<憑依>自分の身体を失う苦しみ②~喜びと悲しみ~

自分の身体を捨てて、
憧れの相手に憑依することを決意、
それを実行に移した男子大学生。

その先に待ち受ける苦難とは…?

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恵梨香に憑依した忠義は、
嬉しそうに大学内を歩いていたー

「ーやっぱすごいや永井さんはー
 こうして歩いてるだけで、なんかこう、オーラが違うー…」

恵梨香はブツブツと一人そんな風に呟くー

歩いているだけで、周囲の視線を感じるし、
良い香りがするしー、
スカートを履いた状態で歩くというのも新鮮だしー、
胸の膨らみも、綺麗な手も、長い髪も、
何もかもが新鮮で、感動的だったー

「ー永井さん!」
背後から声を掛けられて、恵梨香が振り返ると、
「ーーー…え、えっとー」と、苦笑いしたー。

”しまったー…
 永井さんのことなんて、ほとんど知らないから
 この子の名前も分からないぞ…?”

いきなり、問題に直面する恵梨香に憑依した忠義ー。

忠義からすれば、永井恵梨香は”憧れの子”であったものの、
特別接点があったわけではなく、
親しかったわけでもないー。

つまりー
名前と見た目以外は、あまり何も知らない、と言っても過言ではないー。

恵梨香本人と話をしたこともほとんどなかったために、
そもそも恵梨香の性格も、他人から聞いただけに過ぎないー。

「……あ、うん!うん!わかった~!」
恵梨香のフリをしながらとりあえず、相手に話を合わせると、
その相手の女子が少し不思議そうに、
「何かあったんですか?」と、突然聞いてきたー

「えっ!?えっ!?ど、どうして?」
ギクッとしながらそう叫ぶとー
「あ、いえー、何だか落ち着かない様子だったのでー」と、
その女子は答えるー。

「あ、う、ううん…何でもないよ」
恵梨香が”普段”どんな喋り方なのかも分からず、
適当にそう答えると、
何とかその場をやり過ごすことはできたー

「ふ~…せっかく手に入れた永井さんの身体なんだからー
 大事にしないとなー」

恵梨香はそう呟くと、
”これからのこと”を思い浮かべながら、笑みを浮かべたー。

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学生証を頼りに、恵梨香の家を突き止めて
帰宅した恵梨香ー。

実家暮らしか、一人暮らしか、そのどちらなのかすら
知らなかったが、学生証を頼りに帰宅したところ、
どうやら一人暮らしだったようだー。

大学での人気者っぷりを裏切らないような
可愛らしくも、落ち着いた魅力もある部屋ー

「うはぁ…すっげぇ…」
恵梨香はドキドキと興奮しながら、
そのままベッドに飛び込むと、
「いつも永井さんが寝ているベッドぉ…♡」と、
嬉しそうに足をバタバタさせながら
その香りを嗅ぐー。

少しして、ようやく我を取り戻したのか、
髪をどけながら、起き上がると
「ほんと…可愛すぎだろー」と、
部屋の中にあった鏡を見つめながら、静かにそう呟いたー。

やりたいことはたくさんあるー。

だが、まずは”永井恵梨香”として
周囲が違和感を感じないぐらいの知識は
身に着けたいー。

そう思いながらスマホのロックを指紋で解除しつつ、
中を覗き始めるー

「くぅぅ…人のスマホを勝手に覗いている気がして
 背徳感がやばい…」

恵梨香はそう呟きながらニヤニヤを繰り返すー。

LINEやメールの記録を確認することで、
恵梨香の人間関係や、友達の構成、普段どんな風に
会話しているのか、をある程度底から予測するー。

「ーー乗っ取った身体でちゃんと生活するために
 勉強するー…ってのは、新鮮だな へへへ」

そう言いながら”国語とか数学の試験勉強するより、
ずっと楽しいぜ”と、笑みを浮かべるー。

恵梨香としての知識を高めー、
夜はボディチェックをしたあとにー
女の身体の絶頂とやらを味わってみたいー

「ーわたしが…わたしの身体でオナニーする分には…
 何も…ふひ…悪くないもんねー」

顔を真っ赤にしながらそう呟く恵梨香ー

やることはまだまだ他にもあって、
とても忙しい日々が始まることは安易に予測できたもののー、
それでも、恵梨香に憑依した忠義は、
自分にとっての”新しい人生”のスタートに
喜びを感じずにはいられなかったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

朝は早起きして、
女としての色々な喜びを味わったー

”どの服を着て行こうー”
”髪をどんな風にしていこうー”
”どんなメイクをしようー”

