<憑依>自分の身体を失う苦しみ①~憑依~

憑依薬を手にした男子大学生ー。

だが、その憑依薬は、使えば
”自分の身体が死ぬ”タイプのー、
後戻りできない一方通行の憑依薬だったー。

しかし、彼はそれを使い、己の欲望を満たすことを
優先し…?

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「ーーーそれはひどい話だなぁ…」

男子大学生の島森 忠義(しまもり ただよし)は、
同じ大学に通う幼馴染、福原 麻梨(ふくはら まり)の愚痴を
聞きながら苦笑いしたー。

「でしょ?忠義なら分かってくれると思ってたよ~!」
麻梨が、愚痴に理解を示してくれた忠義に対して
そう笑顔を振りまくと、
「ーーいやぁ、俺じゃなくても、誰でもそれは
 酷いって言うよ」と、忠義は笑いながら返事をしたー。

麻梨と忠義は幼馴染ー。
しかし、恋愛関係には発展していないー。

いや、正しく言えば、”忠義の片思い”という状態で
あるものの、麻梨は明るく、社交的な性格の持ち主で
男女問わず友達が多いー。

一方の忠義はどちらかと言うと地味で、
友達もさほど多くはなく、
まともな接点がある女子と言えば、麻梨ぐらいなものだったー。

”自分みたいなやつが、麻梨にそういう目で見てもらえるわけがない”
と、忠義は麻梨に好意を抱きながらも、
そういう素振りを一切出さないように、心がけていたー

「あ、そうだ!今度、相談したいことがあるんだけど」
麻梨がそう言うと、
忠義は「えっ?今の件とは別?」と、答えるー。

麻梨は「別!別!」とだけ言うと、
「ーなんだよ勿体ぶってー」と、忠義は苦笑いするー

「ーまぁ、いいけどー…どんな相談?
 俺も何でも知ってるわけないしー」

忠義がペットボトルのジュースを一口、口に運びながら
そう言うと、麻梨は「恋愛相談!」と、答えたー

「ぶっ!!」
口からジュースを吐き出しそうになる忠義ー。

「ーーれ、れ、れ、恋愛相談!?
 な、何考えてるんだよ~?
 俺、彼女いない歴=年齢だし、
 恋愛のノウハウなんて全くないぞ?」

忠義が困惑しながらそう言うと、
麻梨は「え~…!忠義ってまだ彼女いないの~?」と
笑ったー。

「ーーー何だよそれ、何か失礼だな」
忠義はそれだけ言うと、「まぁ、相談はいいけどー
大した答えは期待するなよ?」と言いながら、
そのまま立ち去って行ったー。

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「ーははは、まぁ、そう気を落とすなって!
 麻梨ちゃんみたいな可愛い子からすりゃ、
 この年まで恋愛経験ないってことが
 信じられないんだろ?」

