<憑依>自分の身体を失う苦しみ③~苦しみの果て~(完)

憑依薬を手に入れて、
”自分の身体を捨てた”男子大学生ー。

憧れの子の身体を手に入れて、
何もかも楽しめるー…

そのはずだったー…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ー俺、俺…忠義なんだよ!」
恵梨香の身体なのに、
耐えきれずに、忠義はそう言い放ったー

忠義が好きだった幼馴染の麻梨が、
”忠義に告白しようとしていた”ことー、
そして今、”忠義の死”に涙を流しているのを見て、
我慢できなくなってしまったー。

忠義が使った憑依薬は、
他人に憑依できる代わりに
”自分の身体”は抜け殻となり、死亡するタイプの憑依薬ー。

”死後の幽体離脱”のようなものを、疑似的に引き起こすことにより、
他人への憑依を可能にするものの、
その代償に、自分の身体は死亡し、もう元には戻れないー。

もちろん、忠義は事前に説明書を読みー
”それに納得した上で”憧れの女子・恵梨香に憑依したー。

どうせ、誰も悲しむ人間はいないー、と、そう思っていたー

けどー

まさか、幼馴染の麻梨が、自分のような人間のことを好きで、
自分のような人間の死にこんなに落ち込むなんてー

”幼馴染”として距離が近すぎて、
全くそんな風に思われているとは思わなかったー

「ーふふ…ふふふふふ…」
麻梨は涙を拭きながら少しだけ笑うと、
「ーー永井さんー…ありがとうございますー」と、だけ微笑んだー

「ーーーえ」
恵梨香に憑依している忠義は少しだけ表情を歪めるー。

「ー永井さんがそんな風に冗談を言って
 元気づけてくれるなんて思いませんでしたー」

麻梨は涙を拭きながら、そう言葉を口にするー

「ーあ、いや、じ、冗談じゃなくてー…そのー」
恵梨香に憑依している忠義は、すぐに言葉を続けるー

どうやら、麻梨に
”忠義の死に落ち込んでいるわたしを慰めようと、
 永井さんが、”実は俺が忠義なんだよ”と、
 冗談を言っている”と、解釈されてしまったようだー

「ーお、俺、本当にー…!
 ほら、麻梨、小さい頃にー…!」

恵梨香はそのまま”忠義と麻梨しか知らないはずのこと”を
口にしたー。

「ーーーーー」
麻梨はそんな恵梨香の言葉に、懐かしそうに微笑むと
「ーー忠義ってば、そんな話まで永井さんにしていたんですねー」と
言うと、頭をぺこりと下げて、そのまま立ち去って行ってしまったー

”信じてもらえなかったー”

恵梨香は呆然とするー

「ーち、違うんだ…身体は、身体は永井さんのだけどー
 俺なんだー…」

一人、呆然とそう呟く恵梨香ー。

麻梨の本当の気持ちを知ってー
麻梨があんなに悲しんでいるのを見てー
放っておくことはできないー。

そう思って後を追いかけようとしたものの、
別の大学生に声を掛けられてしまった恵梨香は
「あ、ーーえっ、え~っと、今は、ちょっとー」と、
言いかけたものの、その相手を雑に扱うこともできず、
麻梨を追いかけるのを諦めてため息をついたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー」