そんな、”今までは”全く気にすることのなかったことを、
気にしてー、そして楽しんだ。

忠義は、服は”ただ着れればいい”という考えだったし、
髪も1000円カット中心で、「短ければいい」という考えだったし、
メイクなんて当然したこともないー

それらを、女としてする喜びー。

昨日の夜、エッチを楽しんだ後にゾクゾクしながら
色々と勉強したものの、
そんなに簡単に、一晩でマスターすることはやはり
難しいー。

特に、メイク云々の部分は、とても難しいー。

人によって色々と差が出るし、
何を、どうしたらよいのか、男であった忠義には
なかなかイメージも湧かず、難しい世界ー

服は、ファッションセンスが異なったり、
スカートやブラなど、男とは縁がなかったものに
戸惑ったりはしたものの、
このあたりは最初以外はある程度対応できるー

髪に関してはー、色々覚えることはあるものの、
メイクほど難しいことではないー。

だがー

「ーなんか…いつも見る永井さんとは違うなぁ…」
恵梨香は鏡の前で、そんな言葉を呟きながらも
「ま、色々試していけばいっか」と、
わざと可愛らしく手を叩きながら微笑むー

「くぅ~…俺があざとい」
そんなことを呟きながら、恵梨香に憑依した
忠義は、”最高の気分”になりながら、
嬉しそうに笑みを浮かべたー。

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”俺の身体が死んだこと”
そんなことを忘れるぐらいに、
出だしは絶好調で、最高の気分だったー。

だが、
大学に到着すると、
何やら”見覚えのある人物”たちが
会話しているのが目に入ったー

忠義が好きだった幼馴染の麻梨と、
忠義の友人だった弥助が何やら話をしているー

弥助が麻梨に対して一生懸命何かを言っているのが見えてー

”まさか、麻梨の恋愛相談って弥助のことー?”
と、首を傾げるー

憑依薬を手に入れる直前、
忠義は麻梨から”恋愛相談をしたい”と言われていたー

結局、その話を聞くことはできないまま、
自分の身体を捨ててしまったが、
あれは、友人の弥助のことだったのだろうかー

”そういや、そうだよなー
 恋愛経験のない俺に恋愛相談をするってことはー
 俺と関係のある人間ってことだろうしー

 なんだよー。麻梨は弥助のことが好きだったのかよー”

弥助が、麻梨の肩を叩いて、何かを真剣に話しているのを見て
「ちぇっ」と、恵梨香の身体で呟いて
そのまま素通りしようとしたその時だったー

”落ち着けって、あいつはそう簡単に死んだりしねぇから”

そんな、弥助の言葉が聞こえたー

”うん…でも……”
麻梨は泣いている様子だったー。

少し離れた場所で、立ち止まる恵梨香ー

”ーーー忠義がもし死んじゃったら…嫌だよー…”
麻梨がそんな言葉を口にしているー

「ーーー…え」
恵梨香は少し表情を歪めるー

麻梨とは確かに”幼馴染”として接点はあったー
忠義からすれば”唯一まともに雑談をするような女子”であったのも事実ー

しかし、まさかそんな風に涙を流してくれるなんて思わなかったー

”どこまで”
情報が伝わっているのかは分からないー

だが、麻梨が泣いているところを見ると
既に忠義の身体の”死”が伝わっているのかー、
それとも病院に運び込まれたという情報でも伝わっているのかー。

そんな感じに見えたー。

「ーーー」
一瞬、声を掛けようとした恵梨香ー。

だがー

”おっとー…俺はもう忠義じゃないんだったー”

泣きながら弥助に何かを伝えている麻梨ー。

「ーーー……」
恵梨香は首を横に振って
「俺はもう忠義じゃないー。わたしは恵梨香よー」と、
自分に言い聞かせるようにし、そのままその場から
立ち去って行ったー

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大学でも”永井さん”と呼ばれて
チヤホヤされながら、有頂天になる恵梨香ー