大学での1日が終わり、
大学構内から外に向かいながら、
友人の一人、藤木 弥助(ふじき やすけ)が
笑いながらそう呟いたー。

「ーいやいやいや、普通に大学生まで
 恋愛経験ないやつなんて、どこにでもいるだろ?
 藤木だってそうだろ?」

忠義がそう言うと、
「いや、俺は恋愛経験あるぞ」と、弥助が首を横に振ったー

「ーモニターの向こう側だろ?」
忠義が鋭いツッコミを入れるー

「ーふはっ!正解!」
弥助は笑いながらそう言うと、
そのまま二人で歩き続けるー

「ー!」
そんな中、忠義が、ふと視線を違う方向に向けるー。

弥助が「あん?」と言いながら、忠義の視線のほうを見ると、
そこには大学内でアイドル的存在の人気を誇るー、
永井 恵梨香(ながい えりか)の姿があったー。

「ーーあ~~~、永井さん、可愛いもんな」
弥助がそう呟くと、
忠義は顔を赤らめながら
「い、いや、べ、別に永井さんの方見てないし!」と、
すぐにそれを否定するー

「いやいやいや、完全に視線が永井さんのほうを向いてたじゃねぇか」
笑いながらそう言い返す弥助ー。

忠義は「ちがう!たまたま視線がそっちに向いていただけだ!」と、
笑いながら否定したー。

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帰宅した忠義ー。

「ーーおかえり~」
実家暮らしの忠義は、母親のそんな言葉に
「ただいま」と返事をしながら、
自分の部屋のある方に向かって行くー。

1歳年上で同じく大学生の姉・聡子(さとこ)も
実家暮らしー。

だが、聡子はとても大人しい性格で、
正直、あまり会話は弾まないし、
弟である忠義のことには、あまり興味のない様子だー。

部屋に入る忠義ー。

これまで、無難に人生を生きて来たー。

だが、特に趣味はないし、夢もないー。
大学にもただ漠然と通っているだけで、
家族からもロクに期待されていないし、
友達はいるものの「誰かの一番」ではない。

”一番の親友を選べ”と言われたら、
忠義を選ぶ人間は誰もいないだろうー。

ある程度の人間関係はあっても、
自分はその程度の存在なのだと、
忠義は自虐的に笑うー。

それに、幼馴染の麻梨から恋愛相談を
持ちかけられたこともキツかったー。

だってそれはー
”麻梨に好きな人がいる”ということを
意味する言葉だからー

「ーーーー」
ぼーっと、スマホでネットサーフィンをする忠義ー。

特に、何か目的があるわけでもない。

しかし、”何もせずに無駄に時間だけを浪費させていく”ことは
したくなかったー。
ずっとぼーっとしているぐらいであれば、
目的はなくても、こうしてネットサーフィンをしているぐらいの方が、
まだ、落ち着くのだー。

そんな風に思いながら、
スマホの操作を続けていると、
ふと、ある広告が目に入ったー

”他人の身体を手に入れて、人生をやり直せる!”

そんな、広告だー。

「なんだこれ…?」
特に目的なくネットの世界を漂っていた忠義は、
そんな広告を見つめながらー
それを試しに開いてみるー。

「ーー憑依…薬?」
忠義は思わず目を疑うー。

広告の先に表示されたのは
”憑依薬”なる謎の薬ー。

これを飲むことで、自分を霊体にすることが出来て、
他人に憑依し、その身体を意のままにあやつることが
できるのだと言うー。

「ーーいやいやいやいや、そんなことあるわけがー」
忠義はすぐに自分で首を横に振ったものの
大学の人気者・永井恵梨香の顔を思い浮かべるー

一瞬、ドキッとしてしまう忠義ー。

自分が恵梨香として色々なことをする”イメージ”が
頭の中に湧いてしまったのだー。

「ーいやいやいや、絶対にあり得ないしー
 それに、人の身体を勝手に使うなんてー」

そう思いながら、忠義は
「大体、こういうのは詐欺に決まってるー」と、
そのままサイトを閉じようとしたー。

がー
サイトを閉じようとしたその瞬間に、
”それ”は表示されたー

”このサイトは1度しか表示することはできません。

 今、ここを去ればあなたの人生は一生、今のままー
 サイトを閉じる前に、もう一度よく考えて下さいー。

 あなたは今、他の人生を手に入れる、
 奇跡の可能性を手にしていますー

 それを手放すのか、それとも、手に入れるのか”

「ーーーーー」
忠義は、そんな煽るようなメッセージが表示されたのを見て、
表情を歪める。

”あなたは、本当に今のままの人生で良いのですか?”

そのメッセージを見てー
忠義は、気づいた時にはその憑依薬の注文ページまで
進んでいたー。

「ーーー今のままなんて、イヤだー。
 俺の、何の面白味もない人生を変えられるならー…」

忠義はそう呟くとー
その憑依薬を”購入”したー。

そして、翌日ー
憑依薬は早速到着したー。

忠義の元にー。

「ーー…こ、これが憑依薬ー」
無色透明の液体ー。
こんなのを飲むだけで、他人に憑依できるなど、
あり得ないー。

そんな風に思いながらも、
忠義は憑依薬に同封されていた説明書を広げるー。

それによればー
憑依薬を使うことができるのは1回きりだけで
容器に入っている液体全てを飲んだ時に
その効力を発揮するのだと言う。

だが、問題はそこではなかったー。

説明書の中の記述のうち、
とある場所を見つめながら、
表情を歪めたー。

その表記とはー
”憑依薬を服用後、今現在お使いの身体は
 生命活動を停止し、生物学的に”死亡”の状態となります”

