵美が笑うー。

その髪は痛みー
素肌は土で汚れているー

恵美だったらー
絶対に嫌がる状況ー

でも、もう彼女は恵美本人っぽいことを言っているけれど
恵美じゃないー

4人はそれを理解しながら後ずさるー。

だがー、
この数の化け物とー
乗っ取られた三人ー

いやー、

「ーえへへへへへ…」
香苗も追いつきー、4人ー。

とても、逃げ切れる感じではー

「ーー3人は先にー」
泰明が言葉を口にするー

そして、囲まれている状況の中、
おばさん社員の文江がいる方向を目で示すー

「乗っ取られているとは言え、茂木さんの身体なら強引に突破できるはずですー
 茂木さんがいる方向から逃げて下さい」

泰明は”自分が時間を稼ぐから三人は逃げろ”と、言うー

「しかしー」
北川部長が躊躇いを見せると、泰明は
”元々こうなったのは俺の責任でもあるんです”と、言葉を口にしー、
美雪・北川部長・三田村のほうを見つめたー

「さぁ、早く!」
もう、考えている時間はなかったー

泰明が化け物たちに向かって、木の棒を振り回すー

「ーー倉木さん!」
美雪が叫ぶも、北川部長と三田村が逃げるしかないという判断をしてー、
おばさん社員・文江の方に向かっていくー

「あら…!?あらあらあらぁ!?」
驚く文江ー。

三田村が文江にタックルすると、
最近腰を痛めていた文江が悲鳴をあげて吹き飛ぶー。

「痛いじゃないの!もぅ!!!酷い!」
文江に責められているような気持になるー

でも、もうあれは文江じゃないー

そう思いながら三人は逃げたー。

そしてーーー
少し先に”紫色の渦”のようなものを見つけたー

「あれじゃねぇか?」
三田村がそう言うと、
北川部長は、泰明から聞いていた特徴と一致している、と、
安堵の表情で呟くー。

だがーーー

「くそっ!なんだこいつらは!」
蝶のようなものが大量に姿を現すー

この異世界の生物が、”あの化け物だけ”とは思っていなかったが
こうして襲い掛かって来られると、厄介だー。

「ーーとにかく急ぐぞ!」
北川部長が叫ぶー

だがーー

”蝶”に粉のようなものを掛けられた三田村がその場に膝をついていたー

「おい!三田村!」
北川部長が振り返って、三田村に向かって叫ぶー

しかし、三田村はニヤニヤ笑いながらー
「あぁぁ…しあわせだ…」と、呟いたー

その目は、正気を失っているー

「み、三田村さん!」
叫ぶ美雪ー

けれど、三田村は笑ったままー

あの蝶はヤバいー
北川部長はそう思い、美雪の手を引くー

三田村は笑いながら、必死にわずかに残っていた自我で、
「いけ… い…いげええええ!」と、
奇声のような声で叫んだー

”行け”
そう言葉を受け止め、北川部長は
「三田村…すまない!」と叫ぶと、
そのまま走り出したー

”次元の裂け目”まであとわずかー。
あれをくぐればー
”元の世界”に戻れるのだろうかー。

その場所の目前にたどり着いた美雪と北川部長ー

しかしー、
次元の裂け目は高台の上にあり、一人では登れないー。

そのため、まずは北川部長が美雪を背負いー
美雪を上に登らせるー。

「ーー…セクハラ…って言わないでくれよ?」
冗談を口にする北川部長ー

「言いませんよ!大丈夫です!」
笑いながら応じる美雪ー

そして、美雪が北川部長を引き上げようと、
手を差し伸べたその時だったー

「ーーやっぱりなぁ…」
北川部長が背後を振り返りながら自虐的に笑ったー

「ー部長」
「部長ー」
「部長ー、えへへ」
「部長ーーーぉぉ」

乗っ取られた香苗・武三・文江・恵美の4人が、
ゆらゆらと笑いながら近づいてくるー。

「ーーぶ、部長!はやく!」
美雪が叫ぶー

けれど、部長は首を横に振ったー

次元の裂け目はだいぶ閉じかけているように見えるー
早く飛び込まないと、手遅れになるかもしれないー

だがー…
この”次元の裂け目”とやらに飛び込んで、
元の世界に戻れる保証など、当然、ないー

「ーーーー……」
美雪はゴクリと唾を飲み込むー

「部長!!!」
北川部長を引っ張り上げようと手を差し伸べるー。

だが、既に北川部長は、美雪のいる高台から少し離れた場所で、
”乗っ取られてしまった4人の社員”の前に立ちはだかっていたー。

「ーーー…行くんだ!早くー!」
北川部長はそう叫びながら自虐的に笑うー。

この地形を見た時ー