”ははは…人気者って辛いなぁ”
そんなことを心の中で呟きながらも、
恵梨香に憑依した忠義は調子に乗っていたー。

完全に恵梨香として振る舞うことはできないー。

だが、これからは”俺が恵梨香”なのだー。
だから、今までと全く同じでなくてもいいー。
”新しい恵梨香”になればいいー。

”変わったね”と誰が言おうとー
”違和感”を誰が感じようとー、
これからの恵梨香は”こう”なのだー

憑依された人間にはもはや何もできないー。

誰が何と言おうとー
俺がー、いや”わたし”が恵梨香なのだからー

「へへへへへ…男どももみんなチョロくて笑えるなー」
恵梨香は一人、廊下を歩きながら
そんなことを呟くー。

そうだー
今度、親友の弥助を誘惑してみるのも面白いかもしれないー。
そんな風に思いながらー。

「ーはははは…俺のあんな身体、捨てて良かったぜ!」
恵梨香は嬉しそうに笑いながら、
今日も帰ったら一人でオナるか!と、クスクスと笑い始めたー。

ー抜け殻となった忠義の身体は、
その日の夜、生命活動を完全に停止したー。

そう、”死んだ”のだー。

説明書に書かれていた通り、
恵梨香に憑依した忠義には
”元・自分の身体”が死亡しても何も影響はなく、
そのまま普通に過ごすことが出来ていたー。

恵梨香から抜け出すことはできないため、
恵梨香が死ねば自分も消えることにはなるのだろうけれど、
ひとまず、そんなことは気にせず、
最高の人生を送ることができるー

「へへへ…今日は一風変わったわたしー…なんちゃって」

”自分の身体が死んだ”ことをまだ正式には知らない忠義ー

説明書を読んで、そのうち死ぬことは理解しているが
もはや、元自分の身体が死のうが、植物状態になろうが
今の忠義ー…恵梨香にとっては”関係のない”ことだったー。

だがー
大学に到着するとー、
ふと、大学の入口から少し離れた場所で、
泣いている女子生徒を見つけたー。

気になって近づいてみると、
それはー
忠義の幼馴染の麻梨だったー。

「ーーどうしたーーーー の?」
ふと、反射的に声を掛けてしまった恵梨香ー

”どうしたー”
まで言って、口から出た声が”女の子”の声だったため、
自分がもう忠義ではないことを改めて思い出すと、
「の」を慌てて付け加えて誤魔化したー

「ーーえ…あ、、な、永井さんー…?」
あまり恵梨香とは接点のない麻梨がドキッとして
慌てて涙を拭くー

「ーー…あ、え、えっと、そのー
 泣いているのが目に入ったからー」

恵梨香として振る舞いながらそう言うと、
麻梨は「幼馴染が昨晩、亡くなったみたいでー」と、
悲しそうに呟いたー

恵梨香の方が1学年上だからか、丁寧な口調で呟く麻梨ー。

「ーーそ、そうなのー」
恵梨香に憑依している忠義はこの瞬間、
改めて”自分が死んだ”ことを知ったー

憑依薬の説明書通りだが、
改めて自分の身体が死んだと聞かされると、
やはり色々複雑な気持ちにはなってくるー。

「ーーーー………それって、島森くんのこと?」

恵梨香に憑依している忠義は、他人行儀で自分のことかどうか聞くー

「え…?あ、はいー…知ってるんですか?」
麻梨が不思議そうに言うー。

恵梨香は「え、あぁ、うんーちょっとねー」とだけ言うと、
麻梨は続けたー

「ーーーまさか、急に死んじゃうなんて思わなくてー」
泣きながら言う麻梨ー。

「ーわたし、彼にー言いたいことがあったんですー…
 でも、最後まで言えなくてー」

麻梨の言葉に、恵梨香は表情を歪めるー。

「ーー(恋愛相談のことか?)」
そんなことを心の中で思っていると、麻梨は涙で顔を濡らしながら
恵梨香のほうを見たー

「ーーーーーわたし…彼に告白しようと思ってたんですー
 ずっとずっと”幼馴染”だったしー
 あっちはそんなこと夢にも思ってなかっただろうけどー…

 たとえダメでもー
 一度、想いを伝えてみようってー

 恥ずかしくてー”恋愛相談を今度したい”なんて言っちゃったんですけどー
 今度ー…告白しようとー」

麻梨はそこまで言って悲しそうに再び泣き出してしまうー

「え…今、なんてー…?」
恵梨香はー
恵梨香に憑依している忠義は、激しく動揺したー。

忠義は、麻梨のことが好きだったー

まさか、あっちまで忠義のことを好きだったなんてー

夢にも思ってなかったー

しかもー
自分の身体を捨てる直前、麻梨が言ってた
”恋愛相談”って言うのは、
実は”忠義自身に告白すること”だったなんてー

「ーーー…ま…麻梨ー」
恵梨香は咄嗟に口を開いたー

「え…?」
いきなり下の名前で呼ばれて泣きながら戸惑う麻梨ー

「ーじ、じ、実はー…お、俺ー…俺なんだ!」

好きだった麻梨が”実は自分に告白しようとしていたー”

そんなことを知って、恵梨香に憑依している忠義は
黙っていられなかったー

「ー俺、俺…忠義なんだよ!」
恵梨香の身体でーーー
忠義は、”自分は忠義だ!”と、麻梨に向かって、
そう言い放ったー…

③へ続く

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コメント

自分の身体を捨てた後に
幼馴染の思いを知って…

続きは次回の最終回デス~!
今日もありがとうございました~!

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