後日ー
”自分の通夜”が行われる日にー、
恵梨香になった忠義は、その場に足を運んだー

生前の忠義と、恵梨香は”ほとんど”接点がなかったー

同じ大学にいたー、というだけで年齢も恵梨香の方が
ひとつ上ー。

そもそも、忠義のことを認識していたかどうかも
分からないー。

そんな”恵梨香”の身体で、自分の通夜に参列する、というのは
何とも不思議なものだったー。

と、言っても会場を”大学の友人”として訪れて、
サっと帰るだけのつもりでー
長居するつもりはないー。

「ーーーーー」
自分の”遺影”を見つめる恵梨香ー。

忠義は”死んだ”わけではないー
身体を乗り換えただけだー。

昆虫が”脱皮”して抜け殻を残すようなことと同じー。
忠義は今、恵梨香となって、確かにここにいるー

けどー
”自分の遺影”を見ていると、
何故だか、自分が死んだような気持ちになってしまうー

「ーーー!」
会場の奥では、母親が泣いていて、父親がその母親を
慰めていたー。

「ーー母さんー」
恵梨香は寂しそうにそう呟くー。

てっきりー、自分が死んでも両親は涙など
流さないとそう思っていたー。

でも、そうではなかったー。
あんなに悲しそうにしている両親の顔を見てー、
恵梨香は思わず声を掛けそうになってしまうー。

そしてー
物静かな性格の姉・聡子は、棺の前で
ずっと泣きじゃくっていたー。

まるで、子供のようにー。

大人しい性格で、姉とはあまり話が弾むこともなかったが、
その聡子が今、子供のようにずっと泣きながら
忠義の名前を呼び続けているー

「ーーー…姉さんー」
恵梨香はぎゅっと唇を噛みしめるー

声を掛けて”俺はここにいるよ”と言ってしまいたいー。

だけど、それをしてもー
恐らくは、麻梨の時と同じように信じてもらえないー。

”そんなこと”普通ではありえないからだー。

それにー
仮に信じて貰えたとしても、
その先は、どうなるー?

”息子がいきなり娘になって戻ってきたらー?”
”弟がいきなり妹になって戻ってきたらー?”

いや、そもそもの話ー
”他人の身体を奪った”なんてことを知られたらー?

麻梨に突発的に声を掛けてしまった時とは違い、
恵梨香は、両親にも、姉にも声を掛けなかったー。

「ーーー…俺はもうー…”忠義”には戻れないんだよなー」
恵梨香はそう呟くー。

「ーーーわたしはもうー…永井恵梨香なんだからー」
静かにそう呟くと、初めて”自分の身体”を捨てたことを後悔しー、
すぐに帰るつもりだった予定を切り上げてー
”自分の遺体”の顔を見つめたー

”自分の身体”は、冷たくなって、目を閉じていたー。
もう、生気は感じないー。

そしてー
とても”苦しそう”な表情を浮かべていたー。

大学生になるまでー
今までずっと”一緒だった”身体が
苦しそうに眠っているのを見て、
何だか急に、罪悪感が湧いてきたー。

「ーーー……」

それにー
”身体を奪われた”恵梨香に対しても
急激に罪悪感が湧いてきてしまったー。

「ーーー」
気付けば、”自分の遺体”の前でボロボロと
涙を流していたー。

通夜にやってきていた幼馴染の麻梨も、
忠義の姉・聡子も不思議そうに恵梨香のほうを見つめるー。

そんな視線に気づくこともなくー、
恵梨香はその場で一人、泣き崩れてしまったー。

そして、その場にはー
”恵梨香が泣いている本当の理由”を知る人間は
誰一人として、存在しなかったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーー俺…忠義なんだー…」