との表記だー。

つまり、憑依薬を飲めば自分の身体は死亡する、
ということらしい。

しかし、その下には、自分の身体が死亡後も、
240時間以内に新しい身体に憑依することで、
以降、その身体が死亡するまで、
普通に過ごすことができる、とも書かれていたー。

長い間霊体でいると、
安全性を確保できないため、
確実に安全な時間、240時間以内に憑依するように、との
記載もある。

「ーーー…俺の身体は死ぬけど、
 憑依すれば、その身体が生きているうちは
 俺自身の意識は大丈夫ーってことか」

ふと、部屋の窓に反射した自分の姿を見つめる忠義ー。

正直ー
自分の身体に未練はない。

友達はいるが、”一番の親友”に選んでくれるような、
そんな友達はいない。
誰にとっても、忠義は”2番手以下の友達”でしかないー。

幼馴染の麻梨も、好きな人がいるようだし、
両親や姉の聡子も、忠義には別に何の期待も
していないだろうー。

「ー俺が死んでも悲しむ人はいないし、
 俺自身も、別に自分のことなんて好きじゃないしー」

そう呟くと、忠義は”よし”と決意するー。

憑依薬を使う決意をしたのだー。

今日1日、”この身体で”最後の1日を過ごしー、
そして明日ー
大学のアイドル的存在である永井恵梨香に憑依するー。

憑依対象の候補は、他にも何人かいたが、
どうせ”自分の身体”にするなら、
可愛い方がいいー。

幼馴染の麻梨も憑依候補として考えたがー
それは、やめたー。

”好き”なのは麻梨だが、
”自分にする”なら、恵梨香の方が良い気がしたー

いやー…
本当は、無意識のうちに”幼馴染の人生を奪うこと”には
何か、引け目のようなものを感じたのかもしれないー。

そしてー
”忠義としての最後の1日”は、あっという間に終わりを迎えたー。

「さてー」
忠義は、自分の部屋を整理整頓しー、
万が一にも、憑依がバレないようにー、
憑依薬の説明書をシュレッダーで粉々にすると、
そのまま憑依薬を口にしたー。

「うっ…」
身体中から力が抜けていくー。

これが、”死”なのかー?
そんな風に思いながら霊体になった忠義はー、
「うほっ!す、すげぇ…!空を飛んでるー!」と、
喜びを感じながら、大学に向かって行くー。

永井恵梨香がどこに住んでいるのかは知らなかったが、
大学のある時間帯なら、大学内を探せばいいー。

そう思い、朝の時間帯に憑依薬を飲んだー。
一応、240時間という時間制限がある以上、
なるべく早い段階で憑依したいー

「ーーっていうか、霊体は裸かよ…
 見えてないみたいだからいいけどー…」

忠義は自虐的にそう呟きながら、
大学内にやってくると、
身体を浮遊させながらー
ついに、恵梨香を発見したー

「お、いたいたー…永井さん!」
忠義は笑みを浮かべると、大学の構内を友達と歩いていた
恵梨香の姿を見つけるー。

しばらくその二人を尾行しー、
ようやく、恵梨香が友達と別れたその時だったー

「ーーーー永井さん…その身体、俺が貰うよ!」
忠義は、そう宣言しー、
恵梨香の身体にひと思いに飛び込んだー

「ーーぁっ!?」
恵梨香がビクンと震えて、一瞬目の輝きが消えるとー
すぐに再び目の輝きが戻ってくるー

「ーー…おっ…え…へへ…マジかー?」
途端にニヤニヤして、視線を落とし、自分の胸を触る恵梨香ー

「ーやった…へへへ…マジで俺が永井さんにー…」
恵梨香は顔を赤らめながら、
ニヤニヤが止まらない、という様子で表情を歪めると、
「わたしは永井恵梨香…♡」と、嬉しそうに
恵梨香の口で、恵梨香の名前を口走ったー

「ふへっ…す、すげぇ…すげぇぞこれ…
 お、俺…今日から…」

喜びの感情がこみ上げてくるー。
この場で叫び出したくなるー。

人生で一番の幸せと興奮を胸にー
恵梨香は、笑みを浮かべながら歩き出したー。

恵梨香に憑依した忠義は確信していたー。
これからの人生、きっと、最高のものになるー、と。

②へ続く

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コメント

憑依に成功…!
でも、タイトルの通り、次回以降は…★

予告が無くても、何となく予想できてしまいそうですネ~!

今日もありがとうございました~!

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