最初から、諦めていたー

美雪では、北川部長を背負って高台に先に乗せることもできないし、
美雪では、先に上ったあとに北川部長を引っ張り上げる力もないだろうー。

別に、美雪が悪いわけではないー。
自分には運がなかっただけのことだー。

二人ともここで化け物に乗っ取られるか、
それとも、一人助かるかー。

それなら、一人助かった方がいいー

北川部長は今まで、仕事でもそんな考え方をしていたー。
今回も、それと同じだー。

「部長!」
美雪の言葉に、北川部長は「早く行くんだ!これは命令だ!」と、叫んだー

美雪が、北川部長の強い口調に少し驚くと、
北川部長は少しだけ笑いながら振り返ったー

「ー俺の最初で最後のパワハラだなー」
とー。

さらに化け物が集まって来るー
美雪は目をつぶって深呼吸をすると、
「ー部長もー…先にあちらで待ってます!」とだけ叫んで
そのまま次元の裂け目に飛び込んだー

もちろんー
北川部長が助からないのは理解しているー

でも、”ありがとうございました”とか、そういう
お別れの挨拶みたいのはしたくなかったー

「わかったー。後でな」
北川部長も、その意を受け取ってそう言うと、
美雪が次元の裂け目に飛び込んだのを確認してから、
乗っ取られてしまった武三・文江・恵美・香苗のほうを見つめるー。

「ーー俺、早く帰りたいんですけどぉぉ」
無気力な男性社員・武三が言うー

「ーーあらあらあら…早く仲間になりましょぉ???」
おばさん社員・文江が言うー。

「ーーーえへへへへ…人間のおんなって気持ちいなぁぁ♡」
乱れた格好のギャル社員・恵美が言うー

「ーえへへへへ…一人にしないでぇ?」
頼れる女性社員だった香苗が血を流しながら笑うー。

北川部長は「せめて三田村が残っててくれればなぁ」と
自虐的に笑うと、静かにため息をついたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーうっ…!」

強い衝撃を感じて、目を開くー

美雪が周囲を見渡すとー
そこはまるで”元々の入居者が退去したかのような”
そんな建物の内部に飛び出たー。

そうー
ここは、”オフィスの4階部分”があった場所ー
美雪は無事に、別次元に存在する世界から、
元居た世界に戻って来ることができたのだー

「ーー!!!」
階段を上る音が聞こえるー

美雪が階段のほうを見るとー
そこから飛び出してきたのはー
開発部の部長・桑島だったー

オフィスの4階を異世界に飛ばした張本人ー

「ーーあ、、あ、な、中里…!」
桑島部長が怯えたような表情を向けるー

異世界に飛ばした美雪が戻ってきたのだ
当然だろうー。

美雪は怒りの形相で「あなたのせいで、わたしたちは…!」と
言葉を放つー

だがー次の瞬間ー

「た、助けてくれ… うぁっ!?」
桑島部長が悲鳴を上げたー

「ーー!?!?!?!?」
美雪が驚くー

背後からツタのようなものを頭に突き刺された桑島部長が、
その場でペラペラにー…皮のようになって崩れ落ちるー

「え…」
呆然とする美雪ー

桑島部長の背後にはー
”異世界にいたあの化け物”がいたー。

「ひっ!?」
尻餅をつく美雪ー

オフィスの下の階ー
いや、オフィスの周囲からも悲鳴が聞こえるー

”次元の裂け目を通過できるのは人間だけではない”

この世界と異世界を繋いでいたあの裂け目からー
美雪が戻って来る以前に、異世界にいたあの化け物も、
数十体、こちらに来てしまっていたのだー。

世界が破滅するほどの数ではないー。
だが、このオフィスがパニックに陥るには、十分な数だったー

そしてー

「ーーえ…や…やめ…!来ないで…!」

迫って来る化け物を前に、
美雪は恐怖に表情を歪めて、悲鳴をあげたー

おわり

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異世界オフィスの最終回でした~!

珍しく全4話構成にしてみたので、
のんびりと完結まで描くことができました★!

お読み下さりありがとうございました~!!

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皮<異世界オフィス>

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