後日ー
恵梨香は、親友の弥助を呼び出して、
そう言い放ったー

弥助は最初、
”憧れの永井さんから呼び出されるなんて何事だ?”と、
顔を真っ赤にしながらやってきたが、
恵梨香からそう言われて、表情を曇らせたー。

事情を説明する恵梨香ー。

誰かに何とか信じてもらって、
麻梨や、家族に何とか自分は無事だと
何らかの形で伝えたかったー

”他人に憑依したこと”で、絶縁されてもそれは仕方がないー
けれどー
それでもー

「ーーーーー本当にー…忠義なのか?」

会話を続けること、数十分ー。
弥助はそう言葉を口にすると、

「ー俺が貸したままの漫画の名前、言えるか?」
と、”確認”してきたー。

恵梨香は”正確に”それを答えたー。

「ーーーーーマジかよー」
弥助は戸惑った様子でそう呟くと、
恵梨香が口を開くー

「ーま、麻梨にも説明したいし、
 親にも説明したいんだー

 だから、弥助にも手伝ってほしいー」

恵梨香がそう叫ぶと、
弥助は首を横に振ってからー
突然、恵梨香の頬をグーで殴りつけたー。

驚きと同時に、吹き飛ばされる恵梨香ー

地面に手をついて、
弱弱しく「な…何で!?」と、叫ぶと、
弥助は「ーー女の子を殴る趣味はねぇけどー
中身がお前だってなら話は別だー」と、
吐き捨てるー

そして、言い放ったー

「お前!ふざけんなよ!憑依だって!?
 身体を奪われた永井さんもそうだし、
 お前のことが好きだった麻梨ちゃんも、家族も、
 もちろん俺もー!

 お前は色々な人を傷つけて、苦しめて、悲しませてー!」

弥助はそこまで言うと、
「ーホントに、ふざけんなよお前!」と、言い放ったー

「ーーーや…弥助ー」
地面に手をついたまま恵梨香がそう言うと、
「ー誰がお前のことなんて手伝うかー」と、弥助は
怒りの形相で言うー。

「お前がそんな風に、人の身体を平気で奪ってー
 しかも、自分が死んでも誰も悲しまないなんて言うやつだとは
 思わなかったよー。」

弥助はそれだけ言うと、立ち去って行こうとするー

「ーーーーお前のことなんて、もう知らねぇー。
 忠義はー…あいつは、もう死んだんだー

 お前なんて、知らねぇー
 そんな酷いことをするやつのことなんて、俺は知らねぇ!」

弥助は、今の恵梨香の中に忠義が憑依している、ということを
理解し、それを認めつつも、
”他人の身体を奪い、色々な人を傷つけるような行為をした”
忠義のことを、どうしても受け入れることが出来ず、
「ー俺は、認めねぇ」と、繰り返し呟き、そのまま立ち去って行ったー。

「ーー弥助ー…」

弥助はそれ以降、”忠義のこと”を一切口にしなくなり、
忠義が憑依している恵梨香にも一切関わろうとしてこなかったー。

”恵梨香が憑依されている”ということも何も口にせず、
完全に、忠義のことを見切ったようだったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーーー…」

誰にも”自分が忠義だ”とこれ以上言い出すことはできず、
時間ばかりが過ぎていくー。

幼馴染の麻梨には結局、あれ以上、”俺は忠義だ”と言うことは
できないままー

親友だった弥助には信じては貰えたのだろうけれど、
”自分の身体を捨てて人の身体を奪った”ということを
心底軽蔑されて、絶縁されてしまったー。

姉にも、両親にも言いだすことはできずー。

そうー

”俺が忠義だ”と言い出しても、
”信じてもらえない”かー、
あるいは”信じて貰えたとしても、忠義のした行為に失望されるか”ー

その二択なのだー。

「ーーー……ーーー
 俺ー…自分の身体なんていらないと思ってたのに」

恵梨香はそう呟きながら、一人涙を流すー。

どんなに悔やんでもー、
どんなに自分の身体を捨ててしまったことを悲しんでもー

もう、元に戻ることはできないー。

やがてー
最初のうちは”恵梨香”としてうまく、人気者の立場を
奪うことができていた忠義は
”自分の身体を失った苦しみ”によって、
次第に精神的に不安定になっていき、
ついに大学にも行けなくなってしまったー。

「ーー俺はーー…俺はー」
恵梨香は、一人、部屋で無気力な日々を送りー、
その結果、”恵梨香の美貌”まで失われてー
あんなにキラキラとしていた顔も
生気のない、ぼーっとしたような、
疲れがにじみ出ているような顔になってしまったー。

そしてー
精神的に不安定になったからだろうかー。

今度は”夢”を見るようになったー。

”わたしの身体を返してー”
”わたしの人生を奪ってー…絶対に許せないー”
”あなたを呪ってやるー…!許さない”

連日ー
”本当の恵梨香”が夢の中に出て来るのだー。

”本当の恵梨香”の意識がそう言っているのかは分からない。
本来の恵梨香に自我が、そういう意識のようなものが
残っているのかも分からないー。

忠義自身が、色々不安定になって
”勝手に想像して夢の中に出てきているだけ”かもしれないー。

けれど、それでもー。

考えずにはいられないー。

「ーーー……憑依なんか、しなけりゃ良かったー」
ボサボサの髪のまま、恵梨香はそう呟くー。

”恵梨香として人生を楽しむ”
そんな、道もあったとは思うー。

けれど、
麻梨や、弥助や、家族のー
他の友達の悲しんでいる姿を見てー

”自分の大切なものに、自分は気づいておらず、
 しかもそれを自ら捨ててしまった”
ことを知ってしまった忠義に、それはできなかったー。

程なくして、恵梨香は大学もやめてしまいー
そのまま、無気力な人生を送りー
無気力なまま中年女性になってー
無気力なまま老人になってー

変化に乏しい人生を送りー、
そのまま孤独な最後を遂げたのだと言うー。

自分の身体を捨てた苦しみを、味わい続けながらー。

おわり

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コメント

憑依したあとに、美貌や人気を維持できずに…
みたいなお話は前に何度か書いたことがありましたが、
今回は自分の身体を捨てたことに強く後悔するところを
中心に描いたお話でした~!☆

元に戻れないタイプの憑依をするときは
計画的に!ですネ~!

コメント

  1. 匿名 より:

    そりゃあ、中身が自分であることを信じてもらえたとしても、他人の身体を意図的に奪うような人間が受け入れてもらえる訳はないですよ。

    意図的じゃなく、事故とかで偶然、憑依したのなら、話も別だったでしょうけどね。

    ところでこの話、確か、ずいぶん前の作品で部分的にかなり似てるのがありましたね。

    その話は本格的に身体を奪うつもりまではなく、一時の好奇心とか興味で恋人に憑依して精神を殺してしまい、周囲の人間をこの話みたいに悲しませてしまう展開でしたが、この話とはその後の展開は真逆ですね。

    この話は絶望したまま、無気力に生きていくという結末ですが、前の似た話の方は、前向きに恋人の身体で生きていくという結末で、一応ハッピーエンドみたいな感じでしたからね。

    • 無名 より:

      コメントありがとうございます~!☆

      夕暮れ時の涙のことでしょうか~?★!

      そちらは悲しいながらも暖かい感じのエンドでしたネ~!

      今回は後悔することを中心に描いたので、
      最後まで後悔し続けることになりました…☆!

  2. 匿名 より:

    もし、麻梨に恵梨香の中身が忠義だと信じてもらえたとしても、身体を奪ったことをも知られたら、百年の恋も冷めるということになるに違いなさそうです。

    自分が忠義だと、理解して欲しいのは分かりますけど、忠義は色々、想像力が足りてないですね。

    あと、弥助が忠義のことを誰にも言わないのは、忠義のためではなく、忠義を完全に見限っていて、もう関わり合いになりたくないというのと、他の忠義の身近な人間に、真実を知らせて、自分みたいな辛い思いをさせたくないという配慮からですかね?

    それにしても、他人の身体で新しい人生を始めるのも簡単じゃないですよね。

    例え後からどんな真実を知っても、未練に感じないくらい、完全に元の自分を捨てる覚悟と、元の身体の持ち主に罪悪感をまともに感じない、図太いくらいの精神力がないと、多分、この話みたいに失敗してしまうんでしょうね。

    そう言えば、この話みたいに、元の身体の自分のことが好きな女の子がいて、それを後から知って、後悔するタイプの憑依とかの話が他にもいくつかありましたよね。

    • 無名 より:

      ありがとうございます~!

      後から後悔するお話も、そこそこの数、
      今までに書いてきましたネ~!

      弥助の対応についてはその通りデス~!

      罪悪感を感じないタイプの憑依人は、
      逆に周囲が巻き込まれて、
      被害が大きくなるお話に出て来ることが多いですネ…!